軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

017:エレノアからの依頼

『《HP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

街に戻ってくるまでに、またちょくちょくと敵を倒していたのだが、あまりレベルは上がらなかった。

まあ、レベルも10に到達したのだし、それほど焦る必要もないと言えばそれまでなのだが。

ともあれ、目的を達成した俺たちは、その足でエレノアの天幕まで戻ってきた。

途中で声を掛けられることもしばしばあったものの、用事があるからとそこはスルー。

こちらも用事があるんだ、構っている暇などない。

「おかえりー、先生さん、いおりん」

「予想通り、早かったわね」

「ただいま戻りましたわ、フィノ、エレノアさん」

戻ってきた俺たちをいの一番に出迎えてくれたのは、この天幕ではよく顔を合わせる面々だった。

後ろの方では、どうやら勘兵衛が精算の準備をしているらしい。

しかし、フィノにしろエレノアにしろ、かなり忙しい人物の筈なのだが、よくこっちの相手ばかりしてくれるものだ。

――とまあ、そこまで都合よく考えるほど気楽な性格はしていないわけだが。

まあどちらにせよ、エレノアはこちらに対して不利益をもたらそうとしているわけではないだろう。

何をするつもりなのかは、彼女の話を聞いてみなければわかるまい。

「さて、クオンさん。貴方は、オーダーメイドでのアイテム発注は初めてよね?」

「ん? ええ、まあ……それはその通りですが」

「そういう場合は、《書記官》のスキルを持ったプレイヤーが作成した契約書で取り決めをするのよ。その方が、後で揉め事が無いし、記録が残るから」

「成程、しっかりしている。それで、その《書記官》持ちがそこの彼だと?」

「そういうことよ、勘兵衛」

「あいよ、姐さん」

エレノアに促され、進み出た勘兵衛が、俺たちの前に置かれた机の上に一枚の羊皮紙を広げる。

どうやら、これが契約書とやららしい。今は何も記入されていないが、ここにはこちらから提供するアイテムや金銭に関する取り決めを記入するようだ。

羊皮紙を覗き込んでみれば、そこに何かを書き込むのではなく、上にウィンドウが表示されている。

ウィンドウは二つ、その内右側のウィンドウには、『オーダーメイド装備』と記載されていた。

「で、どういう分配だ? アンタの方が多めにアイテム手に入れてるんだろ?」

「まあ、確かに。ええと、とりあえず俺が提供するのは大森蜘蛛の糸を7つか」

「わたくしからは、大森蜘蛛の糸製の着物、袴、羽織、鉢金になりますわ」

「あいよ、っと。まあ当然ながら、加工品の方が高価なんで、クオンは金も入れる必要がある」

「当然だな。それで、幾らぐらいになる?」

「そうだな……」

呟き、勘兵衛はそろばんを弾き始める。

右側のウィンドウには装備アイテムの四種が、左側のウィンドウには俺の出す糸が配置されている。

どうやら、糸をスキルが金額化させているらしい。

今の時点で足りない値段が記載され――更に、依頼料だの特別対応だのの金額が左側のウィンドウに記載が追加されていた。

ところで、そのそろばんはわざわざ作ったのだろうか。

確かに構造自体はそれほど難しいわけではないのだが、そこまでせんでもいいのではと眉根を寄せる。

しかし、勘兵衛はそんな俺の視線に気づく様子もなく、小気味のいい音を立てながら計算を終えていた。

どうやら、リアルでもそろばんを扱っているらしい。中々に早い計算だった。

「ボス素材でのオーダーメイド、現状における布装備では最上位だ。しかも、伊織の腕は布職人でもトップクラス。当然、値段は高くなるな」

「……ま、背景は分かった。幾らなんだ?」

「メイン装備である着物と袴はそれぞれ7万ずつ。頭装備になる鉢金は5万、装飾品扱いの羽織は3万だ。合計22万って所だな」

「そいつはまた、結構行くもんだな」

払えない額ではないが、手持ちの金の半分近くが飛んでいくほどの額になってしまった。

事前に勘兵衛からの説明があったからこそ納得できるものではあるのだが、現状の装備とはえらい違いだ。

これは、攻略が滞っているせいでアイテムのランク自体が上がらず、流通する通貨だけが増え続けてインフレ気味になっているのではなかろうか。

内心でそう考えて沈黙し――そこで、若干慌てたように伊織が声を上げた。

「あ、あの、クオンさんにはお世話になりましたし、これはわたくしからの依頼のようなものです。金額については勉強させていただきますわよ?」

「ん、ああいや、別に構わんさ。それより、金に糸目をつけずにいいものを作ってくれた方がありがたい。金額についてはそれで構わんぞ?」

「そうですか? それなら、腕によりをかけて作成させていただきますけど……」

とはいえ、これから武器も購入しなければならない。

オーダーメイドではないだろうが、フィノはかなり優秀な鍛冶職人の筈だ。

となれば、購入するにはそこそこな金額が必要となるはずだ。

今の手持ちの金は残りおよそ25万ちょっと……これだけあれば一応足りるとは思うのだが、懐が寂しくなるのは事実だろう。

そんな俺の感情を読み取ったかのように、エレノアは小さく笑みを浮かべて声を上げていた。

「クオンさん、貴方、フィノから武器も購入するのでしょう?」

「ああ、その通りだが……」

「やっぱりね。フィノ、彼が購入する予定の物を出して」

「ん、これだよ」

そう言ってフィノが取り出したのは、俺が今使っているものとほとんど変わらないデザインの太刀と小太刀だった。

尤も、拵えには若干の差異がある。どうやら、これがフィノの言っていた鋼装備とやららしい。

「拝見しても?」

「どうぞー」

相変わらず気の抜けた様子のフィノの返答に若干脱力しつつも、俺は受け取った太刀を抜き放った。

まず目に入るのは、磨き抜かれた美しい刀身だ。刃紋は美しく輝く湾れ刃。

僅かな歪みすらなく、緩やかな反りを描く刀身は、使っていても違和感なく目標を斬り裂くことができるだろう。

拵えの完成度にも満足しつつ、俺は改めて武器の性能を《識別》した。

■《武器:刀》鋼の太刀

攻撃力:26(+3)

重量:16

耐久度:120%

付与効果:攻撃力上昇(小) 耐久力上昇(小)

製作者:フィノ

■《武器:刀》鋼の小太刀

攻撃力:18(+2)

重量:10

耐久度:120%

付与効果:攻撃力上昇(小) 耐久力上昇(小)

製作者:フィノ

「これは……」

「ん、自信作」

胸を張るフィノの姿を一度まじまじと見つめ、もう一度刀へと視線を戻す。

どうにも、何段階かすっ飛ばしているのではないかという性能だ。

果たして、これは本当に同じ種類の武器なのかと、俺は一度現在使っている武器の性能を確認した。

■《武器:刀》黒鉄の太刀

攻撃力:18

重量:8

耐久度:76%

付与効果:なし

製作者:フィノ

■《武器:刀》黒鉄の小太刀

攻撃力:10

重量:5

耐久度:88%

付与効果:なし

製作者:フィノ

素の性能もさることながら、付与効果による上昇が素晴らしい。

これならば、前は突きでしか有効なダメージを与えられなかったあのでかい狼も、あっさりと斬り裂けてしまうかもしれない。

これは確かに欲しくなる逸品だ。だが――

「……これ、結構高いんじゃないのか?」

「んー、太刀が17万、小太刀が10万ぐらい?」

「ぐぬ……っ」

足りない。ギリギリ足りない。

あの、緋真に付きまとっていた小僧が随分と金を持っているものだと思っていたのだが……成程、いい品を手に入れるためにはそれ相応の金が必要だったということか。

しかし、どうしたものか。先ほど手に入れた蜘蛛の素材を売り払えば何とか足りるだろうか――そう考えていたところに、エレノアが声をかけてきた。

「ねえ、クオンさん。貴方、私からの依頼を受けてみるつもりは無いかしら?」

「何? 依頼だと?」

「ええ。報酬は全部で10万、前払い5万の成功報酬5万よ」

「……随分と気前がいいことで。それで、その依頼の内容は?」

どこか不敵な笑みを浮かべているエレノアに、僅かに警戒しながら問いかける。

そんな俺の警戒に気づいたのか、彼女はぱたぱたと手を振りながら相好を崩して告げていた。

「変な話じゃないわ。ここにいる私たちを、次の街まで連れていってほしい、ということよ」

「次の街まで? それは要するに、あの狼を倒してほしいってことですかね」

「端的に言えばそういうことね。私たちも一応レベリングはしているのだけど、スキル数が限られる現状、戦闘能力はやっぱり戦闘職には及ばないわ。だから護衛を雇って次の街まで進むようにしているの」

「その護衛役を俺に、と」

エレノアの説明に納得し、首肯を返す。

現状、俺もスキル数にはいろいろと苦労させられているのだ。

専用のスキルが要求される生産職では、ボスを倒すのも一苦労だろう。

まあ、その分資金力では戦闘職とは比べ物にならぬほどの規模を有しているのだろう。

だからこそ、金で護衛を雇うといった行動も取れるわけだ。

「成程。しかし、何故その話を俺に? 貴方は緋真とも交流があったはずですが?」

「今までは忙しかったというのもあるわ。地盤を固めるのに奔走していたから、先に進んでもあまり意味が無かったのよ。けど、それもおおよそ終わったし、そろそろ先に進んでもいい頃なの。それと――」

一度言葉を切ったエレノアの視線が、俺の瞳を射抜く。

どこか楽しげな、それでいて獲物を狙うかのような、深い金色の瞳。

独特の雰囲気を持つ彼女の視線にさらされ、どこか落ち着かない思いを抱きながら、俺は彼女に問いかけた。

「……それと、何です?」

「現在滞っている第二ボスの攻略。もしかしたら、貴方ならあっさりと攻略できてしまうんじゃないかって……そう思っただけよ」

「そりゃまた、買い被りすぎじゃあないですかね」

肩を竦め、苦笑する。

流石に、見たこともないボスを相手に、勝てるなどと断言するつもりは無い。

しかしまぁ、あの狼相手ならば、十分に勝てると言い切ることができるだろう。

つまりこの依頼はそれほど難しくもなく、しかしこちらには十分にメリットのある話ということだ。

「分かりました。その依頼、受けるとしましょう」

「そう、良かったわ! それじゃあ勘兵衛、精算よろしくね。それと、クオンさん」

ポンと手を打って勘兵衛に指示を出したエレノアは、改めてこちらへと視線を向ける。

そして、その口元には柔らかい笑みを浮かべて、こちらへと手を差し出してきた。

「貴方とは、長い付き合いになりそうだわ。お互い、遠慮は無しということにしましょう」

「……そりゃつまり、他の面々に対するのと同じような対応でいいってことか?」

「ええ。貴方とは、お互い協力し合える関係であることが望ましいと思ってるわ。ただの勘だけど……私の勘って、結構当たるのよ?」

「成程、女の勘って奴か。そいつは恐ろしいことだが……確かに、アンタの言う通りだ」

資金力、人脈、あらゆる点において優秀な人物だ。

彼女ほどの人物であるならば、同盟を結んでおいても損はあるまい。

そう確信して、俺は彼女の差し出した手を迷うことなく握った。

「よろしくお願いする、エレノア」

「ええ、こちらこそ。よろしくお願いするわ、クオン」

固く握手を交わし、同盟関係を結ぶ。

今後彼女のバックアップが受けられるようになるのであれば、戦いもやりやすくなることだろう。

その為にも、まずはあの犬コロを片付けてやらねば。

勘兵衛が領収書と共に持ってきた二振りの刀を手に、俺は次の街へと進む決意を固めたのだった。