軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

197:駆ける騎兵たち その18

痛みに悶えるヴェルンリードを無視して、分身たちは攻撃を繰り返している。

三体いる分身の内、一体は『キャメロット』が、もう一体は他のプレイヤーたちが引き付けているようだが、もう一体は相変わらず俺への攻撃を繰り返している。

だが、俺を警戒して距離を取っているためか、逆に回避自体はやり易い状況だ。

確かに、地上まで降りて来たならば《蒐魂剣》で斬れる。そうすれば奴の纏っている障壁共々分身を破壊してやれるのだが――流石に、そこまでリップサービスをしてくれはしないか。

(流石のアルトリウスたちも、分身二体を引き付けることは不可能か)

『キャメロット』の防御部隊は現在、ヴェルンリードの本体と分身一体を相手にしている。

彼らの能力は高いが、流石に強力な悪魔であるヴェルンリードを相手にそこまですることは厳しいようだ。

まあ、他の分身を相手にしてくれているだけでもありがたいというものではあるが。

「『生奪』」

斬法――剛の型、輪旋。

走り回って魔法を回避しつつも、ヴェルンリードの本体へと攻撃を加えていく。

上空の分身の攻撃は範囲魔法だけ破壊すればいい、他の魔法については回避できる。

それよりも、警戒すべきは――痛みをこらえ、怒りを滾らせているヴェルンリード本体だ。

『ルォォオオオオオオオッ!』

遠吠えのごとく響き渡る咆哮。

それと共に急激に膨れ上がった魔力は衝撃となって周囲に迸った。

巨大な風圧に押され、俺はそれに逆らうことなく後方へと跳ぶ。

「《蒐魂剣》、【因果応報】!」

同時、無差別に襲い掛かってきた雷を《蒐魂剣》で斬り払う。

それによって刃が雷を纏うが、さてどう使ったものか。

と――ふと思いつき、俺は雷を纏う餓狼丸を見下ろしながらスキルを発動した。

「……《練命剣》」

瞬間、雷光を纏う餓狼丸が、更に生命力の輝きを纏う。その結果に、俺は思わず眼を見開いた。

本来、《魔技共演》ではテクニックを組み合わせることはできない。

組み合わせて使用できるのは、テクニックを用いない普通のスキル発動だけだ。

【因果応報】についても、その発動自体には他のスキルを組み合わせることはできなかった。

だが、【因果応報】の効果によって魔法効果を吸収したこの状態……これはどうやら、魔法による強化を受けているのと同じ状態として扱われるようだ。

つまり、たった一閃だけではあるが、相手の魔法による強化を受けたまま更に《練命剣》による強化を行うことができるわけだ。

土壇場ではあるが、面白い事実に気が付けた。これは使えるかもしれない。

小さく笑いつつ、俺は再び地を蹴ってヴェルンリードへと接近する。

(アルトリウスたちは健在。だが、他のプレイヤーたちが崩れかけているか)

完全に戦線が崩壊しているというわけではないが、ヴェルンリード本体はほぼフリーになってしまっている。

どうやら、分身によってかけられている追撃への対処に追われているようだ。

つまり――

『魔剣使い……ッ!』

本体の方は、先ほど腐食毒を投げつけた俺に対して怒り心頭であるということだ。

『キャメロット』の防御部隊はすぐに動き出しているようであるが、一手程は遅れてしまうだろう。

ならば、その一手を稼ぐまで。小さく笑いながら、俺は雷を纏う刃を振り抜いた。

瞬間、刀身が帯びていた雷光が、俺の生命力による強化を受けて撃ち放たれる。

その一撃は真っ直ぐと矢のように飛んでヴェルンリードの体へと命中し、その全身を駆け巡った。

ダメージにもなったが、それ以上に動きを止めたことが素晴らしい。当然、体勢を立て直したプレイヤーたちはまた一斉に奴の元へ群がり始めた。

そんな地上の状況に焦ったのか、俺に攻撃を放っていた分身は周囲を薙ぎ払おうと魔力を高め――その背に、影が差す。

上空から飛び降りてきたのは、刃を握り締めたアリスだ。セイランから飛び降りた彼女は、地上を見下ろしていたヴェルンリードの分身、その頸椎をナイフで刺し貫く。

「ッ――――!」

目を見開く分身、だが刃で喉を貫通され、声を出すことはできなかったようだ。

アリスはそのまま貫いた刃に体重をかけ、地上へと落下しながら強引に刃を振り抜く。

首を半ば以上断たれた分身は、その構成を維持できず空中に溶けるように霧散した。

地上へと落下していくアリスを追って空中を駆ける影は二つ。セイランはあっという間にアリスに追いついてその頭巾を咥え、そしてルミナはその横を掠めるようにしながらヴェルンリードの頭へと突撃した。

ルミナが掲げた手から放たれた光は、ヴェルンリード本体の頭部に直撃し、眩い閃光を走らせる。

その光に視界を奪われたヴェルンリードは硬直し――その瞬間、穿牙の構えで突撃したルミナの刃は、ヴェルンリードの第三の瞳に突き刺さっていた。

『ガ――――ッ!?』

深々と突き刺さった刃。脳まで達しているであろう一撃だが、しかしヴェルンリードはそれでも倒れない。

ルミナは噴き出した血を浴びて毒状態となってしまったようだが、それでも彼女は刃を引き抜いてその場から離脱してみせた。

その光景と共に俺はヴェルンリードへと接近し――それよりも若干早く、四人の剣士が奴の前足へと肉薄する。

アルトリウスとデューラック、そして緋真とディーン。二人ずつに分かれた面々は、それぞれが最大の攻撃をヴェルンリードの両前足へと叩き付けた。

光と水、そして炎。それぞれが使用できる最大限の強化を掛けた 魔導戦技(マギカ・テクニカ) は、奴の前足を深く抉り、その体を前のめりに倒させる。

だが、それでも尚ヴェルンリードは足掻く。魔力を振り絞り、巨大な嵐の障壁で接近したプレイヤーたちを弾き飛ばして――飛来した一本の矢が、その障壁を掻き消した。

『――――ッ!?』

体勢を立て直そうとしていたか、或いは逃げるつもりだったのか。

だが、ここまで来てそれを許す筈もない。

後方で矢を放った高玉も同じ心持であっただろう。

ヴェルンリードは傷ついた足で何とか体を起こし――その背に、ベルゲンの街から飛来した攻撃が突き刺さる。

あちら側を指揮していると思われる、エレノアからの援護だろう。

爆発物まで混じったその攻撃に、ヴェルンリードの体は前のめりに揺れる。

「緋真ッ!」

「っ、はい、先生!」

くるりとこちらに振りむいた緋真は、刀から手を離し、両手を合わせて上へと向けながら低く構える。

走って接近した俺は、その手に右足をかけ――二人の力で、全力で高く跳躍した。

目指す位置はヴェルンリードの首の上。最初にその首筋へとつけた疵へと向けて、俺は刃を振り下ろす。

「《練命剣》――【命輝閃】ッ!」

斬法――柔の型、襲牙。

輝きを纏い、突き立った刃。

俺の全体重を込めた一撃はヴェルンリードの傷をさらに深く抉り――着地する勢いのまま刃を捻り、その首を半ば以上抉り斬った。

大量の血が噴出し、餓狼丸の刃は尚も突き刺さったまま。

――それでも、ヴェルンリードは強引に首を振って俺を弾き飛ばそうとした。

「チ……ッ!」

ここで距離を開ける訳にはいかない。

俺は即座に餓狼丸から手を離して着地、致命傷を負いながら尚こちらを睥睨する悪魔の視線を見返す。

『貴様、だけは……ッ!』

言葉の意味は理解できない。だが、そこに込められた怨嗟に、俺は口角を吊り上げる。

左手には鉤縄を、そして右手には背から抜き放った野太刀を。

体勢を整えた俺に対し、ヴェルンリードは輝く魔法陣を発生させた。

傷ついた両腕を使いたくなかったのだろう、魔法だけでこちらを攻撃するつもりのようだ。尤も――それこそが、お前の敗因となるのだが。

「《蒐魂剣》、【因果応報】!」

『砕け散りなさいッ!』

斬法――剛の型、白輝。

撃ち出された嵐――その魔法へと、臆することなく刃を振るう。

強化された餓狼丸よりは威力の劣る野太刀での一撃では、完全にそれを打ち消し切ることはできない。

魔法の貫通ダメージ、そして毒によるダメージ。その両方が体を蝕み――それでも、まだ俺は生きている。

魔法を耐えきった野太刀は風と雷を同時に纏い、俺は即座に鉤縄を飛ばしてヴェルンリードの首へと引っ掛けた。

その感触に奴は反射的に首を引き、その勢いに乗って、俺は大きく跳躍する。

更にヴェルンリードの肩を蹴り、そして鉤縄を手放して、大きく跳躍。

「終わりだ――《練命剣》、【命輝閃】ッ!」

斬法・奥伝――剛の型、鎧断。

狙うは、腐食毒によって鱗が溶け、肉が焼け爛れた首。

そこへと振り下ろした刃は――纏う嵐によって、まるで削り取るかのようにヴェルンリードの首を断ち斬っていた。

『――――ァッ』

ドラゴンの顔であるというのに、ヴェルンリードは呆然と目を見開き――その首が、まるで折れ曲がるように千切れ落ちる。

その様を見届けながら、抜け落ちてきた餓狼丸を左手でキャッチし、両の刃を振るって血を落とした。

「ノコノコとここまでやって来るからだ、間抜けめ。人間に対して一人で挑んだ、貴様の負けだ」

白影を解除し、血を拭って、二振りの刃を鞘に納める。

――それと同時、ヴェルンリードの巨体は、黒い塵となって消滅していた。

『ワールドクエスト《駆ける騎兵たち》を達成しました』

『グランドクエスト《人魔大戦》が進行します』

『イベント中の戦闘経験をステータスに反映します』

『イベント報酬アイテムを各プレイヤーのインベントリに格納します』

『イベント成績集計中です。ポイント交換は後日実施可能です』

『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください――――』

イベント完了の通知が流れ、俺は深く溜め息を吐き出す。

とりあえずは、尽きかけている己のHPをなんとかするとしようか。

インベントリから取り出したポーションで毒状態とHPを回復しつつ、俺は遠くから響く歓声に耳を傾けていた。