軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

202:北への準備

ミリエスタの街は、まさに復興中と言わんばかりの状態だった。

一応石碑は稼働していたため、ベルゲンに移動するのに困りはしなかったが、街としての機能はほぼ果たしていない状態だ。

街道を進んでいると時折馬車とすれ違っていたが、あれは宝石像にされていた民を運んでいる所だったのだろう。

街がこの状況では、そのまま暮らすことなどできはしまい。

果たして、どれだけの数が生き残ったのかは不明だが……生き残った者は全員、他の街に運ばれるのだろう。

街中に配置されていた宝石像たちは、まとめて一か所に集められ、プレイヤーや国の魔法使いたちによって呪いを解かれている最中のようだ。

その陣頭指揮を執っているのは国の騎士団のようだが、その近くにはちらほらと見知った姿を発見することができた。

どうやら、アルトリウスたちは最後まで彼らの面倒を見るつもりであるらしい。

しかし――

「こうしてみると、あの悪魔の趣味もある意味では好都合だったということか」

ベルゲンへと戻った緋真たちが帰還するのを待ちながら、俺はぼんやりと呟く。

ミリエスタに到着し、即座に帰還して成長武器を強化した後、俺たちは街の周囲で成長武器の経験値溜めを行っていたのだ。

その結果、二人の成長武器は★2での経験値を溜め切り、★3への強化を可能とした。

そこまでの戦闘にはそこそこの時間を要したが、先に進む分にはまだ余裕がある。

今日中に北のボスを倒し、アドミス聖王国に入りたいものだ。

俺が視線を向けている先には、あくせくと働くマリンの姿がある。

『キャメロット』の部隊長である彼女は、《聖魔法》――いや、《神聖魔法》に最も通じたプレイヤーの一人であると言っていい。

その技術を駆使し、マリンは石化した人々の治癒に当たっているのだ。

ヴェルンリード以外の悪魔に襲われた者は、恐らく殺されてしまったのだろう。

奴の能力が宝石化だったから、そしてそれをそのまま飾るという趣味を持っていたから、彼らは奇跡的に命を拾うこととなった。

それが幸運であったかどうかは、正直な所分からないが。

と――そこでふと、横合いからこちらに近づいてくる気配に気が付いた。

視線を向ければ、こちらへと歩を進めてくる一人の 小人族(ハーフリング) の姿が目に入る。

あの神経質そうな表情、見間違える筈もない。アルトリウスの副官であるKだ。

「戻られていたのですね、クオン殿。既に北に向かっているのかと」

「その前に、緋真たちの成長武器を強化しておきたかったからな」

「成程……★3程度までであれば、素材に困ることも無いでしょうからね」

成長武器の強化には、それぞれ特定の素材が必要となる。

だが、ある程度の素材はエレノア商会でも十分に揃えることができる。

俺の餓狼丸についても、覇獅子の剣牙以外はエレノア商会で保有していた素材を利用したのだ。

まあ、あの牙も今では既に余り気味であるのだが。

「そっちも、結構成長武器を取得したんじゃないのか?」

「ええ、貴方がたと北へ向かったメンバーは取得できていますよ。アルトリウスは、二つも必要ないと言っていましたがね」

「ま、そうだろうな。こいつは二つあっても持て余す代物だ」

餓狼丸を見下ろしながら、俺はKの言葉に同意する。

どうやら、アルトリウスも俺と同じ考えであったようだ。

尤も、その結論に至った経緯は異なるのであろうが。

俺にとっては、餓狼丸を――天狼丸重國を振るえるというだけで十分なのだ。

状況に応じて他の刀を使うことはあれど、メインとして使うのは餓狼丸だけでいい。

「ところで、K。『キャメロット』はまだ北には向かっていないのか?」

「ええ、この国でやり残したことがまだ多いですからね。とは言え、先遣隊は既に送っていますが」

「積極的に倒すつもりは無い、と」

「その通りですね。しかし、他のプレイヤーも気の早い者たちは既に向かっています。今の所、攻略したというアナウンスはありませんがね……急いだ方が良いのでは?」

「別段、一番乗りにこだわっているってわけじゃないんだが」

確かに何かしらの特典はあるのだろうが、今までのイメージから、そこまで強力なアイテムが出るという印象はない。

どちらかというとイベントアイテムが出現する印象の方が強いほどだ。

まあ、俺たちが辿り着くまで誰も倒していないというのであれば、他に譲ってやる理由もないのだが。

「それで、ボスはどんな魔物なんだ?」

「巨大なゴーレム、『マウンテンゴーレム』です。ゴリラみたいな格好をした……確か、4メートルぐらいはあるゴーレムですね」

「そりゃまた、面倒そうな相手だな」

空を飛び回るグリフォンほどの厄介さは無いだろうが、その大きさはそれだけで面倒だ。

とは言え、ゴーレムはゴーレム。そこまで苦戦するような相手には思えないのだが、何か特殊な能力でもあるのだろうか。

そんな俺の疑問を察したのだろう、Kは苦笑交じりに声を上げる。

「マウンテンゴーレムは、全身が岩でできているくせに、動きがやたらと速いんですよ。距離が空いているからと油断できない相手ですね」

「ほう……魔法で攻めようとして、一気に詰められたわけか」

「そういうことです。速度の遅い魔法ぐらいなら回避してきますからね」

「ふむ……まあ、退屈はしなさそうだな」

強敵結構、それでこそ楽しめるというものである。

しかし、そんな俺の返答に対し、Kは苦笑を浮かべていた。

「相変わらずですね……だからこそ、期待させていただきましょう。それと……」

「まだ何かあるのか?」

「……いえ、アドミス聖王国では気を付けてください。それでは」

それだけ口にして、Kは軽く礼をしつつ踵を返して去って行った。

また、随分と意味深な言葉を残してくれるものだ。

確かに、伯爵級以上が出現する可能性は高いし、勿論油断するつもりなどないのだが。

だが……果たして、どれほどの敵が現れるのか。それは、本当に楽しみだ。

Kの背中を見送っていると、それと入れ替わるようにルミナとセイランが戻ってくる。

こいつらは、現地人の手伝いのために動いていたのだ。今回の戦い以来、ルミナは自発的に動くことが増えてきたように感じられる。

自ら決めて、自ら動く――その在り方を学んだのだろう。

「お待たせしました、お父様」

「あいつらが戻ってくるまでは、どのみち出られないんだ。気にするな」

ルミナたちは像にされた住人たちの運搬を手伝っていたようだ。

セイランはどちらかというと付き添いだろうか。

俺のテイムモンスターになったのはセイランの方が後であるが、コイツはいつも泰然とした態度だ。

ルミナのことも、見守っているような節がある。何とも不思議な関係性だ。

「街の様子はどうだ?」

「疲弊しているようです。ですが、安心しているようでもあります」

「悪魔が消えたことは事実だからな、それに関しては、彼らも安心しているだろうさ」

戦後特有の、無気力感に溢れた平穏だ。

彼らにとっての受難はまだ続くだろうが、それは彼らの戦いだ。俺が口出しをするものではない。

まあ、その辺りについてはアルトリウスやエレノアが何とかするだろう。

俺に出来るのは戦いだけだ。己に成せることを成す、ただそれだけでいい。

そんなことをぼんやりと考え――石碑の近くに気配が現れたことに気づく。

振り返れば、そこには緋真とアリスの姿があった。どうやら、武器の強化は終わったようだ。

「終わったか、どんなもんだった?」

「ああ、先生! 見てくださいよ、私とアリスさんので凄い違いですよ?」

言いつつ、緋真は手に持つ紅蓮舞姫を差し出してくる。

アリスは苦笑しつつも、それに倣って腰に装備していたネメを取り出した。

さて、果たしてどのように強化されたのやら。

■《武器:刀》紅蓮舞姫 ★3

攻撃力:34

重量:15

耐久度:-

付与効果:成長 限定解放

製作者:-

■限定解放

⇒Lv.1:緋炎散華(消費経験値10%)

攻撃力を上昇させ、攻撃のダメージ属性を炎・魔法属性に変更する。

また、発動中に限り、専用のスキルの発動を可能にする。

専用スキルは武器を特定の姿勢で構えている状態でのみ使用可能。

→Lv.1: 緋牡丹(ひぼたん)

上段の構えの時のみ使用可能。

斬りつけた相手に周囲から炎が集まり、爆発を起こす。

→Lv.2: 紅桜(べにざくら)

脇構えの時のみ使用可能。

横薙ぎの一閃と共に飛び散った火の粉が広範囲に爆発を起こす。

→Lv.3: 灼楠花(しゃくなげ)

霞の構えの時のみ使用可能。

突き刺した相手に特殊状態異常『熱毒』を付与する。

■《武器:短剣》ネメの闇刃 ★3

攻撃力:30

重量:12

耐久度:-

付与効果:成長 限定解放

製作者:-

■限定解放

⇒Lv.1:暗夜の殺刃(消費経験値10%)

発動中は影を纏った状態となり、敵から認識されづらくなる。

また、発動中に限り、認識されていない相手に対する攻撃力を大きく上昇させる。

更に、4秒に一度、1秒前にいた場所に幻影を発生させる。

⇒Lv.3:夜霧の舞踏(消費経験値5%)

《暗夜の殺刃》の発動中のみ使用可能。

周囲に霧を発生させ、敵からの発見率を大幅に下げる。

「また随分と情報量が多いな……だが、確かに勝手が違う」

緋真の紅蓮舞姫は、成長の度に特殊な攻撃スキルが追加されていくようだ。

対し、アリスのネメは一定のレベルごとに限定解放の能力が追加されるらしい。

★2の時は餓狼丸と同じタイプかと考えたのだが……どうやら、それとも異なるようだ。

未だ何の能力も増えていない俺の餓狼丸が特殊なのか、はたまた成長武器はそれぞれ全く傾向が異なるということなのか――分からんが、何にせよ強化されていることは間違いない。

「次の強化素材も入荷したら最優先で回してくれるそうですし、これは先が楽しみですよ!」

「貴方のは結構お洒落な名前のものばかりよね。運営は前々から考えていたのかしら」

「はは、あり得そうだな、そりゃ」

アリスがしみじみと呟いた言葉に、思わず笑いを零しつつも同意する。

運営のことだ、アルトリウスが成長武器を取得した後は、次は緋真だと考えていた可能性も高い。

まあ、そこに俺が割り込んでしまった訳だが……武器の外見はジジイが何かしらしたとして、中身の能力は彼らも苦心したことだろう。

ともあれ、これで準備は整ったというわけだ。北のボスを相手にするときには解放を使う可能性もあるし、真価はその時に確認できるだろう。

本来であればあらかじめ使い勝手を確かめておいた方が良いのだろうが――そこまで分かり辛い能力でもなさそうだ。

「よし、じゃあ出発だ。とりあえず、アドミスの最初の街の石碑まで辿り着くことが目標だな」

「了解です、やってやりましょう!」

「新しい玩具を買って貰った子供か、お前は」

くつくつと笑いながら、街の北へと向けて歩き出す。

さて、果たしてボスはどのような敵なのだろうか。

個人的には戦いやすい相手ではなさそうだが――やるだけやってみるとしよう。