軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

138:継承へ向けて

「……魔剣の、継承」

「先生?」

「……いや、何でもない。話は了解した。残りの避難民を送り届けたら王都へ向かおう」

「ふむ……では、私はこれで。後ほど、またお会いするとしましょう」

俺の反応に、デューラックは一瞬考えこんだものの、それ以上何か言及することも無く、一礼して踵を返していた。

その背中を見送りつつ、俺は己のスキル欄を表示して目を落とす。

そこに記載されているのは、レベル30に到達して『MAX』の表示された《生命の剣》だ。

《刀》がレベル30に到達した時は、そのまますぐに《刀術》に進化させることができた。

だが今回は、何かしらのイベントをこなさなければならないようだ。

まあ、おおよその予想はできているのだが。

「さっきからスキルを見てますけど、何かあったんですか?」

「ああ、《生命の剣》がレベル30になったんだが……どうやら、スキルの進化に何かしらクエストを受けなけりゃならんみたいでな」

「スキル進化にクエストですか?」

「まあ、それについてはある程度予測はできていたし問題は無いんだが……このクエストが出た条件がよく分からなくてな」

以前に剣聖オークスから聞いた通り、《生命力操作》が絡んでいることは間違いない。

だが、こちらはまだレベル20程度であり、スキル進化の兆しはない。

インフォメーションでも確かに規定レベルに達したとは言われていたが、レベル20程度でいいのだろうか。

「ちょっと見せてください……《生命の剣》には《生命力操作》が絡んでるって話でしたよね?」

「ああ、あの男もそう言っていた」

「私も会ってみたいんですけどね、その人。とにかく、そうであるならレベル30と20がキーなのか、合計で50がキーなのか……んー、でもどうするんです? さっさとその人の所に行ってくるんですか?」

「いや、仕事を請けちまったからな。そちらを片付けてからにするさ。それに、《収奪の剣》と《斬魔の剣》はまだ条件を満たしていないからな」

どうせクエストをこなすならば、三魔剣の全てで条件を満たしてからの方が手っ取り早いだろう。

確か……《練命剣》、《蒐魂剣》、そして《奪命剣》。

その三つを扱えるようになれば更なる力となるだろう。

果たして、それがヴェルンリードを攻略する鍵になるかは分からんが、少なくともマイナスになることはあるまい。

「というわけで、さっさと《収奪の剣》と《斬魔の剣》、それと《魔力操作》を鍛えるぞ」

「王都に着くまでにレベルを満たすつもりですか?」

「ああ、《斬魔の剣》は少し鍛え辛いがな」

《斬魔の剣》はあくまでも魔法を斬るスキルだ。魔法を使ってくる相手が居なければ鍛えられない。

《魔力操作》については《強化魔法》を使っていてもある程度鍛えることはできるのだが、《斬魔の剣》はそうもいかないだろう。

何かしら、魔法を使う存在を相手にしなければならないだろう。

どうしたものかと考え、俺はふと緋真の方へと視線を向ける。

「……? 先生、どうかしたんですか?」

「いや……よし、さっさと護衛を終わらせるとするか」

人数が減ったおかげで、護衛もやり易くなった。

特に、老人や女子供を優先して運んだお陰で、行軍のスピードも上がるだろう。

さっさと彼らを砦まで送り届け、先へと進まなければ。

緋真を促して歩を進め、ほんの僅かに笑みを零す。

先に進んでいる――その確信は、確実に歩みを軽くしていた。

* * * * *

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

あれからしばらく護衛をこなしつつ歩いていると、前方に建造物が目に入った。

いや、建造物というには不完全か。地面を削って堀を作り、取り出した土を固めて土台とし、整地した土地に石造りの壁を建築しているようだ。

その奥には建物の基礎のようなものも作られており、また簡易的な住宅もいくつかあるようだ。

思ったよりも本格的な建築の様子に、頬を引き攣らせて半眼を浮かべる。

「こりゃ、専門職の連中までいるんじゃないのか?」

「ゲームの中でまで仕事と同じことをするのってどうなんですかね?」

「それを言ったら俺も同じなんだがな」

刀を振るのが俺の仕事であるし、そういう意味ではゲームでも仕事と同じことをしていると言える。

そう考えると、楽しんでいればそれでいい、ということになるのだが――まあ、いちいち口を出すことでもないか。

軽く嘆息しつつ、驚きの声を上げている避難民たちを建築中の砦の中へと押し込んでゆく。

避難民たちをここで保護するわけではないが、とりあえずここまでくれば一安心だ。

プレイヤーも騎士も数多くいるこの場所ならば、彼らを護るには十分すぎる戦力があるだろう。

まだ外壁も完全ではない砦に足を踏み入れると、その中では見覚えのある男が出迎えてくれた。

「おう、待ってたぜ、クオン殿」

「ボーマン。ここの陣頭指揮はアンタか」

「建築は別に専門ってわけじゃねえがな。仕事は専門の連中に振ってるよ」

『キャメロット』の生産部隊、その部隊長であるボーマンだ。

どうやら、この砦の建築の指揮は彼が執っているらしい。

彼とはそれほど長い付き合いがあるわけではないのだが、部隊を率いる能力は間違いないだろう。

事実、こうして建築が続いているわけだしな。

「ここを悪魔共と戦うための前線拠点にするつもりか?」

「俺っちは聞いただけだが、要塞都市とやらの奪還のために利用するって話さ。奪還できたら、そっちを利用する。だからこの砦の機能は最低限だ。急造だから仕方ねぇけどな」

「この短時間でここまでやっているんだ、大したもんさ」

建築については詳しくはないが、これほど早くできるようなものではない。

人海戦術なのか、はたまた何かしらのスキルか。

何にせよ、防衛のための拠点があるならば今後有利に働くだろう。

避難民たちは全員砦に入り、そしてベーディンジアの騎士団に引き渡される。

今後、受け入れに余裕のある南側の都市へと馬車で送られることになるだろう。

『クエスト《避難民の護衛》を達成しました。報酬がインベントリに格納されます』

インフォメーションからの情報も受け取り、軽く確認する。

どうやら、報酬は金であるらしい。

そこそこの値段ではあるのだが、教授からかなりの金額を仕入れているため、それほど増えた実感はない。

まあ、あって無駄になるものではないし、とりあえず貯めておくことにするとしよう。

「所でボーマン、すこし空地を借りたいんだが、場所はあるか?」

「ん? ああ、中庭にする予定の場所ならあるが、何をするんだ?」

「ちょっとした鍛錬だ」

ひらひらと後ろ手に手を振り、ボーマンが先程示した中庭の方向へと向かう。

こちらの姿を認めた周囲のプレイヤーたちが何事かと見守る中、俺たちは広場となっている中庭予定の場所で向かい合った。

「先生……本気でやるんですか?」

「今更怖気付くな阿呆。こちらも手加減してやるんだから、俺を倒すぐらいの気概は見せてみろ」

「……よく言いますよ。私が安易な技に頼ったら速攻で潰してくるでしょうに」

緋真は深々と嘆息を零しつつ、ゆっくりと刀を引き抜く。

それを認め、俺もまた笑みを浮かべながら餓狼丸を抜き放った。

そして、俺はそのままウィンドウを操作し、決闘モードを選択する。

「決着はHP半減まで。私は使うスキルに縛りは無し」

「俺は《収奪の剣》と《斬魔の剣》のみを使用する。さあ、かかってこい」

決闘モードの開始を互いに了承し、俺たちの周囲に他のプレイヤーたちが入り込めない領域が形成される。

決闘の開始を確認し――緋真は即座に、己のスキルを発動した。

「《闘気》、《術理装填》《スペルチャージ》【フレイムランス】!」

気合を入れるように叫び、緋真は己の刀に炎を纏わせる。

確か【フレイムランス】を装填した時の効果は、刺突と共に切っ先から炎の槍を放つものだったか。

まあ、何にせよ――

「《斬魔の剣》」

「しッ!」

緋真が、縮地と共にこちらへと斬り込む。

袈裟懸けに振るう刃を半身になって躱し、その直後に放ってきた刺突を目を細めながら捉える。

斬法――柔の型、流水。

放たれた刃は炎の槍を放とうとするが、それよりも先に軌道を逸らした蒼い燐光によって消し去られる。

尤も、緋真はそうなることはとっくに読んでいたのか、すぐさま横薙ぎの一撃へと攻撃を移行させる。

無論、俺とてそれを黙って見送るつもりも無い。

緋真が攻撃に移るその瞬間には、俺はこいつの背後へと移動し、スキルを発動させながら横薙ぎの一撃を繰り出していた。

「《収奪の剣》」

「ッ、あああ!」

俺が視界から消え去ることには慣れているからだろう、緋真は即座に反応し、体を回転させながら刃を振り上げる。

咄嗟の動きであれ、きちんと流水の形は取れており、側面から迎撃した緋真の一閃は俺の攻撃を受け流して見せた。

とは言え、それも完全とは言い難く、俺の一閃は緋真の肩を僅かに掠めていたが。

「もう一度だ、《収奪の剣》」

「……ッ!」

斬法――剛の型、竹別。

振り下ろした俺の一閃に、緋真は即座に反応して刃を振るう。

俺が竹別を使うことを察知していたようで、それは強引に弾くような一閃だ。

だが、強引な一閃は当然ながら己自身の動きを狭めるものだ。

互いに横へと武器を弾かれた形の俺たちは、同時に攻撃を放つ。

斬法――柔の型、零絶。

「づッ!?」

「いつもとは違うんだ、判断が甘いぞ」

だが、緋真の振るった刃は俺の肩にある装甲に弾かれ、対して俺の一閃は胸を斬る。

その痛みに緋真は顔を歪めながらも、戦意は途切れさせぬままに叫んでいた。

「――【フレイムバースト】」

「っ、《斬魔の剣》ッ!」

目の前で発動した爆発に、その反応を先読みして《斬魔の剣》を放つ。

だが、それも完全ではなく、俺たちは互いに弾き飛ばされる。

咄嗟に魔法で距離を空けるとは、一本取られたな。いつもとは違う戦法で来たのは向こうも同じか。

思わず笑みを浮かべながら、体重移動で前傾姿勢へと移行する。

歩法――烈震。

「マジ、です、かッ!」

着地と同時に向かってきた俺に眼を剥き、緋真は刀を構え直している。

だが、恐らくは烈震からの穿牙だと予測していたのだろう。

突きの対策をするために構えていたようだが、それのお陰で足元がお留守だ。

緋真の足を払いながら通り抜ければ、緋真は倒れぬように保ちながらもバランスを崩し――

「《収奪の剣》」

「ッ!?」

振るった刃が緋真の背中を斬り裂く。

だが、浅い。どうやら、そのまま前へと倒れることで攻撃を回避しようとしたようだ。

緋真はそのまま前転しつつ体を回転させ、こちらへと視線を向けながら腕を振るう。

「【フレイムウォール】!」

隔てるように立ち上った炎が俺たちの視界を遮る。

仕切り直しのつもり、か。

緋真は俺がこれをすぐさま消し去れることを理解している、ということは――

「《斬魔の剣》」

炎の壁を斬り裂き――やはり、その場に緋真の姿はない。

遮蔽物も無ければ、地面に穴などある筈もない。

となれば――

斬法――柔の型、流水・無刀。

いつの間にか頭上に飛び上がっていた緋真が、襲牙を狙い俺の肩口へと刃を振り下ろす。

その一撃を篭手で逸らした俺はそのまま振り上げた手で緋真の胸倉を掴み上げ、地面へと叩き付けた。

「がッ、はっ!?」

「これで終いだが――最後までやるか?」

「げほっ……いや、勘弁してくださいよ。降参です」

軽く咳き込みながら、緋真は降参を宣言する。

その時点で決闘は終了の判定となり、周囲のエリアは解除されていた。

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

おおよそ予想通り、そして期待通りの結果だ。

魔法を使う相手が少ないならば、こうやって決闘モードを利用して鍛えればいいというわけだ。

おまけに、モードが解除されれば体力も回復する。

これはいい鍛錬になりそうだ。

「さて、次だ。お前らも手伝え、ルミナ、セイラン」

「え、私たちもですか、お父様?」

「クァァ?」

「次は三対一だ。楽しんでいくとするか」

俺の言葉に、緋真は呆れを、ルミナは驚愕を、そしてセイランは好戦的な感情を浮かべる。

その様子に笑みを浮かべつつ、俺は再びウィンドウの操作を開始した。