軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

127:牧場の防衛

地を駆け、迫ってくる悪魔共の軍勢。

その先鋒にいるのは、騎獣に跨り駆けてくる悪魔の一団だ。

生意気にも強奪した騎獣を操っているあの悪魔共は悉く斬り殺してやりたい所ではあるのだが、連中は俺の獲物ではない。

小さく嘆息しつつ、俺はセイランに跨り、更に緋真を引っ張り上げた。

「……この前みたいな無茶な飛び方はしないでくださいよ?」

「そこまで高く飛ぶわけじゃない、心配するな」

半眼で睨んでくる緋真には苦笑しつつ、俺は周囲の状況を確認する。

今回、防衛しなければならない場所は牧場だ。

最低限の防衛設備こそ備えているものの、その規模は王都や砦とは比較すること自体が間違っている。

この外壁を頼りにしながら戦うのは、あまりにもリスクが大きい。

それ故、今回は野戦にてけりをつける。そもそも、この国の連中は野戦の方が得意であるわけだしな。

『ワールドクエスト《ベーディンジア緒戦》を開始します』

ワールドクエストのアナウンスが響き渡る。

俺たちにとっての、この国での始まりの戦ということか。

ざわつきながらも、『キャメロット』の面々は中々冷静な様子だ。

どうやら、既に何度目かになる大規模クエストに、彼らの方も慣れてきているようである。

「最初は、例の騎兵隊の人たちが一当てするんですよね?」

「ああ。ほら、言っている間に来たぞ?」

響く馬蹄の音に視線を向ければ、そこには左手側から横切るように駆けてくる騎兵隊の姿が見て取れる。

彼らは手綱を持たず、両手で弓を構えた体勢のまま、悪魔共の正面を横切るように駆けてきていた。

そんな彼らの姿に、俺は思わず眼を見開く。

「まさか……」

「嘘、あんなことできるの……?」

彼らの姿に、俺と緋真は呆然と呟く。その凄まじさを理解できていないらしいルミナは首を傾げていたが、馬術に通じている俺たちからすれば信じられない光景だった。

騎兵隊の彼らは、あれほどの速さで駆け抜けたまま矢を射かけ――騎獣の上に跨っている悪魔たちだけを、正確に射抜いていったのだ。

ただ馬を操ることと、騎乗したまま矢を放つことでは、難易度としては天と地ほどの開きがある。

様々な技術を学んだ俺でさえ、流鏑馬など的に当てられる自信はない。

それを、彼らは全力疾走させた馬の上で、一人残らず正確に、悪魔だけを狙って矢を射かけたのだ。

「想像以上だな……これほどの練度を持つ弓騎兵を擁しているとは」

「あれだけで見るなら先代様並ですよね。あんな技量の兵士がたくさんいるんですか」

「流石に精鋭部隊だろうがな。それだけ数がいるんだったら、もっと大量にこちらに来ていてもおかしくはなかった」

恐らく、精鋭部隊だからこそ、ここまでかなりの速さで辿り着くことができたのだ。

そうでなければ、もっと数を用意できていたはずだ。

騎兵隊はその矢で悪魔だけを正確に射抜き、そのまま悪魔の正面を駆け抜けて東へと向かっていく。

牧場の東側にはアルトリウスの部隊が展開しており、そこをキルゾーンとして騎乗悪魔を一網打尽にする作戦だ。

案の定、攻撃を受けた悪魔共は、騎兵隊を脅威と見て彼らを追うように方向転換する。

その様を確認して――俺は、セイランに合図を送った。

「行くぞ、お前ら!」

「ケェッ!」

強く地を蹴り、セイランが敵陣へと向けて駆け始める。

風を纏い駆けるそのスピードは、進化前よりもさらに成長していた。

その翼を広げ、いつでも飛び立てるようにしながらセイランは駆け――その背の上で、俺は背負った野太刀を引き抜く。

■《武器:刀》白鋼の野太刀

攻撃力:36(+4)

重量:21

耐久度:120%

付与効果:攻撃力上昇(小) 耐久力上昇(小)

製作者:フィノ

フィノから購入した野太刀は、純粋に高い攻撃力を持った武器だ。

その分、長大で扱い辛いわけだが、元々振り回して使用するものではないし構わんだろう。

柄尻を脇腹に当てて押さえつつ、刃を横向きに構える。

騎獣に乗っていた悪魔共は騎兵隊を追いかけ、正面からは姿を消している。

俺は奴らがいた場所を踏み越え――その瞬間、セイランは地を蹴り、翼を広げて飛び立っていた。

それと共に、正面にいた悪魔共の集団の頭上へと飛び――その密集した悪魔共を目にして、俺は告げた。

「最大火力だ、叩き込め」

「《スペルチャージ》、【フレイムバースト】!」

「刻印よ、輝け――光を放てッ!」

緋真とルミナ、二人が放つ範囲魔法。

それによって発生した炎と光の爆裂は、固まっていた悪魔共へと叩きつけられ、まるで風に吹かれた紙屑のようにその体を吹き飛ばしてゆく。

その余波によって煽られ、体勢を崩した悪魔共へと、俺は野太刀の刃を振り下ろす。

大きく振るう必要はない。ただ刃を添えるだけで、後はセイランの前進する勢いが敵を斬り裂いてゆく。

無論、それを維持するためには体勢を保ち続ける必要があるが、それは手綱と足だけで支えることは可能だ。

刃を添えているだけで次々と斬り裂かれていく悪魔たち。

だが、それも永遠に続くわけではなく、俺たちはついに悪魔たちの後方まで辿り着いた。

「さて、ここからが本番だ」

着地したセイランから飛び降り、俺は血を振るい落とした野太刀を背の鞘に納める。

代わりとして引き抜くのは餓狼丸だ。手に馴染むこの刃こそ、これだけの数を相手にするための武器に相応しい。

敵の数は数百ほど。以前の戦いに比べれば、その数は少ないと言わざるを得ない。

本隊である悪魔騎兵共が居なくなっている以上、それも仕方のないことではあるが。

「出し惜しみは無しで行くぞ。全員、派手に暴れろ」

「了解ですよ、先生」

「全力を尽くします、お父様」

「クケェエエエエエエエエッ!」

俺の言葉に応えるように、セイランは甲高い叫び声を上げ――それを開戦の合図として、俺は悪魔の群れの中へと飛び込んだ。

一人でこの数にぶつかるならばまだしも、こいつらがいるならば鬼哭は必要ない。

《強化魔法》を発動し、地を蹴り駆ける。

そんな俺の横を、全身に風を纏ったセイランが走り抜けていた。

「ケァアアッ!」

まるで竜巻を纏っているかのようなセイランは、その暴風を存分に撒き散らしながら悪魔へと向けて突貫する。

基本的に、この集団を構成しているのはレッサーデーモンだ。

レベルこそ30に達しているものの、奴らのステータスはそこまで高いものではない。

風を纏い、さらにその重量を存分に利用しているセイランの突進を食らえば、その場に留まることは不可能だった。

「《術理装填》、《スペルチャージ》【フレイムバースト】!」

「光の刃よ!」

俺の後ろを駆ける緋真たちも、それぞれがスキルを発動して攻撃の威力を向上させる。

その魔力の高まりを感じながら、俺もまた強く地を蹴った。

歩法――烈震。

「『生奪』」

こちらに対し迎撃しようとしていた悪魔に、刹那のうちに肉薄する。

そして繰り出した一閃は悪魔の首を斬り裂き、その脇を駆け抜けた俺は返す刃で後方の悪魔へと斬りかかった。

相手のレベルはそれなりに高い。ただの一閃で殺しきれるものではないが――この場においては、多少動きを止める程度でも十分だ。

そう判断した俺は、緩急をつけた歩法によってこちらの位置を錯覚させ、そのレッサーデーモンへと肉薄する。

歩法――陽炎。

横手を通り抜け様に走らせた一閃は、正確にその足首を斬り裂き、悪魔をその場に転倒させた。

あとは後ろにいる二人がどうとでもするだろう。

即座に意識を切り替えた俺は、飛来した魔法を《斬魔の剣》で斬り裂きつつ更に前進する。

こちらへと雷の矢を放ってきた悪魔は、それを真正面から斬り裂かれたことに驚愕して動きを止めている。

無論のこと、そのような隙を見逃す俺ではなく、即座に肉薄しながら刃を放った。

斬法――剛の型、鐘楼。

普段は目を狙う鐘楼で、悪魔の首を穿つ。

鋒諸刃造だからこそできる芸当だ。首の下から脳を穿ち、搔き回すことで絶命させる。

そして刃を抜き取りつつ蹴りを放ち、後方にいた悪魔に衝突させてその動きを阻害させた。

動きを止めた悪魔共へ追撃しようとし――咄嗟に、足を止める。

瞬間――

「クェェッ!」

大きな跳躍から落下してきたセイランが、その悪魔共を踏み潰していたのだ。

流石に俺が居ればそのような真似はしなかっただろうが、出鼻を挫かれ苦笑する。

グリフォンに進化したセイランの攻撃力は、以前と比較して大きく向上している。

特にその肉体や爪による攻撃の威力は凄まじく、悪魔たちを容易く屠れるだけの戦闘能力を有していた。

尤も、体も大きいので一切ダメージを受けずに、とはいかないようだが――《物理抵抗》を持っていることもあり、あまりダメージを受けていない。

気を付けなければならないのは魔法ダメージだろう。そちらを軽減することはできないのだ。

「となると……さっさとけりをつけるとするか」

時間が延びてセイランの被弾が増えれば、ルミナがセイランの回復に回らなければならなくなる。

それでもあまり問題は無いのだが、効率の落ちた狩りばかりというのも面白みに欠けるだろう。

であれば――それよりも早く、存分に力を振るえるように調整するだけだ。

「だが、爵位持ちも見当たらないのに合戦礼法をくれてやるのは惜しい……だから、こっちを見せてやるとしよう」

告げて、俺は刃を掲げる。

日の光に照らされ、鋭く輝く餓狼丸の刃。

その刃を悪魔たちへと示しながら、俺はその名を呼んだ。

「――貪り喰らえ、『餓狼丸』」

白刃が、叫び声を上げる。

その刀身から溢れ出す黒いオーラは、地を這うように周囲へと広がり――周囲に集う無数の悪魔たちの体力を、一斉に啜り始めた。

以前はフィリムエルと、その近場にいた何体かのレッサーデーモンが相手だった。

だが今回は、周囲に無数に存在する悪魔の群れだ。

吸収する量は、以前の比ではないだろう。

事実、周囲から集まる黒いオーラは、まるで渦を巻くかのように餓狼丸の刀身に纏わりついていた。

「安心しろ、吸い殺すような真似はしない――全員、その前に斬ってやるさ」

笑みを浮かべ、そう告げる。

その意味を理解できたのかどうかは知らないが――HPの吸収に狼狽える悪魔共へと向け、俺は再び足を踏み出していた。