作品タイトル不明
248:輝きの一閃
閃光のごとく振り下ろされた一閃――眩い光を纏って放たれたその一撃は、バルドレッドの肩口へと突き刺さり、僅かな抵抗すら許さずにその体を袈裟懸けに斬り裂いた。
一瞬遅れてルミナの精霊刀に宿っていた刻印の輝きが解放され、周囲を閃光が包み込む。
咄嗟に目を腕で庇いながら待てば、眩い閃光はほんの数秒で消え去り、後に残ったのは真っ二つになって倒れるバルドレッドの姿だった。
どこからどう見ても致命傷であるが、驚いたことにまだHPは尽きていないらしい。
とはいえ、奴のHPゲージは急速に減少してきている。このまま放置すれば、程なくしてバルドレッドのHPは尽きるだろう。 ――だが、最後まで油断するつもりは無い。
「セイラン」
「クェエ!」
「がっ!? き、貴様……ッ!」
両断されたバルドレッドの体は動かないが、奴の体はこれだけではない。
本体――と言えるのかどうかは分からないが、まだ奴の首が残っているのだ。
案の定、首だけで逃げようとしていたと思わしきバルドレッドであったが、セイランにあっさりと捕まって地面に叩き落された。
そしてセイランの前足で押さえつけられた生首に対し、俺は刃を突きつけながら声を上げる。
「言え。貴様は、何故手の込んだ真似をしてリソースとやらを集めていた」
「……我が主君の命なれば。されど、その真意を明かす道理はない」
「主君、ね」
先ほど口に出していた、ディーンクラッドとかいう存在のことだろう。
それはさらに上位の悪魔か、或いは例の魔王とやらなのか。
何にせよ、悪魔がリソースを集めているのは、上位の悪魔たちにとってそれが必要だからということか。
奴らはリソースを集めることでより強力な悪魔を顕現させている。ここまで手の込んだ真似をして、より多くのリソースを集めているということは、より強力な悪魔を呼び出そうということなのか。
何にせよ――これ以上、こいつらの好き勝手にさせるわけにはいかない。
「いいだろう、ならばその悪魔も斬り捨てるまでだ」
「く、はははは……ッ! 無駄なことだ、魔剣使い……お主の力では、あの方には触れることすら叶わぬだろう!」
「そう信じていればいい。俺はただ、俺が決めたことを成し遂げるまでだ」
淡々とそう告げる俺の目に、バルドレッドは果たして何を見たのか、目を見開いて息を飲む。
尤も、首から下がないくせに息もクソもないとは思うが――何にせよ、ここまでだ。
「セイラン、終わらせろ」
「ケェッ!」
俺の声に頷き、セイランはバルドレッドを押さえつける足に力を籠める。
首だけとなったバルドレッドには、最早それに対抗するための力はない。
「ぐ、がァ……ッ! ディーン、クラッド様……!」
そして、最期に己が主君の名を口にして――バルドレッドの頭は、湿った音と共に踏み潰された。
その瞬間、ついにバルドレッドのHPは消え去り、奴の体もまた黒い塵となって消滅する。
同時、周囲に存在していた悪魔たちもまた、同じように消滅していた。
どうやら、ここの悪魔共はバルドレッドがいなければ存在できなかったようだ。
『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』
『《刀術》のスキルレベルが上昇しました』
『《格闘》のスキルレベルが上昇しました』
『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《降霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』
『《MP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《回復適性》のスキルレベルが上昇しました』
『《戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』
『伯爵級悪魔バルドレッドを倒し、アドミス聖王国南西の都市シェーダンを解放しました。以降、石碑の効果を使用できます』
周囲から完全に敵の気配が消え去ったことを確認し、大きく安堵の吐息を吐き出す。どうやら、何とかバルドレッドを倒し切れたようだ。
数の有利があったとはいえ、博打であったことは否めない。何手か打ち間違えていれば、敗北している可能性は十分にあっただろう。
伯爵級悪魔か……やはり恐ろしいものだ。これよりも更に上位の悪魔がいるというのだから、全くもって恐ろしい。
「か、勝った? 倒した? ……よっしゃーッ! みんな、勝ったぞーっ!」
『うおおおおおおおおおおおッ!』
遅れて状況を飲み込めたらしいラミティーズが、周囲を巻き込んで歓声を上げる。
ある程度有利に進められてはいたが、かなりギリギリの戦いであったし、『キャメロット』側にも死に戻りが出てしまった。
あのまま戦闘が長引けばジリ貧となり、負けてしまっていた可能性も高い。
限られた戦力で伯爵級に勝利できたのは大戦果であると言えるが、課題の残る結果だった。
ともあれ、やるべきことはまだある。反省は落ち着いてからにするとしよう。
「……ルミナ、よくやった」
「いえ……刻印が無ければ、ここまでのダメージは与えられませんでしたし」
「それも含めてお前の力だ。結果を出したのならばきちんと胸を張れ」
そう言いつつ軽く頭を叩いてやれば、ルミナは若干照れた様子で微笑みを浮かべた。
正直な所、今回はルミナがいなければ勝てなかっただろう。
バルドレッドの瘴気はあらゆるダメージを軽減してしまう。
ルミナの光の魔法が無ければ瘴気を剥がすことはできなかったし、その状況では奴を倒し切る前にこちらが押し負けていただろう。
それに、刻印による攻撃が無ければバルドレッドを倒すのにもっと時間を要したはずだ。
時間をかけるほど不利になるあの状況下、刻印の存在は大きな助けとなってくれた。
「ふぅ……でも、ホントに危なかったですね。これ以上戦闘が長引いてたらきつかったですよ」
「否定はせんさ。正直な所、『キャメロット』の応援が無ければ勝てなかっただろう」
アルトリウスから派遣された三部隊、その力が無ければ、現地人の保護以前にバルドレッドを押し切れなかっただろう。
特に、バルドレッドを相手に正面から押し留めたパルジファルには非常に助けられた。
その当人は、若干疲れを見せながら、しかし達成感溢れる様子でこちらへと近づいてきた。
そんな彼女へ、俺は軽く笑みを浮かべながら声を上げる。
「パルジファル、この街のことはお前さんたちに任せてもいいか?」
「は……『キャメロット』に、ですか?」
「いや、統治するのは別に誰でもいいがな。どうせこの具合なら、エレノアがやってきて何かするだろうし」
街の生き残りはそれなりにいる。元からこの街に住んでいた連中は減ってしまっているだろうが、他の村から集められた連中も多いのだ。
壁外区画に残された者たちを含めれば、それなりの数の人間がいることだろう。
とは言え、街を護る戦力はほぼ皆無であろうし、管理していた貴族たちも生き残っているかどうかは定かではない。
生き残った者たちだけで街の管理を行うのは、中々難しい状況だろう。
まあ、その辺りの面倒な話は俺の管轄ではないし、口出ししてもロクなことにはなるまい。
アルトリウスなりエレノアなり、そういうのが好きな連中に任せておけばいいのだ。
「ちょいと、クエストの途中なんでな。そっちを済ませたら、俺たちはアイラムに戻る。アルトリウスへの報告はそっちで頼むからな」
「は、はあ……了解です。クオン殿、ありがとうございました」
「こっちが協力して貰ったようなもんだろう? こちらこそ助かった、感謝するよ」
頭を下げるパルジファルと、屋根の上から降りてきた高玉に軽く手を振り、その場を後にする。
ラミティーズはまだ他の隊員たちと騒いでいたため、そこは放って置いたのだが。
踵を返し、街中の様子を見ながら壁外区画への抜け道へと向かう。
悪魔共が消えたことで閑散とした様子になった街中は、殆ど人の姿を見かけることはできない。
だが、それでも幾人かの現地人たちは、恐る恐る外の様子を確認している様子だった。
「何とかなった、って感じですかね」
「ま、悪魔自体はな。だが、元通りにはならんだろう」
街を支配していた連中を排除することはできたが、あまりにも多くの人命が失われてしまった。
どのような形を選ぶとしても、悪魔共が襲撃してくる前の状況には戻せないだろう。
だが、問題原因を排除できたこともまた事実。少しずついい方向に向かって行くことを期待するとしよう。
抜け道を使って、壁外区画へと戻る。
そこには既に、俺たちに依頼を持ち掛けた小僧――ユウの姿があった。
どうやら、街から戦闘音が聞こえなくなったことに気づいたようだ。
俺たちの姿を目にして、ユウは慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる。
「あ、アンタ! 姉ちゃんは、姉ちゃんはどうしたんだ!?」
「落ち着け。とりあえず悪魔は排除したから、お前の姉が捕まっていた所に行くぞ」
「っ! 分かった、頼む!」
気が急いている様子ではあるが、聞き分けはいい。
そのことに満足しつつ、慌てた様子のユウを引き連れて、再び街中へと戻った。
そわそわと落ち着きがないが、それは仕方ないだろう。
悪魔に連れ去られた姉とようやく対面しようというのだ、緊張するのも当然だろう。
街中を抜け、例の教会へと向かう。悪魔共がいなくなったことを察したのか、住人の内の何人かは外に出て、歓声を上げている様子だった。
これまで悪魔によってほぼ軟禁状態だったのだ、その反応も無理はない。
そんな連中を眺めながら教会の場所まで辿り着き――その瞬間、ユウは我武者羅に走り出した。
「姉ちゃん、姉ちゃんッ!」
「っ!? ユウ!?」
小僧が駆け寄って行ったのは、恐る恐ると言った様子で教会の外に出ていた一人の少女だ。
亜麻色の髪をした彼女は、呼びかけられた声に眼を剥き、けれど躊躇うことなく走り出す。
そして二人はそのまま、固く抱擁を交わした。
その様子を遠巻きに眺め、俺と緋真は互いに視線を交わして苦笑する。
『《シェーダン壁外区画の姉弟》のクエストを達成しました』
どうやら、これでようやっと一区切りついたようだ。
俺は深く息を吐き出し、号泣する姉弟の姿を眺めていたのだった。