軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

242:反撃の時間

「焦天に咲け――『紅蓮舞姫』!」

俺がバルドレッドの攻撃を受け止めた瞬間、霧の向こう側で紅の炎が燃え上がる。

白い霧を裂くようにして現れたのは、炎を纏う刀を構えた緋真だ。

霧の中でさえなお目立つその姿で、緋真は更に新たなスキルを発動する。

「【 灼薬(しゃくやく) 】ッ!」

瞬間、緋真の上半身が炎に包まれる。

肩から両腕にかけてが燃え上がり、更に瞳が燃えるように輝いていた。

どうやら、あれが新たに発現した紅蓮舞姫のスキルであるようだ。

両腕が炎に包まれた姿は、まるで炎で形作られた翼であるかのよう。

あれは自分自身の攻撃力を上昇させるスキルだ。《戦乙女の加護》を含め、緋真の攻撃力はかなり上昇していることだろう。

その上で――

「【灼楠花】!」

「グッ、小癪な!」

緋真は、燃え上がる刃をバルドレッドの鎧の隙間へと刃を突き立てた。

熱毒という特殊な状態異常を与えるスキルは、どうやら伯爵級悪魔にも効果を及ぼすようだ。

炭火のような赤いエフェクトが纏わりついたその姿に、俺は笑みを浮かべながら不動の構えを解除する。

バルドレッドが振り返り様に放った一閃をバックステップで回避した緋真は、そのまま俺と向かい合うような形でバルドレッドを包囲した。

「さてと……ここからが本番って訳だ」

「……数が増えた程度で、我に届くと思っているのか?」

どうやら、こちらに有効打が無いことは理解していたようだ。

確かに、積極的に攻めていなかったとはいえ、俺では鎧の隙間を突いてもあまりダメージは与えられなかった。

餓狼丸は既に吸収限界に達し、【命喰牙】の吸収もコイツの体力相手では微々たるものだ。

多少の体力は削れていたとしても、有効なダメージと呼ぶにはまだまだ足りなかっただろう。

「無論、届くとも。これは決闘じゃない。お前を殺す方法など、幾らでもある」

「――こんな風にね」

瞬間、霧の中から姿を現したアリスが、バルドレッドの背中に刃を突き立てる。

完全に意識の外からの一撃だったのだろう、バルドレッドは驚愕に目を見開いて硬直する。

臓腑にまで届く刃の一撃――だが、それでもバルドレッドのHPは大きく減った様子はない。

ある程度のダメージにはなったが、致命傷には程遠いダメージだ。

(こいつ、内臓が弱点扱いになっていないのか?)

歩法――縮地。

疑問を抱きつつも、バルドレッドとの距離を詰める。

完全なる不意討ちで意識を逸らしたバルドレッドは、しかしアリスの姿を捉えられず隙を晒していた。

だが、それでも俺が近付いて来たことには気づいたのか、反射的にこちらへと刃を振るってくる。

斬法――柔の型、流水。

その一撃を横へと流しながら刃を蜻蛉の構えへ。

振り下ろす一撃は、鎧のない太腿の内側を狙う一閃だ。

「《練命剣》――【命輝閃】!」

「ぬぅっ!」

だが、バルドレッドは刃を流された勢いを利用して俺へと回し蹴りを放ってきた。

随分と無茶な動きではあるが、こちらも対処しないわけにはいかない。

俺は刃の軌道を変えて、バルドレッドの蹴り足へと一閃を叩きつけた。

瞬間――火花が散り、甲高い金属音と共に互いの攻撃が弾かれる。

「ッ……!」

「くっ!」

流石に、頑丈な鎧だ。脛の部分に一閃を当てたが、僅かに傷がついた程度である。

やはり、普通に鎧ごと斬ろうとしても無駄になるだろう。

鎧断を当てるにも、もう少し鎧に傷を付けなくてはなるまい。

互いに一歩下がる形で体勢を整えた俺とバルドレッドは、互いに切っ先を向けて接近しようとし――そのバルドレッドの腕へと、緋真の一閃が襲い掛かる。

「《術理装填》、《スペルエンハンス》【フレイムストライク】――【緋牡丹】ッ!」

緋真の持つ最大規模の一撃。灼熱の炎が、咄嗟に迎撃に動いたバルドレッドの剣へと叩き付けられる。

瞬間、解放された炎が炸裂し、巨大な爆発となって顕現した。

それを目にして、俺は息を止めながら前へと足を踏み出す。

炎の向こう側――そこには、重心を落として耐えた姿勢のバルドレッドの姿があった。

やはり、その身は健在。大きなダメージを受けた様子もない。

(今のはかなりの威力だったはずだが……それでもダメージにならないか。どうやって防いだ?)

剣戟そのものを防げていたとしても、炎によるダメージは防げなかったはず。

それなのにこの程度のダメージということは、何かしらの仕組みがあるということか。

分からないが――

「『生奪』!」

斬法――剛の型、穿牙。

二色のオーラを纏う刃を、一直線に突き出す。

その一撃は、動きを止めていたバルドレッドの胸へと突き刺さり――しかし、貫くことなく奴の体を後退させる。

衝撃に息を詰まらせた様子こそあるものの、ダメージを受ける様子はない。鎧にも、僅かに傷がついた程度だ。

見れば、奴の全身を薄っすらと黒いオーラが包んでいる。あの魔力は、先程攻撃に使ってきた物と同じだろう。

どうやら、あれが奴の能力であるようだ。

「やるものだな、魔剣使い……ッ!」

「チッ、ロクにダメージも受けていないくせにな――《奪命剣》、【咆風呪】!」

どれだけ防御力があったとしても、このテクニックは防御力を無視できる。

バルドレッドの全身を黒い風で包み込み、そのHPを吸収する。

だが、やはりこれだけでは大した痛手にはならないようだ。

「ふん、それを繰り返して我に勝つとでもいうつもりか!」

「俺はそれでも構わんがな……!」

実際の所、チマチマと攻め続けるのではジリ貧だ。

だが、現状ではまだ有効なダメージを与えられていないことは事実。

鎧を突破するか、或いは何か他の手があるのか。

分からないが――まあいい。

「何であれ、首を落とせば死ぬだろう――《練命剣》、【命輝一陣】」

「その程度の攻撃、効きはせぬぞ」

放った黄金の刃はバルドレッドに直撃するが、やはり大したダメージになりはしない。

だが、そんなことは百も承知だ。今の一撃は、ただの目くらましに過ぎない。

本命は――

「光の槍よ!」

「《スペルエンハンス》、【ファイアジャベリン】!」

ルミナと緋真の放つ、魔法の投槍だ。

投げ放たれた槍は分裂し、直撃と共に破裂する。

その瞬間に、嵐を纏うセイランが横合いから突進を敢行した。

嵐を纏う剛腕の一撃――しかし、バルドレッドはその攻撃を大剣の刀身で受け止めてみせた。

まさか、セイランの攻撃を正面から受け止めてみせるとは……!

その驚愕を抱きながらも、俺はバルドレッドに肉薄した。

「《奪命剣》――【命喰牙】」

歩法――烈震。

懐まで踏み込み、その脇腹に黒い短剣を突き刺しながら跳躍、その身を蹴りつけて体勢を崩す。

その瞬間、セイランは雷を纏う暴風をバルドレッドへと至近距離で叩きつけた。

強風に押されたバルドレッドは後方へと飛ばされ、セイランへの反撃を防ぐ。

やはり、大した身体能力だ。正面からやり合うことは避けなければなるまい。

「はあああああああッ!」

距離を離したバルドレッドへと、上空から飛び降りてきたルミナが、薙刀に眩い光を宿しながら振り下ろした。

バルドレッドはその一撃を受け止め――ほんの僅かに、奴の纏う黒いオーラが揺らぎ、薄れた。

「……!」

「っ、甘い!」

「く、ああっ!?」

バルドレッドが受け止めた刃を強引に一閃し、ルミナを弾き飛ばす。

薙刀はルミナの手から離れてしまったが、何とか自身は無事であるようだ。

翼を羽ばたかせて体勢を整えたルミナは、腰から精霊刀を抜き放って構える。

ここまでの猛攻を受け、それでも尚、バルドレッドのHPはあまり減っていない。

かなりの頑丈さではあるが、今のルミナの攻撃によって、ほんの少しだけ奴の纏っていた黒いオーラが薄れたのが見えた。

恐らくは、光属性による効果だろう。奴の纏っている黒いオーラは、どうやら光属性の攻撃を受けると弱体化するようだ。

「ルミナ、こっちに来い! 緋真、カバーしろ!」

「はい、先生!」

ルミナを呼び寄せ、代わりに駆け寄ってきた緋真と交代させる。

更にセイランを前に出し、アリスの気配を探りながら、俺はルミナへと声を掛けた。

「ルミナ、奴の防御の仕組みは分かるか?」

「は、はい。あの悪魔が纏っているのは瘴気です。それによって、攻撃の威力を弱めています」

「お前の魔法を当てれば弱められるんだな?」

「光や、聖属性であれば可能です」

成程。つまり、そうやって弱体化した瞬間を狙えということか。

厄介ではあるが、攻略法はある。であれば、そのチャンスを作り出すしかあるまい。

「よし、ルミナ。お前はあの悪魔に大技を当てろ。その瞬間に俺が奴の首を断つ」

「分かりました。刻印を使いますか?」

手の甲を示しながら、ルミナはそう問いかけてくる。だが、俺はその問いに対し首を横に振った。

一日に一度だけ使える、魔法の威力を強化する神威の刻印。

その力ならば確かに目的を達せられるだろうが、今はまだ使うべきタイミングではない。

「奴は伯爵級悪魔だ。まだ本来の姿を現す《 化身解放(メタモルフォーゼ) 》を使っていない。刻印を使うとすれば、その時だ」

「しかし、それでは魔法を当てるのが難しいです。それだけ強力な魔法を用意していれば、あの悪魔も警戒するかと」

「――であれば、私があの悪魔を足止めしましょう」

――ふと、声がかかる。

その方向へと振り向けば、そこには鎧を纏う女騎士の姿があった。

「遅れましたが、拠点の制圧を完了しました。パルジファル、これより参戦いたします」

キャメロットが誇る、防御部隊の部隊長。

盾を持つ守護騎士は、力強い視線で悪魔の姿を見据えていた。