軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

260:次なる標的

「北と北西……か」

「はい。恐らく、その二か所に伯爵級悪魔が存在するかと」

領主の屋敷にてアルトリウスと顔を合わせた俺は、早速彼から偵察の結果について確認を行った。

アルトリウスは斥候部隊を各都市に走らせ、都市の内情を探っていたのである。

生存者の状況も気になるが、それ以上に考えるべきは街を支配している悪魔の存在だ。

奴らを倒さない限り、話は先に進まない。まずは八大都市の悪魔共を全て片付けなければならないのだ。

この作戦の中で、俺が担っているのは伯爵級悪魔の打倒――つまり、その二か所こそが俺たちの向かうべき行き先だ。

「一体、どんな悪魔がいたんだ?」

「確認できたのは北の都市だけですね。姿については、赤い髪をした大柄な男性でした。徒手空拳で戦い、強力な炎を操り、高い攻撃力を持つ。純粋な意味で強い、そういったタイプのようですね」

何となく戦刃の姿を思い浮かべながら、アルトリウスの言葉に頷く。

伯爵級で戦闘能力が高いタイプとなると、かなり厄介な存在であることだろう。

バルドレッドも強かったが、奴は瘴気という搦め手を使ってくるタイプだった。

対策さえできれば正面からぶつかることも無理ではなかったのだが、その悪魔は果たしてどうなのだろう。

「軽く当たった程度ですが、正直な所かなり強かったようです。純粋な戦闘能力だけで見れば、これまでの中で最も高いものだったかと。尤も――」

「ディーンクラッドを除いて、だろう。しかし、単純な戦闘能力を持つタイプか」

軽く当たった程度では悪魔の持つ特殊能力や真の姿は分からないだろうが、ある程度想像もつきやすい。

高い戦闘能力は厄介であるだろうが、対策を立てられないわけではないのだ。

「そちらの討伐は、お前さんが作戦を立ててくれ。その方が確実だろう」

「元より、そのつもりでした。ただし、すぐに動くことはできませんが……」

「準備期間が必要であることは理解しているとも。だが、それまで暇をしているつもりも無い」

「であれば、北西の攻略を。正直な所、あそこは数や作戦が通じづらい所ですから」

アルトリウスの口にした言葉に、俺は視線を細める。

北西――残る都市の中で、唯一爵位悪魔の姿を確認できていない場所だ。

深い霧に包まれた都市、入ったら出ることのできぬ牢獄だ。

霧に触れているだけでHPを奪われ続けるという辺り、実に厄介な場所であると言えるだろう。

「入ったら、悪魔を倒すか死に戻りするまで出られない場所か……厄介だな」

「爵位悪魔の姿も確認できませんでした。どうやら、背後から斬りつけられて即死したようです」

「霧深い場所ならばそういうこともあるだろうよ。だが、前衛含めて一撃でやられたとなると……確かに、伯爵級の可能性が高いな」

高いHPと防御力を持つ『キャメロット』の前衛であれば、子爵級までなら不意討ちでも生き残る可能性は十分にあるだろう。

そうであるにもかかわらず、一人余さずやられたとなると、伯爵級である可能性が高い。

まあ、そうでなかったとしても攻略難易度は非常に高い場所だ。優先的に潰さなければならないだろう。

「了解した。俺は北西の攻略に移るとしよう」

「お願いします。その間、僕たちは北の攻略のための準備を行いますので。その他の都市については情報を流し、攻略を促します」

「了解だ、その辺りは任せるぞ」

他のプレイヤーの動きを制御するところまでは流石に分からんし、アルトリウスに任せておくことにしよう。

何はともあれ、話は決まった。時間の余裕もあまり無いし、やれることをやるまでだ。

「それじゃあ、俺は北西の都市に向かう」

「はい、よろしくお願いします……と、そうだクオンさん、一つだけ」

「あん? 何か情報でもあるのか?」

「いえ、悪魔に関する話ではありませんが……クオンさん、ディーンクラッドとの戦いまでに、絶対に成長武器を★6にしてください」

「……? それはまあ、そのつもりではあるが。必要素材についても『エレノア商会』で集めてくれるようだしな」

いつになく真剣な表情での話である割には、悪魔に関してではなく武器の強化の話であった。

確かに重要ではあるのだが、そこまで深刻そうな調子でする話ではないと思ったのだが。

だが、アルトリウスがここまで言うからには、かなり重要な話なのだろう。

踵を返そうとした身を戻し、俺は彼へと向けて問いかけた。

「どういうことだ? ★6の強化段階に何かあるのか?」

「……詳しい点については、まだ話せません。しかし、ディーンクラッドと戦う上で、間違いなく切り札になります」

「ふむ……了解した。必要素材は『エレノア商会』の方に出してるから、持っていたら融通してくれると助かる」

「ええ、勿論です。それでは……ご活躍、期待しています」

「期待しておいてくれ。それじゃあな」

この調子からして、恐らくアルトリウスの持つコールブランドは既に★6に達しているのだろう。

アルトリウスは運営側から攻略情報を知ることはできないと言っていたし、そちらから得た情報ではない筈だ。

果たして、餓狼丸や他の成長武器もそれと同じように強力なスキルを得ることができるのか。

成長武器はそれぞれ成長の仕方が異なる。同じように成長するのかどうかは分からないが――まあ、一応期待しておくこととしよう。

軽く手を振り、アルトリウスの部屋を辞去する。

目指す先は北西の都市、霧に包まれた謎の領域。はたして、そこにはどのような悪魔が潜んでいるのか――あまり時間的余裕はない、さっさと向かうこととしよう。

* * * * *

『《格闘》のスキルレベルが上昇しました』

『《降霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《HP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《回復適性》のスキルレベルが上昇しました』

『《戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』

空中で幾度か遭遇したエアロワイバーンを叩き落としつつ、北西の都市ラビエドへと向かう。

地上を移動して敵と戦っても良かったのだが、あまりに無駄な時間をかけ過ぎるわけにもいかない。

まあ、上空のエアロワイバーンも結構な強敵であるため、あまりしょっちゅう相手をしたい訳ではないのだが。

「そろそろですかね?」

「マップではそうなってるな。しかし、姿を見せん悪魔とは……アリスみたいなのがいるのかね」

「私が言うのもなんだけど、そんなのが伯爵級だったらロクでもないわよ」

アリスの言葉は否定しきれず、思わず嘆息を零す。

これほど気配が薄く、意識の外側から攻撃してくるような存在が相手では流石に大変だ。

しかも相手が伯爵級の悪魔である場合、更に先が存在するわけである。厄介どころの話ではなくなってしまうだろう。

「で……クオン、何か作戦はあるの?」

「情報が無さすぎるからな。まずは情報収集が必要だ」

「要は行き当たりばったりってことね」

俺の返答に対し、アリスはあからさまに溜息を吐きながらそう呟く。

まあ、否定はできないのだが。今ある情報は四つ――街が霧に包まれていること、結界に包まれていて入ると外に出られないこと、霧に触れていると徐々にHPを失うこと、そして姿を隠した悪魔が襲ってくることだ。

正直な所、これだけでは作戦もクソも無い。精々が、相手が襲い掛かってくるのを待ってそれを迎撃する程度のものだ。

とにかく、現状では情報が無さ過ぎる。方針を決めるためにも、まずは中に入って情報を集める他ないだろう。

まあ、その環境では生き残っている現地人がいるのかどうかも分からないのだが。

「最低限、敵の正体ぐらいは知りたい所だな……よし、見えて来たぞ」

「めっちゃ目立ちますね、あれ」

俺の言葉に対する緊張感のない緋真の言葉に、苦笑しつつも内心で同意する。

結界に包まれているというラビエドの街は、まるで透明なボウルを被せて、その中に線香の煙を満たしたかのような有様となっている。

この距離からでは内部の様子を観察することはできず、薄っすらとその影が見える程度だ。

これまでの都市とはまるで異なる様相に、警戒を覚えつつ視線を細める。

あの灰色っぽい霧こそが、HPを吸収する効果を持つ霧なのだろう。

「あの中に入るんですよね……スリップダメージは結構辛いですよ」

「仕方ないだろう。それに、俺たちはまだ慣れてる方だ」

「先生がしょっちゅう使いますからねぇ。けど、私たちだけで何とかできるものなんですか?」

「気合は十分だが……正直な所、分からんとしか言えんな」

相手の正体が分かっているのであれば、『キャメロット』の部隊を借りてくるという手もあっただろう。

しかし、今回は殆ど情報が無いような状態だ。この条件では、アルトリウスも作戦らしい作戦は立てられまい。

故に、今回は先んじて俺たちを派遣したのだろう。俺たちであれば、早晩敗北するようなことは無いだろう、と踏んでいるのだ。

「鉄砲玉のようなものだ。とりあえず放り込んで、敵を倒せたならば上々。そこまで行かずとも、情報を得られれば対策の立てようはある。そういうことだ」

「捨て駒に近いじゃないですか。先生、それでいいんですか?」

「構わんさ、ここで片づけてしまえば済む話だ」

今回は時間が無い。本来であればアルトリウスも時間をかけて調査したのだろうが、慎重に動いている余裕は既にないのだ。

どんなイレギュラーが起こるか分からない以上、効率よく動く以外に選択肢はない。

その判断に、俺もまた同意したのだ――ならば、後は全力を尽くすのみである。

「さあ、降下するぞ。気を抜くなよ」

「……了解です」

「私はできるだけ隠れてるわ」

緊張した様子の二人に頷きつつ、俺はセイランに合図を送る。

白い霧に包まれた街並みは、既に眼前にまで迫っていた。