軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

279:鬼の喰い合い

大気を打ち砕くような衝撃を伴いながら、ブラッディオーガの持つ棍棒が振り回される。

その勢いはとんでもなく、俺の身長以上の大きさがあるにも関わらず、片手で容易に振り回してしまっているのだ。

かと言って、それそのものの重量が軽いというわけではなく、むしろ見た目相応以上に重い。

これでは、回避以外の選択肢を取ることは不可能だろう。

(いや全く……単体として見てもとんでもない戦闘能力だな)

現状、力任せに棍棒を振り回しているだけではあるが、それだけでも十分すぎる脅威だ。

下手をしたらオーガの群れと同時にコイツの相手をしなければならなかったのかと思うと、戦慄を抑えきれない。

回りくどい方法を取って正解だったと言えるだろう。

正直な所、この怪物を相手にしつつ他の敵と同時に戦うような余裕は無い。

斬法――剛の型、刹火。

「『生奪』!」

ブラッディオーガが振り下ろしてきた攻撃に合わせ、こちらも刃を走らせる。

放った一閃はカウンターとして綺麗に突き刺さり、その腕に一筋の傷を与えた。

しかし、あまり深くはないその傷は、見る見るうちに塞がり消えて行ってしまう。

「こいつ……!」

オーガ種の持つ、HPの再生能力。

それは把握していたものの、まさか餓狼丸の吸収能力を上回り、かつこれほどの回復力を示すとは。

餓狼丸の攻撃力は上昇してきてはいるものの、未だ有効なダメージを与えるには至っていない。

ダメージを気にせず繰り出されてきた攻撃を回避し、思わず舌打ちする。

こいつが殆ど回避行動を取らないのは、回避せずともすぐに回復できることを知っているからだ。

おかげで攻撃を当て易いが、こいつの攻撃は全てが捨て身であり、防御や回避を前提とした立ち回りを期待することはできない。

ある意味、相手の行動を読みづらく、非常に厄介であるとも言える。

「ああもう、全然削れないんですけど!?」

既に紅蓮舞姫を解放している緋真は、高威力の攻撃を次々と叩き込みながら文句を言っている。

魔法を含めた緋真の攻撃力は高く、HPを削ってはいるものの、ブラッディオーガに堪えた様子はない。

多少、回復量よりダメージ量が上回ってはいるが、それも完全であるとは言い難いだろう。

緋真は単発の火力は高いが、常時火力を維持できるわけではなく、同時にMPを消費してしまう。

ブラッディオーガを削り取るには、どうしても息切れしてしまうのだ。

「緋真姉様、一回下がって!」

「ケエエエッ!」

緋真の攻撃の隙を埋めるようにルミナが魔法を叩き込んでいるが、流石に今のルミナではこいつに接近戦を挑むのはリスクが高い。

的の大きいセイランでも同様だ。タフネスはあるが、コイツの攻撃を何度も受けられるようなレベルではない。

故に、テイムモンスターたちには魔法による支援に専念して貰うしか道は無かった。

光や雷がブラッディオーガに突き刺さり、しかしその巨体は僅かに揺らぐ程度。

爆裂する魔力の余波に目を細めながら、俺はブラッディオーガの足元に踏み込んだ。

「《練命剣》――【命輝閃】ッ!」

斬法――剛の型、白輝。

足元を踏み砕く勢いで放つ、神速の一閃。黄金に輝く生命力を纏いながら、餓狼丸はブラッディオーガの踵に突き刺さり――右足のアキレス腱を綺麗に両断する。

例え回復できるとしても、それは一瞬というわけではない。

堪らず片膝を着いたブラッディオーガに、俺は刃を旋回させて攻撃を叩き込む。

「『生奪』!」

斬法――剛の型、輪旋。

弧を描く一閃が、動きを止めたブラッディオーガの背中を斬り裂く。

多少深く斬りつけることはできたが、それでも致命傷には程遠い傷だ。

足を再生させているらしいブラッディオーガは、しかし上半身だけで棍棒を振るい、横薙ぎに俺へと向けて叩き付けてくる。

その攻撃を屈んで回避し――上半身だけで巨大な棍棒を振った弊害だろう、ブラッディオーガは体勢を崩して動きを鈍らせた。

瞬間――

「待ってたわ」

「ガッ!?」

俺が付けた背中の切り傷に、背後から忍び寄ったアリスが刃を突き立てる。

防御力を無視するスキルを持ったアリスの攻撃は、たとえ高い防御力を有した敵であろうとも、その攻撃を届かせることができる。

尤も、素の攻撃力自体は高くはないので、結局は不意討ちにボーナスがかかるスキルに頼らざるを得ないのだが。

アリスは根元まで刃を突き立て、体を捻りつつ背中を蹴って脱出、そのまま闇夜に身を隠す。

以前の戦いで敵に捕まった反省だろう、攻撃後は素早く離脱することを心掛けているようだ。

「《奪命剣》――【命喰牙】」

ついでに、ブラッディオーガが身を捩った隙を伺って、《奪命剣》で作り上げた短剣を突き刺す。

微々たるものではあるが、HP常時吸収の効果を持つテクニックだ。何もないよりはマシだろう。

「《スペルエンハンス》、【フレイムピラー】!」

次いで緋真の魔法が発動し、足元からブラッディオーガの巨体を炎で包み込む。

全身を焼かれ、ブラッディオーガは悲鳴を上げる。例えタフであろうとも、炎に包まれる苦しさは変わる筈もない。

炎の中で息を吸えば、肺を焼かれることになる。例え回復するとしても、その痛みは尋常なものではないだろう。

だが――それでも、ブラッディオーガは闘志を衰えさせることなく、足を回復させて炎の中から飛び出してきた。

「ガアアアアアアアッ!」

巨大な棍棒を両手で持ち、前方にいた緋真へと向けて全力で振り下ろす。

無論のこと、来ると分かっている攻撃を喰らうほど、緋真は愚鈍ではない。

「【紅桜】!」

振るった刃より放たれた火の粉が、連鎖的な爆発を巻き起こす。

その爆風の勢いに乗って緋真は大きく後退し――爆発で僅かに勢いを衰えさせたブラッディオーガの一撃は、緋真の体を捉えることなく地面に突き刺さった。

瞬間――まるでグレネードが爆発したかのように、足元の地面が爆ぜ割れる。

瞬間的な揺れは、まるで大きな地震があったのかと錯覚するほど。相変わらず、信じられないような攻撃力だ。

(だが……!)

全員での集中攻撃なら、HPは削れてきている。

回復力はかなりのものだが、こちらの攻撃力が上回りつつあるのだ。

正直、全員で全力攻撃を仕掛け、その上でこれだということに戦慄を禁じ得ないが……これならば、勝ち目はある。

衝撃によって近くにあった小屋が崩れる中、ブラッディオーガは殺意に濁った視線で俺たちを睥睨し――ふと、その視線を瓦礫の方向で止めた。

ブラッディオーガは、そのまま瓦礫の中に手を突っ込み、その中にあったものを一気に引き抜く。

「っ……!?」

それは、半ば焼け焦げたオーガの死体であった。

炎と毒に巻かれて死んだのだろう、その体は完全に脱力してしまっている。

だが、死体を取り出して一体何をしようと言うのか。

そんな疑問を抱いた、次の瞬間――目に映った光景に、俺は思わず息を飲んだ。

「なっ!?」

「キモッ!?」

びちり、と肉が弾けるような音が響く。

そして――信じがたいことに、ブラッディオーガの胴が 縦に割れた(・・・・・) のだ。

内側は暗く淀んでいて見えないが、突き出た肋骨がまるで歯のように広がり、蠢いている。

ブラッディオーガは、その割れた胴へとオーガの死体を寄せ――その体を、一息に飲み込んでしまった。

僅かに蠢くその体は、まるで――いや、まるでも何もない、それは正しく口なのだろう。

「『暴食の悪鬼』……」

今更ながらに、俺はその名の意味を理解した。

確かに、これは暴食と呼ぶべき怪物だろう。あの巨大な口で、あらゆるものを飲み込む化物だ。

しかも、奴はオーガの死体を喰らったことでHPを回復してしまった。

先ほど削った量の大半を回復され、俺は思わず顔を顰める。どうやら、一瞬だけ毒の効果が発生したようではあったが、それもすぐに消えてしまった。

拙いな、この場には数えきれないほどのオーガの死体がある。果たして、この状況でこいつの体力を削り切れるのか。

あまりにも想定外な事態に舌打ちし――その時、背後からアリスの声が響いた。

「クオン、聞いて。作戦があるわ」

「っ……勝ちの目は?」

「十分に」

その言葉に、思わず笑みを浮かべる。

手があるならば、その手を尽くすまで。さて、果たしてその手にどれほど効果があるか、期待させて貰うとしよう。