軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

029:アルファシア王国騎士団

「……そうか。連絡が途絶えていたから覚悟はしていたが、悪魔に敗れていたか」

例の悪魔との戦い、そして騎士たちに関する話を想像した部分も含めて話し終えたところ、クリストフはそのように言葉を零していた。

まあ、彼も覚悟はしていたのだろう。調査に向かった騎士たちが消息を断てば、その死を想像するのは当たり前だ。

「捜索する予定ではあったんだが、悪魔に街道を塞がれ、迂闊に手が出せない状況になってしまっていた。しかしまさか、アンデッドにされていようとはな」

「ええ……ですが、彼は最後まで悪魔の支配に抵抗していた。実に高潔な騎士でした」

「……ああ、私も鼻が高い」

じっとシュレイドの遺品を見つめ、クリストフはそう口にする。

騎士である以上、部下の死の経験はあるだろう。

だが、自分の手の届かぬ場所で死んだ相手に対する慙愧の念は、決して薄れるものではない。

俺としても、安易な慰めの言葉を口にするつもりはなかった。

しばし沈黙したクリストフは、やがて緩く笑い、改めて俺の方へと視線を向ける。

「それで、シュレイドは最後に何と?」

「……貴方と、彼の娘さんへ。一言、『済まない』と」

「そうか……馬鹿者め」

小さく吐き捨て、クリストフは椅子に深く腰を沈める。

彼はそのまま、しばし目を瞑り、沈黙していた。

そのまま、一分ほど黙考していただろうか。彼はようやく目を開けて――その瞳には、最初と同じ強い光が宿っていた。

「……君に感謝を、クオン。よく、私の部下たちをここまで連れてきてくれた」

「いえ、彼らの最期を見取った者として、やれることをしただけです」

「その心配りこそが、千金の価値にも値したのだ。礼は受け取ってほしい、君たちもな」

俺たち全員を見渡し、クリストフはそう口にする。

居心地悪そうにしていた四人の少女たちは、視線を向けられて若干慌てていた様子だ。

そんな彼女たちの姿に苦笑しつつ、俺は改めてクリストフへと声をかける。

「このことについて、彼の娘さんにも話がしたいのですが……居場所を教えては頂けないだろうか」

「騎士団から伝えるつもりだったが……君たちが行くのか?」

「遺言を受け取ったのは俺ですので。その仕事を放り出すのは、あまりにも不義理でしょう」

いかに彼がアンデッドと化していたからと言っても、最期に討ったのは俺だ。

クリストフは、それによって責められるのではないかと警告してくれているのだろう。

だが、それは彼を討った者としての責任だ。

責められるのであれば、甘んじてその罵倒を受けよう。その上で、仇討ちを望むのであれば正面から打ち倒すのみ。

まあ、流石に殺すつもりはないが。

「いいだろう。場所については地図を用意させる。嫌な役目を押しつける形になってしまうな」

「望んだことですので。気に病むことではありませんよ」

「感謝する。シュレイドの娘は、今少し問題を抱えているんだ。できれば、あの子の力になってあげてほしい」

「ふむ? まあ、娘さんが望むのであればやぶさかではありませんが」

「それでいい。よろしく頼む」

ちらりと雲母水母を見つめれば、彼女も俺に対して首肯を返していた。

恐らくこれは、一連のイベントの続きなのだろう。

であれば、参加するのは当然だ。雲母水母たちも続きが気になっていることだろう。

と――その時、俺の耳元で機械的な声が響いていた。

『特殊限定イベント《忘れ形見と王都の影》を開始します』

どうやら、件の娘とやらに会いに行くことが引き金となったらしい。

ゲーム的な声と騎士団長の人間的な反応の温度差に、俺は思わず視線を細めていた。

だが、そんな声は聞こえていない当の本人は、調子を変えることなく話を続ける。

「では、君たちには報酬を。一人につき10万Zを用意した。あまり多くはないが、資金の足しにしてくれ」

「ありがとうございます」

「……済まないが、妖精殿の分は許可が下りなかった。彼女にも助けて貰った訳だし、虫のいい話ではあるんだが……」

「ああ、別に構いませんよ。結局俺が管理することになりますからね」

先日装備を整えるために散財したばかりなので、これは素直に助かる。

この辺りの魔物の素材も売れば、そこそこの金を回収できるはずだ。

ルミナの分が無いのは残念だが、まあ仕方あるまい。妖精に金を渡しても基本役には立たないのだし。

頭の中で定まらぬ計算をしていると、クリストフは更に、見慣れぬアイテムを人数分机に置く。

それは木製の台座がついた金属の紋章。この建物の入り口でも見かけた、恐らくはこの騎士団の紋章だ。

「これは、我ら王国騎士団が君たちの身分を証明する、証明書のようなものだ。これがあれば貴族街には入れるだろうし、条件さえ合えば王城でも通じるだろう」

「成程、それは助かります」

騎士団が俺たちの身分を証明してくれるというのなら、かなり動きやすくなるのは間違いないだろう。

無論、悪用すればかなり厄介なことになるだろうが、そんなことをするつもりはない。

まあ、あまり多用しすぎるのも良くないだろうけどな。騎士団の人間だと思われるのも面倒だ。

「後は、王都の地図だな……ああ、準備はできたようだ」

クリストフがそう呟くと同時、扉が開いて一人の女性が姿を見せる。

室内用だと思われるボディアーマーに身を包んだ女性は、クリストフに一礼したのちに、机の上に手に持った紙を広げていた。

そこに描かれているのは、この王都の地図なのだろう。三重の丸が描かれているようなその地図の一角には、赤いインクで丸く印が刻まれていた。

「ガイドマップの簡素なもので済まないが、これが王都の地図だ。シュレイドの家は、この印された所にある。あいつの娘は、そこで使用人と二人で暮らしている筈だ」

「二人だけ、ですか?」

「ああ、まあ色々とあってな……とにかく、あの娘の、リリーナの力になってやって欲しい」

「ええ、可能な限り手を貸しますよ」

それを望まなかった場合は――まあ、なるたけ説得するとしよう。

一連のイベントであると考えられるし、できる限り続きの内容には参加したいからな。

ともあれ、これで団長に伝えたいことは済んだ。さっさとその娘とやらの所に行ってみるべきだろう。

まあ、その前に、インベントリに詰め込んだ騎士たちの遺体を出してからになるがな。

次なるイベントがどうなるのか、その展開を想像しながら、俺は遺体の引き渡しのために声を上げていた。

「では、騎士たちの遺体を返還したいのですが……どこで出せば?」

「何? 一体どこに――いや、異邦人は物を収納できる秘法を扱えるのだったか」

「秘法? あー……まあ、そんなようなもんですね」

現地人からしたらインベントリはそんな扱いになるのか。

まあ、非常に便利な代物であるし、大仰な言われ方をされるのも仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが。

思わず苦笑しつつ、俺は立ち上がりながらクリストフの言葉を待つ。

彼もまた俺に続いて席を立ち、手で扉を示していた。

「安置室がある。そこに運び入れてもらいたい。すぐに葬儀、とはいかないだろうがな」

「まあ、それは仕方ないでしょうね。後の処理はお任せします」

「ああ、任せてくれ。手間を惜しまずにいてくれたこと、感謝する」

改めて頭を下げてくるクリストフに苦笑しつつ、案内されるままに会議室から外に出る。

安置を終わらせたら、次はリリーナとかいう娘の所だ。

果たしてどのような問題が起こっているのやら――それはそれで楽しみに思いつつ、俺は小さく笑みを浮かべていた。

* * * * *

「何か、とんとん拍子に話が進んじゃって、よく分からなかったんですけど……」

「流石に話の展開ぐらいは理解しておけよ」

茫然とした表情のまま王都を歩く雲母水母に、半眼でそう告げる。

戦っている時は堂々としたものなのだが、どうも彼女は己の知識の及ばない領域になると途端に動けなくなる性質のようだ。

まあ、彼女も若いのだし、どうすればいいか分からなくなるのは仕方ないのだが、リーダーであるからにはもう少ししっかりして欲しい所だ。

王都に来てからは、権力階級と顔を合わせる機会も出てくるわけだしな。

「この地図、ガイドマップの物なんですね。色々載ってますし、後で見て回りたいです」

「おー……ホントに広いね」

「……ほうほう」

地図を広げるリノは、目的地であるシュレイドの邸宅以外にも、様々な場所をチェックしている。

まあ、これだけ大きな都市だ。施設の種類が多いのは当たり前だろう。

むしろ、これからプレイヤーが参入し、さらに混沌とした状況になっていくに違いない。

地図を作っている者には申し訳ない話だが、その流れは避けられないだろう。

「ほれ、もう少しで目的地なんだ、そろそろ気を引き締めろ」

「はーい」

「あれ? リーダーの座を取られてる?」

何やら複雑そうな表情の雲母水母は放置し、先へと進む。

既に王都の石碑の登録は済ませているので、今の所他に行く必要のある場所など存在しないのだ。

他の施設が気になるのも分かるが、いつまでも時間を取られているわけにはいかない。

シュレイドの家は、王都の一番外側の区画――いわゆる平民街という場所の、最も中心付近に存在する。

三重丸の形に仕切られている王都は、外側が平民街、その一つ内側が貴族街、中心が王城という形に仕切られている。

要するに住居が中央に近くなるほど地位が高い証明であり、シュレイドは『平民だが貴族に近い存在』という扱いなのだ。

「そんな奴が抱えていた問題、ねぇ」

どうにも面倒そうな気配がする。特に貴族関係が出てくると色々面倒だ。

まあ、騎士団の紋章のおかげで最低限は身分を証明できるし、何とかならないこともないだろう。

最悪の場合は、色々と血腥いことになるだろうが――今後の展開について考えながら最後の角を曲がった時、目に入った光景に俺は眉根を寄せていた。

目的地であるシュレイドの邸宅の前に、複数の人影が屯しているのが見えたのだ。

「あれは……」

「……何だか、良くない雰囲気ですね」

雲母水母の視線が、すっと細まる。

そこそこに修羅場慣れしたような反応に少し驚きつつも、俺は連中の声を聞きながら目的地へと向かって歩を進めていた。

状況は気になるが、あまり放置してよい雰囲気ではない。

足早に接近している内に、邸宅の前にいる者たちの声は正確にこちらまで届くようになっていた。

「――お引き取り下さい」

「女中の分際で、フェイブ伯爵家に楯突くつもりか!」

「そちらこそ、クリストフ騎士団長閣下に楯突くおつもりですか? 我々があの方の保護下にあることはご存じのはずですが」

聞こえてきた会話の内容に、俺は思わず顔を顰めていた。

嫌な方の予感が当たってしまった。どうも、件の娘とやらは貴族相手の問題を抱えているらしい。

相手は武装した男が五人――メイド一人で相手をするには厳しいだろう。

だが、彼女は毅然とした表情で男たちの言葉を退けている。主を守らんとするその姿勢は、好感に値する姿だった。

とはいえ、状況はあまりよろしくない。さっさと助け船を出すべきだろう。

「失礼。こちらがシュレイド・ランベルク殿の邸宅でよろしいか?」

「ッ、何だ貴様は!?」

「……ええ、その通りですが。貴方は?」

恫喝気味に叫んでくる男には軽く目礼のみを返し、俺はメイドの方へと視線を向ける。

彼女は、当然と言えば当然だが、こちらのことを警戒している様子だ。

そんな彼女を安心させるように、俺はインベントリからアイテムを――先ほど受け取った騎士団の紋章を取り出す。

「騎士団長クリストフ・ストーナーの要請により、こちらに派遣された者です。要請内容は、リリーナ・ランベルクの抱える問題の排除ですね」

「……! 成程、それは御苦労様です。ですが済みません、おもてなしの前に、早速お仕事をして頂くことになりそうです」

「ふむ、つまり――」

内心で笑いつつも視線を細め、俺は五人の男たちへと向ける。

騎士団の紋章を見てたじろいでいる彼らは、俺の視線を受けて息を飲んでいた。

心理的に押されているのならば好都合――威圧をするにはちょうどいい状態だ。

「――彼らが、その問題というわけだ」

「ッ、き、貴様……我らはフェイブ伯爵家の使いだ、我らに敵対することが何を意味するか――ひっ!?」

すっと、足を僅かに動かす。右手を僅かながらに持ち上げる。

ただそれだけで、男たちは面白いように竦み上がり、一歩後退していた。

気当たり――殺気を相手に対して効果的に叩きつける手法だ。

簡単に言えば、こちらの一挙手一投足が、己を殺しうる動きであると錯覚させることにより、相手に恐怖心を植え付ける業である。

別段久遠神通流の業というわけではないのだが、殺気を使ったフェイントなどには多用する、中々使い勝手のいい業だ。

「さて、そちらがどこぞの貴族様の使いである、というのは分かったが――俺達異邦人に対して、この国での地位を主張するとは、面白い話だ」

「い、異邦人……!?」

「俺たちはこの国の民ではなく、この国の貴族社会に対する敬意を持っているわけでもない。罰しようとしたところで我らは不死だ。全員が余すことなく戦闘技能を持っている異邦人たちを敵に回し……果たして、何ができると言うつもりだ?」

「何を……ひぃっ!? や、やめっ!」

僅かながらに体を動かしながら威圧し、俺は淡々とそう告げる。

実際の所、異邦人と言う戦力は脅威を超えて暴力的だ。

何しろ、何をした所で全員復活する。戦えば戦うほど戦闘能力は増していくし、数そのものも膨大だ。

全員が一致団結すれば、この国を奪うことすら不可能ではないのだ。

無論、そこまで一致団結することがまず無いのだが。

「さて、改めて問うが――貴族様が、騎士団長の要請を受けてここにいる、異邦人の俺たちに、いったい何をすると?」

「ッ……引け、引けッ!」

俺が一歩踏み出した瞬間、まるで転がるようにその場から退却を始める五人組。

その背中を見つめ――震脚でずばん、と足元に爆音を響かせれば、全員が揃って同時に転倒していた。

そのまま這う這うの体で逃げ去ってゆく連中を見送り、俺はようやく口を開く。

「くく、ははははははっ! いや、からかい甲斐のある連中だったな」

「わ、笑っちゃまずいですってば……ぷふっ」

俺を諌める雲母水母であるが、それでも押さえる口元から笑いが零れるのを堪え切れていない。

プライドばかり高い連中は、徹底的に心を折らなければ反発してくるものではあるが……まあ、使いっ走り程度をどうこうした所でさしたる意味はないだろう。

やるのならば、親玉が出てきた所でなくてはなるまい。どのような対応になるかは、相手の出方次第ということだ。

今後の対応について黙考し――そこに、後ろから声がかかる。

「――ありがとうございました、異邦人の方」

「ん? ああ。先ほど言った通り、騎士団長殿からの要請だったのでね。そちらに礼を言うことだ」

「はい、機会がございましたら。それで、質問なのですが――」

若干不安そうな様子のメイドに、小さく苦笑を零す。

このまま放置したら、事態を引っかき回しただけで何も解決していない。

これで問題が解決したと引き揚げるのでは、と危惧しているのだろうが、流石にこれで終わったと判断するほどおめでたい頭はしていないつもりだ。

「安心してくれ、このまま放りだすような真似はしない。とりあえず、中で話を聞かせて貰ってもいいか? お嬢様にも、伝えておきたい話があるのでな」

「……かしこまりました。では、中へどうぞ」

困惑した様子のメイドに頷き、俺たちは招き入れられるままに邸宅へと進む。

どう伝えたものかと、若干の迷いはあるが――ただ、正確に話をすべきだろう。

口にする言葉を吟味しながら、俺たちはランベルク邸へと足を踏み入れたのだった。