軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

285:荒山の道

クラーグリザードの何が面倒であるかと言えば、この岩に覆われたような表皮だ。

恐らく皮膚であるのだろうが、どこからどう見ても岩の塊にしか見えない。

しかも肌自体は普通の肌であり、魔法によって防御力を向上しているわけではないため、《蒐魂剣》で無効化することもできないのである。

その一方で、普通に魔法を使って攻撃もしてくるので侮れない。

こんな魔物が不意討ちしてきたら流石に恐ろしいが……種が割れてしまえばそれまでだ。

「《蒐魂剣》!」

次々と突き出してくる岩の杭を斬り裂いて消滅させながら、前へと進む。

直撃すれば流石に危険だが、クラーグリザードは予備動作が分かり易いため、どのタイミングで魔法が飛んでくるかは丸分かりだ。

クラーグリザードの主な攻撃手段は前腕による引っ掻きと、鋭い牙を利用した噛みつき。そして尻尾による薙ぎ払いと、体を身震いさせることによるショートレンジの体当たりのような攻撃だ。

つまるところ、体の正面にいなければ脅威となる攻撃は魔法ぐらいなものである。

そして――

「ケエエエエエエエエエッ!」

「グルァアアアアアアッ!」

現在の所、その正面切った戦いはセイランが行っている。

セイランは体はデカいが非常に身軽であり、鈍重な相手の攻撃ならば容易に回避できる。

一方で膂力はかなり高く、その鋭い爪も利用した打撃はクラーグリザードの硬い皮膚を削り取るように傷つけていた。

しかもただ打撃を行っているだけではなく、その腕には紫電を纏わせている。接触するたびに、魔法によるダメージまで叩き込んでいるのだ。

血気盛んで荒々しい戦い方を好むが、何だかんだで使える手札はしっかりと使うタイプである。

ともあれ、そうしてセイランが正面を受け持ってくれているおかげで、俺たちは奴の魔法以外は特に気にすることなく攻撃をすることができるわけだ。

「《練命剣》――【命輝閃】!」

「《術理装填》、《スペルエンハンス》【ファイアジャベリン】!」

魔法とスキルによって攻撃力を高めた俺の攻撃と、魔法を付与した緋真の攻撃が、左右からクラーグリザードに襲い掛かる。

特に、《高速詠唱》がレベル最大値となり、《多重詠唱》へと進化した緋真は、魔法の回転率が上がっている。

これは、複数の魔法を同時に詠唱した際の詠唱速度が上昇するスキルだ。これまで以上に《術理装填》を使いこなすようになった緋真は、総合的に火力が上昇しているのである。

そんな俺たちの波状攻撃を、セイランと正面から殴り合っているクラーグリザードは回避することができず、両脇腹を深く斬り裂かれることとなった。

「ガッ、グルァアアアアアッ!」

そのダメージに悲鳴を上げ、クラーグリザードは身震いして俺たちを弾き飛ばす。

無論、素直に喰らうことはなく、体当たりを喰らう前に後方へと跳躍したが、やはりそれだけで致命傷を与えるには至らない。

だがそれでも、大きなダメージにはなったようで、明らかに動きが鈍っているのが見て取れた。

そんなクラーグリザードに対し、セイランは勢いよく突進して殴りつけ、その身を横倒しにする。

そして次の瞬間、上空から飛来した光の槍がクラーグリザードの体を地面に縫い付けた。

「いい感じね」

無論、無防備になった相手を見逃す俺たちではない。

真っ先に動いたのは、隠れる場所が少ないがために機会を伺い続けていたアリスだ。

瘴気を纏うネメを手に、クラーグリザードの脇腹へと刃を振り下ろす。

毒々しいオーラを纏ったその一撃は、俺の付けた傷を正確に穿ち――クラーグリザードの身に、強力な毒を流し込んだ。

付与した毒を強化する《ベノムエッジ》の一撃を受けたクラーグリザードは、瘴気による呪いも含め、複数の状態異常を受けて動きが鈍る。

どうやら、既にルミナの拘束から逃れるほどの力も残っていないようだ。

「ここまでか――『生奪』」

斬法――剛の型、輪旋。

大きく翻した一閃が、横倒しになったクラーグリザードの首を斬り裂く。

血を噴き上げたクラーグリザードは、そのまま力尽きて地に倒れ伏した。

『《MP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』

『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』

レベルもありタフではあったが、攻撃力を優先して高めていたおかげか、そこまで苦労することは無かった。

やはり、《剣氣収斂》のスキルはそこそこに有用であるようだ。

クラーグリザードは隠れているという性質はあるが、逆に言えば最初は動かずにいるということ。

探知することさえできれば、レベル上げをするにはそこそこ都合のいい相手であると言えるだろう。

「ふむ……二体ぐらいまでだったら同時に相手にできそうだな」

「いや、わざわざ複数まとめて喧嘩を売る必要はないじゃないですか。普通に一体ずつ相手しましょうよ」

「ま、それはそうなんだがな。狩りやすい相手だし、単調になってしまってもつまらんだろう」

半眼でこちらを見つめてくる緋真に笑みを浮かべつつそう返し、周囲をぐるりと見渡す。

軽く見ただけではわからないが、どうやらそれほど遠くない場所に何体か潜んでいるようだ。

まあ、無理に複数を相手に喧嘩を売る必要もないし、順番に片付けていけばいいだろう。

無論、本題を見失ってはならない。今日の目的はあくまでもネームドモンスターの討伐、その素材を手に入れることだ。

こいつらの相手に夢中になっているわけにもいかない。

「とりあえず、気を付けながら先に進むぞ。倒しやすい相手とはいえ、不意打ちを喰らったら堪らんからな」

「貴方の索敵能力を通り抜けられるようなのがいるのかしらね」

軽い皮肉を交えたアリスの言葉に肩を竦めて返し、先へと足を踏み出す。

何にせよ、先に進まなければ話が進まない。普通の敵にせよネームドモンスターにせよ、出会った敵を倒していけばそれで済む話だ。

さて――目的を達するまでに、どれだけの相手と戦うことができるだろうか。

知らず、俺の口元はつり上がるように弧を描いていた。

* * * * *

『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀術》のスキルレベルが上昇しました』

『《格闘》のスキルレベルが上昇しました』

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《エンゲージ》のスキルレベルが上昇しました』

『《回復適性》のスキルレベルが上昇しました』

『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』

クラーグリザードを始めとし、何種類かの魔物を相手にしながら先へと進む。

他に出現した強敵と言えば、いくつもの岩が浮かび上がって人の形を模したような『ストーンスピリット』や、全身が固い甲殻で覆われたサイのような魔物である『アーマードライノ』などがいた。

一応、他にも何種類か魔物はいたのだが、そちらはあまり強敵とは言えず、普通に蹴散らしただけで終わっている。

しかし――

「どうにも固い敵が多いな……攻撃力が上がっていてよかったとも言えるが」

「火に耐性がある奴が多いのも困るんですけどね……雑魚の魔物にしても、火に対しては結構耐性がありますし」

「まあ、それでも十分ダメージを通せているんだからいいだろう。まあ、オーガのことを考えると、何かしら作為があるようにも思えるが――と、また来たか」

うんざりとした様子の緋真の言葉に相槌を打ち――前方、丘陵の向こう側から近づいてくる気配に、俺は刀を構え直す。

果たして丘の上から現れたのは、何故か岩に擬態する様子もなく走っている、クラーグリザードの姿であった。

これまで出会ったこの魔物は、どいつもこいつも岩に擬態して待ち構えていたというのに、わざわざこちらに向かってくるとは。

一体何の意図があるのかと疑問符を浮かべるが、そんな俺たちの表情は次の瞬間更なる困惑に染まることとなった。

俺たちを視認したクラーグリザードが、斜めに進行方向を変えてそのまま走り去っていったのだ。

「……逃げた、だと?」

「まだ逃げるほどのレベル差ではないと思うのだけど……」

こちらとのレベル差を察知できる知能を持った魔物の場合、戦闘を避けて逃走する場合がある。

だが、俺たちのレベルはクラーグリザードのレベルとほぼ拮抗したものであり、わざわざ戦闘を避けるほどのものではない筈だ。

一体何が起こったのか――そう考えた、次の瞬間。連鎖して連なるような巨大な爆音が、静かな山地に響き渡った。

「きゃっ!?」

「ッ、何だ、爆撃か!?」

クラスター爆弾でも爆発したのかと錯覚するほどの爆音と振動。

ある程度遠くはあるが、これの爆心地に巻き込まれたらひとたまりもあるまい。

俺たちは視線を見合わせ、ゆっくりと小高い丘の上に登る。

そこから先、下り坂の先に見えたものは――黒焦げになったクラーグリザードの死骸と、その上に留まる美しい蝶の姿であった。

「ッ……あれが、『獄炎纏いのプシュケー』」

燃えるような緋色と、揺らめくような白と黄色の紋様が描かれた翅。

その翅が動くごとに燐光のように輝く鱗粉が舞い、それが火の粉となって周囲を照らす。

昆虫としては考えられぬ、一メートルはあろうかという巨体。

そんな蝶の魔物は、黒焦げになったクラーグリザードの体に口の管を突き刺し、その体液を啜っていた。

どうやら、クラーグリザードが逃げていたのはこれが原因であるらしい。

「綺麗だけど……それだけに、悍ましいわね」

「情報があんまり見えないですし、あれレベル70は行ってそうですけど」

「あれが目的の相手なんだ、やるしかあるまい。だが、まずは分析だ。急いて攻めるなよ」

恐ろしい魔物であるが、あれが目的の相手であることは事実。

ここは、慎重に事を運ぶとしよう。