軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

011:新たなスキル

ガレオスの喉笛に切っ先を添えたまま、全ての動きが停止する。

使っている武器はただの木剣ではあるが、柄尻に手を添えたこの状態、射抜を使えば容易く喉を潰すことができるだろう。

ガレオスの構えた木剣からゆっくりと光が消えていくのを確認し、そこでようやく口を開く。

「とりあえず言っておくが、俺はプレイヤー……お前らの言うところの異邦人って奴だ」

「……それが、何だ」

「俺たちはこの地に来る際、初めからいくつかのスキルを所有している。この《収奪の剣》も、その時に手に入れた代物だ。つまり、誰かに教わったわけではない……納得はしてもらえたか?」

そこまで告げたところ、ガレオスはゆっくりと、上段に構えていた木剣を降ろした。

既に肌を刺すような敵意は感じず、彼は大きく嘆息を零す。

どうやら、誤解は解けたようだ。

「……済まんな、早とちりをしてしまった」

「構わんさ。荒っぽい登場をしたんだからな、マイナスに見られるのも仕方ない」

こちらもまた、刀身を降ろして戦闘体勢を解く。

そこそこにいい試合ができたし、満足だと言えるだろう。

奥伝――我が久遠神通流の奥義の一角を実戦で使用できたのは、中々にいい経験になった。

「まあ、俺の勝ちってことでいいな?」

「ああ、こちらの負けだ。まさか、これほどレベルの開いた相手に敗れることになろうとは」

「そういや、《識別》もしてなかったな……」

試しに、スキルを意識してガレオスのことを注視してみる。

すると、視界に表示されたのはこのような内容だった。

■ガレオス

種別:???

レベル:???

状態:???

属性:???

戦闘位置:???

『《識別》のスキルレベルが上昇しました』

以前緋真を見た時以上に、ほぼ何も分からないような状態である。

しかも、一度使っただけで《識別》のスキルレベルが上がるほどだ。

これは、かなりのレベル差があるということだろう。

膂力で圧倒されるのも、当然と言えば当然か。

「試合で負けてしまった以上は、そちらの指示に従おう。お前は、この道場をどうするつもりだ?」

「あ? いや、別にどうこうするつもりはないぞ。俺は単に、強い相手と戦いに来ただけだからな」

「……武者修行か何かか? 変わっているな」

「よく言われるな。まあとにかく、道場に手を出すつもりは無い。俺の目的はもう達成されてるからな」

そう告げると、ガレオスは僅かに安堵したような吐息を零した。

殊勝な態度ではあったが、やはり道場を手放すことは認めがたかったのだろう。

周囲の門下生達も、あからさまに安心したような様子を見せている。

成程、こいつは師匠としてもそれなりに慕われているらしい。

良き剣士に出会えたことに満足しつつ、俺はふと、気になったことを質問した。

「ところで、《収奪の剣》を見た途端に随分と過剰反応していたが……このスキルに何かあるのか?」

「……そうか、異邦人なら知らないだろうな。そのスキルには、少々曰くがあるんだ。まあ、少し長い話になるが」

「構わんさ、しばらく時間を潰すつもりでここに来たからな」

「道場破りがただの暇潰しとは、立つ瀬が無いな……まあいい。お前たち、訓練に戻れ! 俺は彼と話をする!」

いい加減、周囲を放置したまま立ち話をするわけにもいかなくなったのだろう。

ガレオスは、周囲の面々に対して練習の再開を指示する。

俺としても、別段道場の経営をどうこうするつもりはないし、話が聞けるならばそれで十分だろう。

再び騒がしくなり始める練習場の壁際へと移動した俺たちは、改めて話を再開した。

「では、改めてだが……俺はガレオス。この道場の指南役だ」

「クオンだ。先ほども言ったが、異邦人って奴だな」

「ああ、よろしく頼む。それで、《収奪の剣》に関する話だったな」

ガレオスは、背中を壁に預けながら腕を組む。

あまり表情の変わらない男ではあるが、浅からぬ因縁がある様子が見て取れた。

いきなりあんな過剰反応をするほどだったのだ、そう楽しい話というわけではないだろう。

「《収奪の剣》は、『三魔剣』と呼ばれるスキルの一角、《奪命剣》と呼ばれるスキルの前提となるスキルだ」

「『三魔剣』? ってことは、他に二つあるってことか」

「然り。《奪命剣》、《蒐魂剣》……そして、俺の受け継いだ《練命剣》。これら三つは、とある剣聖――俺の師を開祖とする、非常に強力なスキルだ」

ガレオスの言葉に、俺は頷く。

成程、確かに。先ほどガレオスが使おうとした《練命剣》は、かなりの威力を誇るスキルであることは間違いなかっただろう。

だからこそ、俺も出がかりを潰す他なかったのだ。まともに打ち合えば、負けていたのは間違いなくこちらだろう。

そして、俺の持つ《収奪の剣》の場合は、《奪命剣》と呼ばれるスキルに派生するというわけか。

「つまりアンタは、俺がその《奪命剣》の使い手にそれを教わったと思ったのか?」

「……そうだな。だが、それはありえない筈なんだ」

「ありえない? どういうことだ?」

「今、《奪命剣》を使える者はたった一人、俺たちの師匠しかおらず――《奪命剣》を受け継いだ一人の弟子は、既に死んでいるからだ」

その言葉に、俺は視線を細める。

それほどの強力なスキルの使い手が死していることを訝しんだわけではない。

彼の言葉の中に、酷く苦々しい感情を読み取ることができたためだ。

「……何か、あったのか?」

「……その男は、剣に狂ったんだ」

「――!」

剣に生きている以上、その言葉の意味が分からないはずがない。

剣の道に傾倒し、戦いと血に狂い果てた者の末路がいかなるものか――それは、現在の状況を見れば明らかだろう。

「《奪命剣》……《収奪の剣》は相手の命を啜るという性質上、生命力への転換と自己治癒の際に快感が伴うんだ。特にこのスキルは、スキルレベルが高まれば高まるほど、より多くの命を吸収できるようになる。つまり――」

「戦いそのものではなく、《奪命剣》で命を奪うことそのものが目的と成り果てたか」

「ああ……なまじ実力のある男であっただけに、奴を止められる者はいなかった……師匠を除けば」

「その男は、あんた達の師匠によって斬られた、と」

まあ、剣に狂った者の末路としてはありがちだろう。

それが師を超える前であっただけ、まだマシだったと言うべきか。

しかし、その師匠も大したもんだ。それほど強力な 剣術(スキル) を、たった一人で開発したというのだから。

「始めは散発的な通り魔として、そして事態が発覚してからは無差別に人を斬り、吸い殺した。師匠はそいつを止めることはできたが、そいつの師であったがため、自分から王家の剣術指南役の地位を返上して隠居してしまった……だからこそ、《収奪の剣》は危険なスキルとして認知されている」

「あまり人前では使わないほうがいいってことか」

「そうだな。尤も、異邦人たちはそんなことは知らんだろうから、気にするのは我々現地人のこと程度でいいだろう」

そう告げて、ガレオスは苦笑する。

その男とも、同じ師を持つ弟子同士、恐らく交流はあったのだろう。

それほどに苦い経験があるというのならば、このスキルを警戒してしまうのも無理からぬことだ。

「ともあれ、そういう事情だ。もう随分と前のことだというのに、過敏に反応してしまった……済まなかったな」

「事情があるなら何も言わんさ。それに、俺としてもそこそこ楽しめたからな」

「……頼むから、お前は狂わないでくれよ? まあとにかく、お前には迷惑をかけてしまった。詫びとしてはなんだが、一つ、いいものを教えてやろう」

そう口にすると、ガレオスは壁から離れ、俺に対して木剣を構えてみせた。

だが、その構えの中には俺に対する戦意は見受けられない。

どうやら、単純に何かを見せるだけのつもりのようだ。

まあ、それはそれで興味深いため、俺は意識を集中させてそのさまを見届けようと視線を細める。

「――《生命の剣》」

スキルの宣言――それと同時に、ガレオスの木剣が淡い金色の光に包まれる。

そのエフェクトのパターンは、俺が《収奪の剣》を使ったときのそれに酷似していた。

どうやら、このスキルこそが――

「これが、《練命剣》の前提となるスキル、《生命の剣》だ。簡単に言えば、己のHPを消費して、攻撃の威力を上げるスキルだな」

「ほう。そりゃまた、《収奪の剣》と相性が良さそうだな」

「確かにな。師匠は三種の魔剣を全て扱えるから、自分でHPを減らして自分で回復させる、なんて器用な真似もできた。正直、どうしようにも倒しきれる気がしないな」

肩を竦めながら光を霧散させるガレオスの言葉に、俺も思わず苦笑する。

自分でHPを減らしてダメージを増幅し、減らしたHPは相手を攻撃して回復する。

たちの悪い永久機関だが――確かに、俺にとっては興味深いものでもある。

何しろ、HPが減る機会が中々無いために、《収奪の剣》やら《HP自動回復》やらが鍛えづらいのだ。

これがあれば、攻撃力も上げられるし、スキルレベルも上げやすくなる。一石二鳥だろう。

『スキル《生命の剣》の取得条件を満たしました。習得可能スキルに追加されます』

「おや、覚えられるようになったみたいだな」

「礼としてはつまらんもので申し訳ないが、できれば使ってみてくれ。きっと、お前の助けになるだろう」

確かに、これならば十分だ。

にやりと笑みを浮かべつつ、俺はメニューを操作して《生命の剣》を習得する。

必要なスキルポイントは5――これまでに習得したスキルよりも、随分と要求されるポイントが多い。

それだけ、《生命の剣》は強力なスキルであるということだろう。

早速、スキル枠から《採掘》を外して《生命の剣》をセットする。

「よし、《生命の剣》」

瞬間、体の中からぐっと何かが引っ張り出されるような感覚が走ると共に、木剣が淡い金色の光を纏う。

自分のステータスを確認してみれば、約1割ほどのHPが消費されていた。

どうやら、きちんとスキルを使うことに成功したようだ。

「上手く使えたようだな。余裕があったら、《生命力操作》というスキルも習得するといい。消費するHPの量を意識的に操作できるようになる」

「へぇ、そいつは便利だな。節約したり、もっと威力を高めたりもできるってわけだ」

「そういうことだ。上手く使ってみてくれ」

まあ、今は空いているスキル枠もないし、それは後々でいいだろう。

とりあえずは、このスキルと《収奪の剣》を意識的に使い、育てていくのが先決だ。

正直なところ、《強化魔法》よりも幾分か使いやすいため、俺のメインウェポンになることが予想できる。

しかも、その先にあの《練命剣》があるとなれば尚更だ。

「感謝する。世話になったな」

「スキルに関しては詫びなんだ、気にするな。ああ、良ければ向かいの道場にも行くといい。あいつは、師匠から《蒐魂剣》を学んだ俺の弟弟子だ。その関連スキルも教えてくれるかも知れんぞ」

「ほう、それはそれは。それも勉強になりそうだな」

くつくつと笑いつつ、俺はガレオスに対して目礼する。

有意義な時間だった。ここに来ただけでも、このゲームを始めた甲斐があったと思えるほどに。

満足しつつ、俺は木剣をガレオスへと返却して、踵を返した。

「じゃ、また機会があったら」

「ああ、次は負けんぞ?」

「次は、もっときちんと試合になるように鍛えてくるさ」

軽く手を振って、俺はガレオスの道場を後にする。

周囲からは色々と複雑な視線を向けられたが、気にせずに元の通りへと戻った。

そして――

「さて、同じ流れで行くとするか」

――同じ足で向かいの道場へと入り、俺はもう一つのスキルである《斬魔の剣》を習得したのだった。