軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

118:従魔牧場

巫女の――と言うよりそれを護衛する騎士の先導に従い、件のフェーア牧場へと向かう。

残りの馬たちはどうするのかと思えば、巫女が一声かけただけで従順に従い、特に縄を繋ぐ必要も無く付いてきていた。

どうやら、これが巫女の能力であるらしい。従魔の巫女の名は伊達ではないということか。

まあ、悪魔の乗っていた馬は操れなかったようであるし、何かしら制約はあるのだろうが。

とりあえず、現状と野太刀を売ってほしい旨をメールでエレノアへと送りつつ、俺たちは揃って彼らの後に続く。

「私――と言うより我々従魔の巫女は、魔物と友誼を結びやすい能力を有しています」

「……《テイム》が成功しやすいということか?」

「そうですね。こういった能力を持つ者は稀に生まれるのですが……このベーディンジアでは、騎獣を捕まえて育てるのに重宝する能力であるため、高い地位を得ています」

やたらと丁重に扱われていたから貴族か何かかと思っていたが、どうやら能力の方を重視されているようだ。

まあ、個人名を名乗れない時点で中々に面倒そうな立場であることは窺える。

それに同情しないでもないが――それに関しては、話したところで詮無いことだろう。

それよりも、今は情報収集を優先するべきだ。

「単純に馬を生み育てているというわけではなく、魔物の馬を捕えて調教しているということか」

「その通りです。普通の馬よりも高い能力を有していますし、戦いにも慣れていますからね」

確かに、バトルホースは向こうから向かってくるような好戦的な馬だ。

大人しい普通の馬と比べて調教が難しそうな印象があるが、それを含めての従魔の巫女ということだろう。

その能力を鑑みれば、ルミナの奇妙な反応も納得できる。

ルミナは、この能力に惹かれて彼女の存在を感知していたのだろう。

「しかし、悪魔たちは地を埋め尽くすほどの数……野戦では駆逐しきれず、押されているのが現状です」

「この地形ならば騎兵は非常に強力だが……数で劣っては消耗するのも道理か」

いくら優秀な騎兵が数多く存在しようと、乗っているものが生物である以上は消耗は避けられない。

馬も、騎手も、疲弊して崩れればそれまでだ。

余裕のある内に撤退すれば有利に戦えるかもしれないが、悪魔共が被害を度外視して攻めてくれば結局の所意味はない。

まあ、その辺りは率いている悪魔によってなのだろうが――

「爵位持ちの悪魔の存在は確認できているのか?」

「……どうなのでしょう?」

「噂程度ですが、悪魔共を指揮している個体が存在したと聞いています。それが爵位持ちである可能性は高いでしょう」

「前線には出てきていないと。それはそれで厄介だな」

自分から前に出てくるような連中であれば各個撃破すればいいのだが……陣の奥でふんぞり返っているタイプでは少々厄介だ。

それが男爵級ならまだしも、子爵級となると少々厳しい。

フィリムエルはほぼ単体を相手に戦える状況だったからこそ、何とか倒すことが出来たのだ。

他の悪魔と同時に相手にするような余裕はない。状況の把握をしたいところだが――その辺りはアルトリウスに任せるか。

とりあえず急いで追ってこいとは言ってあるし、程なくしてグリフォンに挑み始めることだろう。

そんな会話をしている内に、俺たちの視界には高い塀に囲まれた街の姿が現れていた。

いや、あれは――

「……まさか、牧場全体を外壁で囲っているのか?」

「ここは我が国にとって要の一つですから、防衛のための設備は一通りは揃っています。それに、育てているのは魔物ですからね、幾ら友誼を結んだと言っても、育て切っていない騎馬たちは危険です」

「物々しい牧場ですね……」

しみじみと呟く緋真の言葉に、巫女は小さく苦笑を零していた。

俺としても同じ感想だ。リアルで言う牧場のイメージとはかなりかけ離れている。

どちらかと言えば、牧場と言うよりは調教所なのだろう。

馬の進むスピードを抑えつつ牧場へと近づけば、巫女の姿を確認した門番が門を開く。

戦時中ということもあり、その辺りの警備は厳重な様子だ。俺たちだけでは中に入るのに苦労したかもしれないな。

「ようこそ、フェーア牧場へ。ここまで来れば、ひとまず安心です……ありがとうございました」

「あんた方を助けたのは成り行きだ。それに、依頼はまだこれからだろう?」

「そうでしたね……とはいえ、今すぐに悪魔の攻勢が始まるというわけではありません。とりあえず、中をご案内します。ここでの戦いには、まず報酬を渡した方が良さそうですし」

報酬、と言えば――先程聞いた、騎獣の融通という話だろう。

確かに、《テイム》によって仲間にするのであれば、早めに受け取って時間の許す限り育てておいた方が良い。

巫女の言葉を咀嚼しながら揃って下馬し、連れてきた馬たちは寄ってきた兵士たちに預ける。

外壁の中はあまり街といった風情ではなく、広い草原がいくつかの柵によって区切られている様子だ。

その中では、多くの人々が馬たちの調教を行っているらしい。

「成程、承知した。是非騎馬を――いや、そういえば、さっきから騎獣と言っていたな。まさか、騎乗可能なのは馬だけではないのか?」

「ええ、数は少ないですが、馬以外の種も育成していますよ」

「……なら、一つ聞きたい。それ自体が高い戦闘能力を持った――或いは、そういった種に進化する騎獣は何がいる?」

「騎獣そのものの戦闘能力を重視する、ということですか。そうですね……」

俺の言葉に、巫女はしばし黙考する。

だが、彼女はその彷徨わせていた視線を、ふと俺と緋真の方へ交互に向け、目を見開いていた。

「あの……お二人とも、何かとても強い魔力を持った品をお持ちでは? 同じような風の魔力を感じます」

「え、風の魔力ですか? って言うと……」

「俺は魔法はあまりよく分からんからな。しかし、品物ってことは何かのアイテムか」

「やっぱり、これですかね?」

言いつつ緋真が取り出したのは、一枚の茶色い羽根――グリフォンの落とした『嵐王の風切羽』だ。

見た目は普通に羽根そのものであるのだが、その大きさはかなりのものである。

まあ、あのグリフォンの風切羽だと思えば当然なのだが――いや、あの巨体と比較しても、もう少し大きくないか?

テキストでしか確認していなかったから分からなかったが、こいつは一体何の羽根なんだ?

――その疑問の答えは、どうやらこの巫女が持っているようだ。

「 嵐王(ワイルドハント) の羽根……! その系譜にあるグリフォンを倒したのですか!」

「ワイルドハント?」

「伝説に語られる、強大なる魔物です。嵐を操り、亡霊を引き連れ、天空を支配する空の覇者。ドラゴンにも劣らぬ、最上級の魔物であると言われています」

「……あのグリフォンは、それに関係する魔物だったと?」

「ワイルドハントはグリフォンの進化した姿であると語られています。貴方がたが倒したのは、その加護を受けた個体だったのでしょう」

確かに強く厄介な魔物ではあったが、まさかそんな由来があろうとは。

伝説の魔物と言われても正直実感が湧かないが、この大仰な反応はそれだけの力を持っているということなのだろう。

それについては少々驚きではあったが、それが何か関係あるのだろうか?

そんな俺の視線に対し、巫女はしばし黙考した後、薄く笑みを浮かべて声を上げた。

「貴方がたならば、もしかしたら……ご希望に沿う魔物を紹介いたします、付いてきてください」

「あ、ああ」

若干緊張している様子の巫女に違和感を覚えつつも、その後に続いて歩き出す。

牧場の奥へと進んでいけば、ちらほらと建物の姿が目に入る。

恐らくは騎獣たちの住まう厩舎だろう。人間の住む場所の様式には思えない。

まるで、街一つが牧場になっているかのような規模だ。このような景色は地球では見られないことだろう。

「あらかじめご説明しておきます。騎獣と契約する方法は主に三つあります。最も多いパターンはこれですね」

歩きながら説明する巫女は、その手に黄色の結晶を取り出す。

その見た目は、俺にも見覚えのあるものだった。

「それは、従魔結晶か?」

「それに近しいものです。これは騎獣結晶と呼ばれる道具で、騎獣を眠らせて封印することができます」

「機能はほぼ従魔結晶と同じようだが……」

「その通りですね。ただしこれは、《テイム》のスキルを持たない者でも使用することができます」

その言葉に、俺は僅かに目を見開く。

従魔結晶は、その名の通りテイムモンスターを封じることができる物体だ。

いや、テイムモンスターが休眠状態になるとあの姿になるということか?

どちらにせよ、《テイム》のスキルが無ければ手にすることはないアイテムである。

しかし、この騎獣結晶は違うということか。

「魔物を従えるスキルを持たない方には、この騎獣結晶に騎獣を封じる形で購入していただきます。これさえあれば、いつでも騎獣を呼び出すことができるのです」

「……成程、私はそっちですね。けど、《テイム》がいらないって言うことは、何か異なる点があるんですよね?」

「はい、このアイテムで騎獣を購入した場合、その騎獣はテイムモンスターのように育成することはできません」

「つまり、純粋な意味で騎馬として使えということか」

単純な移動手段として使うのであれば十分だが、騎獣そのものに戦力を求める俺にとってはあまり望ましくないものだ。

とは言え、《テイム》を使えない者向けの方法を提示してきたということは、その逆もあるということだろう。

「では、残りの二つは――」

「お察しの通り、《テイム》と《召喚魔法》ですね。こちらで契約を結んだ場合には、その騎獣を育成することができます」

「であれば、そちらを選ばん理由は無いな」

俺は《テイム》を使っているし、パーティの枠にも余りがある。素直に《テイム》で仲間に加えることとしよう。

巫女は俺の言葉に頷き、そして再び前方へと視線を向ける。

彼女の視線の先にあるのは――他のものよりも若干大きい厩舎だった。

「《テイム》を用い、ワイルドハントの羽根を持ち、そして騎獣に戦闘能力を求める――貴方の条件に適う魔物は、あそこにいます……」

「また、歯切れが悪いな? 何かあるのか?」

「……ええ、その……あの子は、かなり気位の高い子なのです。そのため、調教師たちの言うこともほとんど聞かず――」

巫女が説明していた、ちょうどその時――突如として、けたたましい音を立てながら厩舎の扉が吹き飛んでいた。

驚いてそちらに視線を向ければ、扉をぶち破ったその姿が目に入る。

――多少の差異こそあれど、それは確かに見覚えのあるものであった。

「ま、待て、大人しく――うわああああああああっ!?」

「きゃああああああああ!?」

首に縄をかけて引き留めようとしていた調教師たちが、その縄に引っ張られて吹き飛ばされてゆく。

ただの身震いでそれだけの力を発揮したのだから、その身体能力はかなりのものであるだろう。

まあ、飛ばされただけで特に怪我もなさそうであるし、あの魔物も追撃を加えるような真似はしていないが――成程、随分な暴れん坊だ。

「……まさか、騎乗可能な魔物だったとはな」

「ええ。ですがあのように、あの種は気位が高く、中々人間の言うことは聞きません。私ならば大人しくさせることは可能ですが、主人と認めてくれているわけではないでしょう」

黒く滑らかな毛並みの胴。白く、大きく広げられた翼。鋭い嘴と大きな瞳――ああ、その姿は強く印象に残っている。

あの時見た個体よりは一回り小さいが、その姿に殆ど差異は無い。

あの魔物は――

「……マイナーグリフォン。貴方の戦った、グリフォンの下位種です。進化段階では、グリフォンベビーからの二段階目に当たります」

「まさかとは思うが……人を乗せながら飛べるのか?」

「ええ。ただし、あの子たちは己が認めた人間しか背に乗せることはありません……クオン様、あの子を従えられますか?」

「実力を示せ、ということか」

小さく笑みを浮かべながら、前に出る。

背の高い柵に手をかけて一息に登り、俺は遮るものの無い広場でマイナーグリフォンと対峙していた。

正面に現れた俺に対し、こいつは警戒心を露わに動きを止める。

成程、ルミナの時のように、簡単にこちらのことを気に入ってくれるというわけではなさそうだ。

尤も――それ位でなければ面白くない。

「お前の種のことは気に入っている。だが、こちらからも見定めさせて貰うぞ」

「クケェッ!!」

俺の言葉を挑発と受け取ったか、マイナーグリフォンは強く鳴き声を発して威嚇する。

だが、その程度で怯むはずもない。泰然と笑みを浮かべた俺に対し、グリフォンはその巨体を震わせながらこちらへと飛び掛かってきた。