軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133:偵察任務

「……先生、ちょっと飛行速度上がってません?」

「この手綱の効果だな。飛行まで効果があるとは思わんかったが」

前に緋真を抱えながら、セイランに乗って飛翔する。

俺たちは今、牧場を出て北へと向かって移動している最中だ。

本日の稽古を終えてログインした俺に対し、顔を見せたアルトリウスが依頼してきたのは、要塞都市ベルゲンへの偵察任務だった。

正確に言えば偵察というよりは、ただ様子を見てきてほしいというだけの話だったのだが。

『キャメロット』の斥候部隊からの情報では、要塞都市ベルゲンは悪魔の軍勢に攻められている状況のようだ。

今の所完全に陥落した訳ではないのだが、それも時間の問題であるという認識のようだ。

この国の性質上、籠城戦になった時点で詰みに近いような状況だ。

王都方面からの救援が間に合うかどうかは微妙な所――いや、この状況では難しいと言わざるを得ないだろう。

「しかしお父様、例のクエストとやらはどうなさるのですか?」

「現地人の護衛輸送か……正直な所、あまり得意なタイプの仕事ではないんだが、状況次第だな」

ベルゲンは北側から攻められている状況であり、現在の所、住人たちは南側から避難を開始している所らしい。

それもあってか、現地に着いた『キャメロット』の斥候部隊には、現地人の護衛輸送のクエストが発生したとのことだ。

これはワールドクエストではないようだが、そこそこに緊急度の高いクエストだ。状況によっては引き受けていくべきだろう。

「それよりも、北側の悪魔共の状況が気になる。悪魔の侵入を未だ許していないのであれば何とかなるが……もしも門が破られていたならば、予断を許さぬ状況だ」

その場合は住人の護衛よりは、まずは退避の時間稼ぎが必要になるだろう。

そのためにも、まずは現地まで急がねばなるまい。

普段ならば相手をする上空の魔物たちも無視しながら、俺たちは現地へと急いでいた。

以前飛んだ時はマイナーグリフォンだったが、今は成長してグリフォンになっている。

そのため、二人乗せていても飛行速度で劣ることは無く、むしろ振り切るほどの速度を出せていた。

恐らく、翡翠飾りの手綱の効果もあるのだろう。急いでいる状況では非常にありがたいものだ。

「こうして戦闘無しで飛んでいると気持ちいいんですけどねぇ……」

「のんびりしてないで、お前も周囲を確認しろ。目的地はデカい街なんだ、遠目でも見える筈だぞ」

「分かってますって、ちゃんと見てますよ」

何やら満足げな表情の緋真を半眼で見下ろしつつも、更にセイランを急がせる。

地上の障害物に遮られることの無い空中の移動速度はかなりのものだ。

既にレベル上げで来た時の位置は通り越し、さらに北へと進んでいる。

話に聞いた情報では、もうそろそろ見えてきてもおかしくはない筈なのだが――

「あ、先生! あれじゃないですか? あの黒いやつ!」

「む……ああ、あそこか」

緋真の指差す方向へと視線を向ければ、そちらには確かに黒い外壁に囲まれた巨大な都市の姿があった。

その南側の門からは、いくつもの馬車が姿を現している。

どうやら、あれが件の避難民ということらしい。

その護衛も必要であろうが、今の所その周囲に悪魔の姿は見当たらない。

今すぐに彼らが襲われるということは無いだろう。

それよりも――

「お父様、北側から煙が!」

「チッ……セイラン、北側だ! 急げ!」

「クェッ!」

俺の言葉に威勢よく答え、セイランは翼を羽ばたかせる。

上空から見下ろした街中には、まだ悪魔の姿は見受けられない。

だが、街の住人たちは家財を纏め、急いで南へと向かっている最中だった。

これは、既に北側の門は破られているという状況だろうか。

顔を顰めながら街の北側へと急げば、そこには既に乱戦が繰り広げられている景色があった。

見れば、要塞の門は外側から破壊されている。破壊痕からして、恐ろしく強力な攻撃によるものだろう。

「これは……ヤバいですよ、どんどん悪魔が入ってきます!」

「住人の避難はまだ済んでいない、か。緋真、ルミナ、セイラン。お前たちは上空から悪魔共を攻撃しろ」

「え? 先生はどうするつもりなんですか?」

「俺は地上から何とかする――頼むぞ」

それだけ告げて、俺はセイランの背から飛び降りる。

狙った場所は、門に殺到しようとする悪魔共の真後ろだ。

門に密集している悪魔共の数はかなりのもの。であれば、まとめてこいつらを混乱させてやるとしよう。

「貪り喰らえ――『餓狼丸』」

上空から落下しながら、餓狼丸の能力を解放する。

同時に放たれた怨嗟の声は黒いオーラとなって広がり、それを纏いながら落下した俺は、悪魔の一体を踏み潰しながら受け身を取った。

黒いオーラは地を這うように広がり、体力を削られ始めたことに気づいた悪魔共がざわめき始める。

近場にいた悪魔共は俺の姿に気づき、驚きながらもこちらへと向き直った。

俺は悪魔共の視線を一身に集めながら大きく息を吸い――

久遠神通流合戦礼法――火の勢、鬼哭。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

全力の殺気を孕む咆哮が、悪魔共の群れへと向けて放たれる。

その瞬間、門へと殺到しようとしていた悪魔共は揃ってその動きを止めていた。

敵が密集しているおかげで、餓狼丸の吸収効率もいい。

悪魔共はさらにレベルの高いものであるだろうが――

「死ね」

口元を笑みに歪めながら、横薙ぎに刃を振るう。

眼前で俺の殺気を浴びて硬直していた悪魔は、抵抗もできずに俺の刃を受け止めることとなった。

緑の血が噴き上がり、レッサーデーモンは仰向けに倒れる。

その死体を踏みしめながら前に出て、俺は横薙ぎに刃を振るう。

「――『生奪』」

黒と金を纏う刃は二体の悪魔の胴を裂き、倒れる二体の間をすり抜けるようにしながら一閃を放つ。

その奥にいた悪魔の胴を半ばまで断ちながら、俺は更に奥へと足を踏み入れた。

歩法――間碧。

悪魔共の間をすり抜けて集団の内部に入り込んだ俺は、体を捻り周囲を一閃する。

《魔技共演》によって発動したスキルは、悪魔共を斬り裂いて血の雨を降り注がせる。

「ガアアアアアアアアアアアッ!」

緑の血煙が視界を塞ぐが、構わず前進する。

周囲の全てを敵に囲まれている状態だが、その方が餓狼丸も、《剣鬼羅刹》も調子がいいというものだ。

それにこの程度の悪魔では、俺の殺気を退けて動くことはできない。

全身を血に染め上げながら前に出た俺は、己の刃を眼前の悪魔の首筋へと添え、大きく体を捻る。

斬法――柔の型、零絶。

静止状態からの一閃により、悪魔の首が刎ね飛ぶ。

そのまま強引に振り抜いた一閃は、隣にいた悪魔を袈裟懸けに斬り伏せた。

何体もの悪魔から噴き出た緑色の血液が地面を濡らし、周囲を悍ましい色に染め上げる。

その中心で黒いオーラを纏いながら、俺は笑みと共に告げた。

「さあ来い、腰抜け共。一匹残らず殺してやる」

僅かに殺気を弱めながら挑発してやれば、悪魔共はいきり立ってこちらへと向かってくる。

遠慮のないその動きに、俺は笑みを浮かべながら刃を合わせていた。

斬法――柔の型、筋裂。

後ろから掴みかかろうとしてきた悪魔へと刃を添え、その動きを利用して腕を斬り飛ばす。

俺の目の前で動きを止めたそいつの首を刃を振って刎ねつつ、俺は正面から向かってきた悪魔へと向けて前進した。

斬法――剛の型、刹火。

相手の攻撃を回避しながら放ったカウンターの一撃は、その胴を半ばまで断ち斬り血を噴出させる。

そして飛来した魔法を《斬魔の剣》で斬り裂きつつ、俺はそれが飛んできた方向へと踏み込んだ。

歩法――烈震。

打ち消された魔法の残滓の中を掻き分けながら、俺は刃を振り下ろす。

その一閃はレッサーデーモンを袈裟懸けに斬り裂き、俺は羽織の袖口で刃を拭いつつ横へとステップを踏んでいた。

瞬間、俺のいた場所へと巨大な拳が突き刺さる。

巨体を持つレッサーデーモンが上から押し潰そうと攻撃してきたのだ。

打法――逆打。

伸びきった関節を肘側から打ち、その腕を逆関節にへし折る。

悲鳴を上げた悪魔は腕を抱えるようにして身を屈め――その内側へと潜り込んだ俺は、下から放った刺突によって心臓を抉った。

そしてその巨体に押し潰されぬよう即座に移動しつつ、再びスキルを発動させる。

「【スチールエッジ】、【スチールスキン】……おまけだ、『生奪』」

眼前にいた悪魔の繰り出した剣を躱しながら逆袈裟にその身を斬り裂く。

更にその死体を蹴り飛ばしてこちらに近づく悪魔へと衝突させ、動きの止まった相手を丸ごと貫いて絶命させる。

そして死体に手を当て、振り返りながら横薙ぎに刃を振るい、背後に近づいていた悪魔の首を落として――その瞬間、周囲で爆音が響いていた。

どうやら、上空にいた緋真たちが攻撃を開始したようだ。

地上から魔法で攻撃をされることがあっても、セイランならば容易く回避できる。

ほぼ一方的な魔法による爆撃は、俺から離れた位置にいた悪魔共を巻き込んで炸裂していた。

「く、はははははははっ! いいな、盛り上がってきた!」

やはり、戦場に爆音はつきものだ。

銃声や爆発が響いてこその戦場というものだろう。

上空からの攻撃で動揺する悪魔共を次々と斬り捨てながら、この愉快な戦場を駆け抜ける。

――だが、それを遮る声は、他でもない上空から聞こえてきた。

「先生! 敵の増援! 街の中から出てきます!」

「了解だ、こっちに来い!」

少々残念ではあるが、狙い通りでもある。

今の攻撃は、街中を攻撃しようとしている悪魔共の注意をこちらに引き付けることを目的としていたのだ。

完全であるとは言えないが、ある程度の注意は引けた。街中の敵の数が減れば、現地の戦力たちも多少は楽になるだろう。

後は、敵の数が減ったことで動きが緩やかになったであろう、最前線へと飛び入り参加するだけだ。

俺は降下してきたセイランの足を掴み、そのまま上空へと飛び上がる。

そして鬼哭を止め、意識を落ち着かせ、眼下で蠢く悪魔たちへと嘲笑を向けた。

「またすぐに会えるさ。次はもっと楽しませてくれよ……セイラン、街の中心地へ向かえ」

「クェッ!」

多少バランスは悪いだろうが、それでも体勢を崩さないセイランは、翼を羽ばたかせて街の中心地へと向かう。

街中では悪魔共が蠢いているが、やはり多少は数を減らすことができたようだ。

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《インファイト》のスキルレベルが上昇しました』

どうやら、敵から離れたことで一度戦闘が終了した判定となったようだ。

しかし、未だに餓狼丸は発動中……これについてはまだしばらくは使っておくつもりだ。

敵が多かったおかげか、刀身を染める黒は三分の一ほどまで進んでいる。

これならば、中々の攻撃力上昇が見込めるだろう。

できることならば、今度こそ刀身の全てを黒く染め上げてみたいものだ。

俺はそう胸中で呟きながら、向かう先へと笑みを交えた視線を向けていた。