軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

205:削り取る岩塊

『――――ッ!』

巨大な岩の塊が、目の前を通り過ぎる。

腕を振り回して暴れるマウンテンゴーレム、その姿はまるで小さな竜巻であるかのようだ。

とてもじゃないが受け流せるような重量ではなく、コイツの攻撃相手には回避以外に取れる選択肢はない。

攻撃の出がかりを潰そうにも、多少の攻撃では怯みもしないのだ。

動きを鈍らせられるとしたら精々がセイランの突進ぐらいであり、他にこのデカブツのテンポを崩せる者はいない。

尤も――

「ま、その動きはカモですけど……【紅桜】!」

緋真が横薙ぎに振るった刃から、小さな火の粉が花弁のように散る。

そしてその火の粉がマウンテンゴーレムの腕に触れた瞬間、連続して小さな爆発が発生した。

的が大きい上に動きまで大きいマウンテンゴーレムには、この攻撃はかなり効果的であるようだ。

マウンテンゴーレムのHPはそろそろ半分を割った辺りであり、中々いいペースで削れてきている状況だろう。

尤も、だからと言って油断できる訳ではないのだが。

「……しかし、お前さんはやれることがないな」

「仕方ないじゃない。刺したって大したダメージにならないんだから」

俺の後ろに控えているアリスは溜息を吐きながら手の中のネメを弄んでいる。

非生物系の敵でも弱点があればアリスの攻撃も十分に通じるのだが、マウンテンゴーレムの弱点は頭頂部にあるらしく、あの暴れ回るゴーレム相手には狙いづらい位置になってしまう。

普段であれば頭上まで登って対処するところであろうが、あの暴れっぷりではそれも難しいだろう。

少なくとも、今の状況ではセイランたちですら近寄ることができないのだから。

結果的に、現在のアリスは相手に向かって適度に魔法を放つ程度にしか攻撃ができていない。

弱点を狙えるタイミングがあるとすれば――

「ルミナ、セイラン、右腕を崩せ」

「はいっ!」

「ケエエエエエエッ!」

無秩序な攻撃が終了した瞬間、マウンテンゴーレムは数秒間動きを止める。

その瞬間を狙い、上空に待機させておいたルミナとセイランがマウンテンゴーレムへと襲い掛かる。

緋真の【紅桜】によってダメージを受けていたマウンテンゴーレムの右腕には、その二連撃によって亀裂が走る。

瞬間、俺と緋真はゴーレムへと向けて一気に駆けだした。

歩法――烈震。

動きを止めている時間はほんの僅かだ。

今のうちに奴の腕を破壊し、更に攻撃を畳みかけなければなるまい。

「《練命剣》――【命輝閃】!」

「【緋牡丹】」

俺と緋真、共に最大の攻撃力を誇る一撃だ。

俺の一閃は亀裂を深く抉り、そこに突き刺さった緋真の一撃は炎と共に腕を砕く。

腕を破壊されたマウンテンゴーレムは、その腕を再生するまでその場から動けなくなる。

その瞬間を狙って、マウンテンゴーレムの背を駆け上ったアリスが刃を閃かせた。

「これなら、効くでしょう!」

防御を貫通するアリスの一撃がマウンテンゴーレムの弱点へと突き刺さる。

毒は効果が無いため付与していないようだが、それでも十分なダメージを与えられたようだ。

動けぬうちにダメージを与えようとアリスは幾度となく刃を振り下ろし、こちらもゴーレムの左腕へと攻撃を重ねる。

胴体の方がダメージの倍率は良いのだが、動きを止めることを考えると腕を交互に破壊する方が効果的なのである。

「よし、下がれ!」

腕の再生が進んでいるのを確認し、一斉に距離を取る。

腕の再生を完了させたマウンテンゴーレムのHPは、残り三分の一程度まで削り取ることができたようだ。

これならば、あと二度程度崩せば倒し切れるだろうか。

そう判断して体勢を立て直し――

『――――ッ!!』

マウンテンゴーレムが、威嚇するように大きく腕を振り上げる。

これまでは見せなかった動きに、警戒して刃を構え直す。

この距離では腕を振り下ろしたところで届きはしない筈だが……さて、何をするつもりか。

訝しんで眉根を寄せた、その直後――マウンテンゴーレムは、その両腕で思い切り地面を叩き、大きく上空に舞い上がった。

「はぁ!?」

「そんな無茶ある!?」

まさかあの巨体が宙を舞うとは思っていなかったのか、緋真とアリスが驚愕の声を上げる。

俺は声こそ上げなかったが、心境としては同じようなものだ。

マウンテンゴーレムは巨大な石像だ。確かに中々軽快な動きはしていたが、ここまで身軽に動くなど想像できる筈もない。

上空にいたセイランは舞い上がったゴーレムと衝突しかけ、慌てて退避したため空中でバランスを崩しかけてしまっている。

そして舞い上がったマウンテンゴーレムは、そのままこちらへと両腕を広げて落下してきた。

「チッ……散れ!」

異論はなかったのだろう、全員声を上げる暇もなく、その場から急いで退避する。

俺たちをボディプレスで押し潰そうと落下してきたマウンテンゴーレムは、凄まじい衝撃と共に胴から地面に叩き付けられた。

その衝撃たるや、マウンテンゴーレム自体のHPも若干削れているほどだ。

もしも直撃を受けたら、俺たちではひとたまりも――というか誰でもひとたまりも無いだろう。

「っ……《スペルエンハンス》、【フレイムストライク】!」

「光の鉄槌よ! 連なりて敵を撃て!」

だが、胴体から着地したマウンテンゴーレムは、その場でしばし動けなくなっている。

そこに叩き付けられたのは、緋真とルミナの魔法だ。

無防備な状態のマウンテンゴーレムは、避ける暇もなく直撃を受けた。

荒れ狂う光と炎の爆裂に、視線を細めてその爆心地を確認する。

マウンテンゴーレムは大ダメージを受けた様子であるが、それでもまだ倒れてはいない。

受けた魔法を振り払いながら、マウンテンゴーレムはゆっくりと立ち上がり――

「《練命剣》――【命輝閃】!」

斬法――剛の型、白輝。

その膝へと向けて、全力の一閃を叩き付ける。

黄金の輝きを纏った一閃は、元より亀裂の走っていたマウンテンゴーレムの左膝を大きく削り取り、そのバランスを崩させた。

前のめりに倒れそうになったマウンテンゴーレムは、巨大な両腕で己の体を支え――その腕を伝って、緋真とアリスが駆け上がる。

「し……ッ!」

身軽なアリスは階段を一段飛ばしにするようにマウンテンゴーレムの腕を駆け登り、弱点である頭頂部へと刃を突き刺す。

それによって、マウンテンゴーレムはびくりと僅かに硬直した。

そしてその刹那を見逃さず、アリスはマウンテンゴーレムの頭部を蹴りながら跳躍し、離脱する。

瞬間、入れ替わるように飛び込んできたのは、燃え上がる刀を構える緋真だ。

「《スペルエンハンス》、《術理装填》【フレイムピラー】――【炎刃連突】!」

飛び込むように突き出した紅蓮舞姫の刀身には、寄り添うように炎の棘が顕現する。

それらは緋真が刃を突き出すと同時にマウンテンゴーレムの頭頂部へと突き刺さり――その全身を、炎の柱で包み込んだ。

緋真は後方へと宙返りしながら炎の中より脱出し、次いで後方へと距離を取る。

炎に包まれたマウンテンゴーレムは、そんな緋真を捕らえようと手を伸ばし――全てのHPを散らして、その場に崩れ落ちていた。

『《格闘》のスキルレベルが上昇しました』

『《降霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《識別》のスキルレベルが上昇しました』

『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』

『フィールドボスの討伐に成功しました! エリアの通行が可能になります』

『フィールドボス、《マウンテンゴーレム》が初めて討伐されました。ボーナスドロップが配布されます』

マウンテンゴーレムの巨体が土くれへと還ると同時、戦闘終了のアナウンスが響き渡った。

また、何ともやり辛い相手だったな。こちらは一撃でも受ければ終わりだというのに、ああも軽快に暴れまわるのだから。

動きを分析すれば何とかなる相手ではあったが、正直俺としてはあまり面白い相手ではなかったな。

餓狼丸を解放していればもう少し楽に斬れたのかもしれないが、今回はまあいいだろう。

どちらにしろ、再戦したいと思えるような相手ではなかった。

「さてと……MVPはお前の方だろうな、緋真。何かあったか?」

「あー、特殊報酬……《大地の鎧》とかいうスキルオーブが入ってますね。使います?」

「どんな効果があるんだ?」

「土を使って一定時間鎧を作るとかなんとか」

「……要らんな。他に何かあるのか?」

確かにスキルスロットのチケットは手に入ったが、そのスキルを覚えたいとは思わない。

精々、先日挙げた《戦闘技能》か《背水》のどちらかを取得するぐらいでいいだろう。

スキルについてより、以前のボスからあったイベントアイテムの方が気になるところだ。

俺の言葉を聞いて、緋真は眉根を寄せながらインベントリを眺め、一つのアイテムを取り出す。

■大地の楔:建材・イベントアイテム

マウンテンゴーレムの中心部に埋まっていた楔。

強力な大地の魔力を有している。

大きな建物を作る際、その礎として利用されることが多い。

「やはりイベントアイテムはあったか……しかし、何だこりゃ」

「建材? どう使うのかしらね、これ」

「エレノアさんに預けておきます?」

「……いや、次の国で使えるものなのかもしれん。一応、取っておくこととしよう」

確かに、エレノアたちならば巨大な建物を作る予定もあるかもしれないが、流石にどう転ぶか分からないものを預ける訳にもいかんだろう。

これまでも、ボス戦で手に入れたイベントアイテムは、その次のエリアで何らかの役割を果たしていた。

今回もその類である可能性は十分にあるし、取っておいて損は無いだろう。

「何にせよ、よくやったな。いい戦いぶりだった」

「そ、そうですか?」

「新しい刀の具合も良さそうだしな。今後の成長にも期待させて貰おう」

小さく笑い、先へと進みだす。

ここから少し歩けば、北の国、アドミス聖王国に入ることだろう。

果たして、どのようになっていることやら。あまり愉快な状況ではなさそうだが――まずは、確認してみるとしよう。