軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155:建造中の砦

用事も済んだため、さっさと石碑を使ってフェーア牧場へと移動し、再出発する。

次に向かうべき場所ははっきりしたが、とりあえずは砦を拠点として使いたい。

そもそも、今日はそろそろいい時間であるため、砦に到着したら一度ログアウトするつもりだ。

流石に、今の時間から遠征することは難しい。餓狼丸の強化素材は欲しい所だが、明日以降にするしかないだろう。

「プレイヤーが砦を作るって言うのもすごい話よね」

「って言うか作れるんですね、今更ですけど」

「土地があって資材があるなら造れるだろうよ」

まあ、それで造ろうという発想に至るのはかなりおかしいとは思うが。

ともあれ、作っているのであれば有効活用せねばなるまい。

前と同じようにアリスは緋真の前に乗せ、牧場を出発する。

砦は牧場からそう離れてはいない。少し進むだけで辿り着けることだろう。

「アリス、聖火の塔を攻略することになった場合は、お前さんに探索をして貰いたいんだが」

「構わないわよ。元々、そっち系が得意な構成だから」

「《看破》のスキルって結構いろんなことに使えるんですよね」

聞いたところによると、《看破》はデータ表示に必要な注視時間が長く、さらに情報量は《識別》と同じなのだが、隠されている情報を発見できるらしい。

その能力によって、トラップの発見が可能なのだそうだ。

尤も、トラップを解除するにはそれ専用のスキルが必要になるため、アリスの場合解除は出来ないのだが――まあ、発見できるだけでも十分だろう。

場所さえ分かっていれば、回避することは難しくはない。

「私としても、例のランタンは欲しいから、一度は聖火の塔を攻略したかったのよ。あれ、結構便利でしょう?」

「正直、最近はあまり街の外でログアウトすることがないから何とも言えんが」

「アリスさんの場合、森に潜んでPKKやってましたし、その場合では出番もありそうですよね」

まあ、今後は拠点を奪われた地域での活動が多くなる。

『聖火のランタン』がその役目を発揮する機会も訪れることだろう。

アルトリウスが言うには、今の所全ての聖火の塔でランタンを発見できているということであるし、アリスの分の確保も不可能ではあるまい。

「聖火の塔と強化素材の収集が終わったらベルゲンの攻略ですか。聖火の塔は私たちがやるかどうかは微妙ですけど」

「あの様子なら、それなりに可能性は高いんじゃないのか? どうにも、まだ北への行動は出来ていないようだからな」

「あの巨大な要塞を攻略ねぇ……正直、現実感が湧かないわね」

遠目には見えている、巨大な要塞の姿。

大きな街一つが丸ごと要塞になったような街だ。

まともに攻略しようとしたところで、何とかなるようなものではない。

この国の軍の力を借りるにしても、彼らは要塞を攻めるには向いていない。

俺たちが何とかして攻略するのか――或いは、彼らが戦えるお膳立てをするのか。

その辺りはアルトリウスが考えるのだろうが――

「案外、お前さんの出番は多いかもしれんぞ、アリス」

「え? あれの攻略に?」

「ま、どうなるかは分からんがな――と、それより、敵だぞ」

遠くから駆けてくるバトルホースの姿を確認し、俺は背から野太刀を引き抜く。

新しい刀の実戦投入だ。果たして、どのように変わっているのやら。

持ち上げた感覚は、以前の野太刀よりも軽いものだ。

だが、この長大な刀身を片手で扱うことはやはり難しい。

脇腹に当てる形で刃を固定しつつ、俺はセイランに合図を送る。

「ケェッ!」

それに嬉しそうに応えたセイランは、勢い良く地を蹴ってバトルホースへと正面から立ち向かった。

奴らの相手も慣れたものであるが――さて、新しい武器で戦ったらどうなるのか。試してみることとしよう。

「――『生奪』」

スキルの名前は変わったものの、分かり易いため《魔技共演》のショートカットワードは変えていない。

白銀の刀身を覆うのは黄金と漆黒のオーラ――しかし、その濃さは以前の比ではなく、刃そのものが姿を変えたのかと錯覚するほどのものだ。

その刃によって放たれた一閃は、バトルホースの逞しい首を容易く切断していた。

「ほう……!」

思わず感嘆の吐息を零し、笑みを浮かべる。

スキルの強化も大きいが、それだけではこれほどの火力は出せていなかっただろう。

フィノは相変わらずいい仕事をする。これならば、餓狼丸以外でもヴェルンリードに通じる可能性は十分にあるだろう。

俺が通り過ぎたのち、詠唱を完了させたアリスの魔法が炸裂し、黒い闇が爆発と共に広がる。

薄靄のように姿を隠した馬四頭の内、二頭は放心のバッドステータスを受けて動きを止めたようだ。

「《術理装填》、《スペルチャージ》【フレイムランス】」

霧のように立ち込める黒い靄の中へと、緋真は野太刀に炎を宿しながら突撃する。

【フレイムランス】の装填は、刺突を行わない限り効果が持続する。

馬上戦闘においては、足を止めた状況でもなければ野太刀による刺突は使わないだろう。

攻撃力を長時間に渡って維持できる、良い方法だ。

緋真は炎を纏ったまま未だ動いているバトルホースへと接近し、その首を薙ぎ払う。

深く首を裂かれて崩れ落ちる馬からは視線を外し、動いているもう一体を注視して――思わず、目を見開く。

(あれは――)

走っていたバトルホースの胴、そこにそれほど深くはないが、一振りのスティレットが突き刺さっていたのだ。

あれは間違いなく、アリスが先ほどまで使用していた武器である。

どうやら、擦れ違い様に投擲して刃を突き立てたらしい。

しかも――

「――――ッ!?」

悲鳴にならぬ嘶きを上げて、バトルホースはその場に崩れ落ちる。

どうやら、アリスは《ポイズンエッジ》を使用し、ストックしていた麻痺毒を付与していたらしい。

それによって麻痺させられたバトルホースは、足を縺れさせて転倒してしまったのだ。

「やるな……!」

「ふふ、中々便利でしょう?」

この辺りの魔物は、基本的に動物がベースになっている。

こいつら相手ならば作成した毒も良く通じることだろう。

毒の準備が必要となるが、中々に便利なスキルのようだ。

麻痺している馬はまだ生きてはいるが、しばらく行動不能だ。

それよりも早く復帰するであろう放心中の二体を片付けるとしよう。

「『生奪』」

足を止めている馬の首を緋真とタイミングを合わせながら斬り裂き、その体力を削り切る。

そして、最後の馬に関しては、空から光の槍を撃ち出したルミナによって止めを刺されることとなった。

スキルと武器の調子は確かめられたが、やはりこの程度の相手では練習台にもならんな。

『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』

戦闘終了し、刃を収める。

この辺りの相手では物足りなくなってきたし、鍛える意味で北に行くのも悪くはないか。

そんなことを考えていると、回収したスティレットをルミナから受け取っていたアリスが呟き声を上げた。

「……やっぱり、パーティ戦だと色々と勝手が違うわね」

「気になることでもあるのか?」

「私はこれまで、姿や正体を隠しながら戦っていたでしょう? これは《偽装》を利用していたのだけど……今はあまり役立ちそうにないじゃない?」

ステータスを偽れるのは潜入時には利点になるだろうが、確かに普段から利用するスキルではないだろう。

それどころか、持っていることを知られたら警戒される厄介な物でもある。

確かに、今の状況では普段使いしないスキルとなっているだろう。

「だから、《投擲》でも取ろうかと思って」

「ふむ……良いんじゃないのか? お前さんのスタイルにも合っているだろう」

先ほどの戦闘での攻撃手段を、もっと利用できるようにしようと考えたのだろう。

投擲用のナイフで《ポイズンエッジ》を使用すれば、離れた相手に猛毒や麻痺を与えられる。

しかもアリスの場合、視覚や認識の外から相手を狙うことも可能だ。

使いこなせれば、非常に強力な武器となるだろう。

俺の言葉に納得したのか、アリスは小さく頷いてスキル画面を操作する。

「そうね、ちょっと練習しておくわ」

「ああ、任せる。期待しているぞ」

「毒も増やしておかないといけないわね」

面倒くさそうに、だが不敵に笑いながらアリスはそう返す。

さて、どの程度使いこなせるかは分からないが――先ほどの様子を見るに、それほど心配する必要は無いだろう。

ともあれ、砦への到着はもうすぐだ。戦闘についてはあまり拘らず、さっさと目的地へ向かうとしよう。

* * * * *

いつの間にか周囲にしっかりと堀が作られた、石造りの巨大な砦。

普通ならば数ヶ月単位で造るような建造物だろうが、それを数日で作り上げたのは偏にスキルによるものなのだろう。

まあ、生産系のスキルをどのように扱うのかは知らんのだが。

ともあれ、とりあえず形だけは完成しているこの砦は、今も急ピッチで増築が行われている様子だった。

中に入れば多くのプレイヤーの姿が目に入り、思い思いに戦いの準備を行っている様子だった。

「ふむ……確かに、形にはなっているようだな」

周囲からの侵入を防ぐための堀と外壁、そして内部にあるログアウト用の建物。

現状、建物そのものについてはまだ最低限のものであるらしく、むしろ外壁への増改築が進められているようだ。

外壁の上に置かれているバリスタや投石機には流石に半眼を浮かべつつ、内部へと足を踏み入れる。

「へぇ……前に見た時は土台ぐらいしか無かったのに、本当にこんなに出来てるんですね」

「そうだろう? 俺っちたちの自信作だぜ」

「あの、外壁の上にある攻城兵器については色々と言いたいことはあるが」

バリスタや投石機についてはまだ分からんでもないが、あの大砲は何なのか。

確かに火薬は開発していたようだが、あんな兵器まで開発しているとは思いもよらなかった。

得意げな表情で顔を出したボーマンに対して半眼を浮かべつつ、状況について確認する。

「敵の動きはどうだ?」

「散発的だな。あまり本格的な攻撃は受けてねぇよ。一応、男爵級っぽい悪魔がいたらしいって話は聞いてるがな」

「ふむ……仕掛けてきているのはその男爵級とその配下か? そいつを片付ければ収まるかもしれんが――安定しているならあえて仕留めないのもアリか。ま、俺たちはその防衛には参加せんが」

「そうなのか?」

「ああ、北の方に用事があってな。悪いが、こっちのことは任せる」

急造ではあるが、ここは牧場の防衛と王都へのルートの遮断に必須の拠点だ。

上手いこと、ここで敵を退けて貰いたい所である。

「じゃあ、アリス。俺たちはそろそろログアウトするが――」

「ええ、少し《投擲》を練習したら私も落ちるわ。明日は時間通りに……よろしくお願いね」

「ああ、よろしく頼む」

にやりと笑い、軽くハイタッチをする。

さて、明日は数多くの敵と戦えることだろう。

まだ見ぬ魔物や、聖火の塔――それらを楽しみにさせて貰うとしよう。