軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

182:駆ける騎兵たち その3

ベルゲンの上空へと飛び出し、内部の様相を確認する。

地下から潜入した時と同じように、中は無数の悪魔によって支配されている状況だ。

しかしあの時とは違って、悪魔共は慌ただしく動き回っている。

流石に、攻撃を受けている最中では、あのように無意味な行動を取り続けるというわけにはいかないのだろう。

基本的に、内部の悪魔共は二通りの動きに分かれている。一つは外壁へ向かい、押し寄せてくる俺たちに対処しようとしている奴ら。

もう一方は、街の中央部へと向かう連中だ。何をしようとしているのかは分からんが、そちらの方向に何かがある可能性は高いだろう。

とりあえず、アイツらを追跡する形で動くとするか。

「緋真!」

「分かってます、あっちですよね! 空中からの援護とか要ります?」

「要らん、それは騎士団の方が仕事をしてるだろう」

俺たちと同じように空中からベルゲンに侵入した騎士団、および一部のプレイヤーは、主に空中からの支援を任務としている。

彼らの仕事は、この戦いにおける制空権の確保だ。

悪魔共も、飛行する魔物のスレイヴビーストや、翼を持つデーモンキメラなど、空中における戦力はいくらか保有している。

そんな連中が頭上から攻撃してくるとなると、安心して地上攻めを行うことが難しいのだ。

故にこそ、制空権の確保は重要だ。空中から落ちてくるのが攻撃ではなく援護であれば、地上の人間は心置きなく戦うことができる。

「……まあ、俺には向かん仕事であるが」

何しろ、俺には空対地攻撃が無い。《強化魔法》で多少の援護をしたところで大した意味は無いだろうし、素直に地上で斬り合いをしていたいものだ。

上空のことは彼らに任せ、俺たちはさっさと敵陣の奥深くまで潜り込んでおきたい。

まあ、あまり一気に入り込みすぎると危険であるため、ある程度の所で降りるべきであるが。

と――その時、後方で何か軋むような音が響く。

振り返ってみれば、そこにはゆっくりと開こうとしている南門の姿があった。

どうやら、内部に入り込んだ連中が上手いこと仕事をこなしたようだ。

「お父様、門が……!」

「ああ、見てみろ。中々に面白い光景が見れると思うぞ」

門はゆっくりと開き――その向こう側から、馬に乗った騎士たちの姿が現れる。ベーディンジアの騎士団だ。

彼らは門の内部を、そして雑然とした街中へと、一切躊躇することなく駆け出してゆく。

その動きは、見事と言う他ないものだ。街中で馬を疾走させるなど、そうそうできるものではない。

整然と並びながら街中を駆け抜け、掲げた突撃槍や剣で悪魔共を次々と片付けていく。

「凄いですね、あの人たちの馬術……あれだけなら先代様にだって引けを取らないのでは」

「専門家だろうからな。それに、この街の構造そのものが馬を走らせることを想定している。彼らにとっては、庭のようなものなのだろうさ」

何にせよ、ここは彼らにとって不利な戦場ではないということだ。

高速で駆け抜ける騎馬隊が悪魔共を間引き、残った連中を歩兵やプレイヤーたちが駆逐する。

多少苦戦する場面があれど、大勢としては全く問題は無いだろう。

――ここまでは、アルトリウスが睨んでいた通りの展開である筈だ。

「残るは敵の隠し玉のみ、か……ちっとは骨のある敵がいればいいんだがな。セイラン、そろそろ降りるぞ」

「え、もうですか? 悪魔の本拠地まで乗り込むのかと」

「それだと全方位から攻められるだろうが。数で劣っている以上、油断はできん」

相手は追い詰められつつある。だからこそ、何をしてくるか分からないという怖さがあるのだ。

大胆に攻めたとしても、常に余裕だけは持たなくてはならない。

どのような状況にも対処できる余裕さえ残しておけば、最後の一手を詰められずに済む。

セイランを操って地上へと降下し、着地して野太刀を抜き放つ。

悪魔共の姿はちらほらとある程度だが、奴らはこちらに目もくれず、街の中央部へと向けて走っている。

「本能的な反応というよりは、何かの指示を受けているようにも見えるな」

「ということは、爵位悪魔でしょうか」

「可能性はあるだろう。さて、とっとと先に進むとするか」

襲ってこないのであれば、こちらから攻撃を仕掛けるまでだ。

セイランを駆って悪魔共が進む方向へと進む。流石にある程度近付いたら悪魔共も攻撃を仕掛けてきたが、足を止めてまで対処しなければならないような相手ではない。

適当に野太刀で斬り払いながら先へと進み――見えてきた光景に、口元を歪める。

「くはは……何だ、槍衾のつもりか?」

街の中央部へと続く道に、悪魔共が並んで行く手を塞いでいる。

先へ進ませまいとしているようだが、それはつまり先に何かがあると言っているようなものだ。

であれば――蹴散らして先へと進むのみ。

俺は嗤いながらセイランへと合図を送る。それを受け取ったセイランは、身に風と雷を纏う。

そのまま、構える相手を恐れることなく跳躍し――強靭な前足を振り下ろした。

放たれた風が逆巻き、雷を伴って蹂躙する。まとめて吹き飛んだ悪魔共の真っ只中へ着地し、俺は笑みと共に野太刀を納め、餓狼丸を抜き放った。

「さて、押し通らせて貰うとするか」

数は多い――だからこそ、戦い甲斐があるというものだ。

全て蹂躙し、堂々と前に進ませて貰うとしよう。

「『生奪』」

一歩踏み出し、敵陣へと飛び込む。

敵の数が多いことは事実だが、合戦礼法はまだ使わない。

あれは脳と肉体をかなり酷使する術理だ。ここから先で何があるか分からない以上、不用意に消耗する真似は避けなければならない。

尤も、多少使った程度でどうにかなるほど軟なつもりは無いが。

眼前の悪魔を袈裟懸けに斬り裂き、横合いから繰り出されてきた拳を身を屈めて回避する。

そのままカウンター気味に相手の脇腹へと肘を叩き込んで動きを止め、斜め前に踏み込みながらその胴を薙ぎ払った。

そして噴き出る血を無視しながら駆け抜け、振り抜いた刃を反転させる。

逆袈裟から振り抜いた刃に対し、そこにいたデーモンキメラは仰け反る形で刃を躱そうとするが、完全には躱し切れずに血が噴き出る。

「【マルチエンチャント】、【スチールエッジ】、【スチールスキン】」

しかし、それを追うことなく、俺は《強化魔法》を発動する。

流石に全ての装備品に魔法を掛けるとなると中々にMPを消費するが、今はMPを回復する手段には困っていない。

追撃を掛けなかった悪魔は困惑した様子ながら、こちらへと反撃しようとし――背中から、心臓を刃に貫かれる。

崩れ落ちるその体の向こうには、気付かれずに接近したアリスがいるのだろう。

まあ、わざわざ確認する必要もない。彼女ならば、放っておいても存分に戦ってくれることだろう。

「《蒐魂剣》――【奪魂斬】」

歩法――縮地。

離れた位置からこちらに魔法を撃とうとしていた悪魔に対し、瞬時に肉薄する。

反射的に放たれた魔法は俺の頭の横を通り抜けていく。

命を奪う脅威が紙一重を穿つ気配に思わず口角を吊り上げながら、俺は相手の懐に潜り込んだ。

斬法――柔剛交差、穿牙零絶。

密着に近い距離で放つのは、体幹の回旋だけで放つ刺突。

回避不可能な距離で放ったその一撃は、確実に悪魔の心臓を貫く。

そのまま刃を捻って確実に命脈を断ち斬りつつ、その体を蹴り飛ばす。

そしてその勢いで体を回転させ、横合いから迫る悪魔へと刃を振るう。

「『生奪』」

斬法――剛の型、輪旋。

二体のレッサーデーモンを胴から両断し、刃を構え直しながら袖で拭う。

ただのレッサーデーモン程度では、やはり物足りないというものだ。

工夫もない一閃で斬れてしまうのでは、数がいても満足できるものではない。

戦うのであれば――

「最低でもデーモンキメラぐらいじゃないとなァ」

虎のような顔を持つデーモンキメラが叩き付けてきた拳に対し、刀の柄を叩き付けて攻撃を逸らす。

そのまま相手の懐に肉薄し、肩を押し当てる。

打法――破山。

衝撃によって吹き飛ばさず、その威力だけを体内に通すように叩き付ける。

寸哮を超える破壊力を直接内臓へと叩き付けるのだ。

人間であれば、ただそれだけで即死するほどの威力。だが、強靭な肉体を持つデーモンキメラを殺めるには至らない。

それでも、呼吸が詰まり動けなくはなっているのだろう。硬直したその巨体の首筋へと、俺は刃を突きつける。

斬法――柔の型、零絶。

密着させた刃から威力を伝えた一閃が、デーモンキメラの首を深く斬り裂く。

噴き上がる緑の血、首を押さえながら崩れ落ちる悪魔を尻目に、俺は次の獲物を睥睨し――

「《スペルエンハンス》――【フレイムストライク】!」

緋真が放った炎が悪魔の群れに直撃し、派手な爆炎を上げる。

《スペルエンハンス》は《スペルチャージ》が進化したスキルだ。

追加消費MPは少なくなり、純粋に性能が向上していると言えるだろう。

ちなみに、《火炎魔法》による新たな魔法は単体向けであるため、今この場では使いづらい。

爆発によって吹き飛んだ悪魔共は駆け抜けるセイランによって踏み潰され、体勢を崩された連中はすかさず接近したルミナによって斬り裂かれた。

「輪旋か。威力の高い業を先に教えたか?」

「一応、一緒に浮羽も教えましたよ。ほら先生、先に進みましょう」

「くく、お前に言われるとはな」

前方を指し示す緋真に、思わず笑みを零しながらも歩を進める。

さて、この先には果たしてどれだけの敵がいることやら――

「愉しませろよ悪魔共。こんな要塞に引きこもったんだ、何もできないとは言わせんぞ」

哄笑と共に、前へと進む。

悪魔共の本陣は、眼前にまで近づいて来ていた。