軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

195:駆ける騎兵たち その16

歩法――間碧。

降り注ぐ魔法を回避しながら、ヴェルンリードへと接近する。

周囲を暗く染め上げる空にはいくつもの魔法陣が浮かんでは消え、俺たちを含む多くのプレイヤーへと魔法を降り注がせていた。

だが、射出点が高い位置にあるため、速く動いていれば回避できないことはない。

足を止めていれば集中砲火を食らうだろうが、動き続けていれば問題は無いだろう。

俺は正面から、緋真とルミナは左右に分かれながらヴェルンリードへと接近する。

奴の注意が向いているのは、当然と言うべきか俺であった。

降り注ぐ雷を回避しながら、ヴェルンリードの纏う嵐を《蒐魂剣》で斬り裂いて、奴へと接近する。

直後、奴の額にある第三の目が輝き――

歩法――烈震。

俺は、即座に加速してヴェルンリードの体の下へと潜り込んだ。だが、ここではまだ刃は振るわない。

(厄介な要素しかないな、この化物は)

ヴェルンリードの血に猛毒が含まれている以上、攻撃の仕方についても気を付けなければならない。

この位置から刺突を狙えば大きなダメージを与えられるだろうが、血を浴びることは避けられないだろう。

流石に、この肉薄した状態でヴェルンリードの血を浴びるのは危険すぎる。機会を窺わなくてはならない。

一方で、緋真とルミナは特に妨害を受けることも無く、ヴェルンリードへの接近に成功した。

二人はヴェルンリードの両側から回り込み、刃で奴の後ろ脚を斬りつける。

俺が嵐を消し去ったため接近そのものは楽であったようだが、やはり物理攻撃ではそれほど大きなダメージは与えられないようだ。

とは言え、二人の攻撃には魔法も付与されている。そちらについては効果がきちんと適用され、ヴェルンリードのHPは僅かながらに削られた。

俺はそれを見届けながらヴェルンリードの体の下を潜り抜け、奴の背後へと回り込む。

当然ながらヴェルンリードはこちらへと振り返り――そこに、無数の矢が飛来した。

それを放ったのは、先程接近してきたベーディンジアの騎兵部隊だ。

『邪魔です、小賢しい人間風情が!』

「来るぞ、回避せよ!」

部隊規模で射掛けられた矢は流石に無視しきれなかったのか、ヴェルンリードは怒りの咆哮と共に暴風を放つ。

地面を抉りながら這う風の渦は、騎馬で駆ける騎士団を飲み込まんと襲い掛かり――しかし、それよりも早く彼らは回避行動を取っていた。

迫りくる風の渦を避ける形で二つの部隊に分かれた彼らは、そのまま別々に行動を開始する。

どうやら、最初から即座に指揮系統を分けられるように準備していたようだ。

苛立った様子のヴェルンリードは、分かれた騎士たちへと追撃を掛けようとし――その瞬間、俺の耳元で声が響いた。

『クオン! 第二射が行くわ、退避して!』

「っ……緋真、ルミナ! 距離を取れ!」

耳元に響いたエレノアの声に、俺は緋真たちを伴ってヴェルンリードから離れる。

その瞬間、ベルゲンの街からは、先程ヴェルンリードを地へと叩き落した無数の攻撃が飛来した。

どうやら、誰かしらが指揮をとり、斉射を掛けるように制御しているようだ。

騎士団へと攻撃しようとしていたヴェルンリードは、それを確認して咄嗟に行動を取りやめ、自らの前面に魔法による障壁を発生させる。

渦を巻く嵐の障壁は、飛来したバリスタや魔法を悉く弾き、霧散させてしまった。

だが、その時間を稼いだ価値はあっただろう。騎士たちはヴェルンリードの攻撃から逃れることに成功し、同時に他のプレイヤーたちもこの悪魔に接近することに成功したのだから。

先頭にいるのは『キャメロット』の一団のようだ。到着前から準備していたらしい彼らは、この怪物を相手に臆することなく突撃してきている。

「防壁の解除と共に接近! ヘイトを奪取しろ!」

『はっ!』

威勢よく声を上げているのは、最前線にいる一団だ。

ガッチリと鎧で身を固めている彼らは、恐らく防御部隊か何かなのだろう。

その隊長らしき人物は、何と女性である。まさに女騎士と言わんばかりの格好をした人物だ。

彼女と顔を合わせたことはないが、アルトリウスに選ばれた隊長であるならばその実力は折り紙付きだろう。

ヴェルンリードが防壁を解除すると共に奴の眼前で馬から降り立った彼女らは、インベントリからタワーシールドを取り出し、地面に突き立てるように構える。

「第一隊!」

『《プロヴォック》! 《フォートレス》!』

盾を構えた騎士たちは、まるで三段撃ちでもするかのように並びながらスキルを発動する。

盾から発せられた輝きはヴェルンリードの巨体を照らし――奴の意識の多くが、彼らへと向けられた。

どうやら、意識を誘引する効果を持ったスキルであるらしい。

それでも幾分かは俺に対する意識が存在しているため気は抜かないが、どうやらある程度は動きやすくなったようだ。

『邪魔立てをするつもりですか……!』

ヴェルンリードは再び魔力を昂らせ、嵐を纏う前腕を彼女たちへと向けて振り下ろす。

しかし、その一撃は騎士たちを叩き潰すことはなく、発生した巨大な盾のエフェクトによって受け止められていた。

あの直撃を受けたら俺たちではひとたまりもないだろう。大層な防御力だ。

しかし、騎士たちも決して無事というわけではなく、きっちりとダメージを受けている。

それを回復しているのは、彼らの後ろに控える支援魔法の部隊――恐らくはマリンの部隊だろう。

様々な支援魔法を連発する彼らに支えられることによって、騎士たちの戦線は崩れずに維持できているのだ。

「さっすが……! 先生、今のうちに!」

「ああ、分かってる」

ちらりと餓狼丸に視線を向ければ、その刀身は最早切っ先の近くまで黒く染まってきている。

割合でHPを吸収する《餓狼の怨嗟》は、恐らく最も多くヴェルンリードのHPを削っていることだろう。

だが、この短時間で餓狼丸を染め上げてしまったということは、それだけ多くのHPを保有しているということでもある。

一応、ある程度削れているようには見えるが、削られた後のHPバーは黒くはなく、赤い色で表示されている。

まさかとは思うが、二本目があるのだろうか。

まあ何にせよ、立ち止まっている理由にはならない。

少しずつであろうとも削らなければ、コイツを仕留めることはできないのだから。

まず狙うのは後ろ脚、人間でいうアキレス腱の部分だ。

トカゲにアキレス腱があるかどうかは知らないが、生物の構造上、ここに腱が無ければ足を動かすことはできない筈だ。

ヴェルンリードは俺のことを警戒しているため、俺が動けば当然ながら反応する。

しかし、部隊を率いるアルトリウスがそれを見逃す筈もない。

「高玉さん、スカーレッドさん!」

「射撃部隊、用意」

「詠唱完了、いつでも撃てます!」

攻撃を終えた直後に俺の方へと意識を向けたため、ヴェルンリードの迎撃態勢は整っていない。

そこに直撃したのは、凄まじい速さで飛来した矢と、様々な属性の魔法だった。

防御部隊の後ろにいるらしく、その姿はここからでは確認できなかったが、どうやら指揮しているのはミリエスタの作戦に参加した二人のようだ。

スカーレッドはデスペナルティも喰らっているだろうに、中々の度胸である。

二つの遠距離攻撃の直撃を受けて、ヴェルンリードの体が揺れる。

だが、あまり大きなダメージにはなっていない。多少削れてはいるものの、まだまだ奴の命に届くレベルではないだろう。

それでも、十分な隙にはなった。その間にヴェルンリードの右足へと接近した俺は、その踵部分に刃を振り下ろす。

斬法――剛の型、白輝。

「《練命剣》――【命輝閃】ッ!」

『グ……ッ!?』

眩く輝いた餓狼丸は、煌めく軌跡を描きながらヴェルンリードの強固な鱗を突破する。

最大まで攻撃力が高まった餓狼丸ならば、この強靭な肉体をも貫くことが可能なようだ。

毒に満ちた血が飛び散るが、来ると分かっていれば回避することはできる。

尤も、白輝は中々に隙の大きい一撃だ。避けるのはかなりギリギリになってしまった。

苦痛の声を上げたヴェルンリードは、ぐらりと体を揺らす。

ヴェルンリードの右の後ろ脚は膝を地に突くような体勢となっており、確実に動きを鈍らせているようだ。

『ルォォォオオオ――――!』

「ッ!?」

だがその直後、ヴェルンリードは大きく魔力を昂らせ、再び体に嵐を纏い始めた。

その風圧に弾き飛ばされ、奴から大きく距離を開ける。

そして、それと共に空間に投射された魔力は雷と化し、無差別に周囲を薙ぎ払った。

舌打ちと共にそれを回避し――避けたそれが向かう先に視線を向けて、思わず眼を見開く。

そちらの方角に存在していたのは、こちらへと向かってきている、『キャメロット』に所属する連中とは別のプレイヤー集団だったのだ。

ヴェルンリードが全方位へ放った魔法は、彼らへと直撃し、容赦なく吹き飛ばす。体力の低いプレイヤーについては、それだけで死に戻ることになってしまったようだ。

「うわ、ヘイト無視の無差別攻撃持ちですか」

「お前も喰らっていただろうに」

「一応、《斬魔の剣》は使っておきましたよ」

こちらへと近寄ってきた緋真はダメージを負っている様子ではあったが、それでも致命的なレベルではない。

離れているルミナも無事な様子であるし、こちらの戦線は崩れてはいない。

だが、向こうのプレイヤーはそうも言っていられない様子だ。

壁を作り上げていたアルトリウスたちは無事な様子であるが、近寄ってきていたプレイヤーたちは中々のダメージを受けてしまった。

幸い、ベーディンジアの騎士団は大きく距離を開けていたため問題はなかったようだが――

「……厄介だな」

「ですね。どういう条件で今の攻撃を放つのかも分からないですし。ダメージ起因か、それとも時間か……分からないですけど、分析してる余裕もないですよ」

「その通りだ。何度もやられる前に潰すとするか」

アルトリウスたちも同意見であるのか、ディーンとデューラックが動き始めている。

先ほどの攻撃については、戦いながら分析するつもりなのだろう。

では、少しばかり彼らの手助けをするとしようか。

「『生魔』」

まずは、ヴェルンリードの纏う嵐を剥ぎ取る。

この防壁がある限り、ヴェルンリードに有効なダメージを与えることはできないだろう。

だが、奴の意識は今こちらに向いている。この状況で奴に接近するのは中々難しいが――

「第二隊!」

『《プロヴォック》! 《フォートレス》!』

ヴェルンリードが攻撃を繰り出す前に、『キャメロット』の騎士たちが奴の意識を引き付ける。

再びヴェルンリードは『キャメロット』の方へと向き直り――その瞬間、俺は地を蹴った。

斬法――剛の型、穿牙。

ヴェルンリードの纏う嵐へと刃が突き刺さり、その防壁に穴を穿つ。

それと共に嵐の魔法は大きく揺らぎ、ヴェルンリードの身が露わになる。

さて、そろそろ積極的に攻めてやるとしようか。