軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

122:空中戦闘

「クケェェエエエエッ!」

雄叫びを上げ、セイランが宙を駆ける。

その急激な加速に耐えながら、俺は右手に握る餓狼丸に【スチールエッジ】を発動させる。

空中では自由に動けないため、攻撃手段が限定される。少ない攻撃機会で確実にダメージを与えられるようにしなければ。

「《スペルチャージ》、【フレイムバースト】!」

牽制として緋真が発動させたのは爆発の魔法。

起点を指定して発動するタイプの魔法は、空中でも使い易いものだろう。

中心で爆発を起こされたマイナーグリフォンたちは、空中で大きくバランスを崩して動きを止めている。

爆発に巻き込まれたことで、体の周囲を覆っている風の膜が乱されたのか。

確かに、セイランもあれのお陰で素早く飛んでいたようであるし、風を乱すのは有効な戦術であるかもしれない。

とは言え――

「うへぇ、結構魔法防御ありますね」

「風の魔法で飛び道具を防ぐものがあったな。あれの効果もあるのか」

「効果的にはちょっと違うような気もしますが……」

正直、使った経験は少ないためあまりよく分からんが、確かに少々異なる気もする。

とは言え、似たような効果があるのは間違いないだろう。

単発の魔法であまり効果を発揮できないのでは、正直な所少々やり辛い。

だが――

「行けッ!」

「ケェッ!」

空を打ち、セイランが加速する。

前かがみになりながらその衝撃に耐えつつ、俺たちはマイナーグリフォンたちへと向けて突撃を敢行した。

「――『生奪』!」

黄金と漆黒のオーラを纏った餓狼丸で、擦れ違った一体の羽ばたく翼を斬りつける。

血が飛び散り、そのマイナーグリフォンの体勢は、傷ついた翼の方からがくりと傾いていた。

翼を使って飛行している以上、やはりそこが生命線になるか。

「こちらも気を付けなけりゃならんか……!」

弱点があるのは良いが、結局の所明日は我が身だ。

セイランの翼を傷つけられれば、俺たちは揃って地面に落下することになる。

あのマイナーグリフォンはなんとかゆっくりと降下しているようであるが、こちらは重量物が二人も乗っているのだ、その余裕は無いだろう。

「追ってくるぞ、距離を取れ! ルミナ、牽制しろ!」

「クケェッ!」

「分かりました、お父様!」

残る二体が体勢を立て直し、こちらを追って飛行を再開する。

スピードで言えば、間違いなく連中の方が速くなるだろう。

こちらは重い荷物を運んでいるのだ、身軽な向こうとスピード勝負をすることはできない。

だが、その動きを牽制するように、《魔法陣》を使って魔法の数を増やしたルミナが光の槍を放っていた。

光の槍を回避するためにマイナーグリフォンたちは加速しきれず、奴らはこちらまで追い付けずにいるが、これでは根本的な解決にはならない。

さて、どうしたものか――

「緋真、壁で遮れ!」

「ウォール系って空中で使うとどうなるんですかね……《スペルチャージ》、【フレイムウォール】!」

緋真が魔法を発動した瞬間、俺たちの後方に炎の壁が発生する。

その形状は、どうやら正方形になっているようだ。

普段は地上で使っているため長方形に見えるが、まさか地面の下にまで展開されているのだろうか?

ともあれ、これで連中からの視界は遮れた。

ならば――

「セイラン、上へ昇れ! 連中の頭上を取れ!」

「クェ!」

「ちょっ――」

緋真が何か言いかけたようであるが、気にせずにセイランを一気に上昇させる。

緋真を抱え込むようにしながらセイランへと張り付き、その背から振り落とされぬよう体を固定する。

その直後、炎の壁を強引に突破したマイナーグリフォンたちの姿が、俺たちの眼下に現れていた。

空戦においては、基本的に頭上を取ったものが有利となる。

特にセイランたちマイナーグリフォンの場合、頭上へと攻撃できる手段は風の魔法程度だ。

その強靭な腕や足での攻撃は、完全に封じることができる。

「今だッ!」

「ケェェ――――ッ!」

そしてその瞬間、俺の指示に従い、セイランは頭上からマイナーグリフォンへと襲い掛かる。

振り下ろされた剛腕は、こちらの姿を見失っていたマイナーグリフォンの背を叩き、地上へと向けて吹き飛ばす。

錐揉み回転しながら墜落してゆくマイナーグリフォンだが、まだその体力は健在。

何とか体勢を立て直そうともがいている最中だった。

恐らく、地面に叩き付けられる前に体勢を取り戻すだろう。ならば――

「ルミナ!」

「承知しました!」

墜落するマイナーグリフォンへと向けて、ルミナがその手を振り下ろす。

その瞬間、輝いた魔法陣から光の槍が放たれていた。

空中に眩い軌跡を描く光の槍は、墜落中だったマイナーグリフォンへと突き刺さり、派手に魔力を散らす。

何本もの光の槍に貫かれたマイナーグリフォンは、そのまま体勢を保てず地面へと墜落していった。

その行く末までは確認する余裕も無く、俺は残る一体のマイナーグリフォンへと注意を向けていた。

空中で戦うと、敵の素材を回収できないのが面倒だが――

「残りは俺がやる、練習台だ。指示通り動け、セイラン」

「クェ!」

まだまだ慣れているとは言えないが、この機会に練習しておいた方が良いだろう。

俺の攻撃手段は接近しての斬撃のみであるため、正直かなりリスクは高いが、対処できなければ後々困ることになりかねん。

今は俺たちの頭上にいるマイナーグリフォン。今の奇襲で、既にこちらのことを捕捉しているだろう。

今の状況ではこちらが不利、だが――

「ブレーキを掛けろ!」

「――――ッ!」

翼が空を打ち、急激にスピードを落とす。

足で体を固定しながらその衝撃に耐え――その瞬間、俺たちの眼前をマイナーグリフォンが通り過ぎる。

頭上から俺たちを狙っていた一撃は空を切り、俺はその瞬間にセイランへと合図を送っていた。

狙うは、急降下爆撃のような直滑降。

「ひ――――っ!?」

「『生奪』……ッ!」

緋真の悲鳴を聞き流しながら、マイナーグリフォンへと突撃する。

ほぼ直角に落ちるような軌道には、流石の俺も肝が冷える感覚を味わったが、これにも慣れなければなるまい。

空中で戦えば、こういった場面の連続になる可能性は十分にあるのだから。

攻撃を外したことで一瞬混乱したのか、マイナーグリフォンの動きからは僅かな迷いが見える。

その隙へと向けて、俺はセイランと共に急降下しながら刃を振るう。

相手が動いていないならば、刃を振るっても取り落とすことはない。

片手とは言え、俺が振るった刃はマイナーグリフォンの左翼へと確実に傷を残した。

「ケェアアアアッ!」

「《斬魔の剣》!」

だが、それだけでは墜落するには至らないのか、マイナーグリフォンは全身に風を纏いながらこちらへと突撃を敢行する。

あの突進の直撃を受ければ、体の固定具も吹き飛びかねない。

それならば、と――俺はセイランへと合図を飛ばし、斜め下へと向けて墜落にも近い軌道を取らせた。

「ちょっ、先生――!?」

「大人しくしていろ、舌を噛むぞ……!」

俺たち二人分の重さがある以上、スピードで勝つことは困難だ。

だが、唯一下向きへの移動に関しては、俺たちの重さがむしろ加速要素となって作用する。

その状態で徐々に加速しながら――俺は、セイランの動きを一瞬停止させた。

ガクンと高度が落ち、先ほどよりも強い浮遊感に襲われる。

そのまま、俺は必死の表情でセイランにしがみついている緋真を尻目に、右手で刃を立てて左の篭手で峰を押さえながら構える。

瞬間――頭上スレスレを通り過ぎたマイナーグリフォンの腹部へと、餓狼丸の切っ先が埋まっていた。

「ギ、ィ……!?」

《斬魔の剣》の効果でマイナーグリフォンが纏っていた風の魔法が消え去り、同時に深く斬り裂かれたダメージでその巨体が揺れる。

ここまで傷を負わせたならば、奴の動きも鈍るだろう。

そう判断し、俺はセイランへと足で合図を送る。今ならば、対等以上のスピードで動けるはずだ。

「『生奪』!」

再び翼を羽ばたかせ、セイランは宙を駆ける。

風を纏いながら一気に旋回したセイランは、そのまま横合いからマイナーグリフォンへと強襲していた。

金と黒のオーラを纏う太刀は、尾を引くように空中に軌跡を描きながらマイナーグリフォンへと襲い掛かり――その左翼の付け根へと、一筋の傷を負わせる。

翼の中ほどと付け根、その両方を傷つけられたことでマイナーグリフォンの体ががくりと落ちる。

左の翼を集中的に狙っていた甲斐があったか。

「上がれ、セイラン!」

「クァアッ!」

俺の声に従い、セイランは一気に急上昇する。

一方、翼を傷つけられたマイナーグリフォンは翼を羽ばたかせるたびに不安定に体を揺らしていた。

風を纏うことで何とか保っているようだが、最早自由に動き回ることは出来ないようだ。

ならば――

「――『生魔』」

《生命の剣》と、《斬魔の剣》を同時に発動する。

動きを止めたマイナーグリフォンへと、上空から襲い掛かる。

金と蒼を纏う太刀は、展開されていた風の障壁を食い破り、その首筋へと刃を食い込ませていた。

「ッ、おおお!」

そのまま上半身の力を連動させ、刃を振り抜く。

頑丈な羽毛に覆われた首筋を斬り裂き、その下にある肉へと刃を届かせ――空中に、赤い血の飛沫を迸らせる。

その巨体がぐらりと揺れ、地面へと墜落していく様子を気配で感じながら、俺は大きく安堵の吐息を零していた。

「……何とかなったが、やっぱり向いてねぇなこりゃ」

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』

俺一人でも何とか戦うことは出来たが、やはり俺一人では空中の敵を相手にすることは困難だ。

空中でも問題なく動けるテイムモンスターたちや、緋真の魔法攻撃をメインにしておくべきだろう。

野太刀があればもう少しマシかもしれないが、それでも誤差の範囲内だ。

俺自身は、あまり空中では戦力になるとは言えないだろう。

「……先生。ホント、もう、空中の戦闘は私たちに任せてください。っていうか先生がセイランを操縦するのは一人で乗ってる時だけにしてください」

「そういうわけにもいかんだろうが」

「なら、あのジェットコースターじみた軌道は止めてください。本当に、切実に」

かなり目が死んだ様子の緋真が、光を映さぬ瞳でこちらを見上げてくる。

その様子からは視線を逸らしつつ、俺は声を上げた。

「まあ、セイランのスピードが上がればあんな無茶な軌道はせずに済むだろう。AGIを上げておけばいいか?」

「……はぁ、もういいですよ。それで、折角倒した魔物が地面に墜落しちゃいましたけど、どうするんですか?」

「一応、最後の奴だけは回収しに行くか。空中戦は素材の回収がやり辛いのも問題だな」

初めての経験とは言え、問題が山積みだ。

改善できそうな点もあるが、すぐには手のつけようがない点も多い。

空中での戦闘はできるだけ避け、効率よく戦うように心がけた方が良いだろう。

軽く嘆息を零しつつ、セイランに指示を送ってゆっくりと降下していく。

と――

「……ん、あれは」

「先生?」

「あっちを見てみろ、緋真、ルミナ」

降下していく中、遠景に見えた風景へと視線を向ける。

そこには、無数に蠢く黒い影の姿が映っていた。

馬に乗ったものと地を歩くもの、その種類はまちまちであるものの、向かう方向は同じ様子だ。

「辿り着くまでにはまだ時間はかかりそうだが、方角的には牧場の方に向かってきているようだな」

「……また、悪魔の軍勢ですか」

「まあ、今回は俺たちだけで相手をするわけでもないだろう。まだ時間はある、それまでに可能な限り態勢を整えるとしよう」

そのためにも、まずはセイランの進化だ。

とりあえず、空中戦でマイナーグリフォンたちに引けを取らない程度には動き回れるようにならなければ。

残りの時間的余裕を考えながら、俺は地上への降下を続けるのだった。