軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

014:薙刀の扱い方

軽くイノシシをあしらい、森の中を進む。

まあ、森というよりは殆ど林道だ。人の手が入っている上に道まで作られているのだから、これを森と言うのには語弊があるだろう。

おかげで、初心者が長物を振るうのにもそれほど問題はないのだが――

「……お前さん、本当に弓の方が良かったんじゃないか?」

「うう……その、面目ありませんわ」

横合いから突っ込んできたイノシシを蹴り転がして止めを刺しつつ、俺は伊織に対して半眼でそう告げる。

どこか落ち込んだ様子の伊織は、へっぴり腰のまま薙刀を突き刺して、こちらへ向かってこようとしている蜘蛛をチクチクと突き刺していた。

■フォレストスパイダー

種別:虫・魔物

レベル:2

状態:アクティブ

属性:なし

戦闘位置:地上・樹上

出現した魔物の名はフォレストスパイダー。

見た目は、やや茶色っぽい蜘蛛だ。前足を二本振り上げ、赤い八眼でこちらを睥睨しながら向かってこようとしているが、伊織の突き出した切っ先で思うように動けていない状態だ。

まあ、多少はダメージも入っている様子だが、アレでは一体倒すのにかなり時間がかかるだろう。

今は、そんな悠長な攻撃をしている伊織に対し、横から突っ込んできたイノシシを止めた所だった。

一対一なら何とか倒せるだろうが、今の突進を喰らっていたら伊織はアウトだっただろう。

「しかし気持ち悪いな。中型犬ぐらいある蜘蛛ってのはこんな感じなのか」

「否定はしませんけど、その、加勢とかは……」

「一匹ぐらいは何とかしろ」

言いつつ、俺は伊織の後ろへと回る。

そのまま突き出ている薙刀の石突をがっしりと掴み、ぎょっとした様子で身を固める伊織に対して声を上げた。

「まず、そのへっぴり腰を何とかしろ。腰を前に出せ」

「で、ですが……」

「いいからさっさとしろ」

告げつつ、引き気味の腰を膝で押す。

手で触れていたら色々と面倒なことになっていたかもしれないが、膝ならば半分ぐらい蹴りと同じような扱いだろう。

完全に引けていた腰が前に出され、とりあえずは直立した体勢を作り出す。

俺は薙刀を押さえ、蜘蛛の前から切っ先が動かぬようにしながら、更なる指示を飛ばした。

「体は半身、足は肩幅で開き、前の足は相手の方へと向けろ」

「は、はいっ」

とりあえずは、中途半端に斜め向きだった体を矯正する。

アレでは相手から狙ってくださいと言っているようなものだ。

薙刀のリーチを隠すこともできておらず、強みが半減してしまっている。

「とりあえず、基本となる構えだ。後ろ手を太ももの付け根の位置、前の手は腰から拳三個分ほど離れた位置で薙刀を持て」

「こ、こうですの?」

「まあ、妙に強張ってるが……とりあえずはそれでいい」

薙刀の基本となる中段の構え。

これに関しては流派も何もない、ただの一般的な構え方だ。

最低限、これができていなければ薙刀など使えるはずもない。

「こ、これでどうすればよいでしょうか?」

「まずはこの中段の構えを覚えておけ。で、現状では、この型で戦うには少々距離が近すぎる」

「だ、ダメではないですか!」

「まあ、できなくはないんだが、この状況で相手から切っ先を離すとすぐに襲い掛かってくるからな……というわけで、次の構えだ」

それに対応できる技量があればいいのだが、それを伊織に求めるのは酷というものだろう。

ここから突きで距離を離して攻撃に転ずればいい、と言いたい所だが、こいつが突きをするとその途端にへっぴり腰に戻りそうな気がする。

というわけで、俺は薙刀の石突を掴んだまま、切っ先の位置が変わらぬように上へと持ち上げた。

「薙刀の刃を上向きに、後ろ手は耳の後ろに構えろ。これが下段の構えだ。相手の足、股を狙う構えだな」

「な、成程……これで攻撃をすればよろしいのですか?」

「そういうわけだな」

言いつつ、俺は掴んでいた石突を離す。

自由になった薙刀は、先ほどのように不安定に揺れている様子はない。

最低限は構えられているだろう。その様子を確認して、俺は再び指示を飛ばした。

「相手の顎下の地面を狙え。腕で薙刀を押し出すのではなく、摺り足で前足を前進させながら薙刀を押し込め!」

「は、はいっ!」

唐突に、強く声を上げる。

その声に反応し、伊織は反射的にその言葉に従っていた。

突き出された刃は、指示通り蜘蛛の顎下の地面へと突き刺さる。

これが石の地面だったら腕が痺れていたかもしれないが、幸いここの地面は土で、しかも柔らかい腐葉土だ。

突き刺さったところで、少女の膂力でも十分に動かすことができる。

眼前に刃が突き刺さったことで、蜘蛛は警戒するように後退しようとする。その瞬間、俺は再び叫ぶように命じた。

「右手を下げて左手を上げる!」

「はい!」

最早指示に疑問を持つ余裕もないのだろう、伊織は反射的に指示に従い、薙刀を強く振り上げていた。

突きと払いを連動して繰り出せるのは薙刀の強みだ。腕の位置を変えるだけで、体を崩さぬままに払いを放つことができる。

振り上げられた薙刀の刃は蜘蛛の口元を掠め、緑色の体液を飛び散らせる。

だが、さすがに頭を断ち割ることはできなかったようだ。衝撃に仰け反っているが、致命傷には及んでいない。

しかし、距離が開いたならばそれで十分だ。

「構えを中段に戻せ!」

「はいっ!」

「そのまま、右足で前に出つつ石突で払う!」

「――っ」

ほんの僅かに逡巡したものの、伊織は指示通りに前に出て、後ろにあった石突で蜘蛛の体を打つ。

先ほど仰け反って体勢を崩していた蜘蛛は、その一撃に反応できずに横合いからの一撃を受けて地面に叩きつけられる。

そしてその時点で、薙刀の刃は振り上げられた状態となっている。

ここまで来れば、後はそれを叩きつけるだけだ。

「刃を振り下ろせ!」

「はいッ!」

最早指示を反射的に聞き入れ、伊織はもう一歩前へと出ながら薙刀を振るう。

断頭台のごとく振り下ろされた刃は、動きを止めていた蜘蛛を逃すことなく捉え――そのHPを全損させていた。

綺麗に頭を断ち割ったのだ、HPが残っていても即死だっただろう。

「よし、よくやった。そんな所だろう」

「お、おお……こ、こんな簡単に倒せるものなのですね」

「そりゃそうだ。三倍段とは言うが、基本的に薙刀はかなり優秀な武器だぞ。自分の距離で戦いさえすれば、これほど強力な武器も無い」

斬撃、打撃、刺突を全て補うことができる薙刀は、使いこなしさえすれば強力極まりない武器だ。

久遠神通流戦刀術でも、いくつか対薙刀戦用の技を用意しているぐらいには、相手にするのが難しい武器なのである。

まあ、手札が多いということは、それだけ極めるのに時間がかかるということでもあるのだが。

全ての武器を極めたあのクソジジイがどれほどの実力を有していたのか――今更語るまでもないことか。

「基本的にはあと三つほど構えがあるが……攻撃を繰り出したあと、最も近い構えに体勢を整えることが重要だ。中途半端な体勢というのが一番まずい」

「そんなに構え方があるのですか……」

「まあな。というかお前さん、さっきあんまり意識せずにそのうちの一つを構えていたぞ?」

「え? い、いつのことですの?」

「柄払いで体を反転させた時だ。反射的に、刃を上に振り上げた体勢になっていただろう? あれは八相の構えという、相手に斬りかかる時に用いる構え方だ」

あの時点で体勢が崩れていてもおかしくなかったのだが、伊織は案外きちんと八相の構えを取ることができていた。

まあ、多少崩れていても、あの状態からならば相手を仕留めることができていただろうが……きちんと構えられていたからこそ、蜘蛛に止めを刺しても体勢を崩さずにいられたのだ。

最初は向いていないのかと思ったが……案外、運動神経はいいのかもしれない。反射的に効率の良い体勢を取れているのがその証だろう。

「他には上段の構え、脇構えといったところか。これらはかなり攻撃的な構えだが、扱いが少々難しい。まず上段は、刃を後ろにして頭上に構える持ち方だな」

蜘蛛からアイテムを剥ぎ取っている伊織を立たせ、薙刀を構えさせる。

上段の構えは中々に勇ましい体勢ではあるのだが――

「……振り下ろして斬りかかる体勢ですわよね? 八相の構えとはどう使い分けるのですか?」

「こちらのほうが威力は高い。遠心力と薙刀の重さを丸ごと伝えるわけだからな。それと、上から来た相手の攻撃を受け止めつつのカウンターも可能だが……初心者には難しいだろうな。見ての通り胴が空くから、隙も大きい。相手が大きな隙を晒していたら、渾身の一撃を当てる時にでも使え」

初心者の伊織には使うタイミングの少ない構えだろう。

動きの流れから上段に変わるということは中々ないからな。

「それと脇構え。中段の構えと似ているが、刃を後ろ側にして寝かせる。構えてみれば分かるが、横薙ぎを放つための構えだな。武器のリーチを隠す意味もあるが、まあこれは状況に応じて使えるだろう」

「成程……」

言われた通りに構えてみせる伊織の姿に、俺は満足して頷く。

まだまだ甘いが、これでとりあえずの基本は押さえられただろう。

「ま、基本はこんなところだ。とりあえずは構えを崩さないことを気をつけていればいい。分かったら、次の実戦練習だ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいませ! まだきちんと覚えられては――」

「俺は待ってもいいが、敵は待ってくれんぞ? 襲ってくるのは向こうからだからな」

「うう……っ!」

くつくつと笑いつつ、再び林道を進み始める。

このフィールドもまだまだ中盤といったところだろう。

ボスに辿り着くまでには、動きにも慣れてもらいたいものだ。

「な、何とか頑張りますわ……ともあれ、ありがとうございます、クオンさん」

「多少は教えると約束したからな。お前さんが多少なりとも戦えんと、ボスに辿り着いた時にも面倒だろうし」

「ご、ご迷惑をおかけしました……」

「何、ボスに着くまでにマシになっていれば問題はないさ」

ヒラヒラと手を振りつつ、伊織と共に先へと進む。

確かに敵はそれほど強くはないし、今の所イノシシと蜘蛛しか出現していない。

たまに樹上にリスがいるのを見かけるが、あいつらはこちらに対して攻撃を仕掛けてこないタイプの魔物らしい。

《識別》を行うと魔物と表示されるのだが、状態はどれもパッシブに固定されており、魔物というよりは普通の動物と変わらない状態だ。

「そこそこ敵は出てくるが、やはり弱いな。ここにはイノシシと蜘蛛しかいないのか?」

「いえ、後一種類いるのですが、これだけはちょっと厄介な敵でして」

「厄介? と言うと――」

伊織の言葉に返答しようとし――感じた殺気に、俺は反射的に太刀を振り上げた。

振りあがった刃は固い感触に衝突し、それを瞬時に断ち切る。

この感触は……木の枝、か?

僅かに驚きつつも攻撃の方へと向き直った俺の目に入ってきたのは――不気味に蠢く一本の木だった。

■トレント

種別:植物・魔物

レベル:3

状態:アクティブ

属性:なし

戦闘位置:地上

どうやら、伊織の言うもう一種類というのはこいつのことらしい。

今までにはないパターンの敵に驚きつつも、俺は笑みを浮かべてトレントへと突撃したのだった。