作品タイトル不明
284:二つ目の標的へ
日を改めて、普段の稽古をこなした俺たちは、昼過ぎ辺りからゲームにログインした。
目に入るのは深い森。一瞬どこだったかと混乱しかけるが、すぐに森の中でログアウトしたことを思い出して頷いた。
足元で光を放っているのは、内部に聖火を灯したランタンだ。
魔物が近寄ってこなくなる聖火のランタンは、現状でも聖火の塔内部でしか手に入らない貴重品である。
尤も、逆に言えば必ず配置されているため、探しやすいものでもあるのだが。
「聖火の塔か……そういや、攻略はどうなってるんだかな」
「街の方については、今の所変化はないみたいよ。ただ、いくつかの聖火の塔は攻略されたみたいね」
「ほう? 手際がいいのか悪いのか……何とも言えんな」
いつの間にかログインしていたアリスの言葉に、納得しつつ首肯する。
現状、解放されている街は南、南西と南東、そして北西か。残り八日にして半分、ペースとしてはかなりいい筈なのだが、やはり不安は拭えない。
とはいえ、足踏みをしてしまっているというわけでもないのだ。
聖火の塔を解放すれば、それだけ悪魔たちは弱体化する。例えそのままでの攻略が難しくとも、弱体化した悪魔が対象ならばなんとかなるかもしれない。
とりあえず、日数が限られているとはいえ、まだ多少の余裕はある。しばらくは、他のプレイヤーたちに任せておくこととしよう。
「さてと……」
昨日は時間が時間だったため、このような妙な位置からのスタートとなってしまったが、今日の目的地は北西の山岳地帯だ。
ルートとしては、南西のシェーダンに立ち寄り、石碑から北西のラビエドに転移、そこから移動することになるだろう。
スムーズにいけばあまり時間をかけずに辿り着けるだろうが、果たしてどうなることか。
まあ、どちらにせよ鍛える時間は必要であるし、多少時間をかけつつ向かってもいいのだが。
(今日のログイン丸一日分をかけて標的を狙うのでも十分だな。スタートダッシュを切ったおかげで、時間的余裕は十分にある)
とはいえ、ディーンクラッドのことがある以上、時間に胡坐をかいているわけにもいかない。
せめて明後日までには最後の一体、マーナガルムまで討伐してしまいたい所だ。
色々と難しい条件ではあるが、まだ伯爵級悪魔も残っているため、効率的に進めたい所だ。
従魔結晶からルミナとセイランを呼び出しつつ、俺は現在のスキルの状況を確認した。
色々とレベルは上がってきたが、やはり注目は《剣氣収斂》だろう。
時間制限はあるが、分かり易く攻撃力は上昇していた。
単純な効果だが、それだけに分かり易い。これは育てていけば、ディーンクラッドと戦うための力となるだろう。
(そしてもう一つ気になるのは……《降霊魔法》だな)
精霊を召喚するこの魔法、現在俺が使えるのは【武具精霊召喚:LV.9】だ。
次のレベルアップで手に入るポイントにより、レベルは最大値に到達することになる。
魔法を発動した時、肩口まで伸びるようになってきた白い光。刀自体に何か変化があるわけではないため特に気にしていなかったが、最大値になった時何か変化があるのだろうか。
このスキルの進化もどうなるのかは分からんし、先が気になる所だ。
まあ、それ以前にポイントが余ったらどうするかも悩みどころではあるのだが。
《降霊魔法》には、MPの半分を封じるというデメリットがある。もしも二つ同時に召喚すれば、使用できるMPは最大値の四分の一だ。
俺はあまりMPは使わないし、使っても《蒐魂剣》や《MP自動大回復》ですぐに回復できるのだが、流石に四分の一は少々心もとない数字である。
【武具精霊召喚】が最大レベルになったら、もう一つ【武具精霊召喚】を取って防具を強化するか、或いは別の戦闘用の精霊を取得するか……次のレベルで最大になってしまうわけだし、早めに考えておいた方がいいか。
「――っと、先生お待たせしました!」
「ああ、またあいつらと話をしていたのか?」
「まあ、ちょっと……向こうも結構気合入ってるみたいですね」
まさかとは思うが、俺と合流するためにさっさと悪魔を片付けるつもりではないだろうな。
いや、師範代たちの戦力は馬鹿にはできんし、追い付いてくるのであれば邪険にするつもりも無いのだが。
無論、ディーンクラッドは紛れもない強敵であるし、全力で戦うことに否は無いのだが、自分が見世物にされていると思うと少々微妙な気分だ。
まあそれを言い出したら、俺のイベント時の戦闘は良く動画サイトに上がっているらしいので、今更と言えば今更なのだが。
「……まあいい、移動するとしよう。今日中に『獄炎纏い』を片付けるぞ」
「了解です」
「どんな敵になるのか、戦々恐々よね」
皮肉った様子で肩を竦めるアリスには内心で苦笑しつつ、川沿いの開けた場所へと向かって歩き出す。
さっさと空に上がり、目的地まで移動することとしよう。
* * * * *
『《戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』
『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』
空で襲い掛かってきたワイバーンを片付け、山岳地帯に差し掛かってきた辺りで地面に降下する。
これまで通ってきた道とは異なり、中々に荒涼とした土地が広がっている。
山岳ではあるが、あまり高い山というわけではなく、小高い丘がいくつも連なったような場所であるようだ。
あまり植物の姿が見受けられないのは気になるが、周囲は見渡しやすく、標的であるネームドモンスターは探し易そうな雰囲気だ。
さてと――
「先生、空を飛んで探さなくてもいいんですか?」
「ああ、今はいい。今日は時間的な余裕も十分にあるしな。敵を倒しながら、ゆっくりと探索を進めるさ」
元より、都市攻略を離れているのは戦力強化が目的なのだ。
成長武器の強化もその一つではあるが、普通にレベルやスキルを上げていくことも重要である。
無論、『獄炎纏い』は今日中に倒したいため、時間があまり無くなってきたら空からの探索に移るつもりだが。
「敵を倒しながら進むぞ。何がいるかは分からんが、少しでも経験値の足しにしていく」
「ま、そうですよね……ほら、早速何かいますけど」
「……岩肌かと思ってたけど、あれ魔物なのね」
緋真が示したのは、前方の斜面。
そこに転がっているのは岩のようにしか見えないが、よく見ると岩の表面に瞳のようなものが浮かんでいる。
よく目を凝らしてみれば、それは丘陵の斜面に横たわるようにして擬態している、岩のような肌を持った巨大な蜥蜴のようだ。
「『クラーグリザード』……レベルは58ですね。結構な強さですよ」
「姿を隠している割にはレベルが高いな。面倒なこった」
ああいう、奇襲してくるタイプの魔物は、それ自体はそれほど強くはない傾向にあった。
だが、あのクラーグリザードとやらはそれ自体のレベルが中々に高い。
街道からかなり外れた場所とはいえ、ここは中々の魔境であるようだ。
《剣氣収斂》を入れるため、《識別》を外している今の俺にこの魔物の情報を閲覧することはできない。
だが、見た目や名前からして、どう考えても地属性の魔物だろう。
正直、俺たちにはあまり相性の良い相手ではないが――
「ルミナ、セイラン」
「はいっ!」
「ケェッ!」
俺の声に頷き、ルミナたちは即座に魔法を放つ。
強力な光の槍と、鋭い風の刃。防御を貫くであろう強力な魔法がクラーグリザードへと殺到する。
しかし、それが直撃する寸前、クラーグリザードは身じろぎするように尻尾を地面へと叩き付けた。
瞬間――巨大な岩の壁が目の前に出現し、二人の魔法を受け止める。
「ゴアアッ!」
そして次の瞬間、岩の壁は破片となって俺たちへと襲い掛かる。
それを目にして、俺は笑みを浮かべながら前に出た。
「《蒐魂剣》」
迫る岩塊を綺麗に斬り裂きながら、クラーグリザードへと接近する。
擬態を見破られたと知ったクラーグリザードは、遠慮すること無く体を起こし、岩のような肌を揺らしながら立ち上がった。
やはりでかい。全長で四メートル近くはあるだろうか。これと力比べができるとしたら、セイランだけになるだろう。
こちらを薙ぎ払うように振るわれた尻尾を跳躍して回避、動きを止めた胴へ、全力で刃を振り下ろした。
「『生奪』!」
俺が放った一撃はクラーグリザードの脇腹辺りに直撃し――しかし、僅かな傷跡を残すだけにとどまった。
どうやら、見た目通りの岩のような肌をしているらしい。
こうなると、刀でダメージを与えることは中々に難しいだろう。
ダメージを受けたことに驚いた様子のクラーグリザードは、まるで水気を払う犬のように体を大きく身震いさせる。
この巨体の身震いには巻き込まれたくない。後方へと跳躍して距離を取り、俺は改めて餓狼丸を構え直した。
さて、通常の魔物とは言え、中々の強敵。だが、それはそれで好都合というものだ。
「――【ダマスカスエッジ】、【ダマスカススキン】、【武具精霊召喚】、《剣氣収斂》」
さて、どんどんと成長させていくとしよう。
それが、奴の首に刃を届かせるための道となるのだから。