軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

278:血染めの悪鬼

ルミナが撃ち放った眩い光芒は、こちらへと逃げてきていたオーガたちを飲み込んで爆裂する。

しかし、ルミナが放った魔法は一つだけではない。幾条も放たれた光は、次々と着弾しながらオーガたちを飲み込み、強大な破壊力を伴って爆ぜる。

刻印を使用したルミナの魔法の威力は非常に高い。それこそ、通常のオーガであれば一撃で吹き飛ぶほどだ。

最大限に増幅されたルミナの魔法は、熱を伴わない爆発となって、燃え盛るオーガの集落を蹂躙する。

燃焼する物質を全て吹き飛ばすことによって消火する方法があると言うが、これは正にその方法だろう。

燃える小屋は、その中にいたであろうオーガたちすらまとめて吹き飛ばし――そして、最後の一つが、中央にあった最も大きな建物へと直撃する。

大きいとは言えど、所詮は拙い建築技術で造られた構造物。ルミナの魔法に耐えられるはずもなく、その破壊力によって一撃で吹き飛ばされる。

集落を纏めて壊滅させた圧倒的な破壊力に、俺は思わず笑みを浮かべつつ口笛を鳴らした。

「流石。ここまで綺麗に嵌ってくれるとはな」

「えげつない破壊力ねぇ」

「恐縮です」

瓦礫の山と化した集落。砕け散った木片がまだ燃えてはいるが、既に大規模な火災とは言えない状況となっている。

一応、周囲への延焼は無いようであるし、大成功であると言って差し支えないだろう。

とは言え――完璧な結果であるとも言い難いようだ。

『先生、何体か生き残りがいますよ』

「ああ、流石に全部とはいかなかったな」

集落の中には、まだいくつか動くものの気配があった。

特に、俺たちの位置から反対側はもう少し多く生き残りがいることだろう。

とはいえ、向こう側はまだ結構燃えているため、こちらに構っている余裕は無いだろうが。

気にするべきは、こちら側に近い位置で生き残っている存在だろう。

尤も――

「セイラン、トドメを刺せ!」

「ケエエエエエエエッ!」

劈くような鳴き声と共に、空が輝く。

瞬間、降り注いだ紫電の雷光が、何とか起き上がろうとしていたオーガたちを打ち据えた。

発生、飛翔共に速い雷の魔法は、動きを鈍らせていたオーガたちには避けられるようなものではない。

辛うじて生きていたオーガたちはその攻撃で倒れ、そうでない者達も片膝を突いて動きを止めている。

その様を確認し、俺は木から跳び下りて集落の中へと突撃した。

敵は既に壊滅状態、更に動きが鈍っている状態だ。であれば、相手が立て直す前に更に攻め立てるべきだろう。

歩法――烈震。

「【ダマスカスエッジ】、【ダマスカススキン】、【武具精霊召喚】、《剣氣収斂》」

魔法を、そして先日手に入れたばかりのスキルを発動して攻撃力を高める。

瞬間、濃いオレンジ色のエフェクトが餓狼丸の刀身に絡まった。

俺の視界の端には、このスキルの有効効果時間がゲージで表示されている。

これが尽きるまで、餓狼丸の攻撃力が高まっているという寸法だ。

「し……ッ!」

斬法――剛の型、穿牙。

様々なエフェクトが絡み合った餓狼丸の刃は、片膝を突いていたオーガの胸をあっさりと貫く。

ただのオーガであれば、最早《練命剣》を使う必要すらないほどだ。

心臓を貫き、抉るように引き抜けば、夥しい血を噴き出しながら仰向けに倒れた。

近くを見れば、俺に続いて接近してきたルミナやアリスがオーガたちを仕留め始めている。

上空からも緋真とセイランが降りてきているし、ここの制圧は時間の問題だろう。

「ゴ、アアアアアアッ!」

と――その時、まだ生き残っていた内の一体が俺へと向けて殴りかかってきた。

見上げるほどの巨体は、他のオーガと比較してもさらに大きい。

ただそれだけで威圧感のあるその姿は、正しくオーガバーバリアンのものであった。

握り締めた拳は、まるでバスケットボールぐらいの大きさがあると錯覚してしまうほどのもの。

これが直撃すれば、頭蓋など容易く砕かれてしまうだろう。

尤も――

歩法――陽炎。

「『生奪』」

急激な挙動でオーガバーバリアンの拳を紙一重で避けつつ、相手の脇に餓狼丸の刃を走らせる。

動脈を断ち斬られて血が噴き出し、オーガバーバリアンの体がぐらりと揺れる。

そのまま背後まで回り込んだ俺は、その巨大な背中へと刃を突き入れた。

斬法――柔の型、射抜。

「ガ、ァ……!?」

「悪いが、手段を選んでいる余裕は無いのでな。そのまま素直に死んでくれ」

刃を抉るように捻り、体を反転させ、背負い投げのように刃を振り抜く。

肺と心臓を抉られたオーガバーバリアンは、前のめりに倒れ伏して事切れた。

こいつの肉体については結構な強度があると思っていたのだが、割とあっさり貫くことができたことには驚かされた。

これは《剣氣収斂》による攻撃力上昇が故か、或いは単純にオーガバーバリアンの防御力がそこまで高くなかったのか。

少々気になるのは、【武具精霊召喚】の魔法だ。ポイントの割り振りで、この魔法はレベル9まで達している。

纏う光も肩口まで伸びてきているのだが、果たしてもう一つ上がった時にどうなるのか。

それもまた楽しみではあるが――

「さてと……これで終わるわけがないよなぁ」

倒れている敵に止めを刺すだけなど、大して労力も掛かるわけがない。

重要なのはここからだ。何しろ、強大極まりない気配が健在なのだから。

出どころは、集落の中心部。ルミナの魔法が直撃し、崩れ落ちて燃えている瓦礫の山。

そこから発せられている気配は今まさに高まり――次の瞬間、轟音と共に瓦礫の山が弾け飛んだ。

「――っ!」

「うわっ!?」

こちらまで飛んできた、火のついた瓦礫を弾き返し、俺は僅かに目を細める。

物理的な圧迫感を感じてしまうほどの、鋭い殺気。

まるで向かい風が吹いているようにすら感じるそれは、今まさに起き上がろうとしている赤黒い肌の悪鬼から発せられていた。

どうやら、ルミナの魔法は命中していたらしく、決して無傷というわけではない。

しかし、瓦礫に押し潰され、炎に焼かれながらもその身は健在。ゆっくりと立ち上がるその姿に、思わず口元が笑みに歪む。

この殺気、この圧迫感、こいつは間違いなく強敵だ。

「成程、確かに……伯爵級と比しても遜色は無いな」

悪魔も強敵ではあるのだが、どうにもアルトリウスの都合があるため、そちらの問題が気になってしまう。

その点、この 箱庭世界(サーバ) 本来の敵は、何も気兼ねすることなく戦うことができる。

使命も何もない、ただ純粋な闘争。気合の入り方は少々違うが、こちらもまた楽しめるというものだ。

赤黒いオーガ――ブラッディオーガは、瓦礫の中に手を突っ込むと、そこに埋まっていた巨大な棍棒を力任せに引き抜く。

白く巨大な、ノコギリのような棘の付いた凶悪な武器。受けることも、受け流すことも不可能だろう。

命中すればそれだけで命を落としかねないそれに、俺は戦慄を覚えながらも餓狼丸を構え直した。

「さてと……理想的な盤面だ。ここで決着をつけるとするか」

「あんなので暴れられたら怖いですけどね……まあ、群れを丸ごと相手にするよりは遥かにマシですよね」

緋真の言葉に、俺は笑みを浮かべながら首肯する。

まあ、それを言うと他のネームドモンスターが余計に恐ろしくなるのだが。

群れを形成しない、たった一体でこのブラッディオーガと同等の魔物。

緋真とアリスの武器を強化するために必要ではあるのだが、果たしてどれほどの強敵になるのだろうか。

それも気にはなるのだが、今は目の前の相手に集中するべきだろう。

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「っ……!」

武器を構え、ブラッディオーガは強烈な雄叫びを発する。

物理的な衝撃すら伴うそれは、周囲の瓦礫を吹き飛ばし、地面に罅を走らせ――その強靭な肉体に紅のオーラを纏わせる。

見るからに強化のエフェクトだ。ただでさえ攻撃力が高そうだというのに、それ以上の膂力を発揮するというのか。

雄たけびを上げたブラッディオーガは、その巨大な棍棒を構えてこちらへと走り出す。

決して速い動きではないのだが、歩幅が大きいため実際の速度はかなりのものだ。

ブラッディオーガはそのまま棍棒を振り下ろし――俺たちは、横へと跳躍して攻撃を回避した。

瞬間――まるで先ほどのルミナの魔法と同じような爆音が響き渡り、巻き上がった土が壁のように中空へと舞い上がる。

「く、はは! 大層な破壊力だな!」

「ガアアアッ!」

そしてその土煙の向こう側から、白い棍棒が横薙ぎに振り払われる。

掠ればそれだけで上半身が千切れ飛びそうなそれを屈んで回避しながら、その向こう側にいる赤黒い悪鬼へと全力の殺気を向ける。

純粋な暴力の怪物。相手のペースに飲み込まれれば、攻撃する機会すら無くなってしまうだろう。

ならば――こちらも、こちらのペースを崩さず対処するまでだ。

「――貪り喰らえ、『餓狼丸』!」

成長武器を解放し、黒い闇が溢れ出す。

さあ、全力で殺し合いに興じるとしよう。