軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

120:セイランの実戦

要求した通りに騎獣を手に入れた俺と緋真は、早速牧場の外へと足を踏み出していた。

ちなみにであるが、ルミナは騎獣は購入していない。と言うより、テイムモンスターは騎獣結晶を扱えないため、購入しても扱えないのだ。

まあ、下手に馬を買うよりは自分で飛んだ方が速いだろうから、特に問題は無いだろう。

「緋真、状況についてあいつらに送ったか?」

「騎獣の購入金額まで含めて伝えましたよ。何か、『キャメロット』は新しい部隊ができそうな勢いらしいです」

「騎兵部隊でも作る気か?」

「あそこ、騎士のロールプレイしてる人も多いですからねぇ」

以前に緋真から聞いていたが、『キャメロット』には役割を演じることを楽しむプレイヤーが多いらしい。

確かに、元からアルトリウスを信奉している連中が多い印象ではあるが、そのロールプレイヤーとやらはアルトリウスを主君として仕える役割を楽しんでいるそうだ。

これはゲームであるし、楽しみ方は人それぞれだろう。アルトリウスが相手であれば主従というのも中々様になるだろうしな。

ともあれ――アルトリウスに仕えるという演じ方をする以上、その連中はほぼ確実にアイツに仕える騎士という役割を演じることになる。

騎士としての立ち振る舞いを演じる以上、やはり馬は必要であるということだろう。

「今、急いでグリフォンの攻略をやってるらしいですよ。一応攻略情報も伝えておきました」

「俺たちの攻略はあまり当てにならんだろうけどな」

「私が飛んでいましたからね」

ルミナの言葉に同意しつつ、俺は苦笑を零す。

俺たちがグリフォンをスムーズに倒せたのは、何よりもルミナの存在が大きい。

こいつが敵を引き付けていたからこそ、楽に戦うことができたのだ。

現状、空を飛べるものがテイムモンスターか召喚獣のみである以上、あまり採用しやすい戦法ではないだろう。

「まあ、あの連中なら何とかするだろう。それより、まずは慣らしていくぞ」

「私の方は普通に馬ですけど、セイランはもう乗り心地からして違いそうですね」

「空を飛ぶ前に、少しは慣れておかんとな……」

いくら何でも、空を飛ぶ獣に乗って戦うのは初めての経験だ。

これについては、流石に馬上戦闘の心得だけで何とかなるようなものではないだろう。

パラシュートでの空挺降下よりよほどスリルがありそうだ。

「とりあえず、まずは地上からだ。頼むぞ、セイラン」

「クェ」

短く鳴いて首肯したセイランは、俺の隣に立って動きを停止させる。

どうやら、身を屈めるつもりは無いようだが――それでいい、こいつが膝を屈するのは休む時と死ぬ時だけだろう。

口元を笑みに歪めつつ、俺は鐙に足を掛けてひらりとその背に跳び乗っていた。

鞍の感触は、俺の知るものに近いが……少々、馬よりは胴が太いだろうか。

これは感覚の調整に少々手間取りそうではあるが……そこは慣れか。

「よし、行くぞ緋真。とりあえず北だ」

「敵情視察ですか?」

「まあな。と言っても、まだ例の要塞都市とやらに近づくつもりは無いが」

足で合図を送り、セイランを進ませる。

馬と体の造りが違うため、乗り辛いのではないかと危惧していたが、意外にもその動きは安定している。

翼についても折りたたんでいるうちは邪魔にはならなそうだ。

まあ、足が翼に包まれているため少々こそばゆいが、動かす分にはあまり邪魔はされていない。

どうやら、翼そのものの力はそれほど強くはないようだ。

「先生、どうですか?」

「思ったよりはやり易そうだな。少し勝手は違うが、これなら許容範囲内だ」

「へぇ、馬とは全く違うから大変かと思いましたけど……」

「そうでもないな。そっちの方はどうなんだ?」

「私はさっきここに来た時の馬とそれほど変わらないですよ」

緋真が乗っているのは、赤毛に白い鬣の馬だ。

こちらはバトルホースであるため、俺たちが牧場まで乗ってきた種と変わらない。

緋真はあの時も十分乗りこなせていたし、その馬を扱ううえではそれほど苦労はしないだろう。

「けど、やっぱり打刀だと馬の上じゃ厳しいですね。擦れ違い様に斬るぐらいしかできないですよ」

「確かにな。まあ、お前には魔法があるだけまだマシだが……そっちも野太刀を買うか?」

「ゲーム内の筋力なら何とかなりそうですけど、あんまり振ったことはないですからねぇ」

一応、緋真には一通りの武器を扱わせたことはあるし、基本程度は抑えている。

だが、こいつが得意とするのは比較的軽量の刀だ。

その対極にある野太刀を扱うのは中々難しいだろう。

まあ、打刀でも戦えないことは無いだろうし、魔法を使う分には問題ない筈だ。

どのような戦術で戦うかは、何度か試していくうちに見出すしかない。

「お父様、向こう側から敵が近づいてきます」

「む……バトルホースか。練習相手にはちょうどいいかもな。とりあえず、思うように戦ってみろ、緋真」

「了解です。先生も慣れないんだから、あんまり無茶しないでくださいよ」

「俺はやれることしかやらんさ」

尤も、やれることは最大限やるわけだがな。

戦術を頭の中で構築しながら、足で合図を送ってセイランを走らせる。

視界の中には、既にこちらへと走ってきているバトルホース5体の姿が映っていた。

さて、やれることは色々とあるが――

「牽制しろ、セイラン」

「ケェッ!」

俺の言葉に従うように、セイランの周囲で風が渦を巻く。

先ほどは見れなかった風の魔法は、果たしてどれほどの威力があるのやら。

期待を込めた俺の視界の中で、うねる風は刃となってバトルホースへと襲い掛かっていた。

狙った先は足。どうやら、自分自身にとっても弱点となる位置はこいつも理解しているらしい。

セイランの放った風の刃は、それほどの威力は無かったようだが、それでも馬どもの足に傷を付けるには十分だった。

「擦れ違え」

「――――ッ!」

風を纏い、セイランが突撃する。

どうやら、この状態になると普段よりも速く走れるらしい。

あのボスのグリフォンも同じようなことをやっていたのだろうか。

この能力の使い道も考えつつ、俺は《生命の剣》を発動していた。

「しッ!」

馬上においては、刃を振るう必要はない。

ただ腕を固定し、その速力を利用して敵を撫で斬りにすればいいのだ。

というより、変に刃を振るおうとすると、その衝撃で手放してしまいかねない。

両手を使えればもう少し安定するのだが、流石に慣れないグリフォンではそれも難しい。

とりあえず、今は固定した刃で斬り裂いていく戦法が安定だ。

セイランの突撃と共に、バランスを崩していた馬の首を斬り裂く。

己の手で振るったわけではないため断ち切ることはできなかったが、それでも命を奪うには十分だったようだ。

「クェアアアッ!」

そして次の瞬間、セイランが纏っていた風を爆裂させる。

それはまさに衝撃波とも言うべき突風となって、周囲にいた馬たちを弾き飛ばしていた。

これはまた、便利な技が使えるものだな――!

「潰せ、セイラン!」

「ケェェエエ!」

俺の号令に従い、セイランはその場から跳躍する。

狙う先は、セイランの突風によって転倒していた馬の頭上だ。

飛び上がったセイランは僅かに翼を羽ばたかせつつ、倒れた馬へと向けてその前足を振り下ろしていた。

強い衝撃に、バトルホースの胴は地面と共に砕け散る。

俺はセイランの背から投げ出されぬよう手綱を掴み、足で体を固定しながら、思わず口元を笑みに歪めていた。

「ははははっ! 本当に暴れん坊だな、お前は!」

「クァア!」

激しく揺らされながらも体勢を立て直し、セイランは再び地を踏みしめて走り出す。

体重は馬と変わらぬというのに、この身軽さだ。

翼と、そして風の魔法。それがこの軽量感を生み出しているのだろう。

振り回されているこちらはかなり大変だが――それでこそ、乗りこなし甲斐があるというものだ。

再び周囲に風を纏いながら走り始めたセイランは、旋回する軌道を描きながら起き上がろうとする馬へと突撃する。

相手の体勢が低い状態では俺の攻撃は届かない。

ここは、セイランに任せておくべきだろう。こいつの攻撃手段を知っておいて損はない。

「ケェァッ!」

甲高い叫び声を上げながら、セイランは振りかぶった前足を立ち上がろうとする馬の頭部へと叩き付ける。

振り下ろされたセイランの腕は、上からはほとんど見えないが、僅かに揺らめいて見えたように思える。

あれは恐らく、風を纏っていたのだろう。事実、そのインパクトの瞬間、下から吹き上がった風によって俺の髪と服は舞い上げられていた。

どうやら、攻撃の瞬間に風を発することで威力を増幅することができるようだ。

「器用だな……まあいい、次はあっちだ!」

「クェ」

短く首肯したセイランは、俺が切っ先で示した方向へと走り出す。

体重で方向を示さずとも、言葉もきちんと通じる。これは実にありがたいことだ。

つまりセイランは、俺が乗っていなかったとしてもある程度操ることができるのである。

これはかなり大きい要素だ。俺はどちらかと言えば地上で戦うことの方が多いだろうし、その際にセイランが上手く動けないのはマイナスにしかならない。

だが、こいつは自分で考えながら動けるうえに、言葉での指示にも従ってくれるのだ。

(とは言え、これは俺が振り落とされないようにせにゃならんな……!)

風の展開が終わった瞬間、唐突に加速するセイランから振り落とされぬよう体を屈めつつ、俺は口元を歪める。

これほどの暴れ馬を乗りこなした経験はない。多少乗馬の経験がある程度では、あっという間に振り落とされているだろう。

こいつ自身、俺が振り落とされないことを期待してやっている節もあるようだが。

――ならば、その期待に応えてやるとしよう。

「好きにやれ、セイラン。お前の力を見せてみろ、フォローしてやる!」

「ッ、クァアアアアアアアアッ!」

俺の言葉を受け、セイランの纏う風量が増す。

それはまるで、竜巻を纏いながら突撃していくかのよう。

その姿を見て、馬上から魔法を飛ばしていた緋真は慌ててその場から退避していた。

これで 突撃槍(ランス) でもあれば様になったのだろうが、贅沢は言うまい。

「おおおおおおおおおおおッ!」

セイランが繰り出したのは、一切の躊躇の無い突進だ。

地面すら抉りながら突き進んだその一撃は、暴風によって上手く動けずにいる最後のバトルホースへと直撃し――その身を斬り刻みながら、遥か彼方へと吹き飛ばしていた。

その状態を確認することはできなかったが、あの様子では生きてはいまい。

全ての敵を駆逐し、纏う風を霧散させ、セイランは威勢よく雄叫びを上げる。

「ケエエエェェェ――――――ッ!」

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

さて、ある程度セイランの戦い方を知ることはできた。

類稀な身体能力と、強力な風の魔法。かなりスピードと攻撃力に特化した能力を持っている。

だが――

「……お前、また随分派手に使ったな」

「クェ」

今の戦闘だけで、セイランのMPはほぼ大半を使いきった状態となってしまっていた。

戦闘スタイルを知るために、派手に使わせていたことは事実ではあるが――これは少々使い過ぎだ。

この調子では、継続戦闘能力は決して高いとは言えないだろう。

「とりあえず、これを飲んどけ。まだまだお前には働いてもらうぞ」

「クゥ……」

インベントリから取り出したMPポーションを飲ませつつ、セイランの扱い方を考察する。

とりあえず、全力戦闘以外ではこの出力は出させないようにしなければなるまい。

毎回MPの回復をさせていては、流石にポーションが勿体ない。

「次からは俺も攻撃を増やす。あんまりやり過ぎるなよ」

「クェ!」

「……気を付けてくださいよホント。今巻き込まれかけたんですから」

全力で退避したのだろう、馬を進ませながら抗議する緋真に苦笑する。

上空のルミナも、ゆっくりとこちらへと戻ってきている所だった。

「次はセーブさせるさ。ほら、次に行くぞ」

「はーい……」

苦笑しながら、再び北上を開始する。

さっさとセイランのレベルを上げつつ、悪魔共の様子を確かめてみるとしよう。