軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

119:四番目の仲間

「ケェッ!」

「――――!」

鋭い声を上げて、マイナーグリフォンが飛び掛かってくる。

あの時のグリフォンには及ばぬとは言え、その体は十分な巨体を誇っている。

あまり強い殺気は放っておらず、こちらを殺す気こそ無いようだが……この巨体から攻撃を浴びれば普通は死にかねない所だ。

無論、俺もそれを黙って見守るつもりは無い。

小さく笑いながら、俺はマイナーグリフォンへと向けて足を踏み出していた。

打法――流転。

「グ……ッ!?」

マイナーグリフォンの前足を掻い潜って肉薄し、己の背を支点としてマイナーグリフォンの巨体を投げ飛ばす。

相手の力を利用すれば、投げ技にそれほど力は必要ではない。

相手はただ、己のスピードと体重だけで地面へと叩き付けられるのだ。

無論、下手に投げ飛ばすと大怪我に繋がる可能性もあるし、あまり勢いを付けずに背中から落とすに留めたが。

「そら、どうした? ただ威勢がいいだけか?」

「ク……ケアアアアッ!」

俺の挑発を理解しているのだろう、マイナーグリフォンはすぐさま起き上がり、再び俺へと向けて飛び掛かる。

だが、攻撃方法が同じであるならば、ただ同じように投げ飛ばしてやるだけだ。

打法――流転。

「グゥ……!」

再び地面へと叩き付けられ、マイナーグリフォンは呻くような声を上げる。

しかし、それでも決して怯むことなく、こいつはすぐさま起き上がってこちらを威嚇してきた。

二度同じことを繰り返したためか、安易に飛び掛かるような真似はしてこないようだ。

そしてこいつは一度後方へと跳躍して距離を取ると、そのまま勢い良く地を蹴り、俺へと向けて突進を繰り出していた。

「くく、そう来たか」

飛び掛かった場合はまた投げ飛ばされると理解したのだろう、今度は、その体そのものを使った体当たりを敢行しようとしているようだ。

確かにこの場合、相手の体重と勢いを利用する流転は使用できない。

だがしかし、それが命中するかどうかはまた別の問題だ。

勢いよく突進してきたマイナーグリフォンに対し、俺はタイミングよくその頭に手を付いて、その頭上を跳び越える。

いくらなんでもその体重を受け止めるのは無理であるが、受け流すぐらいならばどうということはない。

だが、マイナーグリフォンもこれならば投げ飛ばされないと理解したのだろう、旋回するように駆けて再びこちらへと突進してくる。

「だが甘い甘い!」

同じ動きをするのであれば、それにタイミングを合わせることなど容易い。

再び突っ込んできたマイナーグリフォンに対し、俺は再び同じように跳躍し――その頭を鷲掴みにしながら、相手の背へと蹴りを落としていた。

「グ、ケェッ!?」

その衝撃にバランスを崩し、マイナーグリフォンの巨体がふらつく。

地を駆けるスピードが落ちたことを確認した俺は、着地と同時に地を蹴り、体勢を立て直そうとするマイナーグリフォンへと肉薄した。

ふらつきながらもこちらの動きは察知していたのか、こちらを弾き飛ばそうとするかのように前足の薙ぎ払いが迫る。

だが、その動きはとっくに読んでいた。それを掻い潜った俺はマイナーグリフォンへと密着し――

打法――破山。

肩から伝えた衝撃によって、その巨体を弾き飛ばしていた。

衝撃を留めるようにしていれば深いダメージを与えることになっただろうが、これならば致命的なダメージにはなるまい。

弾き飛ばされたマイナーグリフォンは地面を転がり――それでも、倒れたままを善しとはせず、地を踏みしめて立ち上がっていた。

「グルルルルルル……!」

「いい気迫だ。それに……」

グリフォンの系譜ということは、恐らく風の魔法も扱えるのだろう。

それを使ってこないのは、俺が武器を抜いていないからか。

矜持を持っている奴は嫌いではない。気位が高いという巫女の評も、これならば納得できるというものだ。

ならば――

「敬意を表しよう、マイナーグリフォン。そして――耐えてみせろ」

告げて――俺は、目の前の相手に対し、本気の殺意を叩き付けていた。

鬼哭程ではないが、それに準ずる強度のある殺気だ。

その圧力に、視界の端で緋真たちが身構える姿が映る。巫女たちに至っては、血の気の失せた表情で硬直していた。

そして、殺気の全てを叩きつけられているマイナーグリフォンは――

(ほう……?)

後ずさりするように身じろぎして、けれどそれ以上下がることはなく、じっとこちらを睨みつけていた。

敵意や殺意ではない。それは、言うなれば決死の意志だ。

死を覚悟して、せめて一矢報いようとする決意の姿勢。

例え諦めたとしても、全てを諦めることなく前へと進めるその覚悟に、俺は殺気を霧散させながら笑い声を上げていた。

「くく、はははははははははははは! いいな、気に入った! お前は実にいいぞ、マイナーグリフォン!」

「……クルゥ」

「警戒するな、元より殺すつもりなどない。お前がどのような魔物なのか、確かめたかっただけだ」

突然殺気を消した俺に困惑したのだろう、マイナーグリフォンは警戒しながらも攻撃態勢を解く。

だが、その姿の中には既に先ほどまでのような敵意は存在していなかった。

こちらには敵わぬと理解したのだろう。下手に攻撃して敵対するよりは、様子を見ることを選択したようだ。

とりあえずは落ち着いた様子のマイナーグリフォンに満足し、俺は手を差し伸べていた。

「俺と共に来い、マイナーグリフォン。お前の力を俺に貸せ。その代わり――お前を強くしてやろう」

命じるように、そう告げる。

これは獣の流儀だ。こちらが上であることを示し、恭順するように命じる。

そんな俺の言葉に対し、マイナーグリフォンはしばし瞑目して動きを止め、それからゆっくりとこちらに近づいていた。

そしてマイナーグリフォンは、俺の目の前でゆっくりと体を伏せ、俺にその首を預けていた。

どうやら、俺に命を預ける決心がついたようだ。

「いい子だ……《テイム》!」

「ケェッ!」

『《マイナーグリフォン》のテイムに成功しました。テイムモンスターに名前を付けてください』

俺のスキルを受け入れたマイナーグリフォンが、正式に俺のテイムモンスターとして登録される。

そのステータスを開き、俺は先ほどから考えていた名をこいつに与えていた。

以前に戦ったグリフォン、あれが空を舞う姿は、まるで風のようであった。

こいつも同じように、俺を乗せて蒼い空を駆け抜けてほしい――その願いを込めて、俺はこの名を送る。

「よろしく頼む、 晴嵐(セイラン) 。お前の働きに期待しているぞ」

「ケエエエエッ!」

■モンスター名:セイラン

■性別:オス

■種族:マイナーグリフォン

■レベル:10

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:27

VIT:22

INT:25

MND:17

AGI:25

DEX:14

■スキル

ウェポンスキル:なし

マジックスキル:《風魔法》

スキル:《風属性強化》

《飛行》

《騎乗》

《物理抵抗:中》

《痛撃》

《威圧》

《騎乗者強化》

《空歩》

《ターゲットロック》

称号スキル:なし

どうやら、最初からそこそこレベルは高いらしい。

今は二番目の進化段階ということだから、16までレベルを上げれば次の進化が可能だろう。

とりあえず、俺たちよりも総合レベルはだいぶ低いことになるが、進化まで届けば戦力としては十分だろう。

どのように育てたものかと黙考しつつ、俺はセイランを引き連れて巫女たちの方へと戻る。

彼女は、若干引きつった表情のまま俺たちを迎えていた。

「お、お疲れ様でした……まさか、こうもあっさり手懐けてしまうとは」

「気位が高いという話だったからな。こちらが上であると示してやれば、逆にやり易かったさ」

こういうタイプの場合、対等の立場として接するのはむしろマイナスだ。

セイランの場合は、自分よりも強い相手でなければ従おうとは思わないだろう。

俺の場合は武器を使うことなく圧倒してみせたわけだし、あの殺気を浴びせたのもある。

セイランからすれば、俺は圧倒的な怪物に見えていたかもしれない。

「ともあれ……こいつは貰ってしまって構わんのだな?」

「はい、勿論です。当然鞍もお付けしますよ」

「ああ、頼みたい。セイラン、鞍を付けるって話だから、しばらく大人しくしておけよ」

「クェ」

俺の指示に対し、セイランは素直に頷いてみせる。

今のこいつは、俺の言葉であれば聞いてくれる様子だ。

後は仲間たちの言葉も聞いてくれるとありがたいのだが……それはまあ、今後に期待といったところか。

先ほど吹き飛ばされていた調教師たちがグリフォン用の鞍を持ってくるのを横目で確認しながら、俺は悩んでいる様子の緋真へと声を掛ける。

「それで、お前はどうするんだ?」

「いや、まさか先生が空を飛べるタイプの騎獣を選ぶとは思っていなかったので……巫女様、私も飛べる騎獣をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「そうですね……飛べる騎獣は主に三種、ペガサス、グリフォン、ワイバーンになります。グリフォン系とワイバーン系については今のように、手懐けるのにかなり苦労することになるでしょう」

「じゃあ、ペガサスは?」

「ペガサスは温厚で扱いも比較的楽ですが、人気があるためかなり品薄です。殆どは国の天馬騎士団に卸していますし……値段についてもかなりのものであるため、流石にペガサスを無料で提供するのは我々としても……」

どうやら、セイランは扱いづらいから人気が無かったらしい。

まあ、実力を認めなければ襲い掛かってくるような魔物なのだ、それも仕方ないだろうが。

しかし、緋真としてもこのままでは困るだろう。

「うーん、流石にワイバーンだと大きすぎて刀で戦うのは難しそうだし……あ、グリフォンって二人乗りできます?」

「ええ、可能ですが……マイナーグリフォンの内はまだ長時間は難しいかもしれませんが、グリフォンに進化すれば二人程度なら問題ないかと」

「お前な、二人乗りするつもりか?」

「いいじゃないですか、私なら邪魔にならないでしょう?」

確かに、緋真ならば俺に合わせることは難しくないだろうが……流石に、それをいつまでも許容するのもどうかという話だ。

それに、折角の騎獣融通の話。それを簡単に済ませてしまうのも勿体ないだろう。

であれば――

「巫女殿。ペガサスを一頭、予約するということは可能だろうか? その際に、割引で譲って貰いたいのだが」

「割引、ですか……」

「ああ。その代わり今回は、緋真の分は通常の料金で購入するということにしたい」

「それなら、私は今回はバトルホースを通常の値段で買うということで」

「ふむ……では、これでどうでしょうか」

そう口にすると、巫女は懐から取り出した紙に、何やらさらさらと書き込んでゆく。

そこに記載されていたのは――どうやら、紹介状であるらしい。

「私の名と印で、紹介状を作成します。これで、ペガサスを一頭予約ということで。金額は半額にさせていただきます」

「半額か……ん? いや、まさか……この値段で半額なのか?」

「ええ……ペガサスの育成には時間と人が必要になりますので」

提示された金額で、何と300万。通常購入だと600万もするということか。

まあ、進化段階からして三段階目以上――つまり、今のルミナと同格の魔物ということになる。

しかも、飛行訓練なども行うのであろうし、それに掛ける人員や時間は馬鹿にはならないだろう。

流石にこの値段をタダで譲れというのは無茶な話か。

「……どうする、緋真」

「結構しますね……んー、でも何とか大丈夫です。巫女様、これでお願いします」

「分かりました。ある程度時間は必要ですが、しばらくしたらこの牧場をお訪ねください……まあ、まずは悪魔を退けなければなりませんが」

「悪魔の相手なら、空を飛べなくても十分ですよ。バトルホースの方もお願いしますね」

「ええ、勿論です。準備いたしますよ」

色々と手間はかかったが、これで問題は無いようだ。

ペガサスの購入のためにも、まずは悪魔による攻撃を退けなければなるまい。

尤も、今すぐに来るという話でもないようだが……アルトリウスたちが到着するまでの時間的余裕は欲しい所だ。

それまでに、まずは騎乗戦闘を慣らしておくこととしよう。

ちなみにであるが、バトルホースの値段は20万だった。

その辺ですぐに手に入る馬と、育成の手間が桁違いのペガサスでは、それだけの差があるということなのだろう。

その値段の差に思わず頬を引き攣らせつつも、俺たちは騎獣の取得を完了させたのだった。