軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209:上空の魔物

街からある程度進んだところで、俺たちは空中での移動に切り替えた。

正直アリスは戦いづらいのだが、あまり地上を進んでいても目的地が分かり辛い。

そのため、空中から目的地を発見するために、俺たちは移動方法を空に切り替えたのだ。

無論、空は空で出現する魔物が異なる。空中にいる俺たちを追い回すように姿を現したのは、しかし鳥の魔物ではなかった。

■ダークゴースト

種別:魔物

レベル:45

状態:アクティブ

属性:闇・氷

戦闘位置:空中

■ホーンテッドミスト

種別:魔物

レベル:43

状態:アクティブ

属性:闇

戦闘位置:空中

ダークゴーストは薄布を纏った骸骨のような姿をした、半透明の幽霊の魔物。そしてホーンテッドミストは白い靄が顔状になって浮かんでいる奇妙な魔物だ。

分類としてはどちらも幽霊、つまりアンデッドの魔物だろう。

確かに、前も悪魔の支配領域ではアンデッドが出現していたこともあったし、こいつらも悪魔共が使役している魔物であるということだろう。

厄介なのは――

「数が多いな!」

「これ、流石におかしくありません!?」

薄く輝く俺の野太刀とルミナや緋真の魔法が閃き、ゆらゆらと揺れるホーンテッドミストが一気に散る。

だが、このホーンテッドミストたちはかなり数が多いのだ。

空中を埋め尽くさんばかりに存在するホーンテッドミストは、範囲魔法で一気に吹き飛ぶものの、その隙間を埋めるように他のホーンテッドミスト共が集まってくる。

その合間にいるダークゴースト――この動きを見るに、どうやらあの黒い幽霊がホーンテッドミスト共を操っているようだ。

「――セイラン!」

「ケエエエエッ!」

それを理解し、俺は即座にセイランを加速させる。

風を纏ったセイランは、その力で集まってくるホーンテッドミストを吹き払い、ダークゴーストまで接近するための道筋を作り上げた。

大きな翼は空を打ち、セイランの体は一気に加速する。

それと共に俺は足だけで体を支え、両手で野太刀を掴みながら前傾姿勢で構えた。

「『生奪』……!」

ダークゴーストは骨の腕を掲げ、こちらへと向ける。

それと共に発生するのは黒い闇の球体だ。

弧を描くようにこちらへと飛来するその魔法に対し、セイランは細かく体を揺らすように小刻みに左右に動き、その攻撃を紙一重で回避した。

俺の方は体を左右に揺らされるおかげでかなり大変なのだが、それでもその苦労をするだけの価値はあっただろう。

俺たちは、攻撃を受けることなくダークゴーストまで接近することができたのだから。

「しッ!」

振るう刃が、ゴーストの細い体を薙ぎ払う。

殆ど感触もないが、それでも確かにこの幽霊の体を斬り裂くことができたようだ。

こいつらは物理攻撃そのもののダメージは通らないようだが、【武具精霊召喚】の効果によって俺の攻撃は魔法としての性質も得ている。

それに《練命剣》の効果も乗せれば、体力の少ない幽霊程度、物の数ではない。

こいつらの厄介な点は、ホーンテッドミストを際限なく集めてくることだ。

ホーンテッドミストはある程度の魔法を操る他、接触した相手の体力を奪い取る能力を有しているらしい。

接近に気づかず触れられると、こちらの体力を吸収されてしまうのだ。

一体だけならばそれほど脅威にはならないが、これだけの数に一気に集られるのは流石に拙い。

しかし――

「俺にはこれしか対処法が無いんだがな……《練命剣》、【命輝一陣】!」

集まってきたホーンテッドミストたちを、生命力の刃で薙ぎ払う。

接近されないように攻撃を当てるには、これしか方法が無いのだ。

しかしこいつらからはHPの吸収がやり辛く、こちらの回復手段が限られてしまう。

総じて、面倒臭い敵と表現すべき相手だろう。

「クェエエエエエッ!」

甲高い叫びと共にセイランが雷撃を放ち、【命輝一陣】で残ったホーンテッドミストを消し飛ばす。

やはり、こいつら相手には魔法が有効ということだろう。

残念ながら属性が闇であるため、アリスの攻撃はあまり通用しておらず、緋真の背中で不満げにしていたが。

レベルが上がったら光魔法を覚えるのであろうし、そこまでは辛抱して貰いたいところだ。

(残りは……あと一体か)

視線を巡らせ、ダークゴーストの姿を確認する。

白いミスト共の中に一体だけ存在しているため、発見することにはそれほど苦労しないのだ。

思ったよりも数が少なかったが、どうやら相性的に有利な緋真やルミナが俺よりも多くの敵を片付けていたらしい。

まあ、それならそれでいいだろう。俺としても、あまり楽しい相手というわけでもない。

尤も――目に入った敵を見逃すつもりも無いのだが。

「《練命剣》――【命輝一陣】」

振るった刃より放たれた黄金の生命力が、ミスト共を消し飛ばしながらゴーストへと迫る。

だが、多くの敵に阻まれたためか、俺の一撃は目標に届く前に消滅してしまった。

しかし、それでもゴーストの姿自体は完全に露呈した。であれば――

「クケェッ!」

セイランの周囲に複数の雷の球体が出現し、ゴーストの方へと向けて発射される。

セイランは以前よりも雷の魔法を多用するようになった印象だ。どうやら、ヴェルンリードとの戦いで何かしら思う所があったらしい。

撃ち放たれた雷の弾丸は絡み合うような軌道を描きながらホーンテッドミストに突き刺さり、雷を拡散させてミスト共を文字通り霧散させる。

それと共にセイランは強く羽ばたいて加速し――

「《蒐魂剣》」

左手で小太刀を抜き放ちゴーストの放った闇の弾丸を斬り裂く。

そして、小太刀はすぐさま納刀して刃を構え直し――

「『生奪』!」

その先にいたダークゴーストを、生命力の刃にて斬り裂く。

真っ二つになった幽霊は、そのまま宙に溶けるように消滅し、そこで戦闘は終了した。

『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀術》のスキルレベルが上昇しました』

『《降霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『《HP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』

やたらと苦労する羽目になったが、何とか終わったようだ。

小さく溜め息を吐き出し、野太刀を背中の鞘に納める。

何とも面倒な相手だった。しかも、死体が残らないためか何のアイテムも得られていない。

少なくとも、あれだけの数がいたにもかかわらず何のアイテムも残さなかったホーンテッドミストは、アイテムを持っていないと判断してもいいだろう。

「うーむ……実入りの少ない敵だな」

「経験値効率はかなり良かったですけどねぇ……でもアリスさんには美味しくない相手でしたか」

「そうなのよね。一応、今のでレベル50になったから光魔法は覚えたけど、まだそれほどダメージは出ないわ」

どうやら、アリスも新たなウェポンスキル、マジックスキルの枠を手に入れたらしい。

アリスの場合はサブで育てていたスキルを入れるわけではなく、大幅な強化とはならないが、今後の大きな布石となるだろう。

ともあれ、随分と時間を食ってしまった。今の遭遇が無ければ、南端の八大都市には既に辿り着いていたかもしれない。

確か――

「スヴィーラ辺境伯領、アイラムだったか。方角は合ってるはずだが」

「まだ見えてこないわね」

「空中を移動してるとまたあいつらに遭遇しそうですけど、どうしますか?」

「ふむ……そうだな、今のと戦うのは時間がかかりすぎる。大人しく地上を――」

森になっているが、地上に降りられる場所を探して視線を降ろし――ふと、異様な光景が目に入る。

木々の間から見えた、何者かの動く姿。

一瞬オーガかと思ったが、その割には随分と小さい。あれは――

「……デーモンナイト、ですかね?」

「いや、それだけじゃない。人間もいるぞ」

地上を歩いていたのは、悪魔によって引き連れられた人間たちだった。

木々に隠されて見えづらいが、人間の数はそれなりのものだろう。

数多くの人々が、悪魔に引き連れられる形で移動している。

「悪魔が……人間を殺さずに、移動させているの?」

「ヴェルンリードのような、人間を殺さずに何かを行う悪魔がいるってことでしょうか?」

「分からんが……見逃す理由は無い」

少々厄介な場所ではあるが、襲撃することは可能だろう。

今殺されていなかったとしても、悪魔の性質上、いずれ殺されてしまう可能性は高い。

一刻も早く、彼らを救出せねばならないだろう。

……正直、助けた後の問題もあるが、それは後回しだ。

「行くぞ、早急にあの悪魔共を片付ける……アリス、先鋒は任せるぞ」

「了解。さっきはほとんど何もできなかったしね、今度は暴れさせて貰うわ」

攻撃が通じない相手に鬱憤が溜まっていたのだろう、アリスは見た目にそぐわぬ獰猛な笑みを浮かべて地上の悪魔を睥睨する。

やる気になっているようであれば、思う存分暗殺して貰うとしよう。

まだこちらは気づかれていない。であれば――まずは、相手の出鼻を挫かなければ。

そう胸中で呟いて、俺は小さく笑みを浮かべながら、セイランを旋回させた。