軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

218:聖女への襲撃

接近してきたのは、空より飛来した悪魔だ。

デーモンが五体、それに加えてその先頭には、人間に近い姿をした悪魔が一体。

あれは恐らく爵位悪魔なのだろうが、これまで見てきた連中とは異なり、何やら妙な姿をしている。

背中には蝙蝠のような翼が生えており、その右腕は黒い触手のようなものが絡みつき、その隙間から三本の鋭い鉤爪のようなものが生えている。

これまでの爵位悪魔とは違う、妙な姿だ。だが、感じる魔力からはそこまで上位の悪魔とは考えられない。

しかしどちらであろうとも、聖女の下に行かせるわけにはいかない。まずは空から叩き落としてやるとしよう。

「【スチールエッジ】、【スチールスキン】、【武具精霊召喚】」

一気に魔法を発動し、強化を済ませる。

悪魔共が向かって行く先は、やはり聖女たちの方であるようだ。

聖堂の中では手を出せなかったが、敷地の外に出てくればまた別ということか。

――だが、俺を無視していこうとはいい度胸だ。

「《練命剣》、【命輝一陣】」

斬法――剛の型、迅雷。

体を捻り、撃ち出す様にして放つ神速の居合。

それによって放たれた生命力の刃は、先頭を飛翔していた爵位悪魔に激突した。

流石に両断するには至らなかったが、多少のダメージは与えられたのか、悪魔はそのまま地面へと墜落してくる。

自分たちのリーダーが落とされたことに動揺したのか、他のデーモンたちの動きも鈍り――そこへ、風と雷を纏ったセイランが突撃した。

あちらはセイランに任せておいていいだろう。それよりも――

「キャハハハハハハハハハハッ!」

「――ッ!」

斬法――柔の型、流水。

地面に落下するや否や、弾かれたようにこちらへと突撃してきた悪魔の攻撃。

鉤爪で引き裂こうとしてきたその攻撃を後方へと受け流し、俺は正眼で油断なく構えた。

近くで見ると、この悪魔は随分と異様な姿をしている。

右腕に絡みついた触手は蠢き、まるで別の生き物が寄生しているかのようにも思える。ぼさぼさの黒い髪の間から見える目は落ち窪んで濃い隈が浮かんでおり、それでいながら大きく見開かれている様は随分と不気味に映る。

姿形は一応女のものであるのだが、どちらかといえば異形という印象が強い。

「貴様は一体――」

「シィィィィッ!」

どうやら、問答は無用ということらしい。

手をだらりと前に下げていた悪魔は、そのまま四つん這いになりこちらへと襲い掛かってきた。

獣じみた動きだが、人型でその動きをするにはそれなりの制限がある。故に、動きは読みやすい。

俺は一直線に向かってきた相手の攻撃を回避しつつ、その軌道上に刃を置いた。

斬法――柔の型、筋裂。

悪魔は自ら刃に飛び込む形となり、その脇腹に傷を負う。

だが、ダメージとしては浅く、おまけに怯んだ様子もない。

先ほどの【命輝一陣】のダメージも胸の辺りにあるようだが、それでも動きが鈍ることはなかった。

痛みを堪えている様子も無いし、こいつはまさか痛覚が無いのだろうか。

「シャッ!」

「ちッ」

抉るような鋭い蹴りを躱し、跳ね返るように飛び込んできた爪の一撃を弾く。

実に素早いが、それ以上に厄介なのはコイツの動きに全くの躊躇いが存在しないことだ。

戦いの上では、必ず相手の攻撃を警戒しなくてはならない。傷を負った時の痛み、その先にある死――それらが意識にあるからこそ、人は慎重に動く。

だが、こいつは違う。痛みが無いからなのか、或いはそもそも正気を失っているのか。コイツの動きには、全く躊躇いが存在していなかった。

カウンターの攻撃は当て易いが、こちらも反撃を喰らい易い。実に面倒な手合いである。

ならば――

「まずは離れて貰おうか!」

打法――破山。

爪による一撃を受け流しながら肉薄、互いの肉体を密着させる。

それと共に叩き付けるのは、強い踏み込みによる衝撃だ。

体は小柄なこの悪魔は、破山の一撃によって面白いように吹き飛び、後方にあった木の幹へと叩き付けられる。

だが、すぐに起き上がってくる悪魔に対し、俺は餓狼丸を地面に突き刺して二振りの小太刀を抜き放った。

【武具精霊召喚】の対象を右の小太刀に切り替え、二つの刃を中段に構える。

「シャアアアッ!」

「削り取ってやろう、来い」

斬法――柔の型、流水・流転。

爪の一撃を受け流しながら密着、相手を地面へと叩き落す。

その上で相手の胴へと向けて振り下ろすのは、全身を連動させた足による踏みつけだ。

打法――槌脚。

しかし、悪魔は横に回転して辛うじてこれを回避、俺の足首を狙おうとしたが、それは地面が爆ぜ割れた衝撃によって遮られる。

悪魔は跳ね飛ぶように起き上がるが、そこで体勢を整えるのを悠長に待つつもりは無い。

斬法・改伝――剛の型、双牙。

逆手で掬い上げるように放つ左の一閃。その一撃を、悪魔は上から抑え込むように防ぐ。

その直後、俺は後ろに引き絞っていた右の刃の刺突を繰り出した。

心臓を狙う一撃は、しかし瞬間的に反応した悪魔が体を逸らしたことにより、その左肩へと突き刺さる。

急所には届かないが、この位置ならば左腕は潰せただろう。

「ギィ……!」

左腕が持ち上がらなくなったことは流石に理解したのか、悪魔は右腕でこちらを引き裂こうと腕を振り上げる。

対し、俺は右の刃を離しつつさらに踏み込みながら左腕を振り上げ、胸から顔にかけてを浅く斬りつける。

流石に顔に対する攻撃には反射的に反応し、悪魔の右腕による一撃は僅かに鈍ることとなった。

そして――振り下ろされる右手の爪へと、振り上げた左の刃を合流させる。

斬法――柔の型、流水・流転。

背負い投げのような形で相手に接近、悪魔の一撃を流し落としながら相手の足を払う。

俺の体を支点にぐるりと悪魔の体を投げ飛ばしつつ、左の刃を投擲、地面に落ちた悪魔の顔面へと刃を投げる。

顔面に対して攻撃を受けた悪魔は流石に怯み、地面に転がった状態でほんの一瞬だけ動きを止める。

その刹那に、俺は地面に突き刺していた餓狼丸を抜き放って地を蹴った。

歩法――烈震。

そして、起き上がろうとする悪魔に肉薄、下から斬り上げながら相手の膝を踏み砕き、跳躍する。

眼下には、衝撃によって前屈みになった悪魔の背中。

その中心へと向けて、俺は刃を振り下ろした。

「《練命剣》――【命輝閃】」

斬法――剛の型、天落。

振り下ろした刃は悪魔の背を貫き、地面にまで突き刺さってその体を縫い付ける。

その状態で、俺は思い切り刃を捻り、悪魔の臓腑を抉り抜いた。

抜き取った刃に引っ張られるような形で仰向けに倒れた悪魔は、大きく目を見開いた状態のまま硬直している。

その肩から小太刀の刃を抜き取って、俺は眉根を寄せた。

しかし、こいつは一体何だったのか。爵位悪魔の割には名乗りもしなかったが――

「まだです、クオン様っ!」

突如として響いた聖女の声に、俺は即座に反応する。

それとほぼ同時、倒れていた筈の悪魔の右腕だけが蠢き、巻き付いていた触手をこちらへと向けて突き出して――その一撃を、瞬時に斬り払った。

決して警戒は解いていない。悪魔は死んだら黒い塵となるのだ、消えていないということはそういうことだろう。

すぐさま相手から距離を取って観察し――俺は思わず顔を顰めた。

どうやら、悪魔の肉体そのものは既に死んでいるようだ。右腕の触手だけが動き、体を引きずるようにしながらこちらへと這い寄ってくる。

「寄生、しているのか……?」

何だか分からんが、とりあえずあの触手の方が悪魔の体を操っていることは間違いないだろう。

であればそちらを破壊するまでなのだが――

「こっちの方は、一体どうしたら死ぬんだかな!」

先ほど襲ってきた触手の先端を斬り払ったが、未だ本体の方は動いている。

一応、斬り落とした方は動いていないようだが……この長い触手を端から細切れにしていくのは中々骨だ。

こういう時、俺には相手を一気に消し飛ばせるような技が無いため、少々面倒なのだが――

「先生、下がってください!」

「……!」

後方から響いた声に従い、後方へと向けて跳躍する。

だが、それを阻むように黒い触手が伸ばされ――しかしそれが届く前に、刃を走らせその触手を斬り払う。

そして次の瞬間、緋真の鋭い声が響き渡った。

「《スペルエンハンス》、【フレイムピラー】!」

それと共に、悪魔の体とそこから伸びる触手が、炎の柱に包まれる。

炎の放つ光と熱量に目を細めつつ悪魔の様子を覗き見れば、あの黒い触手は炎の中で燃やされながらのたうち回っていた。

成程、どうやら炎はしっかり効いているらしい。

この魔法だけで殺し切れるかどうかは分からないが――いや、弱らせるだけでも十分だ。

俺は炎の柱が消える直前、前へと踏み出して刃を振るう。

「《蒐魂剣》、【因果応報】」

振るった刃が炎の柱を斬り裂き、その熱量の全てを吸収する。

唐突に炎は消え去ったが、燻る熱は未だに黒い触手を焼き、ダメージを与えていた。

そんな触手へ向け、俺は炎を纏う餓狼丸を振り上げる。

「《練命剣》、【命輝閃】」

更に炎の中からは黄金の輝きが迸る。

俺は朱金の炎と化した餓狼丸を容赦なく振り下ろし――その触手の根元ごと、斬り裂いて焼き尽くした。

触手の塊となっていた右手、その中心を斬り裂かれたことでついに絶命したのか、悪魔の肉体と焼けた触手は黒い塵となって消滅していく。

どうやら、ようやく倒し切れたようだ。

『《格闘》のスキルレベルが上昇しました』

『《MP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《インファイト》のスキルレベルが上昇しました』

『《戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』

今のが何だったのかは気になるが、今は聖女の方が優先だ。

さっさとこの場を離れることとしよう。