軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

207:滅亡の瀬戸際

街に近づいたところ、やはりと言うべきか、内部へ入るための門は閉ざされている状態にあった。

街の周囲で悪魔が出現するぐらいなのだ、警戒しているのも当然といえば当然だろう。

しかし、中に入れて貰わないことには話が進まない。見張りの兵はいるようだし、交渉することは可能だろう。

騎獣に乗ったまま街へと接近すれば、門の横に立っていた二人の兵士が警戒した様子で構える。

流石に武器を向けてくるほどではないが、かなり警戒されてしまっているようだ。

とりあえず騎獣から降りてゆっくりと近づけば、兵士たちは緊張した様子で誰何の声を上げた。

「な、何者だ!」

「……ベーディンジアよりやってきた、異邦人の者だ」

「ベーディンジアから……!?」

俺の言葉に、兵士たちは驚いた様子で顔を見合わせる。

どうやら、彼らもある程度は情報を持っているようだ。

今の反応からして、少なくともベーディンジアが悪魔に攻められていたことぐらいは把握しているらしい。

そして、だからこそ驚いたのだろう。俺たちがここにいるということは、即ち悪魔を退けたということなのだから。

「悪魔共を……倒してきたというのか」

「ああ、ベーディンジアには、既に悪魔は存在しない。全て駆逐し、異邦人はこの国への移動を開始し始めている。俺たちは、その先駆けだな」

「驚くべき話だが……それを証明する手段はあるか?」

「悪魔を全滅させた証明って……どうしろと?」

兵士たちの言葉に、アリスが眉根を寄せてそう呟く。

そりゃまあ、そんなものを証明する手段などない。精々、俺たちが今ここにいること自体が証拠だという程度の所だ。

尤も、俺たちが悪魔ではないと証明する手段自体はあるのだが。

「あー……とりあえず、俺たちは悪魔ではない。これを持っているのは証明になるか?」

「おお、それは!」

言いつつ俺が取り出したのは、アドミナ教の聖印だ。

あの男爵級悪魔、ゲリュオンと戦った時のキーアイテムであるが、設定的には悪魔の力を退けるものであるという。

アドミナ教はこの国の宗教であるし、多少は話も通じるかと思ったが――その反応は劇的であった。

驚いた様子で目を見開いた兵士二人は、途端にその相好を崩す。

どうやら、俺たちのことを人間であると判断したらしい。

「聖別された聖印をお持ちとは……数多くの悪魔と戦われてきたのですね」

「お、おお……まあ、そう言えば確かにそうだな。あまり数を数えたことはなかったが」

「先生、《一騎当千》の称号を持ってるじゃないですか」

確かに、あの時既に千体以上の敵と戦っていたのである。

まあ、あの時のイベントではスレイヴビーストも数多く存在していたため、倒してきた敵の内訳の全てが悪魔というわけではなかったのだが……今回の戦いを含めれば悪魔だけで千を越えていても不思議ではない。

しかし、別段数が増えたからどうだという話でもない。強力な悪魔を討ち、その地を解放することができたかどうか、それが重要なのだ。

その足掛かりとして、この街に入れるのであれば言うことはない。

「どうぞ、お通り下さい。流石に門を開く訳にはいきませんが、こちらの通用口からなら」

「ああ、感謝する……セイランは通れなさそうだな」

人間用の通用口であるため、流石に巨体を持つセイランでは通れない。

素直に従魔結晶に戻し、通用口を通って街の中へ入る。

内部の様子は――比較的、普通であると言えるだろう。戦時中の落ち着きの無さは感じるが、それでも末期という様子ではない。

街の外を悪魔がうろついている割には、かなり普通の印象だ。

「……この街は、まだ悪魔に襲われてはいないのか? 街の外を悪魔共がうろついていたが」

「ええ、今の所、大挙して襲ってきてはいません。尤も、外に出た者が襲われる事件は起きていますが……」

「そうか……とりあえず、色々と話を聞いてみるとするよ」

「分かりました。ようこそ、カミトの街へ」

門番の兵士たちに見送られ、街の中へと足を踏み入れる。

とりあえず、結晶に戻していたセイランを再び呼び出し、街の中へ。

人々の往来は、やはり少ない。流通が滞っているため、物が不足しているのだろう。

その辺りについては『エレノア商会』が到着すれば解決するだろうが、やはり戦の影響は存在するようだ。

「ふむ……あの勢力図からして、かなり末期の様相かと思っていたんだが、思っていたほどじゃないな」

「最悪、最初の街から滅んでいる可能性も考えてはいたんですが……」

「思っていたほど悪くないならいいんじゃない?」

「確かにそうなんだがな……だが、理由は知っておきたい。この状況からして、奴らがその気になれば、この街を滅ぼすこともそう難しい話ではない筈だ」

業腹ではあるが、悪魔共の勢力は非常に強大だ。

この小さな街程度、簡単に滅ぼせてしまったとしても不思議ではない。

だというのに、このように平穏に暮らせているということは――

「……まずは、石碑を解放するか。それから情報だ」

「あ、はい。そうですね。とりあえずは移動できるようにしないと」

現状、判断に足る情報はない。情報を集めるためにも、まずは準備を整えるべきだ。

とりあえず街の中心へと進みつつ、周囲の状況に視線を走らせる。

人の姿は少ないとはいえ、皆無というわけではない。

単純に、物資が不足しているから出歩く理由が少ないということだろう。

あまり良い状況であるとは言えないが、人々の様子はまだ落ち着いている。パニックが起こるほどの状態ではないだろう。

「物って言うか……売り物が少ないですね。食べ物は、ギリギリ何とかなってるみたいですけど」

「一応、自給はできるようだな。だが、それが万全であるとも言い難い。徐々に疲弊していく、嫌な空気だ」

まだ平気であるとはいえ、今後も平気であるとは限らない。

この街は、戦力的にはあまり高いとは言えないだろう。

攻められればそれまでであるし、そうでなかったとしても徐々に疲弊していく。

まだ最悪の状況になる前に辿り着けたことは、せめてもの幸運であっただろう。

いつも通り街の中央にあった石碑に触れ、機能を解放する。

これで、とりあえずベーディンジアと行き来をすることが可能になった。

だが、現状向こうに戻る理由も無いし、とりあえずこちらで活動を続けて問題ないだろう。

「よし……さっさと狩りに行きたい所ではあるが、状況だけは確かめておくか」

「周り悪魔だらけで、あんまり稼ぎにはならないけどね」

「魔物もいると思うんだがな……とりあえず、適当な店に入るか」

話を聞いてみないことには始まらない。とりあえず、俺は仲間たちと共に近場にあった店、武器屋へと足を踏み入れる。

こちらは、ある程度物は置かれているようだ。街の人間は、あまり武器を必要とはしていないということか。

或いは、そういった高い買い物をする余裕が無いのか――どちらにせよ、話を聞くことはできそうだ。

とりあえず商品にも目を通してみるが、今の所俺たちが装備している武器より強力な物はないようだ。

というか、武器については成長武器があるし、それ以外の装備は基本的にフィノに任せている。ここで購入する物はなさそうだ。

だが――

「少ないですけど、ミスリル製の装備がありますね」

「そういえば、この国が特産だと言っていたな。今の状況でもまだ残ってはいるのか」

俺たちの成長武器以外の装備はミスリルで造られている。

エレノアはどうやってこちらの国の素材を手に入れたのやら。

新しい国に来たことであるし、新しい素材というものも少々気になる所ではあるが――この時点では、あまり期待できないか。

「ふむ……店主、少し話を聞いてもいいか?」

「うん? おお、お客さんか。何だい?」

どうやら、閑古鳥が鳴きすぎて俺たちが入って来たことにも気づいていなかったらしい。

まあ、街があの状況では店が繁盛しないのも仕方がないだろう。

「俺たちは最近この国にやってきたばかりなんだが、今この国はどんな状況なんだ?」

「ああ、他所の国の方かい。悪いことは言わない、さっさと出て行った方が良いよ……この国は終わりだ」

「どういうことだ?」

俺の問いに対し、店主は深々と溜息を零した。

しかし、まさか一言目から逃げることを勧められるとは。

果たして、どんな状況になっていることやら。

「ある日、突然悪魔の軍勢が攻めてきたのさ。あいつらは、八大都市と王都、全てを同時に攻撃したそうだ」

「八大都市?」

「ああ、王都アドミシアを囲む形で点在する八つの領地、その領都となるのが八大都市さ」

「つまり、悪魔共はこの国の重要拠点を全て一斉に攻め落としたと?」

「そういうこった。そんな奇襲の前には成す術無く、都市は制圧された」

店主の言葉に、思わず沈黙する。

悪魔共の勢力の大きさもそうであるが、それほど組織立った行動を取っていること自体が既に脅威だ。

ヴェルンリードのような力任せな侵攻ではない。どうやら、悪魔の中に確かな知識と実力を持った将がいるようだ。

しかも、大国を一気に攻め落とせるほどの戦力となると、その規模は俺では想像も出来ないほどだ。

果たして、この地にはどれほどの怪物がいることやら。

「それって……その都市にいた人たちは、全滅したんですか?」

「さあ、分からんね……あれ以降、誰も大きな都市には近づいていない。近づきさえしなければ、悪魔共はあまり襲ってこないからね」

「襲ってこない? 悪魔共が、街を奪っただけで止まっているっていうのか?」

「そのようだね。とは言え、近場にある街は順々に襲われているらしいし、時間の問題ではあるよ。この街はまだ大丈夫そうだがね」

対岸の火事よりは深刻だが、ある程度悪魔の動きが見えているが故の危機感の無さだったか。

正直、あまり安心できるような話ではないと思うのだが……事実、悪魔共の動きは鈍いようだ。

人間と見るやすぐさま襲い掛かってくるあの悪魔共が、こうも動きが鈍いというのはどうも裏を感じる。

果たして、何を企んでいるのやら……ヴェルンリードのこともあるし、悪魔自身の嗜好というものが存在することは分かっている。

今回もそんな要素が絡んでいるのか、或いは他に何らかの理由があるのか……とりあえず、悪魔に接触しないことには分からないか。

「一番近い八大都市はどこにあるんだ?」

「ここから北東にしばらく進んだ辺りだが……まさか、行くつもりかい?」

「異邦人なんでね、悪魔を狩るのが仕事だ。とりあえず、悪魔に接触してみんことには状況も分からんし、やるだけやってみるさ」

「……そうかい。あんたに、女神さまのご加護が有らんことを」

諦観に満ちた店主に対して軽く手を振り、店を辞去する。

さて――ある程度の状況は知れた。後は、自分の目で確かめてみるとしよう。