軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

156:北上準備

翌日、朝の稽古を終えたところで、久遠の屋敷に再び荷物が届いた。

やたらと数の多いソフトのパッケージ――すべて、『Magica Technica』のゲームソフトだった。

山のように積まれたゲームソフトという、うちではまず見ることがない筈の光景に、思わず引き攣った笑みを浮かべる。

来るとは聞いていたが、こうして実際に目にすると驚きもひとしおだ。

「ああ、師範」

「お疲れ様です、お兄様」

「蓮司、幸穂……これで全部そろったのか?」

「はい、今回ゲームを利用するメンバーのものは揃っています。まさか、全員分普通に送ってこようとは」

あまりにもあからさまな運営の対応には苦笑を零さずにはいられない。

しかし、これだけの対応をしてくるということは、やはり運営はこちらのことを把握しているということだろう。

色々と確かめたいことはあるが――まあ、いいか。

「もうすぐに参加可能なのか?」

「いえ、この二次ロット――第二陣というそうですが、こちらのソフトでログイン可能になるのは明日以降です」

「一応、アバター? の作成とやらはできるそうなので、そこまではやっておくつもりです」

「いやはや……正直、良く分からない話ばかりでした。難しいですね、ゲームというものは」

蓮司の老人のような反応には苦笑しつつも、俺も似たようなものであるため反応はしないでおく。

どうやら、こいつらがゲームに参加するのもそう遠くはないようだ。

とは言え、別にゲームの中でまでこいつらの面倒を見るつもりも無いのだが。

「尤も、今回の二次ロットはかなりの数を発売するらしく、シリアルナンバーでいつからログインできるかが決まるそうです」

「我々は明日――つまり解放初日から入れるそうです」

「……ここまでくると流石に、露骨に過ぎるな。何を考えているんだか」

果たして、俺たちに何をやらせようとしているのやら。

まあ何にせよ、ここまで来たらやるしかない。

運営側の思惑は別として、こちらにとっての利益を追求していく他ないだろう。

「……とりあえず、門下生たちの扱いは任せる。何を企んでいるのかは知らんが……それを食い破れるぐらいの実力は身に付けておけ」

「了解です、師範」

「任せてください、お兄様」

自信満々に返事しているが、果たしてどこまでゲームに適応できるだろうか。

若干の不安は覚えつつ、俺は二人に別れを告げて自室へと足を進めるのだった。

* * * * *

ログインして建物内から出ると、相も変わらず大量のプレイヤーの姿が目に入った。

どうやらちょうど悪魔共の襲撃があったらしく、プレイヤーの大半が正門前へと足を運んでいるようだ。

少々気にはなるが、今更行った所で仕事はあるまい。素直に緋真を待つこととしよう。

「あら? 早かったわね、クオン」

「それはこちらの台詞だが……悪魔共を相手にしていたのか?」

「ええ。中々うまい具合に戦える相手ね。少し気に入ったわ」

ふらりと姿を現したアリスにそう問えば、彼女は何事も無いと言わんばかりの無表情でそう返す。

その姿をよく見てみれば、胴を護る革鎧に簡単なウェポンホルダーが増設されていた。

どうやら、投擲用のナイフを収めておくスペースを作成したらしい。

この辺りには生産職の数も多いし、その程度の改造はお手の物か。

「《投擲》も中々いい具合よ。遠距離だと当てるのは少し難しいけれど……数メートル程度なら確実に当てられるようになったわ」

「ま、その辺りは慣れもあるからな。要練習だろうさ」

「そうね。実際に有効な戦術だったし……いろいろと試してみるわ。まあ、毒薬の補充が必要だけど……緋真さんが来るまで少し時間はあるかしら?」

「ん? そうだな……長くてもあと10分程度だろうが」

「そう……まあ、それぐらいあれば少しはできるかしらね」

言いつつ、アリスは近場にあった机の一つを陣取り、そこにいくつかの器具を広げ始めた。

これは……ランプや小鍋、それに薬研だろうか。

「何をしているんだ?」

「《調薬》のスキルで使う調薬セットよ。ポーションも作れるけど……私が作るのはもっぱら毒薬ね」

「ああ、《ポイズンエッジ》に使う毒薬の調達か」

「買ってもいいのだけど、毒薬の効果を追い求めている生産職なんて殆どいないのよね。《ポイズンエッジ》の威力は消費する毒薬に依存するから、自分で作っておいた方が威力が高いのよ」

《調薬》は、俺が使っているポーションの作成にも関わっているスキルだ。

その名の通り、本来は薬を作るスキルなのだろうが、アリスのように毒を作ることも可能なのだろう。

流石にそう簡単に強力な毒が作れるわけではないだろうが、アリスはその辺りも一人で作成を続けていた。

何気に、アリスの《調薬》のスキルレベルは生産職のそれにも近いのだ。

「ああ、あんまり顔を近づけない方が良いわよ。毒になるから」

「おいおい、お前さんは大丈夫なのか?」

「私は《毒耐性》持ってるから、問題は無いわ」

そう言いつつ、アリスは刻んだ草を薬研に放り込み、同じく刻んだキノコを小鍋に入れて煮詰め始めた。

漂い始める妙な臭いからは離れつつ、その様子をのんびりと観察する。

何度も繰り返した作業なのだろう、中々に手際は良い。

「今作ってるのは何の毒なんだ?」

「普通の猛毒よ。ダメージ重視の毒ね。他に作っているのは麻痺毒だけど……今は材料が無いから、そちらは作っていないわ」

「普通の猛毒とは……」

何とも物騒な会話である。

しかし、それは特に気にした様子もなく、磨り潰した草に水を加え、更に磨り潰したのちに濾紙を敷いた漏斗の中に投入している。

その液体を鍋の中へと投入し――鍋の中の液体が、紫色のえげつないものへと変化する。

しかも、ほぼ固形だったはずのキノコが何故か溶けて無くなっている。

一体どうなっているのかと鍋の中を覗き込もうとして、何やら紫色の煙が上がり始めたため、さっさと風上へと避難する。

それに対し、アリスは動じた様子もなく火を止めて、それを小さなポーション瓶に移していく。

色はどす黒い紫色だ。見るからに毒と言わんばかりの色合いである。

「ん、これで完成ね。コスパがいいのよ、これ。味も臭いも見た目も隠す必要は無いし」

「そ、そうか」

確かに工程は少なかったが、見た目はかなりえげつない。

いちいち作っておかなければならないのは少々手間ではあるが、空いた時間でやる分にはいい活動かもしれない。

暗殺に使用する毒という意味では、確かに使用しづらいものだろう。

だが、アリスはあくまでも《ポイズンエッジ》の弾として使用しようとしているだけだ。

そのような面倒な工程など踏まず、ただ効果だけを追い求めればよいのである。

「こういう手間があるし、ポイズンエッジはあまり多用したくはないわ。必要であればどんどん使うけどね」

「そこはお前さんの判断に任せるさ。消費するものがある以上、気を付けねばならんからな」

俺の言葉に、アリスは僅かに微笑みながら頷き――その視線を、俺の横へと移動させた。

それを追わずとも分かる、緋真がログインしてきたようだ。

「遅れて申し訳ありません、先生!」

「構わん。どうせ、アイツらに色々と聞かれていたんだろう」

こいつがゲームに遅れるなど、師範代たちに捕まっていた以外に理由が考えられん。

その中でも、特に考えることが苦手な修蔵に捕まっていた可能性が高い。

あいつ、育て方でもスキルの取り方でも色々と悩みそう――と言うか面倒臭がって全部蓮司に聞きそうな気がする。

開始までもう時間が無いので急いでいるのは分かるが、少しは頭を使えと言いたいところだ。

戦闘においては獣じみた直感で正確に動ける男なのだが、あまり考えて動くタイプではない。

と言うか、考えると行動がワンテンポ遅れるので直感で動いた方が強いというのが困った所だ。

「さて……揃ったなら出発するとするか」

「了解です。えっと……北東ですよね」

「ああ、ベルゲンは避けながら進むぞ。流石に、下手に刺激する訳にはいかんからな」

これで上位の爵位悪魔でも出てきた日には、砦の完成を待たずに決戦が始まりかねない。

ベルゲンは避けて北へと向かうこととしよう。

ぐりぐりと首を回し、俺はアリスを促しつつ立ち上がる。

「そう言えば、例の件はどうなった?」

「ああ、家族に見せたらとんでもなく驚かれたわよ。正直詐欺を疑われたわ」

「……まあ、それは仕方ないか。どうやって説明したんだ?」

「いや、貴方の家に電話を入れて説明して貰ったのだけど。まあ、それでもまだ信じて貰えなかったから、虚拍? というのを実演してようやくね」

「それはまあ……苦労をかけたな」

思わずそう返すと、アリスは苦笑しながら首を横に振る。

とりあえず、うちに来ることは納得してくれているようだし、一安心だ。

まあ、すぐにうちに来れるかどうかはまた別の問題だが。

何しろ、住んでいる場所が遠い。引っ越すにはまだ準備が必要だろう。

「うちに到着したら歓迎会でもするか?」

「ですね。大歓迎だと思いますし」

「……あんまり派手なのは止めて頂戴ね」

恥ずかしそうに眉根を寄せるアリスの反応に、俺と緋真は揃って笑みを零す。

まあ、師範代たちのテンションについては諦めて貰うしかあるまい。

あいつらにとっても、虚拍の習得は悲願でもあるからだ。一応、蓮司と厳太は先陣だけは使えるのだが。

ルミナとセイランを従魔結晶から呼び出しつつ、砦の外へと進む。

目指すは北東、ライオン共の生息する地域だ。

とりあえず、騎獣に乗ってさっさとそこまで移動してしまうとしよう。