軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

295:森の奇襲

闇月の森に入って初めて出くわした魔物、シャドウパンサー。

この魔物と戦って感じたことは、まず『夜に遭遇したら厄介だ』という点であった。

足音は小さく、周囲の木々を利用して三次元的に攻撃を仕掛けてくる。

まるで地を駆けるかのように木々を駆け登り、そこを足場に攻撃を仕掛けてくる様は中々に壮観だ。

あの様子では、こちらから追いかけていても到底攻撃が届くことはないだろう。

尤も――

「グルル……」

「攻撃手段が近接攻撃しか無いんじゃ、こんなもんだろ」

前方にいるシャドウパンサーは、全身から血を流して既に満身創痍と言った状態だ。

こちらの取った戦法は、単純に奴の攻撃に合わせてカウンターを叩き込み続けただけである。

シャドウパンサーに魔法などの遠距離攻撃手段はなく、徹底してこちらに対する直接攻撃ばかりを仕掛けてきた。

その瞬間に相手の攻撃を回避しつつ、こちらの攻撃を当て続ければ、自然と相手を追い込むことができるという寸法だ。

無論、決して容易いわけではない。空間を自由自在に動き回るこの魔物との戦いは、飛行する敵を相手にする時の感覚にも近い。カウンターに失敗すれば、手痛い攻撃を受けることになってしまうだろう。

だが、結果はこの通り。俺にとっては、むしろ戦い易い部類の相手であると言えた。

「……先生」

「ああ、分かってる」

しかし、絶体絶命の状況でありながら、シャドウパンサーの目はまだ死んではいなかった。

強い敵意と殺意を抱いたまま、けれどじっとこちらの動きを観察している。

攻撃の機会を探っているのか、或いは――獲物が罠にかかるのを待っているのか。

「――『生奪』」

瞬間、蠢いた気配に対し、振り上げた刃で迎撃する。

黒と金の輝きを纏ったその一撃は、俺を貫こうと迫っていた木の枝を綺麗に断ち斬っていた。

若干赤みのかかったその枝は、潜んでいた何かが振り下ろしてきた物ではない。

紛れもなく、その枝が生えた木自身が攻撃を仕掛けてきたのだ。

「っ……『ブラッドトレント』、レベル61です!」

「いつだかの木の親戚か! 緋真、そっちは任せた!」

歩法――烈震。

随分と前に同じような敵と戦った記憶があるが、とりあえず木なのだから緋真の方が相性がいいだろう。

俺は向かってくる攻撃だけに注意しながらブラッドトレントを無視、シャドウパンサーを優先する。

シャドウパンサーの方は俺がブラッドトレントにやられるか、或いは向こうに対処すると思っていたのか、驚いた様子で一瞬動きを止めてしまった。

次の瞬間には即座に逃げ出そうとしたが、もう遅い。

斬法――剛の型、扇渉。

大きく翻した一閃が、シャドウパンサーの胴に食い込み、薙ぎ払う。

既に満身創痍であった所に、無防備な体勢から一撃を受けたのだ。

とてもではないが耐えられる筈もない。シャドウパンサーのHPは、その一撃で粉砕されることとなった。

とは言え、まだ安心できる状況ではない。戦闘はまだ終わっていないのだから。

「緋真!」

「大丈夫、ですっ!」

一方、ブラッドトレントの相手をしている緋真たちは、結構有利に戦闘を進めている様子であった。

相手の攻撃は枝を槍や鞭のように使った直接攻撃と、地面を這う木の根による攻撃がメインであるらしい。

木の根については魔法で攻撃していたセイランに命中、その足を地面に拘束していたが、セイランは強引に引き千切ってその拘束から脱していた。

どうやら、それ自体には攻撃性能のない、拘束用の攻撃であるらしい。

喰らったら厄介だが、足元に違和感があれば回避することは難しくないだろう。

「……ふむ、俺の出る幕は無さそうか」

緋真、セイラン、ルミナが対処に当たっているが、どうやら過剰戦力であるらしい。

特に、火属性で相性のいい緋真は大きなダメージを与えているし、相手の攻撃はきちんと見切った上で回避している。

あの調子ならば、俺が手を出すまでもないだろう。

「で、お前さんは何もしなくてもいいのか?」

「植物系の魔物とは相性が悪いのよ。それに、何もしてないわけじゃないでしょう?」

「まあ、多少はダメージが出るようになってきたようではあるがな……」

一方で、そもそも戦闘圏に入っていないアリスは、俺の隣からボウガンを使って攻撃しているだけだ。

まあ、確かに植物系の魔物はナイフで刺してもあまり有効なダメージを与えられない。そのため、アリスとしては、相性の悪い相手であると言える。

尤も、彼女は元々かなり特殊な戦闘スタイルであるため、苦手な相手は多いのだが。

しかし、サブウェポンを使うようになったおかげで、こういった場面でも攻撃できるようになったのは大きいと言えるだろう。

「ふむ……矢の攻撃でも《傷穿》の効果を適用できるんだな」

「どこでも弱点部位を作れるから結構便利よ。最も効果的なのは、最初から弱点部位の所に当てることだけど」

「意外と馬鹿にならんもんだな」

アリスが命中させた矢傷には、赤いエフェクトが纏わりついている。

《傷穿》は攻撃を命中させたヶ所に弱点判定を発生させるスキルだ。

ここへの攻撃には《死点撃ち》の効果も適用されるため、意外なダメージソースになることも多い。

こうして遠距離から弱点を生成できるのは、中々に効果的であると言えるだろう。

「《スペルエンハンス》――《術理装填》【フレイムピラー】!」

アリスによって弱点が付与されたことを察知した緋真は、即座に唱えていた魔法を解放する。

それと共に緋真が繰り出した刺突は、アリスが作り上げた弱点へと突き刺さり――直後、刀身に込められた炎を解放した。

噴き上がる炎はブラッドトレントを内側から焼き、その全身を炎で包み込む。

「ギィイイイイイイイイイイイイイイイ……!」

炎に包まれ、悲鳴を上げるブラッドトレント。

どこに口があるのかは知らないが、どうやらかなり効果的であったらしい。

内側から燃やされたブラッドトレントは、そのままHPの全てを散らしてその場に倒れた。

「……今の、弱点の意味はあったんだかな?」

「一応、刺した時のダメージは増してたわよ、たぶん」

『《戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』

『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』

まあ、倒せたのだからあまり気にすることも無いのだが。

とりあえず、今の所はそれほど苦戦するような敵でもなかった。

しかし状況によっては――それこそ、夜になったら少々厳しいかもしれない。

姿を隠して襲い掛かってくるシャドウパンサー、暗い中では姿の判別がしづらいブラッドトレント。どちらも、夜間では苦戦する可能性のある魔物だ。

「流石は、夜に関連するネームドモンスターのお膝元って所かね。今後もこういう魔物が出てくるのか?」

「昼ならいいですけど、夜にはあんまり戦いたくない魔物ばっかりですね……」

「夜は私が照らしますので!」

「そうだな、頼むぞ」

尤も、この暗い森の中で光を灯していた場合、誘蛾灯のように魔物が集まってくる可能性もあるが。

それはそれで特訓になるのだが、夜になったらマーナガルムと戦う必要がある。

流石に、その状況で雑魚に構っている暇はない。

「お、新しい材木系の素材……エレノアさんの所に持って行ったら喜ばれそうですね」

「ふむ……レベル上げついでに狩っておくか? お前には狩りやすい相手だろう」

「ですね。今は復興系のクエストでとにかく素材が足りていない状態ですし」

「……こいつの木材を建物を作るのに使うのか?」

「いや、こっちを武具系に回して空いた木材を復興に使うと思いますけど……まあ、そこはエレノアさんの判断次第ですし」

生産職たちに対しては、現在の所数多くの復興イベントが発行されている。

アイテムの作成や建物の修復など、彼らにとってはまさに稼ぎ所と言った所だろう。

しかし、同時に素材の品薄が起こってしまっていることは否めない。

戦闘系のプレイヤーは多くが街の攻略に乗り出しているため、素材収集に動く者が少ないのだ。

尤もエレノアはその辺り、これまでに構築した販路を利用して他の国から仕入れており、仲卸でも稼いでいるようではあるが。

建物や日用品を作るのに、高級な素材を使う必要はない。安い素材を集めて効率的にクエストを攻略していっているのだろう。

彼女と向こうで話をした時、本気を出すと言っていたような気がしたが……果たして、どこまでやるつもりなのだろうか。

「……まあ、時間はあるからな。奥に行くついでに、素材を集めていくとするか」

「ですね。木工系なら、矢の素材とかになるかもしれませんし」

「ボウガンのボルトにも使えるのかしらね」

「その辺は木工職人に聞いてみないと分からんからな……八雲にでも話を聞いてみればいいだろう」

そういえば、あいつはエレノアの弟であるという話だったが、今回の件は聞いたのだろうか。

まあ、エレノアも側近には話をしたいということを言っていたし、勘兵衛や八雲には話が通っているのかもしれない。

――とまれ、生産職の話はここまででいいだろう。この森は深い。まだまだ、目的地へは時間がかかるだろう。

果たして、この森の奥にはどのような領域が広がっているのか――その光景を楽しみに、先に進むとしよう。