軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

217:アルトリウスとローゼミア

美男子であるアルトリウスと、美少女である聖女ローゼミア。

この二人がステンドグラスの光の中に立っている光景は、中々に壮観なものである。

現に、隣にいる緋真は二人の様子を撮影しているようであった。

確かに絵になる光景であるし、残しておきたいという思いも理解できる。

まあ、アルトリウスのファンたちがどのような反応をするのかまでは分からないのだが。

「ローゼミア様。貴方の仰る通り、僕たちの目的は悪魔の駆逐、そしてこの国の復興にあります」

これに関しては、正確には少々違う。

俺のような戦闘型のプレイヤーについては悪魔を討つこと、そしてエレノアたち生産職は復興が目的となる。

異邦人全体を見れば確かにアルトリウスの言う通りなのであるが、俺にとって復興はあまり意識する内容ではなかった。

とは言え、戦う仕事があるのであれば協力することもやぶさかではないのだが。

「しかし、僕らはその責を、貴方に背負わせるつもりは無いのです」

「どういうことですか……?」

「生き残った貴族たちは、確かに貴方に立って欲しいと願っています。今この国において、その立場に立てる存在は貴方だけでしょう……しかし、できることと行うことはまた別の話です」

アルトリウスの言葉に、俺は軽く肩を竦める。

聖女ローゼミアは確かに、その立場上、この国の人々の先頭に立つことができる存在であるだろう。

だが、本人の覚悟が決まっていないのであれば、それはただの自殺でしかない。

それに、仮に彼らが戦わないとしても、ここにいるのはただ神の声が聞けるだけの少女だ。政を学んでいるわけでもないのであれば、為政者となることは難しい。

そうなれば、傀儡の女王となるか、或いは王の座に目の眩んだ男どもが集まってくるか――何にせよ、碌な状況にはなるまい。

「僕たちは、貴方を保護するためにやってきました。ここにいれば、いずれは悪魔に襲われるでしょう。その前に、街まで避難するべきです」

「ですが、私は……私には、もう何も……」

「何もないと仰るのであれば、それはつまり、貴方を縛る鎖も存在しないということです。ローゼミア様は幼少の頃よりここで修業をされていたとお聞きしています。貴方は、ずっと己の望みを持つことを知らなかったのでしょう」

後方で、アリスが僅かに身じろぎする気配を感じる。

度合いは違えど、抑圧された環境という意味では近しいものを感じたのだろう。

これに関し、俺は同情をするつもりは無い。というより、同情する資格などない。

己の願いにのみ生きてきた俺が、口出しできることではないからだ。

「ローゼミア様、貴方は何をしてもいいのです。全てから逃げることも、今の貴方には可能です。貴方が望むのであれば、僕がそのお手伝いをいたします」

「……アルトリウス様。何故、貴方はそこまで仰るのです? 異邦人である貴方にとって、私の行く末など気にするほどのものではない筈です」

「……身の丈に合わぬ使命を帯びる。その想いは、理解できるつもりですから」

僅かに、目を見開く。今の言葉は紛れもなく、アルトリウス本人の心境だろう。

この男は、果たして何と戦っているのか。一体、どのような使命を帯びているというのか。

分からないが――その真実を聞ける日は、きっと近いのだろう。

「けれどどうか……僕たちに連れ出されるのではなく、己の意志で前に進んで欲しい。それがどのような結論であったとしても、貴方の未来は、貴方自身が選ぶべきなのです。そうしなければ――貴方はずっと、鳥籠の中から出られないのだから」

「貴方は……とても優しくて、厳しいお方ですね」

そう言って、ローゼミアは僅かに笑う。

どこか寂し気に、けれど先ほどよりも確かな生気を持って。

果たして、彼女はアルトリウスの言葉に何を見出したのか……それは、この二人にしか感じ取れぬ心境なのだろう。

「……私自身が選んで、前に進む。本当に、本当に怖いです」

ローゼミアは、そう呟きながら胸の前で手を組んだ。祈るように、或いは何かを抑え込もうとするかのように。

彼女と家族の関係が如何なる物であったのか、彼女自身はどう感じてこの聖堂に住んでいたのか……全てを失った今、どんな心境でいるのか。

それが分からぬ俺には、その想いを推し量ることはできない。アルトリウスの共感とて、全てではないだろう。

だが――彼女は、そんなアルトリウスの言葉の中に、僅かな救済を見出したようだ。

「アルトリウス様、私は臆病な女です。自分で何かを選び取ったことのない私には、その一歩を踏み出すことがどうしても怖い。けれど……手を引いては、下さらないのでしょう」

「僕が手を引けば、貴方はきっと苦しむことになる。自分自身で選んだ道だという、決意すら持てなくなってしまいます」

「ええ、きっとそうなのでしょう……だから、どうか」

呟いて、ローゼミアは手を差し出す。

未知に、恐怖に竦み震える手を――それでも、必死に。

「引いていただかなくても、良いのです。けれど……どうか、せめて手を握っては下さいませんか」

「……はい。並んで、共に行きましょう、ローゼミア様」

その震える手を、アルトリウスは躊躇うことなく握ってみせた。

ローゼミアは僅かに目を見開き、そしてしばしの間黙考して――決意を秘めた表情で、顔を上げる。

彼女が見せたその表情に、俺は思わず小さな笑みを浮かべていた。

成程――ただの子供では、ないということだろう。

聖女ローゼミアは、ゆっくりと前に足を踏み出す。

アルトリウスは決して先に進むことはなく、彼女の歩調に合わせる形で足を進めた。

そんな二人の道を開けるように、俺たちは横へと避けて二人の歩みを見届ける。

ローゼミアは強くアルトリウスの手を握りながら、それでも一歩一歩確実に足を進め――ついに、聖堂の扉の前に立った。

そして彼女は、アルトリウスの手を握った左手はそのままに、震える手を伸ばしてドアノブを握る。

「……女神様の、運命という言葉の意味をずっと理解できずにおりました。けれど、今ならば分かります……貴方が、私の運命だったのですね、アルトリウス様」

「――――っ」

その言葉に、アルトリウスは僅かに驚いた様子で視線を上げ……そんな彼の表情に、ローゼミアは小さく笑う。それはまるで、年相応の少女のように。

そして――聖女ローゼミアは自らの意志で、鳥籠の中から最初の一歩を踏み出した。

差し込む昼の光は眩く、二人は目を庇うように手を上げて――ローゼミアは、感嘆するように息を吐き出した。

「ああ……こんなに、簡単なことだったのですね」

彼女はアルトリウスの手を握ったまま、空を見上げて小さく呟く。

その言葉の中には、万感の想いが込められているように感じられた。

そんな二人の背中を見つつ、俺は周囲の気配を探る。

どうやら、先程から隣の部屋で様子を見ていたらしい二人分の気配が移動しているようだ。

恐らく、その二人はローゼミアの使用人か何かなのだろう。俺たちの来訪を予見していた以上、外に出るための準備をしていた可能性は高い。

彼女がこの場を離れる決意を固めたことで、使用人たちも行動し始めたのだろう。

「さてと……俺たちも準備するぞ」

「え、準備ですか? 馬車まで案内するとか?」

「阿呆、このまま普通に終わると思うな。悪魔共が目を付けている可能性は十分にあるぞ」

言いつつ、餓狼丸の鯉口を切る。

流石にお姫様の後ろで刀を抜く訳にはいかないので、俺はさっさと外に出て周囲の状況を確認した。

使用人たちもこちらに向かってきている気配がある。程なくして出発できるだろうが、気を抜くわけにはいかない。

「アルトリウス、姫さんの護衛はアンタに任せるぞ」

「クオンさん?」

「使用人たちが来たらさっさと馬車まで向かう。敵の相手は俺に任せろ」

「……分かりました、よろしくお願いします」

「あ、あの……貴方は」

聖女ローゼミアは、遠慮がちな様子で俺の方に声を掛けてくる。

彼女の方へと視線を向ければ、彼女は遠慮がちな様子で誰何の言葉を発してきた。

どうやら、アルトリウスにばかり意識が向いていたようだ。

「失礼、俺はクオンという。アルトリウスの同盟者だ……まあ、今は護衛程度に思ってくれ」

「安心してください、ローゼミア様。彼は、異邦人最強の剣士ですから」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「あまり無茶振りをしてくれるな……使用人たちが来たみたいだぞ」

見れば、ローゼミアの服をもっと簡略化したような神官服を纏った二人の女性が、大荷物を持ってこちらへと駆けてくる。

質素な暮らしをしていたとしても、着替えだけでそれなりの量はあるだろう。

まあ、馬車ならばあれを運ぶのに困りはしないだろう。

確かに、アルトリウスの言う通り、馬車は必須であったようだ。

「アミラ、クーナ……」

「ローゼミア様の御召し物はこちらに。ご決断なされたこと、とても嬉しく思います」

「アルトリウス様、でしたか。今回は目を瞑りますが、姫様に不埒な真似はせぬように」

「クーナ! こ、これは私が申し出たことですから!」

何ともまあ、姦しい様子だ。

所作に洗練されたものを感じる 森人族(エルフ) の女性がアミラで、剣呑な様子の狼の 獣人族(ハーフビースト) の女性がクーナか。

世話係がいるというのであれば話が早い、基本的な扱いは彼女たちに任せることとしよう。

「とりあえず、馬車まで案内する。乗り心地については正直そこまで期待しないでほしいが――っ!」

いつまでも立ち話をしていても仕方がないと、馬車の方へ案内しようとして、俺は弾かれたように空を見上げる。

向こうから近づいてくる気配、これは……!

「緋真、ルミナとアリスもだ! アルトリウスと共に護衛に付け!」

「了解です!」

「お父様は――」

「セイランと共に迎撃だ、だが別動隊を警戒しろ、いいな!」

案の定と言うべきか、ただで帰してはくれないようだ。

今回は重要な護衛対象がいる。念には念を入れて、そちらに多めに戦力を割り振った。

さて、どのような敵が来るのかは分からないが――確実に仕留めるとしよう。