軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

186:駆ける騎兵たち その7

「『生魔』ッ!」

膨れ上がった気配に対して即座に反応し、刃を振るう。

直後、振り上げた刃は、俺を目がけて落ちてきた雷を斬り裂いて消滅させていた。

《練命剣》を組み合わせてなお確かに腕に響く重さに、その魔法を放った者が誰であるかを理解する。

上空を見上げれば――案の定、そこにはかつて相対した悪魔の姿があった。

「良くもやってくれましたね、人間」

「ヴェルンリード……!」

翠のドレスを纏う女、伯爵級悪魔――かつてこの街で戦ったあの女だ。

ヴェルンリードは上空に浮かんだまま、俺に対して強い憎悪の視線を向けてきている。

成程……どうやら、ここからが戦いの本番であるらしい。

湧き上がる殺意を制御しながらセイランを呼び寄せ、相手の出方を見ながら静かに構える。

ここにいるのが俺たちだけであれば遠慮なく突撃させて貰っていた所であるが、生憎とここには騎士団長と王子がいる。

この国の重要人物である以上、殺されるわけにはいかない。

アルトリウスに目配せし、二人を避難させるよう告げつつ、俺は上空のヴェルンリードへと声を上げる。

「遅かったな。全て終わってからのこのこと現れるとは」

「フン……構いません。どうせ、街など占拠していてもあまり意味はないのだから。とは言え、ここまで邪魔をされて黙っているつもりも無いですが」

ヴェルンリードはそう口にして、再び魔力を高め始める。

舌打ちし――俺は即座に、セイランに跳び乗って上空へと駆け上がった。

翼を羽ばたかせるセイランは、同時に風と雷を纏い、その一部をヴェルンリードへと向けて放つ。

だが、生憎とその程度でダメージを受けるような存在ではない。

厄介であるが、認めざるを得ないのだ。こいつは紛れもなく、今まで戦ってきた中でも最高位に近い悪魔なのだと。

「その程度が通じると思わないことです!」

「《蒐魂剣》!」

ヴェルンリードが振るった腕から、風の刃が飛来する。

それを《蒐魂剣》で斬り裂いて、俺は更にセイランを加速させた。

まずは、コイツを地に叩き落さねばならない。空中では、俺は十全に戦力を発揮することができないからだ。

だが、それを相手に悟られるわけにもいかない。こちらが地上にこだわっていることを感じ取らせず、地上での戦いに移行しなくては。

「『生魔』……!」

奴の魔法そのものは、《練命剣》を織り交ぜなくても斬れるようになった。

今の俺の《魔力操作》であれば、どの程度の力があれば斬れるのかを判断することができる。

だが、障壁を斬り裂いて奴自身にダメージを与えるためには《練命剣》を使った方が良い。

「セイラン、相殺しろ!」

「ケエエエエエッ!」

ヴェルンリードが放ってきた魔法に対し、セイランは同じく魔法で対抗、その魔法を相殺する。

セイランはかなり全力で攻撃を放たなければならないため、正直な所燃費は良くない。

だがそれでも、接近しなければならない以上、手加減をしている余裕などない。

「しッ!」

風を使って加速したセイランと共に、ヴェルンリードへと突撃する。

リーチから言えば野太刀を使いたい所であるが、攻撃力ではHPを吸収した餓狼丸の方が遥かに上だ。

アリーアンとの戦いの最中で既に吸収限界まで達している餓狼丸は、野太刀を大きく超える攻撃力を誇っている。

魔法を相殺した余波に晒されつつも、多少のダメージは物ともせずに吶喊し――俺の刃は、ヴェルンリードの障壁を斬り裂き、その右腕を斬り飛ばした。

「――――っ!?」

その感触に、何よりも俺自身が驚愕する。

今のは肉を斬り、骨を断った感触ではなかった。むしろ、魔法を斬った時と同じような、水でも斬り裂いたような感覚。

違和感を覚えつつセイランを旋回させて、俺は思わず眼を見開いた。

切断されたヴェルンリードの腕、そこから零れていたのは血ではなく、輝く魔力の粒子だったのだ。

これは実体ではない、魔法によって作り上げられた分身だ。

分身体のヴェルンリードは斬り落とされた右腕を見下ろし、小さく嘆息する。

「……やはり、この程度では仕留めるには至らないか」

「貴様……何のつもりだ?」

「今回はただのメッセージ。お前を殺せれば僥倖だったけれど……それは次の機会に取っておくとしましょう」

腕の切断面から魔力が漏れ出ると共に、ヴェルンリードの分身が薄れてゆく。

《蒐魂剣》による効果は、分身体に対しても効果的であるらしい。

とは言え、一撃で消えない辺り、かなり高度な魔法であることは間違いないようだが。

「聞くがいい、魔剣の剣士。そして、地上にいる人間共よ。これより、我らはお前たちに全面攻撃を仕掛けます」

「……!」

「ただ一人として生かしてはおかない。この地に蔓延るお前たちを根絶やしにする……さあ、北の空を見なさい」

ヴェルンリードの気配からは意識を外さぬようにしつつ、示された方角へと視線を向ける。

そしてその光景を目にし、俺は思わず息を飲んだ。

北の空が黒く染まっている。あれは――

「あれが……全部悪魔だと?」

「お前たちがここに釘付けになっている内に、十分な戦力は用意できました――さあ、ここからが本当の戦争です」

舌打ちしながら振り返るが、ヴェルンリードの分身は既に消滅しかかっている。

だが、その表情の中に浮かべられているのは侮蔑交じりの嘲笑だ。

……成程、どうやら先手を打ったつもりで、向こうに打たれていたらしい。

「一人残らず散りなさい。お前たちの力は全て、わたくしたちが有効に活用してあげましょう」

そう言い残し、ヴェルンリードの分身は消滅した。

それと共に、再びシステムアナウンスの音声が耳に届く。

『ワールドクエスト《駆ける騎兵たち》のクエスト目標が更新されました。クエストメッセージを確認してください』

舌打ちし、俺は再び遠景の敵の姿を確認する。

飛行して接近してくるものだけではなく、地上を駆ける悪魔もいるようだ。

ベルゲンに辿り着くまでにはまだしばらくの時間はあるだろうが、楽観視できるような数ではない。

……さて、これはどうしたものか。とりあえず、まずはアルトリウスと話をするべきだろう。

『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀術》のスキルレベルが上昇しました』

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《MP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『【咆風呪】のテクニックを習得しました』

『《識別》のスキルレベルが上昇しました』

『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『【命輝一陣】のテクニックを習得しました』

『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』

『【因果応報】のテクニックを習得しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『【モンスターサイト】のテクニックを習得しました』

『《HP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』

『《インファイト》のスキルレベルが上昇しました』

『《回復適性》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』

戦闘状態が解除されたことにより、経験値が適用される。

とりあえず、新たなテクニックが手に入ったことは喜ばしいが……今はそれどころではないか。

「セイラン、とりあえず戻るぞ」

「クェ」

セイランを地上へと向かわせつつ、ようやく餓狼丸の解放を解除する。

地上に近づいたところでセイランの背から飛び降り、向かうのはアルトリウスの元だ。

アルトリウスと緋真たち、そして騎士団長と王子は、全員石碑の前に集合していた。

アルトリウスの仲間たちは揃ってシステムウィンドウを覗き込んでいるが……どうやら、更新されたクエストの情報とやらを確認しているらしい。

「どういう状況だ?」

「ああ、先生。ワールドクエストの情報が更新されたんですけど……ポイント関連の話が追加されてますよ」

「あん? ふむ……悪魔を倒してポイントを稼げ、ねぇ」

他にも、街の修復や支援を行うなど、ポイントを稼ぐ方法は多岐に渡っているようだ。

ちなみに、このポイントは後々イベント報酬と交換できるらしい。とは言え、今回は個人成績のみであるようだが。

それはそれで興味深いが、今は置いておくとしよう。

それよりも、今は考えなくてはならないことがある。

「アルトリウス、敵が迫っているぞ。かなりの数だ……正直な所、これでプレイヤーを焚きつけたところで、被害無しとは行かんぞ」

「ええ、分かっています……クオンさん」

石碑を弄っている王子たちを見つめ、そしてしばし黙考し――アルトリウスは顔を上げる。

そこに浮かんでいたのは、確かな決意の表情だ。

「少し、無茶にお付き合いいただいてもいいでしょうか」

「無茶だと……?」

「――敵を突っ切り、直接ヴェルンリードに攻撃を仕掛けます」

――その言葉に、俺は大きく目を見開いて絶句した。

無茶どころの話ではない。普通に考えて、無理と言わざるを得ないような戦いだ。

「……お前さんにしては、随分と現実味の無い話だな」

「ええ、承知の上です。しかし、正直な所、これ以外の手を打ったところで後手にしか回りようがない」

アルトリウスの表情は非常に厳しい。俺自身感じ取ってはいるが、こいつは更に先まで見て難しい戦いだと判断しているのだろう。

決して、上手い手であると言えるはずがない。それでも、それを通さねばならないほどの状況か。

そして――その無茶な手を、俺ならば通せる可能性があると、アルトリウスの瞳はそう告げている。

「……聞こう、一体何をするつもりだ?」

「クオンさんのパーティ、そして僕たちのパーティで敵を突破し、この国の北限――ヴェルンリードのいる場所まで向かいます。そこで決着を付けられるかどうかよりは、情報を得ることが目的ですが……」

「――可能であると判断したならば、その場でヴェルンリードに挑む、か。くくく、無茶にも程があるな」

あのアルトリウスらしからぬ、無謀極まりない作戦だ。

だが――

「いいだろう、お前さんの思惑に乗ってやる。その無茶を通してやろうじゃないか」

そう告げて、不敵に笑う。

無茶は承知の上、決死の戦いだ。ああ、全く――それでこそ血が滾るというものだ。