軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

020:プレイヤーキラー

『《生命の剣》のスキルレベルが上昇しました』

「うーむ、あんまり代わり映えせんな」

襲ってきたステップウルフを適当に蹴散らしながら、西の村へと続く道を歩く。

道沿いに進んでいるからか、ここでもあまり魔物が出現する様子は無い。

いっそのこと道から外れて進んでやろうかとも考えたが、それで迷ってしまっては元も子もないのだ。

大人しく踏み固められた土の道を歩きながら、軽く嘆息を零す。

「レベルも上がり辛いな、こりゃ。緋真は東のダンジョンで鍛えたのかね」

あいつのレベルは確か17だった。今では18になっていてもおかしくは無いだろう。

しかし、この辺りの敵を倒していても、そのレベルには到底追い付けるとは思えない。

ダンジョンとやらにどの程度敵が出てくるのかは分からないが、成長に行き詰まるようであれば行ってみるのもいいかもしれない。

まあ、あまり他人が多すぎる場所というのも少々面倒ではあるが。

(しかし、西の村とやらはどの程度の距離なのかね)

このゲームの世界であるが、距離的な概念についてはかなりリアルに作られている。

要するに、町と町の間の距離は、中々離れていて、徒歩で進むにはそこそこ時間がかかるのだ。

一応、街道沿いには馬車なども出ているらしく、ボスを討伐したプレイヤーならば高速で移動することも可能らしい。

まあ、そんなことをするぐらいならば石碑で移動した方が手っ取り早いのだろうが。

ともあれ、こうして徒歩で移動するというのは、なかなか時間のかかる行為なのである。

と言っても、最初はそうせざるを得ないのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

(しかし、西の村に何かあるんじゃないかと言われてる割には、他のプレイヤーの姿を見かけんな……)

噂になっているぐらいであれば、もう少し他の連中を見かけているはずだ。

もうすっかり調べ尽くされてしまったのか、あるいは他に理由でもあるのか――ぼんやりとその可能性を模索していた俺は、ふと耳に届く甲高い金属音を察知した。

聞き間違える筈もない、これは金属同士が打ち合わされる音だ。

どうやら、この先で戦闘が起こっているらしい。しかし、この辺りの魔物の中に、金属を身に着けているようなタイプはいなかったはずなのだが。

「見たことのない魔物か? だったら、覗いてみるか」

小さく笑い、俺はその場から走り出す。

響く金属音に続いて、聞こえてくるのは怒号と悲鳴。

だが、その人数が妙に多い。一つのパーティは六人が限界だが、それを超える人数の声が聞こえてくる。

不自然な状況に眉根を寄せつつも道を進んでいくと、そこには十人のプレイヤーの姿があった。

おかしな点は、そのプレイヤーたちが、六人と四人に分かれて戦闘を繰り広げていたことだ。

一体何をしているのかと、一番近場にいたプレイヤーに対して《識別》をかける。

■ガラ

種別: 獣人族(ハーフビースト) ・プレイヤーキラー

レベル:14

状態:正常

属性:土

戦闘位置:地上

「プレイヤーキラー? プレイヤーを襲うプレイヤー、か?」

表示された内容に、思わず首を傾げる。

一体何の意味があるのかは知らないが、まあ追剥のようなものか。

一応、彼らに襲われているプレイヤーたちを《識別》してみたが、そちらにはプレイヤーキラーの表示は無かった。

となると、あそこにいる四人は、このプレイヤーキラーたちに襲撃されたということか。

そう納得しつつ走り寄っていくと、プレイヤーキラーの内の一人が、こちらに気づいて声を上げていた。

「ちっ、新手か! 俺が押さえるから、そっちの四人はとっととやっちまえ!」

「はははっ、入れ食いじゃねぇか!」

成程、どうやら向こうはやる気のようだ。

小さく笑みを浮かべ、俺は太刀を脇構えに構える。

僅かに重心を落とした体勢、そのまま、地を蹴る足に力を籠める。

歩法――縮地。

そしてそのまま、俺は体幹と上半身を一切動かすことなく、滑るように相手へと肉薄した。

横から見るとスライド移動しているように見えると言われるこの歩法、正面に立つと、離れていた相手が突然目の前に現れたように見えるのだ。

慣れていない素人では、この動きを見極めることは困難。突然の出来事に固まっている男へと、俺は横薙ぎに刃を放った。

「がふっ!?」

放たれた一閃は、鎧と兜の隙間へと正確に潜り込み、その首を薙ぐ。

そのままごろりと落ちる首には頓着せず、俺は次なる相手へと標的を定めた。

短剣を二本持ったその男は、ガラと言うプレイヤーキラーが崩れ落ちる様を目にして、大きく狼狽える。

「んなっ!? ばっ、馬鹿な!?」

「――反応が遅い」

歩法――烈震。

即座にトップスピードに乗る歩法により、短剣の男へと突撃する。

距離は7メートルほどか。この程度ならば、一秒と掛からず肉薄できる。

だが、相手もなかなかの反応を見せ、動揺しながらもスキルを発動させていた。

「す、《ステップ》ッ!」

その言葉の瞬間、男の体は跳ねるように後ろへと跳躍する。

横薙ぎに振るった刃は、ギリギリのタイミングで男の体を捉えられずに空を斬った。

再び距離が空く、が。あいにくと、その程度の距離など空けたところで意味は無い。

次なる二歩で、俺は再び男へと肉薄する。

「《パリィ》!」

次は避けられまいと刀を振るおうとした瞬間、その声と共に、男の短剣が青く光る。

確か、攻撃を受け流すためのスキルだっただろうか。

とっさの判断としては悪くないだろう――俺が相手でなければ。

斬法――剛の型・ 竹別(たけわかち) 。

俺の太刀を受け流そうとしたその武器に、こちらの攻撃は吸い付くように叩き付けられる。

竹別とは、流水に対抗するために編み出された、受け流しの動作を押し潰す剛の剣だ。

竹を正面から真っ二つにする正確な斬撃を要求されるが、武器での受け流しを得意とする相手にとっては悪夢のような攻撃だろう。

当然、俺の一刀は片手で受けきれるものではない。その一閃は男の短剣を無理やりに突破して、相手の腹を裂いていた。

「ごぁっ!? 今、スキルを――」

「意外と悪くない反応だったな、先ほどの言葉は訂正しておこう――じゃあな」

スキル頼りだったとはいえ、俺の一刀にスキルの発動を間に合わせたのは良い反応だ。

一言称賛の言葉を告げ、俺はこの男の首を落とした。

先ほどの男と同様に崩れ落ちるプレイヤーキラー。

その向こう側で、残る四人のプレイヤーキラーたちは、ようやく俺を脅威と認識したようだ。

「くそっ、あっちに撃て!」

「あ、ああ! 【ファイアーボール】!」

奥にいた、ローブを纏ったプレイヤーキラー。

そいつが掲げた杖から放たれたのは、バスケットボール大の火の玉だった。

思えば、魔法による攻撃を受けたのは初めてだが……ふむ、ちょうどいい機会だろう。

「――《斬魔の剣》」

スキルの発動と共に、俺の太刀が青い光を纏う。

その光を纏うまま、俺は飛来した火の玉を真正面から斬り伏せた。

軽い手応えと共に、火の玉は真っ二つに割れ、その次の瞬間に消滅する。

今までまるで使うタイミングが無かったが……成程、こういう効果になるのか。

そう一人で納得し、思わず首肯して――ふとそこに、横からの声がかかっていた。

「あ、貴方……確か、剣姫の師匠だっていう……」

「クオンだ。横から入っちまって悪かったな」

「い、いえ。助かりました」

俺に声を掛けたのは、先ほど襲われていた四人組の中の一人だ。

金髪の 人間族(ヒューマン) と思わしきそのプレイヤーは、空になったポーション瓶を片手に持ったまま、俺へと目礼する。

この四人組であるが、全員が女性という、あまり見ないような組み合わせだ。

恐らく友人同士なのだろう。数の不利に押されてはいたものの、中々息の合った連携だった。

その中のリーダーだと思われるこの金髪に対し、俺はプレイヤーキラーたちを顎で示しながら声を掛ける。

「ふむ。俺は後あの魔法使いの奴を相手する。他の連中はそっちに任せてもいいか?」

「あ、はい! お願いします!」

頭を下げてきた女ににやりと笑い、俺はローブの魔法使いへと接近する。

他の連中は俺と戦いたくないのか、じりじりと後ずさるように距離を取っていた。

標的となった魔法使いは、引きつった表情で俺に杖を向けている。逃げようとしないその根性だけは評価してやろう。

そう胸中で呟きつつ、そのままゆっくりと魔法使いへ近づけば、相手も覚悟を決めたのか、俺へと杖を向けていた。

そして、それと同時に杖の先端に収束したのは、先ほどよりも小さな火の塊。

「【ファイアアロー】ッ!」

「《斬魔の剣》」

男の呪文と共に放たれたのは、矢を模った炎の塊だ。

その速度は先ほどの火球よりも幾分か速い。

だが、それでも十分に捉え切れる範囲だ。余裕をもって、飛来した火の矢を叩き斬る。

やはり、手応えは軽い。だが、魔法に対処できるというのは中々便利だ。

「っ……【フレイムウォール】!」

再び接近しようとしたが、次に男が繰り出したのは、己と俺を隔てる炎の壁だった。

走っている相手の目の前に出現させたらかなり効果的だろうが、物理的な防御力は低そうに見える。

先ほどから俺がやっていたことを見ていたのなら、これはあまり効果が無いことは分かっていると思うのだが。

となると、目的は時間稼ぎ辺りだろう――まあ、やることは変わらないが。

「《斬魔の剣》」

スキルを発動して炎の壁に刃を打ち込めば、まるで豆腐に斬りつけたかのようにすぱりと分かれ、炎は霧散する。

どうやら、《斬魔の剣》は設置された魔法に対しても効果を発揮するようだ。

相手の防御魔法やらを破る手段としても使えるのだろう。これまでは使い所が無かったが、なかなか便利なスキルである。

胸中で満足しつつ壁の向こうを覗き込めば、そこには新たな魔法を発動させようとする男の姿があった。

「これならどうだ、【フレイムブラスト】!」

男が杖を突きだすと同時、その前方に周囲から炎が収束する。

そして次の瞬間、それは衝撃を伴う爆発となって俺へと殺到していた。

範囲に効果を及ぼす魔法、だが――

「《斬魔の剣》っ!」

瞬時に反応して、刃を振り下ろす。

迫る爆炎に俺の刃が触れた瞬間、そこから爆発は真っ二つになり、俺の横を通り抜けていった。

今のは中々に素早い反応を求められたな。範囲系の魔法には注意しておくべきか。

俺の左右を焼き焦がした爆炎はすぐにその効果を消し――その向こう側に、茫然と立ち尽くす男の姿が現れる。

「な、な、なん……」

「いい練習になった。感謝しておくぞ?」

最早手の内は尽きたのだろう。であればこれ以上付き合わせるのも可哀想だ。

そう判断し、俺はするりと男に接近して、その心臓を刃で抉っていた。

《死点撃ち》の効果があろうとなかろうと、心臓を穿てばHPは尽きる。

魔法使いの男もまた、成す術無くその場に崩れ落ち――

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

――アナウンスが耳に届く。

どうやら、あの四人の女プレイヤーたちもプレイヤーキラーの撃退に成功したようだ。

軽く振るってから太刀を納刀し、俺は彼女たちの方へと向き直ったのだった。