軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

022:教会での約束

予想外の出会いはあったものの、この西の村に来た目的は、あくまでもボスへの対抗手段を見つけることだ。

妖精についてはこの村の未発見のイベントではあったのだろうが、さすがにこれでボスに対抗できるようになったとは思えない。

そもそも、目に見えない妖精を発見するなど、あまりにもイベントとしての難易度が高すぎる。これがボスを倒すための条件になるとは考えづらい。

そう結論付けた俺たちは、当初の予定通り、村の聖堂へと足を運んでいた。

「はぁ……本当に可愛いですね」

「お前さん、ちょっとキャラが崩れてないか?」

俺の頭の上に乗っているルミナに対し、最も興味を惹かれていたのは、意外にもリノだった。

かなり大人びた印象のある彼女だったが、ルミナを見つめるその表情は、だらしなく崩れてしまっている。

どうやら、可愛いモノ好きの性格のようだ。まあ、そういった性癖の奴はうちの道場にもいるし、理解がないというわけではない。

ちなみに、見つめられている当のルミナは、そんな視線など意に介した様子もなく、上機嫌な様子で俺の頭の上に腰かけている。

たまに結んでいる髪で遊んでいるのだが、バランスが崩れるので止めて貰いたい所だ。

「そんなに気になるんなら、お前さんも《テイム》を取得してみたらいいんじゃないのか? まあ、ルミナをやることはできんけど」

「ええ、ちょっと気になってはいるんですが……《テイム》って、連れているとパーティ枠を使用しないといけないんですよ」

「経験値の分配なんかは普通のプレイヤーと一緒なんですけどねー……そのせいで、野良のパーティなんかだとアイテムの分配で揉めるんですよ」

「二人分のアイテムを寄越せ、って話か?」

「ええ、そういうことですね。まあテイマーの場合、テイムモンスターの分もアイテムを負担しなきゃいけないわけですから、大変なのも分かるんですけど」

雲母水母の言葉に、俺は顎に手を当てて視線を伏せる。

それは確かに揉めそうな話だ。どちらの主張にも、決して理がないというわけではない。

俺もルミナを連れて歩くならば、その辺りのことも考慮しなければならないということか。

……まあ別に、ほかのパーティと行動を共にする機会もあまりないだろうし、それほど気にしなくてもいいのかもしれないが。

アイテムの収集にもそれほど興味があるってわけでもないしな。必要な分だけ手に入れば問題ないだろう。

それに――

「ま、一人でもどうとでもなるからな。それなら問題にはならんだろ」

「あはは……それをあっさりと言える人はそうそういないでしょうけど。あ、でも、シェパードさんみたいなのもいるんだし、珍しいわけじゃないのかな」

「シェパード?」

「《テイム》一本で食ってる、有名なソロプレイヤーの人ですよ。パーティが全部テイムモンスターで埋ってるとかなんとか」

「へぇ……」

変わった奴もいるもんだな、と内心で感心する。

《テイム》はかなり成功率の低いスキルだ。にもかかわらず、パーティを全てテイムモンスターで埋めているとなれば、相応の技術を有しているということだろう。

俺もテイマーになったわけだし、いずれはそのプレイヤーとも話をしてみたいものだ。

テイマーとしてのノウハウについては、まず間違いなくそのシェパードとやらのほうが持っていることだろう。

――そんなことを考えている間に、俺たちは聖堂の前まで到着していた。

「前に一度来たんだけど、何か変わってるのかなぁ」

「分かりませんが……とりあえず、もう一度お話を聞いてみましょう」

若干懐疑的な表情で、雲母水母とリノが扉を開く。

小さな村には似つかわしくないほどの立派な聖堂。その扉を開けば、綺麗に並ぶ座席とその奥にある舞台、そしてその上にあるステンドグラスが目に付いた。

鮮やかなステンドグラスに描かれているのは、神々しい女性の姿――崇められている女神か何かだろうか。

そしてそのステンドグラスの前、舞台の上には、一人の眼鏡をかけた男性が柔和な笑みでこちらを見つめていた。

若干白髪交じりの、初老の男性。黒い神父服を纏う彼は、俺たちの姿を捉えて声を上げた。

「おや、異邦人の方ですか。どうぞ、こちらにお入りください」

「は、はい。お邪魔します」

若干雰囲気に押されている雲母水母が、こくこくと頷きながら聖堂の中へと足を踏み入れる。

その後に続きながら、俺は周囲へと視線を走らせていた。

どう考えても村の規模にそぐわない建物だ。これは確かに、何かしらの秘密があってもおかしくはないだろう。

だが、そうであるにもかかわらず、いまだ何も見つかっていない。可能性としては、何かしらの条件を満たしていないという辺りだろうか。

現状では何とも言えんが……とりあえず、あの神父の話を聞いてからでもいいだろう。

「女神の家へ、ようこそいらっしゃいました、異邦人の方。確か、以前にも足を運んでくださった方々でしたね」

「覚えていてくださったんですか。すみません、度々お邪魔してしまって」

「いえ、構いませんとも。おや、そちらの方は初めてですね――」

神父は俺の方へと視線を向け――その目を大きく見開いていた。

彼の視線が向かっている先は、言うまでもないが、俺の頭上にいるルミナだ。

そりゃまあ、突然妖精を連れた奴がやってくれば驚きもするだろう。

「これは……驚きましたね。まさか、妖精に認められた方がいようとは」

「そんなに珍しいことなのか?」

「無論ですとも。妖精はとても警戒心が強く、心の清い人間以外には近寄りません。貴方はとても清廉な人のようだ」

「清廉なんてのは柄にもない評価だよ。俺はただの剣士だ」

神父の評価に対し、俺は肩を竦めてそう返す。

普通とは異なる経歴を積んできた自覚こそあるが、俺はそう褒め称えられるような人間ではない。

しかし、その言葉に対し、神父は苦笑交じりに反していた。

「であれば、貴方はその道を愚直に貫いてきたのでしょう。真面目な貴方だからこそ、妖精たちは貴方を見染めたのです」

「……大袈裟すぎるな」

「妖精の祝福を受けるということは、それほどの出来事なのですよ。さて、世間話はこのぐらいにしておきましょう」

柔和な笑みを湛えたまま、神父は話題を切り替える。

するりと相手の心に入り込んでくるこの手腕、神父の模範と言えるような人物だろう。

まあ、だからこそ、俺としては警戒心を抱いてしまうような相手なのだが。

彼からは害意を感じることはない。だが、テンポを握られるということは、剣士にとっては致命的であるとも言える。

警戒心は絶やさずにいるべきだろう。

「では、本日はどのような御用件でこちらに?」

「あ、はい。えっと……悪魔のことについてお話を聞きたくて」

「悪魔ですか……それは、以前にもお話ししたと思いますが?」

「そ、それは――」

「俺は悪魔について又聞きにしか聞いていないのでな。専門家の話を聞いておきたかったんだ」

動揺する雲母水母に被せるようにして告げた言葉で、神父は納得したように首肯する。

まあ、嘘は言っていない。専門家として神父の話を聞いておきたかったのは紛れもない事実だ。

しかしまぁ、このゲームのAIとやらは本当に柔軟な反応を返してくるな。

本当にプログラムで作られているのか、思わず疑問を感じてしまうレベルだ。

そんな俺の内心は他所に、神父は滔々と悪魔について語り始める。

「まず悪魔とは、この世全ての生物に対する敵対者であり、この世ならざる領域に住まう生物です」

「魔物とは違うのか?」

「ええ、魔物は人間とは敵対的な生物も多いですが、彼らは独自の生態系と生活を持っています。しかし悪魔の場合、こういった魔物たちとも敵対しているのです」

魔物とも異なる第三勢力か。プレイヤーの視点からすればどちらも倒すべき相手でしかないが、少し気になる設定だな。

魔物の方については、生物として、生態系として理解できる。

だが、高度な知能を持つ悪魔たちは、いったい何なのか。奴らは何の目的があって、この世界の生き物と敵対しているのか。

現状の話だけだと、全く理解が及ばないな。

「まあ、悪魔たちはアンデッドを従えている場合もあるという話は聞きますが……あれらは生物ではないし、魔物の中では例外ということなのかもしれません」

「アンデッドねぇ……」

そういえば、街道を塞いでいる悪魔も、アンデッドを従えているという話だったか。

配下を連れているパターンは厄介だな。アンデッドはかなりタフだという話も聞くし、対策は必要だろう。

内心でどのように相手を切るかのシミュレーションをしつつ、俺は神父の話に耳を傾ける。

「そんな悪魔たちですが……奴らには、いくつかの位階があります」

「位階? 強さの指標か何かか?」

「ええ、そう認識しても間違いではないでしょう。ある一定以上の力を持つ悪魔は、爵位を有しているのです」

「……強い悪魔は貴族ってことか?」

「さて、悪魔たちに人間と同じような階級制度があるのかどうかは不明です。ですが、より上位の悪魔が下位の悪魔を従えているのは事実のようですね」

悪魔に対する嫌悪感は隠さず、神父はそう口にする。

当たり前と言えば当たり前だが、神父は随分と悪魔のことを嫌っているようだ。

まあ確かに、話に聞く限りの性質からすれば、好むような要素など何一つないのだが。

「また、それぞれの爵位の中にも順位があるようで、その番号が小さいほど強い悪魔であるらしいです」

「そんなに数がいるのか」

「ええ、何しろ、男爵級では128体も存在するという話ですから。子爵級が64体、伯爵級が32体……そのまま侯爵級、公爵級、大公級と数が少なくなっていくそうです」

「……思ったより数が多いな」

まさか爵位持ちだけでも250体以上いるとは。

まあ、これだけ大人数で遊んでいるゲームなのだから、数はいくらいても困らないのかもしれないが。

この基準からすると、果たして街道を塞いでいる悪魔はどのレベルになるのだろうか。

まあ、最初だし、それほど強い悪魔というわけでもないとは思うのだが。

しかし、その悪魔相手に、騎士たちが敗れたという話だ。あまり甘く見積もるべきではないだろう。

そういえば――

「一つ聞いてもいいか?」

「はい、何でしょうか?」

「リブルムで聞いたんだが、以前この村に騎士たちが訪ねてこなかったか?」

「ええ、いらっしゃいましたね。彼らもまた、悪魔について尋ねていかれました」

どうやら、あの兵士が言っていた話は本当だったようだ。

少し驚いた表情の四人がこちらを見つめてくる中、俺は話を続ける。

「彼らは悪魔に挑むつもりだったのか?」

「ええ、そのようで……しかし、未だ悪魔が倒されていないということは、そういうことなのでしょうね……」

沈痛な表情で、神父は視線を伏せる。

やはり、騎士たちは悪魔に敗れていたか。

となると、例のアンデッドはその騎士たちである可能性も否定できないな。

しばし黙考し――俺は、再び声を上げる。

「……戦場に立つ人間として、彼らの無念を晴らしたい。だが、悪魔は強力な呪いを使ってくるという話だ。それを防ぐ方法はないだろうか」

「クオンさん……直球すぎません?」

「遠まわしに言っても仕方ないだろう。それで、何かないか?」

俺の言葉に、神父はしばし沈黙する。

彼の視線は俺の目をまっすぐと見つめ――その後、俺の頭上へと移っていた。

頭の上にいるのは、先ほどと変わらずルミナだ。頭に伝わる感覚から、こいつが向けられた視線に反応しているのが分かる。

神父はそのまま、しばし視線を行き来させながら黙考を続け――小さく、首肯していた。

「分かりました。通常、安易に配ってよいものではないのですが」

そう言って、神父は机の中から何かを取り出し、俺の前まで運んでくる。

彼の手の中にあったのは、不思議な紋様の描かれたメダルの付いているペンダントだった。

縦に走る一本のラインと、その周囲を回る交差螺旋、そして一対の翼のような紋様。

精緻な彫金というわけではないのだが、ハンドメイドだと考えると中々に手間のかかった一品だ。

「これは?」

「これは聖印、悪しき力を退けるお守りです。これだけで全ての影響を防げるわけではないでしょうが、必ずや貴方がたを守ってくれるでしょう」

「……いいのか?」

「ええ。妖精に認められるような清廉な人間であり、騎士様たちの無念を晴らしたいと仰ってくださった貴方ならば信用できる。この聖印を渡しても惜しくはありません。そう珍しい品というわけでもありませんしね」

若干おどけたように笑い、神父はこちらに聖印を手渡してくる。

そういうことならば、キチンと受け取っておくべきだろう。

納得し、俺は頷きながら聖印を受け取っていた。

「久遠神通流のクオン、必ずや、悪魔を討ち取ると約束しよう」

「……よろしくお願いします、クオンさん」

決意を込めた、宣誓の言葉。

それに対して、神父は深々と頭を下げていた。