軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

238:騎士の矜持

盾の騎士パルジファル。

最大規模のクラン『キャメロット』の幹部、数多のプレイヤーたちを率いる隊長たちの一人。

その戦いぶりは、以前のヴェルンリード戦でも目にしていた。

ヴェルンリードを、そしてその分身を相手に崩されることなく耐えきってみせたその実力は、部隊を含めてまさに堅牢であると評するに相応しい人物であろう。

そんな彼女、堅い鎧を纏った女騎士は、今まさに俺の前で盾と槍を構えていた。

対峙した彼女を見据え、ゆっくりと餓狼丸を引き抜きながら、俺は彼女へと問いかける。

「一応聞いておきたいんだが……これはどういう意図の決闘だ?」

「……個人的な理由です。貴方の実力を疑っているわけではありません。あの伯爵級悪魔との戦いで、我々は貴方の戦いぶりを眼前で目撃していますから」

ヴェルンリードとの戦いでは、俺もパルジファルも最前線で戦闘を行っていた。

俺が彼女のことを見つけていたのだから、相手も俺のことを観察していたとしても全く不思議はない。

そして彼女自身、俺の実力はきちんと――と言うべきかどうかは分からないが、理解はしているらしい。

その上でわざわざこのような場を設けたからには、何かしらの理由があるのだろうが――

「相っ変わらず頭固いなー、パルっちは! 部隊を納得させるための通過儀礼だーって言えばいいのに」

「っ、ラミティーズ!」

と、そこで横から声を掛けてきたのは、浅黒い肌にオレンジ色の髪という、中々に目立つ容姿の少女であった。

軽装ながら纏っている鎧の意匠はパルジファルたちと同じ――即ち、『キャメロット』のメンバーだろう。

誰何を込めた俺の視線に、彼女はおどけた様子で片手を上げ、敬礼のポーズを取りながら声を上げた。

「ちっす! あたしはラミティーズ! 『キャメロット』騎兵部隊の隊長だよ! シクヨロ!」

「ラミティーズ! 団長の盟友であるクオン殿に対して無礼ですよ!」

「パルっちは固すぎだってぇ。まあそこのトリも同じだけどさ、一緒に戦うんだからもっとフレンドリーに行こうよ」

トリ、というのはどうやら高玉を指しているらしい。

その辺りの理由は良く分からんが、とりあえずどのような人柄であるかは把握できた。

装備は槍、そして後ろに控えているのはグリフォン。

どうやら彼女は俺と同じく、グリフォンを騎獣として選んだようだ。

グリフォンに認められたということは、騎獣を抜きにしても相応の実力者であるということ。

どうやら、部隊長の名には恥じぬ能力を有しているようだ。

「ふむ……ま、態度については別段気にはせんさ。失礼という意味では、もっと失礼な連中を知ってるからな」

具体的には、数年前に戦場を共にしていた部隊の連中のことだが。

海軍上がりの連中はどうにも、下品なスラングを混ぜないと会話ができないようだ。

それよりも、今気になることは、先程彼女が口にした言葉の方だ。

「それで、通過儀礼ってのは何だ?」

「……『キャメロット』の部隊長は、試験によって決まります。指名制ではなく完全な実力主義で、それぞれの部隊ごとに決まった試験内容をこなすことで任命されるのです」

「防御部隊は全員でガチンコしてね、最後まで立ってた人が部隊長になるんだ。パルっちはそうして部隊長になった訳だけど……そのおかげか、集まってる人全員頭固くてねぇ。今回ダンジョンの攻略から外されてこっちに来たことを納得できてない人も一定数いるんだよねぇ」

軽い口調ながら、ラミティーズは簡潔にそう説明する。

盾役であり、戦場の生命線であることを自負している彼らとしては、アルトリウスと共に戦えないことに納得できなかったわけか。

故に、実力で黙らせてみろ、とパルジファルは言いたいらしい。

「別にさ、向こうもこっちも伯爵級悪魔がいることに変わりはないんだから、気にしなくてもいいのにねぇ」

「部隊を背負う以上、彼らの不満を受け止めるのが私の役目です。クオン殿、どうか一手、お願いいたします」

「……ま、構わんがな」

別段、戦うことを拒否する理由は無い。

彼女は『キャメロット』の実力者。これから戦場を共にするという意味でも、その能力を知っておきたいという思いはある。

多少目にしていたとはいえ、こうして目の前でその能力を確認するのは初めてだ。

果たして、どのような戦いぶりを見せてくれるのか――楽しみである。

「では、体力半減まで。スキルの使用に制限はない――それで構わんな?」

「はい、よろしくお願いします」

互いに頷き、決闘を開始する。

フィールドが形成され、俺とパルジファル以外のプレイヤーが周囲から排除された。

その中心で向かい合った俺たちは、まず同時に自己強化を開始する。

「【ダマスカスエッジ】、【ダマスカススキン】、【武具精霊召喚】」

「《練闘気》、《ハイブースト:VIT》――《シールドチャージ》!」

先手はパルジファル。彼女はそのタワーシールドを前面に構えたまま、俺へと向けて突進を繰り出した。

その様は、まるで壁が迫ってくるかのよう。パルジファルの身長はそれなりに高い方ではあるが、それ以上に大きく感じてしまう。

そして、彼女は右手で槍を腰だめに構えている。盾に衝突してバランスを崩したこちらを攻撃するつもりなのだろう。

尤も――その程度でどうにかできると思っているのであれば、随分と舐められたものだが。

俺は左手を掲げ、迫ってくる盾へと向け、その一撃を正面から受け止めた。

「――――ッ!?」

瞬間、足元の地面が爆ぜ割れ、軽く粉塵が舞い上がる。

あらゆる攻撃は運動エネルギーを伴う。そのベクトルをきちんと理解し、道筋を作って受け流してやれば、このように肉体に損傷を負うことなく攻撃を受け止めることができるのだ。

俺を弾き飛ばすつもりであっただろうパルジファルは、正面から攻撃を受け止められ、しかも俺が微動だにしなかったことに驚愕し、僅かに動きを止めた。

無論、その隙を見逃すような真似はしない。

打法――侵震・盾落。

叩き付けるのは、盾越しに相手の腕へと衝撃を加える打撃。

肩でぶつかった際に一撃、そして僅かに仰け反ったところへ手でもう一撃。

無防備になった腕へと叩き付けられた衝撃は、その腕を容赦なくへし折る――筈であったのだが、今回はそこまでの手応えは無かった。

パルジファルが踏ん張らずに体を下げたおかげで、そこまでの衝撃を受けなかったのだ。

咄嗟の判断か、或いは本能的なものか――どちらにしろ、彼女は最悪の事態だけは避けてみせた。

尤も、それは最悪の事態を避けられたというだけの話なのだが。

「……!」

気配を殺し、僅かに浮いた盾に隠れるように前へと踏み出す。

盾による攻撃スキルにはクールタイムがある筈だ。であれば、すぐに今の一撃を出すことは不可能である。

故に、俺は盾を陰にして彼女の背後に回り込むようにしながら左手を振るった。

「《奪命剣》――【命喰牙】」

ついでに、使用感を確かめ辛かった【命喰牙】を発動する。

左手に現れた黒い短剣を逆手に持ち、その切っ先をパルジファルの背中へと突き立てた。

「ぐっ、鎧を……!?」

刺さっても血が出ない【命喰牙】であるが、刺さった感覚は分かる。

向こうからすれば、鎧を容易く貫かれたように感じることだろう。

それと共に、【命喰牙】は徐々にパルジファルの体力を吸収し始める。

吸い取ったHPはこちらに流れ込んでくるため、一石二鳥というものだ。

尤も、吸収量は大したものではないようだが。

「くっ、【ブラストスイング】ッ!」

俺を引き剥がすためだろう、パルジファルは 魔導戦技(マギカ・テクニカ) を発動して槍を薙ぎ払うように振るった。

流水・浮羽で対処したい所ではあるが、風の魔法が付与されているため、単純に受け止めることはできない。

ここは素直に後退して回避しつつ、俺は改めて餓狼丸を構え直した。

相手が防御を固めている以上、素直に攻めるような真似はしない。

「さて……次はこちらから行かせて貰うとしようか」

「ッ!」

俺の言葉に対し、パルジファルは息を飲んで槍を構える。

そんな相手に対し、俺は正面から接近した。

歩法――縮地。

体幹を揺らさず距離を詰め、相手の認識を惑わせる。

俺が突然目の前に現れたように感じたであろう彼女は、驚愕と共に槍を突き出してきた。

斬法――柔の型、流水・渡舟。

その刺突を餓狼丸の刀身で横にずらし、更に上に乗せた刀身を槍の上で滑らせる。

咄嗟に放たれたであろう突きを地面に落としながら駆けあがった一閃は、肘の鎧の隙間を狙って刃を滑らせる。

肘の辺りから僅かに出血したパルジファルは、それでも槍を引き戻して盾をこちらへと向けて構えた。

どうやら、また盾を利用した体当たりをするつもりであるようだが――俺は、引こうとしていた槍の柄を掴みながら前進する。

「なっ!?」

武器を掴まれたためだろう、パルジファルは反射的に俺の手を振り払おうと槍を引く。

その瞬間に手を離してやれば、パルジファルの重心は僅かに後方へズレることとなった。

ほんの僅かな隙であるが、接近している状況であれば問題はない。そのまま刀で相手の膝裏を打ち、仰向けに転倒させる。

【命喰牙】が突き刺さったままの背中で倒れ込んだが、どうやら特に影響はないらしく、ただ転倒の衝撃で咳き込むだけだ。

そんなパルジファルの首筋へと向けて餓狼丸の刃を突きつけてやれば、彼女は一度目を見開いて、それから観念した様子で降参を口にした。

「私の負けです。ありがとうございました、クオン殿」

「構わんさ。これでスムーズに話が進むのなら文句はない」

決闘モードが解除され、俺は餓狼丸を鞘に納めてパルジファルへと手を差し出す。

一瞬驚いた表情を見せた彼女は、諦観を込めた笑みを浮かべ、俺の手を取って立ち上がった。

「さてと、話はこれで済んだな。それじゃあ、出発するとしようか」

予定外のことで時間を食ってしまったが、余裕は十分にある。

さっさとシェーダンに向かって、作戦を開始するとしよう。