軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

028:新たなる街

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《HP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

襲いかかって来た魔物である、《レッドバイソン》を片付けて、一息つく。

この魔物であるが、頭の高さが俺の胸辺りまであるような巨大な牛だ。

その名の通り体表は赤く、気性は非常に荒い。こちらを見れば一目散に突撃してくるほどだ。

あまり群れるタイプではないのか、出てきても一体か二体だけなのは助かるのだが、こいつがまた非常にタフなのだ。

筋肉も発達しており、普通に首筋に刃を叩き込むだけでは致命傷にはなりえない。

しばし相手をした結果、《生命の剣》で強化した一撃を叩き込み、動きの鈍った瞬間に《収奪の剣》を使って攻撃する、これが必勝パターンとなっていた。

「一体の場合はいいけど、二体出てくると面倒な相手ですよね」

「私たちだけだと倒すのに時間がかかっちゃうしね……何であんな速度で突っ込んでくる相手の首を狙えるんですか、クオンさん」

「確かに大したスピードではあるが、軌道は直線だからな。タイミングを合わせれば簡単だ」

このレッドバイソンという魔物、先ほど言った通りひたすらタフで面倒な相手なのだが、動きは非常に単純だ。

走ってこちらに体当たりしてくる、ただそれだけである。

そのため、攻撃も横に移動してしまえば簡単に回避できる。後は、それに合わせて刃を叩き込むだけでお終いだ。

だが、弱点を狙えなければ、途端に厄介な敵へと変貌することだろう。

タフだし、攻撃力は高い。攻撃を避けることは難しくはないが、倒すのにひたすら時間がかかる。

まあ、それでも倒す価値はある魔物であったが。

■赤牛肉:素材・食材

レッドバイソンの肉。

歯ごたえがあり、旨みが強い。煮込み料理に向いている。

料理効果にボーナスが付与される。

要するに牛肉だ。今の所、プレイヤーが経営している料理屋では、基本的に鶏肉と豚肉しか出ていない。

まあ、鶏と食用豚ではなく、鳥系およびイノシシ系の魔物の肉なのだが。

つまるところ、現状では牛肉を取り扱う術がないのだ。

一応、現地人の市場で少量出回っていることはあるようだが、安定して使えるレベルではない。

それが、ここにきてようやく、牛肉の安定収入の目処が立ったということだ。

「料理人に売ったら高く買い取ってくれそうよね! 結構量も取れるし!」

「まあ、あれだけでかい牛ならな。エレノアならまとめていい値段で買い取ってくれそうだ」

「……クオンさん、あの《商会長》とも知り合いなんですね。コネ広いなぁ」

「緋真経由で知り合っただけだがな」

個人的に付き合いも深まってはいるし、そこそこいい関係は出来上がっているとは思うが。

ともあれ、未だ誰も手に入れていないであろうアイテムは、エレノアにとっても欲しい素材のはずだ。

と言うより、エレノアが俺と共にリブルムまで出てきたのには、俺がボスを倒してアイテムを手に入れる可能性を期待していたものとも考えられる。

まあ、俺にもリターンはある話であるし、それについては協力を惜しむつもりはないが。

素材アイテムを詰め込んだインベントリを閉じ、俺は視線を前へと向ける。

その視界に入っているのは――

「そろそろ到着しそうだな」

「遠くから見ても目立ってたけど、近付いてくるとまた随分立派ですね」

「規模的にはファウスカッツェより大きいですね……流石は王都と言うべきですか」

白い外壁に包まれた巨大な街。

その高い外壁越しにも見えているのが、尖塔の目立つ白亜の城だった。

ああいう無駄に目立つ城を建てられるのは、この辺りが平和な証拠なのだろう。

ゲーム開始直後の国であるし、相対的に見れば魔物もあまり強くないから、そこまで堅牢な都市を造る必要が無いのだ。

まあそれでも、街を囲む外壁は十分に立派だし、魔物を押し留めるには十分な防御力を持っているだろう。

徐々に近づいてくる街を観察しながら、小さく嘆息する。

「若干不安は残るが……まだ分からんしな」

「……不安って、何?」

「む? ああ……」

口数の少ない薊から問いかけられたことに驚きつつも、俺は頷いて続ける。

不安に思ったのは、あの白で統一された城と外壁だ。

「あの城、見てくれを優先しているだろう。王の権威を示すという意味では間違いじゃないんだが……外壁も同じ建材で作られているな?」

「……まあ、そうかも?」

「あの白い建材が、外壁に向いた強度を有しているかどうかが分からなかったから、不安が残ったって話だ。ただの魔物相手ならまだしも、相手が悪魔ではな」

「……なるほど」

もしもロムぺリアのような強大な悪魔が現れたら、果たしてあの外壁は役に立つのか。

まあそれ以前に、あいつは空を飛んでいたわけだから、外壁なんぞまるで意味はないのだが。

「まあ、王城だからこそ頑丈に作っているという可能性もあるし、未知の建材だからな。今は考えても仕方ない話だ」

「…………」

薊は無言で頷き、そのまま沈黙する。

多少俺にも慣れてきたのかと思ったが、やはり人付き合いは苦手な様子だ。

別に無理に仲良くしたいというわけでもないし、このちびっ子に無理をさせる必要もないだろう。

そんな益体もないことを話しているうちに、俺たちはついに王都の前にまで辿り着いていた。

門は大きく開かれているが、その前には幾人かの兵士が立っている。

人の行き来を見るに、どうやら街に立ち入る人間のチェックを行っているようだ。

「検問かぁ……私たち通れるかな?」

「通れなきゃゲーム上がったりですよ。別にPKってわけでも、物盗んだわけでもないんですから」

「むしろやっつけた側だもんねー」

まあ、街に入れなきゃ先に進めないし、通れなきゃゲームが進まないのは事実だ。

見た感じそれほど厳しく取り締まっているわけでもなさそうだし、通る分には問題ないだろう。

そう考えつつ門へと近づいていけば、こちらに気付いた兵士が目を見開き、次いで笑顔を浮かべていた。

――警戒されているな、これは。

歓迎されていそうな気配に歓喜の表情を浮かべた雲母水母たちを手で制し、俺は前に出て声を上げた。

「どうも、お勤めお疲れ様です」

「ははは、ありがとうございます。貴方がたは旅の人ですかな?」

「ええ、異邦人の、と頭につきますが」

言いつつ、俺は頭の上に乗っていたルミナを肩に乗せ直す。

キョトンとしたルミナは、状況がよく分かっていない様子ではあったものの、目の前の兵士に対して手を振る。

そんな、普段は目に見えないという妖精の姿に、兵士は驚いた表情を見せていた。

妖精は清廉な人間にしか見えないという。であれば、これは相手に悪人ではないことを示すいい目印になるはずだ。

案の定と言うべきか、兵士は先ほどより幾分か警戒を弱めつつ声を上げていた。

「妖精を連れている方がいるとは……異邦人というのは皆妖精と契約を?」

「いや、俺は珍しいパターンでね。今のところ、俺以外にはいないと思いますよ」

「そうでしたか。貴方がたはリブルムから?」

「ええ、街道を塞いでいた悪魔を倒してここまで来ました」

「それは朗報だ! あの悪魔を倒していただけるとは!」

話を聞くところによると、どうやらあの悪魔のせいで流通が滞っていたらしい。

まあ、あんなのに街道を封鎖されればそうなるのも仕方ないだろう。

迂回して行けば何とかなるんじゃないかとも考えたが、街道を外れれば魔物の数が激増する。

行商人にそのリスクは中々厳しいものがあるだろう。

悪魔が死んだことに、兵士は大げさに喜んでいる。彼らにとっても、あの悪魔は不倶戴天の敵だったということだろう。

まあ、騎士たちが犠牲になっていたわけだし、それも仕方のないことではあるが。

そこまで考え、あの騎士たちのことは話しておいた方がいいだろうと、俺はインベントリから形見の剣を取り出していた。

「その悪魔が支配していたアンデッドが、こんなものを持っていました。心当たりはないだろうか?」

「これは……」

俺が唐突に剣を取り出したことで緊張した様子だったが、その剣が騎士団の物であると分かると、すぐに視線を鋭いものへと変えて剣を受け取っていた。

彼はすぐさま剣の紋章を確認し――それが誰のものなのか理解したのだろう、ぽつりと呟く。

「シュレイド、隊長……」

「……やはり、知っていたか」

少人数の部隊だったと思われるが、それでも騎士部隊の隊長だったのだろう。

そんな人物であれば、それなりに名が通っていたとしても不思議ではない。

最悪、騎士の物であることが証明されるだけでもいいと思っていたが、これなら話も通りやすいだろう。

「アンデッドにされた騎士たちの遺体は、全て連れてきています。どうか、丁重に弔って頂きたい」

「……ええ、勿論です。どうぞ、こちらへ」

先ほどの人当りの良さそうな笑顔は消え、実直な騎士らしい表情を見せた男は、検問を別の兵士に任せて俺たちを王都の中へと招き入れる。

四人娘たちは少し困惑したように顔を見合わせていたが、問題なく入れるようだと判断して、俺の後に続いて歩き出していた。

王都の中は、どこかファウスカッツェに通ずる雰囲気の街並みが続いている。

いや、むしろあちらがこの街を参考にしたのかもしれない。こちらの方が規模が大きいし、有り得ない話ではないだろう。

まあ、いるのが現地人だけで、異邦人が俺たちだけであるため、受ける印象はかなり異なるものとなっていたが。

「活気がある街だねー」

「……人多すぎ」

相変わらず正反対なちびっ子二人の様子に、前を歩いていた兵士が僅かに相好を崩す。

シュレイドの件で少々ショックを受けている様子ではあったが、基本的には人のいい人物であるようだ。

「そうでしょう? この白の都ベルクサーディは我がアルファシア王国の誇りでもありますから」

「あんな綺麗なお城があるんですし、そりゃ自慢になりますよね!」

「ええ。異邦人の方ということは、この街に訪れるのも初めてでしょう。存分にお楽しみください」

今までは皆リブルムまでしか到達していなかったわけだし、どのプレイヤーもこの街に来るのは初めてになるだろう。

誰もが新鮮な反応を見せるのは、検問の兵士としても中々楽しいものなのかもしれないな。

そんなことを胸中で呟きながら、街並みを眺めつつ兵士の後に続いて進む。

程なくして、俺たちは広い敷地を持つ施設まで案内されていた。

どうやら騎士団の詰所のようで、兵士はその窓口に一言二言話した後、俺たちを部屋の一つへと招き入れる。

間取りを見たところ、会議に使われている部屋のようだ。

「どうぞ、中へお入りください。それと、この剣は一時預からせていただきます」

「ええ、その方がいいでしょう……ああ、一つ、お願いが」

「何でしょうか?」

「その剣の持ち主の遺言です。団長に伝えたい、とのことでした」

「……分かりました。少々お待ちください」

俺の言葉に頷き、兵士は扉を閉めていずこかへと去っていく。

それを見送って、俺は適当な椅子を引いて腰かけていた。

四人娘は若干戸惑った様子だったものの、俺に並ぶように腰を下ろす。

部屋の中が珍しいのか、その辺りを飛び回っているルミナはそのままにし、俺はようやく一息吐いていた。

「とりあえず、スムーズに話が進んだのは運が良かったな。ルミナの身分証明は本当に役立ってくれる」

「突然丁寧に話し始めるから、何かと思いましたよ」

「俺だって相手によっては敬語を使う。相手は国家権力だぞ? おまけに信用を得なければならない状況だ、下手な手は打てんよ」

流石に国をバックに持つ相手と険悪な関係になるのは避けたい。いろいろと面倒だ。

まあ、場合によっては喧嘩を売ることもあるかもしれないが、そこはそれ、状況次第だ。

「まあそれよりも、素直に団長が来てくれるかどうかだな。そもそもここにいるかどうかすら分からんし」

「……それ、大丈夫なんですか?」

「できれば直接伝えたいところではあるが、最悪伝言だな。特に重要な情報があるわけではないし、伝わるとは思うんだが」

可能な限り遺言が伝わる所を確認したいのだが、この状況では贅沢は言っていられないだろう。

その手段を選べる立場というわけでもないからな。

果たしてどちらに転ぶのか、と胸中で呟き――こちらに近づいてくる気配に、視線を細める。

俺は椅子から立ち上がり、右手を自由にして、じっと扉へと視線を向ける。それと同時、扉から姿を現したのは、大柄な一人の男だった。

「ほう……?」

「……ふむ」

互いに値踏みをして、俺とその男は同時に笑みを浮かべる。

どうやら、中々の実力者のようだ。楽しめそうな相手ではあるが――まあ、ここで鯉口を鳴らすほど飢えているわけでもない。

向こうも事を荒立てるつもりはなかったのか、一瞬見せた剣気を消し、俺へと手を差し出していた。

「君があの剣を届けてくれた男か。私はクリストフ・ストーナー。アルファシア王国騎士団の騎士団長を務めている」

「お初にお目にかかる。異邦人のクオンと申します。彼女たちは、例の悪魔を討った際の仲間です」

「き、雲母水母です!」

「リノ、と申します。よろしくお願い致します」

「くーって言います!」

「……薊、です」

次々に立ち上がって名乗る少女たちの様子に、クリストフは相好を崩す。

こういうときには、美少女集団というのも役に立つものだ。

そんなことを胸中で呟いていた所、窓から外を眺めていたルミナが、こちらまで戻ってきて手を振りアピールしていた。

自分を忘れるな、と言わんばかりに。

「分かってるよ。それともう一人、こいつはルミナと言います。俺についてきている妖精です」

「ほう……妖精に認められた人物、という話は聞いていたが、この目で見るのは初めてだ。よろしく、お嬢さん方」

騎士団の団長と言うからには、貴族の人間だろうと思っていたのだが、意外とフランクだ。

まあ、それならそれでありがたい。お固い人間を相手にするよりはかなり気が楽だ。

一通り挨拶を交わした後、クリストフは再び俺たちに着席するように勧めてくる。

それに従い腰をおろせば、彼も同じように対面へと座り――例の剣を、机の上に置いていた。

「それでは……少しばかり、話を聞かせて貰うとしよう」