軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148:剣聖の三魔剣

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《斬魔の剣》と《魔力操作》が規定レベルに到達しました。特定エリアにて、特殊クエスト《魔剣の継承:蒐魂剣》を受注できます』

「……何とか間に合ったか」

リザードマンの魔法使いを倒し、何とか《斬魔の剣》のレベルを上げ切って、俺は安堵の吐息を零す。

オークスの住まう場所、剣聖の小屋は最早目の前だ。

もしここまでにレベルが上がらなかったら、彼の家の前でルミナたちを相手に決闘をしなければならなかった。

別に決闘が悪いと言っているわけではないのだが、流石に彼の前でやるのは少々気恥ずかしいものだ。

俺の未熟や、弟子の不出来をあのレベルの剣士に見せるというのはやはり抵抗がある。

「ふぅ……噂には聞いていたけれど、本当に凄いわね」

「いや、アリスさんも凄かったですよ。ホント、いつの間にか敵が減ってますし」

一方、緋真やルミナは、既にアリシェラ――アリスとある程度仲良くなっていた。

女同士の連帯感、というものだろうか。小柄な彼女が自分よりも年上であることには戸惑っていたようだが、そこはもう慣れたらしい。

アリスと呼んでくれと言った彼女は、俺たちが戦っている間、姿を隠して敵の背後に回り込み、鮮やかに敵を暗殺し続けていた。

己の姿を半透明にして見つかりにくくする《隠密》、そして一定時間の間未発見状態からのダメージを上昇させる《バックスタブ》、急所に対するダメージを上昇させる《死点撃ち》――これらがアリスのメインウェポンだ。

それに加えて、敵が鎧などを装備していた場合に使用する防御無視攻撃の《ペネトレイト》、所持している『種別:毒物』の効果を一撃だけ武器に乗せる《ポイズンエッジ》を利用している。

加えて、彼女は《無音発動》というスキルを持っている。これは、声を出さずにスキルを発動させるスキルであるらしい。

見たことの無いスキルであったが、どうやらブロンズの無記名スキルオーブで習得したものであるようだ。

どうやら、彼女は《悪魔の侵攻》で10位に入っていたらしい。

(スキルを使うとますます恐ろしいな、こいつは)

フードの下で淡く笑っているアリスの姿を横目で見下ろしながら、俺は胸中でひとりごちる。

防御を無視した、不可視の一撃。場合によっては自作の強烈な毒まで付与されているその攻撃は、あらゆる存在にとって致命打となるだろう。

あの時突き刺された右の脇腹に触れ、俺は視線を細める。

あの時、刃に毒を付与されていれば、俺も危うかっただろう。

幸い、その直後に決闘は終了していたが――俺が負けていた可能性も否定はできない。

油断していたつもりは無かったが、自分の命を捨てて放った一撃までは対応しきれなかったのだ。

恐るべきは、躊躇いなく捨て身を選んだ彼女の精神性であるが――

「全く……これだから面白いんだ」

「クェ?」

「……何でもない。さっさと行くぞ、お前ら」

「あ、はい! 行きます!」

俺の言葉に、緋真は顔を上げて駆け寄ってくる。

その姿に笑みを浮かべつつ、俺は切り開かれた土地へと足を踏み入れた。

森の中にぽっかりと空いた穴、日光が眩しく降り注ぐその土地の中心に、ポツリと立つ簡素な小屋。

その小屋の前にある椅子――そこに、一人の老人が腰かけていた。

「……来たか。しばらくぶりだな、クオンよ」

「ああ……約束通り、スキルを鍛えてきたぞ」

剣聖オークス――三魔剣の開祖である境地の剣士。

改めてその姿を目にして、俺は感嘆の吐息を零す。

やはり、ありとあらゆる無駄がない。無念無想に至った剣士は、鞘に収まった一振りの長剣を手に、ゆっくりと立ち上がる。

「まずは、礼を言っておくとしよう。クオン、お前さんのお陰で、アルファシアは難から逃れられた……感謝するぞ」

「俺一人で何かをしたわけじゃないが……その言葉は素直に受け取っておく」

この男は中々に頑固な人物だ。でなければ、こんな所で隠居などしていないだろう。

苦笑しながらその言葉を受け取れば、彼は満足したように首肯する。

とはいえ――それは今回の主題ではない。

「さてと……確かに、準備はできているようだな。だが、お前さんの魔法は《強化魔法》だったか……となると、《蒐魂剣》の実演が難しいな」

「であれば、こいつを同席させても構わんか? 俺の弟子だ。こいつは攻撃魔法も使うんで、ちょうどいいんじゃないか」

「え……は、初めまして、緋真と申します!」

「ほう……弟子の面倒をよく見ているようで何よりだ。お前さんの弟子なら、まあ構わんだろ」

頷き――オークスは、ゆっくりと剣を抜き放つ。

余分な装飾はない、だがその年季の入り方からして、あれがオークスの愛剣なのだろう。

こちらもまた餓狼丸を抜き放ち、ゆっくりと彼の前へと歩み出る。

「あの……クオン? これ、どういうイベントなの?」

「スキルの進化クエストだ。だが、距離は離しておけよ――巻き込まれたら死ぬぞ?」

冗談など一切含めないトーンで告げれば、アリスは目を見開きつつも小さく頷く。

ルミナたちと共に離れていく彼女を見送り、俺は緋真と共にオークスの前に立つ。

精神を研ぎ澄ませ、相手の一挙一動から目を離さぬように意識を集中させる。

一切の遊びなく殺気を高めながら、俺は隣の緋真へと告げた。

「緋真、お前はジジイとは直接戦ったことは無かったな?」

「……はい。先生が戦っているところは何度も見ましたが」

「なら、覚悟しておけ。オークスは、間違いなくジジイに匹敵する相手だ」

俺の言葉を聞き、緋真は静かに視線を細め、重心を落とす。

気を抜けば斬られる。俺とて、それは変わらない。

――これ以上ないほどの、貴重な経験だ。

「さて、行くとするか――三魔剣の力、しかと目に焼き付けておけ」

『特殊クエスト《魔剣の継承:練命剣》を開始します』

『特殊クエスト《魔剣の継承:蒐魂剣》を開始します』

『特殊クエスト《魔剣の継承:奪命剣》を開始します』

クエストの開始がアナウンスされ――オークスが、重心を落とす。

脇構えに構えたその刃は、眩く金色に輝き始め――刹那、湧き上がった悪寒に俺たちは身を屈めた。

「《練命剣》――【命輝一陣】」

刹那、オークスは横薙ぎに刃を振るい――飛び出した黄金の刃が、俺たちの頭上を薙ぎ払っていた。

その速さに戦慄しながら、俺たちは前へと足を踏み出す。

オークスが遠距離を攻撃できるならば、距離を空けているだけ不利だ。

歩法――烈震。

「三魔剣って、前提スキルと違ってテクニックがあるわけですか……! 【フレイムランス】!」

「そういうわけだな――《蒐魂剣》」

俺の横手を貫くように、緋真の魔法が飛ぶ。

だが、オークスは当たり前のようにそれを《蒐魂剣》で斬り払っていた。

《斬魔の剣》と異なる点は、斬り裂かれた魔法がそのまま青い刀身へと吸収されていったことだ。

魔力の動きを見ていれば分かる、《蒐魂剣》は、《収奪の剣》のように斬り裂いた魔法を己の魔力として吸収することができるようだ。

「《奪命剣》、【命喰閃】」

「――ッ!」

斬法――柔の型、流水。

振り下ろされたのは、漆黒を纏って刀身が伸びた一閃。

命を食らう呪いの一閃を、俺はギリギリで流し落とし――オークスの一撃は、硬い地面をスポンジか何かのようにあっさりと斬り裂く。

刹那、命を吸われて枯れ果てていく地面を視界の端に捉え、俺は戦慄を止められずに尚も足を踏み出す。

思わずつり上がる口角。本気の殺気を込めて横薙ぎの刃を放ち――

「《練命剣》、【命双刃】」

いつの間にかオークスの左手に生まれていた生命力の刃によって受け止められていた。

生命力を、そのまま刃として形成したのか――!

「――《術理装填》! 《スペルチャージ》、【フレイムブラスト】ッ!」

斬法――柔の型、流水・浮羽。

オークスの反撃に乗って体を移動させ、距離を開ける。

そして、それと入れ替わるように、炎を纏った緋真が突撃した。

纏う炎は、剣戟を当てた場所を爆発させる一閃だ。剣で受ければ、それを弾き飛ばされかねない。

だが――

「《蒐魂剣》、【因果応報】」

蒼い光を纏ったオークスの剣は緋真の刀に宿った炎を吸収し――それを吸収せずにそのまま纏う。

そのまま剣を跳ね上げて緋真の刀を弾いたオークスは、翻した刃を薙ぎ払い、咄嗟に後退した緋真へと炎による爆発を叩き込んでいた。

「きゃあッ!?」

「魔法を吸収せず、そのまま一撃の威力に変換するテクニックだ。中々便利なものだぞ?」

「そのようだな……! 『生奪』!」

斬法――剛の型、竹別。

鋭く声を上げながら、二色のオーラを纏った刃を振るう。

その一撃は、オークスが左手に持っていた生命力の剣に食い込み、その刃を両断した。

やはり、生命力で形作られた剣であるがゆえに、《収奪の剣》でそれを奪うことができるようだ。

その結果に、オークスは僅かながらに口元に笑みを浮かべる。

「ほう、《魔技共演》か……良いスキルだな」

「ああ、実に便利だよ、コイツは!」

オークスにとっては二刀などただの防御手段でしかなく、片方を失ったとしても問題なく動き続けている。

翻った一閃を流水で受け流し、返す刀で刃を放つが、それはオークスの剣の柄に受け止められ、弾き返される。

僅かながらに泳いだ体に、オークスが放ってきたのは鞭のようにしなる蹴りだ。

咄嗟に衝撃を逃がすよう重心を移動させるが、その全てを受け止めることは出来ず、呼吸を詰まらせながら弾き飛ばされる。

それでも、バランスだけは崩さぬようにしながら着地し、反対側では炎を振り払った緋真が再び刃を構え――

「《奪命剣》――【咆風呪】」

――オークスは、黒く染まった刃を体を一回転させながら振るっていた。

それと共に剣から溢れ出した黒い闇が風となって吹き抜け、俺たちの視界を塞ぐ。

瞬間――

「ッ、がぁ……ッ!?」

「くっ、あ、ッ……」

突如として体を襲った脱力感に、俺と緋真はその場に崩れ落ちて膝を突いていた。

確認すれば、大きくHPが削り取られている。

どうやら今のテクニックは、黒い風に触れたもののHPを吸収する効果を持っているようだ。

黒い風が収まり、行動不能になった俺たちを見て、オークスはにやりと笑いながら剣を降ろしていた。

「ここまでのようだな。よくぞここまで練り上げたものだ」

「……まるで歯が立たなかったがな。それで、どうだった?」

「お前さんであれば、問題はあるまい。ワシの技、見事使いこなしてみせてくれ」

そう告げて、オークスは俺の肩をポンと叩く。

瞬間――聞き覚えのあるインフォメーションが、俺の耳に届いた。

『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀術》のスキルレベルが上昇しました』

『《インファイト》のスキルレベルが上昇しました』

『特殊クエスト《魔剣の継承:練命剣》を達成しました。《生命の剣》のスキル進化が可能です』

『特殊クエスト《魔剣の継承:蒐魂剣》を達成しました。《斬魔の剣》のスキル進化が可能です』

『特殊クエスト《魔剣の継承:奪命剣》を達成しました。《収奪の剣》のスキル進化が可能です』

どうやら、無事にクエストを達成することができたらしい。

そのことに安堵しながら、早速新たなスキルとして三つのスキルを進化させる。

進化させるためにスキルポイントを7も消費したが……まあ、あまり使う予定も無いし、構わないだろう。

『【命輝閃】のテクニックを習得しました』

『【奪魂斬】のテクニックを習得しました』

『【命喰閃】のテクニックを習得しました』

スキルの習得と共に、それぞれのスキルでテクニックも習得する。

これに関しては、何度か使って性質を確かめてみるしかないだろう。

ともあれ――

「感謝する、オークス。これで、あの悪魔を相手にするのにいい手札が増えた」

「やはり、お前さんらは悪魔と戦っているわけか。今回はどんな相手だ?」

「ヴェルンリードとかいう、伯爵級悪魔だ。風と雷の魔法を使ってくる悪魔だな」

「その様子では、既に交戦したようだな。よく今の状況で戦えたものだ……しかし、風と雷を使う伯爵級、となれば《嵐魔法》か」

「え……ごめんなさい、オークスさん。その、《嵐魔法》って何ですか?」

オークスがぽつりと呟いた言葉に、HPを回復させて立ち上がった緋真が疑問符を浮かべる。

それに対し、オークスは軽く首を振りながら返答した。

「複合属性魔法だ。《風魔法》と《雷魔法》を育成することで習得できる。恐らく、その悪魔が使用しているのはその魔法だろう」

「マジですか!? ちょっ、ちょっと、他にもいろいろ教えてください!」

「お前さんの弟子は中々意欲的だな。まあ、構わんぞ」

初めて聞く情報が出てきたからだろう、緋真は目を丸くしてオークスに詰め寄る。

その様子に苦笑しつつ、俺は退避していたアリスたちへと合図を送り、手招きした。

緋真が話に夢中になっているならちょうどいい。少しばかり、秘密の話をしておくこととしよう。