軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

289:湖面への追撃

「緋真、火は使うなよ!」

「それ、できることが殆ど無くなるんですけど……!」

湖面に落ちた獄炎纏い。一度湖の中まで叩き込まれたせいか、その全身が水に濡れて翅の火も失っている。

奴の生態については全く分からないため、それがどのような意味を示すのかも不明だが――何にせよ、今奴が弱体化していることは間違いない。

少なくとも、これまで奴の周囲を舞っていた鱗粉がその姿を消しているのだ。

それだけでも、どれほど俺たちにとって有利になったかは計り知れないというものだ。

とは言え、折角水で濡らしたのに蒸発してしまっては意味がないので、緋真の炎による攻撃は控えさせなければならないが。

「ルミナ、セイラン!」

「はい、お父様!」

「クアアアアアアアッ!」

俺の命令に従い、ルミナは光の投槍を、セイランは雷を丸めた弾丸を放つ。

ルミナの魔法は言わずもがな、セイランの放つ雷は、水に濡れた奴にとっては特大のダメージとなる。

力を失っているわけではない獄炎纏いは、何とか水の中から脱しようとしてはいるが、ルミナの魔法によってそれもままならぬ状況のようだ。

どうやら、水を利用したことは想像以上の成果を上げてくれたらしい。

「《練命剣》、【命輝一陣】!」

水から脱しようとした獄炎纏いに対し、俺も遠距離攻撃を叩き付ける。

黄金の一閃は湖面に一筋の溝を発生させ、その中心にいた獄炎纏いを湖の中へと叩き返した。

水面ということもあり、武器による直接攻撃は狙いづらい。と言うより、そもそも直接攻撃を行うメリットがないレベルだ。

この蝶が窒息死するのかどうかは知らないが、ここからならば安全にダメージを積み重ねられる。

相手がどのような手札を持っているか分からない以上、下手に反撃を受けるリスクを背負うべきではないのだ。

「私もあまり、やれることが無いのよねぇ」

「私よりは魔法が効くじゃないですか。毒でも撒きます?」

「流石に水質汚染は気が引けるわ」

緋真のペガサスに同乗しているアリスは、光と闇の魔法を交互に放っている。

魔法に特化しているわけではないため、そのダメージ量は大したものではないが、塵も積もれば山となる。決して無駄なダメージにはならない。

それでも、メインの火力となるのはルミナとセイランの魔法だ。

そもそものMP、火力の高いルミナと、状況的にダメージ量の大きいセイランは見事な勢いで獄炎纏いのHPを削っている。

俺は奴が逃げ出さないようにちょっかいを出している程度だが、これなら効率よく奴のHPを削ることができるだろう。

(とは言え……これで終わるものかね)

ここに連れてくるまでのリスクはかなりのものだったが、あまりにも呆気なさすぎる。

今も口の管を伸ばしてこちらを突き刺そうとしてはいるものの、どう考えてもリーチが足りていない状態だ。

刺されたら流石に結構なダメージになるだろうが、届かなければ意味は無い。

元より、奴の攻撃が届かない距離を保ちながら攻撃しているのだ。獄炎纏いは水中から逃げない限り、俺たちにできることは何もない。

だからこそ、警戒するとしたら――奴が水中から脱するような、予想外の手だ。

「……? 先生、周りの水が……泡立ってる?」

「何? これは――」

その言葉を聞いて周囲を確認すれば、確かに湖の水がボコボコと泡を立て始めていた。

攻撃の衝撃によるものかと思っていたが、この泡の立ち方はそれとは異なる。

これは――周囲の水が 沸騰(・・) しているのだ。

「っ! 全員、高度を上げろ!」

何かを仕掛けようとしている――そう判断した俺は、攻撃の手を止めないながらも、そのままセイランの高度を上昇させた。

緋真やルミナたちもそれに倣い、湖面から一気に距離を取る。

湖の水を沸騰させるような熱量など、獄炎纏い以外に持ち得るとは考えられない。

奴のHPは既に五分の一以下まで落ち込んでいる。他のボスと同様、HPが減ったことによる何かしらの追加行動を警戒するべきだ。

ルミナとセイランは尚も魔法を放ち続け、奴のHPを削っているが……さて、奴は何かを仕掛けてくるのか。

そう考えた瞬間――水面に、巨大な爆発が巻き起こった。

「……!」

「あっつ!?」

小規模な水蒸気爆発、それと共に噴き上げてきた高温のスチームから退避しつつ、その根元を観察する。

それを成したものが何なのか、疑うべくもない。問題は、果たして奴がどのような状態であるのかだ。

湖面を吹き飛ばして現れた獄炎纏いは――これまでとは一線を画する姿へと変化していた。

今の奴は、その翅全体が血のように赤い炎によって構成されていたのだ。

「あれが奴の奥の手って訳か……」

よく見れば、奴の周囲からは鱗粉が消えている。

どうやら、鱗粉による攻撃を捨ててようやく発動できる、奴にとっての奥の手であるらしい。

事実、獄炎纏いのHPは徐々に減少してきている。奴にとっては、身を削らなければならないような最後の手段であるようだ。

獄炎纏いは、炎の翅を羽ばたかせてこちらへと近づいてきている。あれが奴の奥の手である以上、最大限の警戒を払わなくてはならないが――問題は、遠距離攻撃があまり通じなくなったことだ。

ルミナとセイランが放つ魔法は今も継続しているが、獄炎纏いは翅から放った炎によってそれらを迎撃している。

移動速度も上昇し、奴はこちらに接近して勝負を決めるつもりであるようだ。

あの大火力に追い回されながら攻撃するのは少々厳しい。さて、どうしたものか――そう考えた直後、隣の緋真が声を上げた。

「先生、試したいことがあるんですけど、いいですか?」

「……構わんが、やれるんだろうな?」

「試してみないと分かりませんけど、このまま決定打が無いよりはいいでしょう?」

確かに、今のままでは奴にとどめを刺すことは難しい。

それどころか、こちらが返り討ちに遭う可能性も十分に高いだろう。

可能であれば、ここで勝負を決めたいところだ。

「どうすればいい?」

「先生は続いて攻撃を。私は、あいつの炎を何とかします」

「……成程な、いいだろう」

紅蓮舞姫を抜き放ちつつ宣言した言葉に、緋真が何を狙っているのかを理解する。

俺もまた餓狼丸を抜き、小さく笑みを浮かべながら首肯した。

「焦天に咲け、『紅蓮舞姫』!」

成長武器を解放し、紅蓮舞姫が炎に包まれる。

獄炎纏いに対して、炎による攻撃は通用しないだろう。翅が炎で構成されている今では、下手をすれば吸収されて回復されかねない。

故に――緋真が行うのは、奴に対する直接攻撃ではない。

「行きます! 先生、後ろに!」

「ああ、任せるぞ!」

宣言と共に、緋真は獄炎纏いへと向けて降下を開始する。

紅蓮舞姫を下段に構え、片手で手綱を握りながら細かく操作。

獄炎纏いが放ってくる炎を回避し――どうしても避けきれないものは、隣に付いたルミナが迎撃する。

炎の翅を羽ばたかせる蝶へと向けて凄まじい速さで接近し――奴の放つ熱に耐えられなくなる寸前に、緋真は力強く告げた。

「消えろ、【朱椿】!」

――その声の刹那、周囲の炎が動きを止めた。

まるで時間が止まったかのように、獄炎纏いの放っていた炎、更には奴の翅自体も停止する。

そしてその一瞬後、全ての炎が緋真の刃に吸収され始めた。

【朱椿】は、周囲の炎を吸収して回復する紅蓮舞姫の能力の一つ。

使い所の少ない特殊な技ではあったが――獄炎纏いの体が炎で形成されている現状、それはこれ以上ないほどの効力を発揮した。

薄っすらとだけ残る炎、翅を構成する炎の大半を失った獄炎纏いは、攻撃も回避もできずにその場に漂うだけだ。

故に――

「《練命剣》――【命輝閃】!」

その無防備な胴へと向け、俺はセイランの加速を載せた一閃を叩きつける。

既にHPの大半を失っていた獄炎纏いが、そのダメージに耐えられるはずもなく――緋色の蝶は、真っ二つになりながら消滅したのだった。

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