軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

282:手に入れた素材

案の定というか、ブラッディオーガ――ネームドモンスターはボスモンスター扱いであったようだ。

今思うと、女王蟻辺りもネームドモンスターに近い存在だったのだろうか。

緋真の言う所では、女王蟻と覇獅子はお仕置きモンスター……つまり、一つの狩場を独占し続けていると、それを排除するために出現するタイプの敵かもしれないらしい。

まあ、正直その辺りの分類はあまり理解できていないのだが――何にせよ、目的の素材は手に入ったようだ。

「『暴食悪鬼の心臓』……よし、手に入ったか」

「私の方にもあるわね」

「心臓が二個……? いや、単純な確率か貢献度ドロップなんでしょうけども」

首を傾げている緋真の言葉に、思わず苦笑を零す。

まあ、それについては確かに疑問はあるものの、俺にとっては好都合だ。

餓狼丸を強化するのに必要な素材の数は一つだけだが、予備があるに越したことはないだろう。

他にも何かしら使えるものがあるかもしれないからな。

「まあ、何にせよ手に入ってよかったですね。もうフィノに依頼を出しに行きます?」

「いや、餓狼丸の経験値はまだ溜まりきってはいないからな。先に他の素材を優先するぞ」

餓狼丸を成長させるための必要素材、『暴食悪鬼の心臓』は手に入った。

残りは紅蓮舞姫の『獄炎蝶の赤翅』と、ネメの闇刃の『闇月狼の月牙』だ。

このうち、『闇月狼の月牙』を落とすとされるネームドモンスター、『闇月狼マーナガルム』については、まだ戦うには情報が足りていない。

であれば、自然と次なる狙いは一つとなるだろう。

「次は『獄炎纏いのプシュケー』、だったか。生息地は北西の山岳地帯だったな」

「流石に今から行くとか言いませんよね?」

「当たり前だろう、いい加減もうログアウトする時間だ」

今日は流石に長くプレイしすぎてしまった。

今から街まで戻るほどの時間的余裕もないし、近くで聖火のランタンを使ってログアウトするべきだろう。

まあ、この場でそれをしてしまうとログアウトしている間にオーガたちが復活してしまいかねないので、多少離れた場所でログアウトする必要があるが。

「しかし、他のネームドモンスターも今回みたいに、何か攻略のための仕掛けでもあるのかね」

「さあ……全部が全部そうとは限らないんじゃないですか? 正直、今回の方が特殊な気がしますけど」

「その可能性も否定はできんな。普通に考えて、まともに群れを相手にするなんざできるはずもない」

「……貴方ならできてしまいそうだけどね」

嘆息交じりの半眼を向けられ、俺は軽く視線を逸らす。

確かに、不意打ちをする方法が無かったら俺は正面から戦っていたかもしれない。

無論、最初からではなく、ある程度数を削ってからではあるが……かなり無茶な戦闘になっていた可能性は高いだろう。

まあ、勝てるかどうかは――やってみなければ分からないが。

「まあ、とにかく今日はログアウトするぞ。『獄炎纏い』を倒すのは明日だ」

「了解です。今日は色々ありましたし、ゆっくり休みます」

「そういえば、色々あったわね……」

アルトリウスからの情報開示、と言うか暴露から始まって、伯爵級悪魔との対決、更には新たな素材を手に入れるためのネームドモンスターとの戦い。

ここまで濃い一日は、これまでの人生でも中々無かった筈だ。

まあ、これが初めてだとは言えない程度には、様々な経験をしているのだが。

何はともあれ、目的を達成することはできた。あまり時間的余裕がないことは事実だが、休息もまた重要な戦いだ。

今日は、ゆっくりと休ませて貰うとしよう。

* * * * *

久遠家の風呂は、大浴場が用意されている。

と言うか、離れの建物一つが風呂になっており、それなりに整った設備となっているのだ。

流石に温泉が引かれていたり、様々な風呂があるような入浴施設になっているわけではないが、そこらの銭湯ぐらいの施設はあることだろう。

露天こそないが、サウナと水風呂は用意されている。一部のサウナ好きたちには好評であるらしい。

まあ、俺はあまりサウナには興味がないため、普通に風呂に入るだけなのだが。

ログアウトした後、軽く素振りをして調整した俺は、こうして汗を流すために風呂までやってきたのだが――

「おお、師範。師範がこの時間ってのは珍しいな」

「修蔵か。お前も、もっと早い時間に入ってなかったか?」

「俺は長風呂だからなぁ。ま、普段より時間が遅くなったのも確かだけどよ」

広い湯船の中には、修蔵が一人で身を沈めていた。

確かに、こいつは結構な風呂好きで、普段から長時間風呂に入っていることが多い。

中に飲み物まで持ち込んで入っているのだから、その風呂好きっぷりは本物だろう。

まあ、文句を言うとしたら清掃係ぐらいだろうし、大して気にしてはいないのだが。

「で、師範はどうしたんだ? ゲームで何かあったのか?」

「確かにその通りだが……お前にゲームがどうこう言われるのは中々不思議な感覚だな」

「俺らからしたら、師範がゲームしてるってのが不思議な感覚だけどよ。まあ、あのゲームならそれも分からなくはないか」

湯船の中で腕を動かしながら、修蔵は楽しそうにカラカラと笑う。

おおよそ、ゲームの中での戦闘を反芻しているのだろう。

自らの戦いを見直し、修正すべき点を探すのは良いことだ。

実戦が成長に繋がる理由の多くはそこにあると言っても過言ではない。

「俺の方は……強い悪魔と戦った程度だな。久しぶりに寂静を使ったよ」

「林の勢か! 蓮司が練習してたけどよ、まだまだ完成には至らないって嘆いてたぜ?」

「難易度で言ったら一番高い可能性もあるからな。そうそう身に付くもんじゃないさ」

「全部覚えてる師範に言われちゃお終いだって、はははは!」

まあ、この修蔵にしても鬼哭は使えるのだが。

合戦礼法の全てを習得しているのは、俺とジジイの他には存在しない。

それならばもっと指導しろという所なのかもしれないが、生憎と合戦礼法については、型のように見せながら教えるという真似ができるようなものではない。

理論や手順は教えられても、詳しく面倒を見ることはできないのだ。

「で、そっちの方はどうなんだ? 共和国の方で何かやってるんだろう?」

「おう。悪魔共が人間に化けてるんだがな? いやぁ、あいつらバレバレでよ」

「そんなに分かり易いのか?」

「こっちにバリバリ敵意向けてるんだぜ? ちと顔を合わせてやりゃすぐに分かるっての」

修蔵の言葉に、俺は体を洗いながら苦笑を零した。

確かに、悪魔は人間たちに対して独特の敵意のような感情を抱いている。

遠くから狙ってきていたとしても、その粘つくような感覚は非常に分かり易いものだ。

とは言え、人間に化けている相手をいきなり斬り捨てるかというと、流石にそんな真似はしないのだが。

「悪魔共の数は順調に減ってきてるぜ。そこの悪魔を潰したら、師範に合流してもいいだろ?」

「構わんが、こっちもこっちで面倒な事態が進んでるからな。お前らのレベルで戦力になれるか?」

「くははは! 素人集団よりはよほどやれるだろうよ! 後詰めぐらいは任せてくれよな」

修蔵の言葉に、俺は笑みを浮かべながら頷く。

ゲーム内のレベルはともあれ、剣の実力そのものについては俺も認めている所だ。

こいつらもレベルさえ足りれば、最前線で十分通用する実力を有していることだろう。

ディーンクラッドとの戦いでは、幾ら戦力がいても多すぎるということは無い。

こいつらが追い付くのであれば、存分にその実力を発揮して貰うべきだろう。

「そうだな、追い付けるなら是非頼む。こっちも、それなりに切羽詰まってるもんでな」

「お? 師範がそう言うなんて、珍しいな」

「実際、戦況が厳しいことは否定できんからな。厄介なもんだよ、全く」

未だにあのディーンクラッドを相手に勝ち筋を見出すことはできていない。

しかし、戦いの時は刻一刻と迫ってきているのだ。

多くの人々は知る由もないが、今回の戦いにはゲームのボス戦以上の理由が存在しているのだ。

いずれあちら側に移住するとした際、あの地は俺たちにとって大きな基盤となる。

まあ、どう転ぶかはアルトリウス次第だろうが――まずどのような流れになるにしても、戦いには勝利しなくてはならない。

「まあ、こっちに来れたら色々と教えてやるよ。恐らく、今回は久しぶりに全力で戦うことになるだろうからな」

「……! つまり、あれを使うってことか?」

「そうなるだろうな」

「は、はははは! こいつはスゲェ、何が何でも追い付いてやるからな!」

どうやら火が付いたらしく、修蔵は楽しそうに笑いながら声を上げる。

何にせよ、やる気が増したのならば悪くはなかろう。追い付いてくるのであれば、色々と見せてやることに否は無い。

それに――教えてやらねばならないこともあるからな。

(アルトリウスのことも、そして俺たちの 出自(・・) も)

アルトリウスは――逢ヶ崎は、この 箱庭世界(サーバ) を試験用サーバだと口にした。

各種ある 箱庭世界(サーバ) を内側から管理、実験することを目的にしたサーバだと。

事実、あいつの祖父であり箱庭計画の始祖たる逢ヶ崎竜一郎は、己のコピーAIをこの 箱庭世界(サーバ) に置いた。

であれば――恐らく箱庭計画を知っていたであろうあのクソジジイは、果たしてどこから現れたのか。

久遠神通流には長い歴史がある。試験用のサーバで、わざわざそんな無駄な設定を作るとは考え難い。

恐らくではあるが、俺は半ば確信している……ジジイの世代はまず間違いなく、現実世界から人格をコピーして形成されたAIであると。

現実世界の人間と変わらぬ肉体で、けれど現実には経験できぬ戦いを積み重ねられる箱庭計画に、久遠神通流の夢を見出したのだ。

――いずれ境地に至るという、己の夢を。

「……であれば、皮肉だな」

「お? 師範、どうかしたか」

「いや、何でもない。独り言だ」

現実世界の久遠神通流は、恐らくは潰えたのだろう。

その結末を知ることはできないが、その夢の果てを俺たちは引き継いでいる。現実とは異なる、この世界で。

未だ確信には至らないが……聞くべき相手はいる。一つ、確かめてみることとしよう。