軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

213:悪魔の目的

「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「しッ!」

巨体を持つレッサーデーモンが拳を振り上げ――それを振り下ろすよりも早く、俺はその悪魔へと肉薄する。

恐らく、警備か何かのつもりだったのだろう。大型のレッサーデーモンは、確かに見た目の威圧感はかなりのものだ。

とは言え、俺にとっては慣れた相手。魔法で強化済みの武器であれば、容易くその肉を貫くことができる。

下から掬い上げるように、肋骨の下から心臓を穿ち、抉る。それだけで大量の血を噴出した悪魔は前のめりに倒れる。

その下から逃れるように移動し、俺はそのまま傍にいたデーモンへと刃を振るった。

「『生奪』!」

「ガ……ッ!?」

レッサーデーモンの巨体で見えていなかったのだろう。

俺の動きに反応しきれなかったらしいデーモンは、その身を肩口から斬り裂かれて倒れ伏した。

そこまできて、ようやく状況を理解したのだろう。遠巻きに立っていたデーモンナイトが反応する。

剣を抜き放ったデーモンナイトは、驚愕を滲ませた声を上げながらこちらへと駆け寄ってきた。

「何をいきなり……邪魔立てするか、人間!」

「無論。貴様らの好きになどさせるものか」

歩法――烈震。

緋真たちが降下してきた気配を感じながら、ただ前へ。

剣を抜いたデーモンナイトへと肉薄し、咄嗟に反応してきた悪魔の刃にこちらの刃を合わせる。

斬法――柔の型、流水。

攻撃を受け流されたデーモンナイトは、体を泳がせ態勢を崩す。

そのまま脇構えに構えた刃を、俺は前へと進み出ながら振り抜いた。

「『生奪』」

脇腹を半ばまで裂かれ、デーモンナイトは血を噴出させながらその体勢を崩す。

左足で踏み込んでいた俺は即座に反転し、悪魔の背中を深く斬り裂いた。

夥しい量の血を流し、デーモンナイトは倒れ伏す。だが、俺はそれには頓着せず、踏み潰しながら前へと進み、壇上から飛び降りた。

斬法――柔の型、襲牙。

そのまま、下にいた悪魔へと刃を振り下ろし、その肩口から刃を突き入れる。

体内を蹂躙しながら押し潰すように着地して、餓狼丸の柄を握り直して一閃。

悪魔の体をまるで鞘に見立てたかのような居合の一撃は、目の前にいたもう一体の悪魔を股下から肩口まで斬り裂いた。

汚らわしい緑の血が付着した餓狼丸を振るって血を払い落とし、袖口で刃を拭う。

――その瞬間、唐突に周囲から歓声が上がった。

「助けだ! 助けが来たぞ!」

「その悪魔たちを殺してッ、早く!」

さて、あまり騒いで欲しくはなかったのだが、この状況では仕方あるまい。

悪魔に支配され絶望していた状況に、降って湧いた救いだ。

これで興奮するなという方が無理な相談であろう。

とりあえずは、この広場を確保しなくてはならない。人々を比較的安全な場所に固めることが優先だ。

「助かりたければ壇上に集まれ!」

今の所周りにいる悪魔が雑魚ばかりであるとはいえ、余裕はあまりない。

まずは、目に届く限りの悪魔を片付けなければ。

悪魔の姿が消えた壇上へと人々を誘導しながら、その流れを止めようとする悪魔へと襲い掛かる。

斬法――剛の型、穿牙。

突き出した餓狼丸の切っ先はデーモンの背から心臓を貫く。

そのまま刀の峰を篭手で押し上げて肉を抉り、そのまま振り抜くように斬り裂く。

急所を徹底的に破壊された悪魔はそのまま前に倒れ、黒い塵となって消滅した。

頬に着いた血は拭い取り、呆気に取られている人々からは背を向けて悪魔の様子を観察する。

緋真たちが上手く動いているおかげで、この舞台の周囲にいた人々は何とかなりそうだが――

「チッ……!」

遠くからこちらに走ってくる人々、彼らについては扱いが難しい。

流石に、この距離では悪魔の攻撃が届く方が速いだろう。

そんな危惧は、今現実の光景になろうとしている。こちらへと走ってきている子供――悪魔の手は、今にも二人の子供に届こうとしていた。

その姿を目にして、俺は舌打ちと共に刃を鞘に納める。

「《練命剣》、【命輝一陣】ッ!」

斬法――剛の型、迅雷。

体を捻り、撃ち出す様に放った居合の一閃。

その神速の刃と共に繰り出された生命力の刃が、子供の頭の上を飛び越して悪魔の首を断ち斬った。

何度か使用していて判明した事実であるが、どうやら【命輝一陣】は刃を振るう勢いがその威力や速度に影響するらしい。

であれば、俺にとって最速に近い一撃である迅雷であれば、凄まじい速さで飛ばすことも可能であるということだ。

背後で何が起こったのかも理解できていない子供は、そのまま俺の横を通り抜けて舞台の方へと走っていく。

無事な姿に僅かながらに安堵して――接近してくる強い殺気に、餓狼丸を構え直した。

「オオオオオオオオッ!」

「……!」

こちらへと駆けてくるのは、巨大な戦斧を持ったドレッドヘアーの男だ。

感じ取れる禍々しい気配から、奴が悪魔であることは窺える。

その保有する魔力が、非常に強力なものであるということも。

斧の男は俺の姿を認めると、大きく跳躍し、火を噴き上げる斧を俺へと向けて振り下ろしてくる。

小さく舌打ちしながらバックステップして距離を取り、その一瞬後。俺が居た場所へと叩き付けられた斧は、地面を破壊しながら巨大な炎を噴き上げた。

「何をしてやがる、人間風情がァッ!」

「こちらの台詞だクソ悪魔。人間を集めて、一体何をやってやがる」

餓狼丸を霞の構えに、切っ先を相手へと向けながら問いかける。

対する大柄な悪魔は、厳つい様相を苛立ちに歪めながら声を上げた。

「俺が知るかよ、クソが! 一気に人間を殺すなっつーお達しだよ!」

「何だと……?」

「ったく、気に入らねぇ……憂さ晴らしをさせて貰うぞ、人間ッ!」

話は良く分からないが、どうやらこの悪魔には上役がいるようだ。

それがこの国を攻撃した悪魔共の首魁なのか、それはまだ分からないが……何にせよ、警戒せざるを得ない。

だが、今は目の前の悪魔だ。視線を細め、相手の動き全体に意識を集中させながら、僅かに重心を落とす。

「子爵級26位、グレイガー。テメェを叩き潰す!」

「やってみろ。できるものならな」

「抜かせッ!」

グレイガーと名乗った悪魔は、斧を肩に担いで構える。

その様を見つめ、俺は整息して意識を集中させた。

相手は子爵級、その上順位も高い。伯爵ほどでないとはいえ、決して油断できない相手だろう。

グレイガーは動かぬ俺に痺れを切らしたか、斧を担いだまま俺へと突撃してくる。

炎を纏って振り下ろされる斧は、非常に高い威力であることが予想できるものだ。

受けることは難しいし、直撃を受ければそれだけで死に直結する。

であれば――

歩法――縮地。

「ッ!?」

「遅い」

奴が斧を振り下ろすよりも速く、その懐へと肉薄する。

そのまま相手の顔面へと向けて突き出した刃に、グレイガーは即座に反応して首を傾ける。

大した反応速度だ。どうやら、実力はかなりのものであるらしい。

グレイガーは、接近した俺に対し反射的に斧を振り下ろす。

この距離では柄で打ち付ける程度にしか攻撃できないだろうが、それでもこの膂力相手では油断できないだろう。

故に――その一撃は受け流す。

打法――流転。

振り下ろしてきた攻撃の腕を左の肘で受けつつ体を回転させ、右手で相手の腕を掴み、背を支点にして投げ飛ばす。

そして背中から地面に叩き付けられた悪魔へ、切っ先を突き出しその身を貫こうとするが、相手は即座に反応して転がり、俺の刃を回避した。

そのままグレイガーは起き上がる勢いで斧を振るい、俺の足首を狙う。

対し、俺は前に跳躍して斧を躱しつつ、相手の肩を踏んで頭上へと跳躍する。

斬法――剛の型、天落。

前屈みになった相手の背へと向け、餓狼丸の切っ先を振り下ろす。

だが、グレイガーは即座に前転し、俺の一撃を回避してみせた。

敵ながら、かなり反応速度が良い。まさか、ここまでの攻撃を全て回避されるとは。

「成程……子爵級というだけはある。大したものだ」

「テメェ……ただの人間じゃねぇな」

「ただもクソもあるか。人間は人間だ、それ以上も以下もあるかよ」

「ハッ……そんな苦い表情して言うセリフかよ」

その言葉には反応を返さず、静かに意識を集中させる。

大雑把そうな性格をしている割に、かなり細かい反応を見せてくる。

こいつを攻撃するのに、雑な攻撃では届かないだろう。厄介なことであるが、完全に崩さない限りとどめを刺すことは難しい。

もう少し、相手の動きを観察しなければならないか。

緋真たちはこの悪魔の相手を完全に俺に任せ、他の悪魔の駆逐と住民の保護を優先しているようだ。

こちらとしても、その方が助かる。この悪魔が相手では、他に意識を向けている余裕はない。

他の悪魔共のことは任せ、俺はこいつに集中することとしよう。

(しかし……厄介だな)

グレイガーは、再び俺へと接近して斧を振り下ろしてくる。

その熱を肌で感じながら、俺は一歩前へと踏み出し、その一撃に刃を絡めた。

斬法――柔の型、流水。

炎を噴き上げる斧を受け流しつつ、前へと進み出る。

奴の左側を抜けるように刃を滑らせれば、防具の隙間を縫って脇腹に浅い傷を負わせることが可能だ。

だが、これだけでは大したダメージにはならない。

事実として、HPも殆ど減っていない状態だ。

(攻撃力、防御力共に高い。こうしてカウンターで当てる分には反応しきれんようだが……)

普通に斬ろうとしても反応されてしまうのは厄介だ。

特に、溜めや隙の大きい剛の型の術理の一部は、こいつ相手には相性が悪いだろう。

であれば、いかにしてこいつを崩すか。

あまり時間をかけている余裕もない。余計なことは考えず、有効な手だけを打っていくこととしよう。