軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106:騎士団の依頼

『エレノア商会』での話も思ったより早く済み、俺たちはさっさと騎士団に移動していた。

俺が来るという話は既に伝わっていたようで、騎士団の紋章を見せる必要も無く、以前にクリストフと話をした会議室へと通される。

そこにはまだ誰の姿も無かったが、俺たちはとりあえず、促されるまま席に座っていた。

果たしてどのような話になるのかと思いつつも一息つき――じっとこちらを半眼で見つめていた緋真へと視線を返す。

「で、お前はさっきから何だ」

「……先生、ノエルさんのことじっと見てましたよね」

「あん? まあ、それは確かに見ていたが」

どうにもあの怪しい雰囲気が苦手で警戒してしまったが、当人は決して悪い人間ではなかった。

国連軍にいた頃、あれと似たような雰囲気の女がいたのだが――奴は悪辣という言葉がこれ以上ないほど似合う女だった。

作戦の立案とオペレータを兼任している人物だったのだが、何をどうしたらそんな作戦を思いつくのか、と言いたくなるようなことばかりを口にしていたのだ。

尤も、それのおかげで生き延びられた戦場も多かったため、あまり文句もつけられないのだが。

アルトリウスを悪辣さに特化させたらあのような作戦を立てるようになるだろう。彼には是非、今のままでいて貰いたい。

何しろあの女、俺とジジイの能力と、軍曹の行動を把握した上でギリギリの作戦ばかりを立案してくるのだ。

流石の軍曹も、あの女相手には苦手意識を抱いていたようだ。

「ふーん……先生って、ああいう人が好みなんですか」

「あん? ああ、そっちの話か……」

お前も面倒臭い奴だな、と言いそうになって口を噤む。

以前、女性隊員にそれを口にして、しばらく説教を受けた経験があった。

小さく嘆息し、そして苦笑を浮かべながら緋真の額を弾く。

「お前は妙なことを気にしすぎだ。と言うか、俺としてはあの手の人柄は苦手なタイプだ」

「いたっ……そうなんですか? ノエルさん、凄く美人ですけど」

「まあ、そりゃ認めるがな。いい体していたし」

「……先生?」

「そう怒るな、一般論だ」

ノエルが美人であることは否定できない事実であった。

顔の造作もかなり自然であったし、リアルからして美人であることは間違いないだろう。

だが、それでも苦手であることに変わりはないのだ。

「何と言うかなぁ……ああいう、“女”を武器にしているタイプの相手は苦手なんだよ」

「そう……なんですか?」

「ああ、俺も軍曹もどれだけいいように扱われたか……いや、それは良い。とにかく、女としての好みからは外れてるよ」

俺の返答に、緋真は若干安心したように、同時に気まずそうに視線を彷徨わせる。

相変わらず、こいつは思っていることが顔に出やすいタイプだな。

戦っている時に表情を取り繕うことはできるくせに、何故普段はこうも感情を隠せないのか。

まあ、あまり隠しすぎるのも考え物なのだが。

「えっと……それなら、その……せ、先生の好みって――」

「失礼する――済まん、待たせてしまったな」

と――緋真が問いを投げようとしたその瞬間、会議室の扉が開く。

そこから入ってきたのは二人の人物。騎士団長クリストフと……ノースガード砦の指揮官、グラードだった。

その姿に、俺は今回の話の概要をある程度察知する。

まず間違いなく、ノースガード砦に関連する話だろう。

「久しぶりですね、団長殿、そして指揮官殿」

「ああ、今回の事件では、お前には本当に助けられたな。礼を言う」

「いえ、我々にとっても益のあることでしたので」

腰に佩いた餓狼丸を意識しながら、俺は笑みと共にそう返す。

戦い自体もそうだが、この武器を手に入れられたことも大きな収穫だった。

今回の戦いは、実に満足できる結果だったと言えるだろう。

とは言え、全てが解決したわけではない。と言うか、そもそも悪魔との戦いはここからが本番だ。

奴らの侵攻を妨げたといっても、それは氷山の一角に過ぎない。戦火は世界中に広がっているのだから。

「さて……それで、団長殿。今回我々を呼び出した理由をお聞きしても?」

「ふむ、と言っても、既にある程度予想はついているようだが……」

「私がここにいる時点で、どのような話であるかは分かっているようですな」

クリストフの言葉に、グラードは軽く肩を竦めながらそう口にする。

まあ、彼がここにいる時点で、ノースガード砦に関連する話であることは間違いないだろう。

俺の視線を受けて、グラードは僅かに笑みを浮かべながら言葉を引き継いでいた。

「まずは、先日の助言に感謝する。君のおかげで、私は部下を死なせずに済んだ」

「礼を言われる話ではないでしょう。戦わずに退いたとなれば、貴方にとっては名に傷がつく話であったはずだ」

「それは部下の命に代えられる話ではないとも。それに、こうして挽回の機会を得ることもできたしな」

「ということは、やはり――」

「そうだ。今回貴殿に来てもらったのは、ノースガード砦の奪還作戦に参加して貰いたいからだ」

どうやら、以前にした助言の通り、彼らは砦から撤退していたらしい。

事前に脱出できていたのであれば、彼らに死傷者はいないだろう。

尤も、指揮官である彼は処罰を受けた可能性も高い。敵前逃亡と言われても否定はできない状況だったはずだ。

提案した身としては少々申し訳なくも思うが、彼が納得しているのであればそれでいいのだろう。

「ふむ……現在の砦は、悪魔に占拠されている状態だと?」

「ああ、それは間違いない。騎士団の斥候が確認している。奴らは、砦に立てこもっている状態だ」

「となると、砦攻めというわけですか」

小規模とは言え攻城戦だ。それはノウハウのある騎士団でなければ難しい仕事だろう。

先ほどグラードも挽回の機会と言っていたし、今回の話は騎士団の主導で行うことになるはずだ。

それについては問題ないのだが――

「いくつかお聞きしても?」

「ああ、構わない。疑問が解消されるまで聞いてくれ」

「では……今回は、騎士団の仕事でなければならない話の筈ですが、我々が参加してもよろしいので?」

「問題はないとも。君たちの主導で行われた作戦であるとなると拙いが……今回は、こちらで作戦指揮を行う」

「成程。では次に、我々だけにその依頼を行うつもりですか?」

潜入作戦であれば少数での対応であるべきだが、今回は砦攻め。

当然ながら、数が必要となる戦いだ。

俺たちが入っただけでは大差ないと思われるのだが。

そんな俺の疑問に対し、クリストフは頷きながら返答していた。

「正確に言うと、少々異なるな。私は、異邦人としてのお前に、このクエストを提示する」

そう、クリストフが告げたその瞬間――俺たちの目の前に、一つのウィンドウが表示されていた。

そこに記載されていたのは、クエスト発生の案内だ。

クリストフは――いや、アルファシア王国騎士団から、異邦人たちへと向けたクエストである。

『フルレイドクエスト《ノースガード砦の奪還》が発生しました』

「フルレイドクエスト!? マジですか!?」

「フルレイドって言うと……60人で組むとかいうアレか」

「正確に言うと10パーティですけどね。レイドクエストっていうのは、レイドを組んだ状態じゃないと受けられないクエストです。しかもフルレイドとなると、10パーティ必須……こんなの初めて見ましたよ」

どうやら、緋真からしても驚愕すべき内容であったようだ。

俺からしてみれば、砦攻めに60人増やす程度でいいのか、と言いたい所だったが――まあ、鉄砲玉として突撃できる異邦人ならば多少の無理も利くし、便利と言えば便利か。

「レイドクエスト自体が貴重なのに、フルレイドは本当に初めて聞きました。今までは最大でもハーフまでだったのに……」

「まあ、とにかく……要するに60人集めてこい、という話だと判断しても?」

「ああ、お前が信頼できる相手であれば構わない。是非仲間を集めてきてほしい」

前代未聞のクエストである件はともかくとして――これは、最高のタイミングであったかもしれない。

何しろ、俺たちはまさに今日、大きな同盟を結んだばかりだったのだから。

さて、となれば――

「心当たりがあります。今すぐに呼び出しても?」

「本当か? ああ、それはすぐに頼みたい。お前の名前を出せば、ここに通すように通達しておこう」

クリストフの言葉に頷き、俺はフレンドリストから二人の名前を呼び出す。

あの二人のことだ――必ず食いついてくることだろう。

* * * * *

通話を入れてから、およそ30分後。

しばし雑談をして時間を潰していた俺たちの下に、二人のプレイヤーが到着していた。

他でもない、エレノアとアルトリウス――の代わりとして遣わされたKだった。

「お初にお目にかかります、騎士団長殿。私はK、クラン『キャメロット』がマスター、アルトリウスの補佐官です。大変申し訳ありませんが、アルトリウス当人は現在、聖火の塔解放の遠征中……その代役として、私が参りました」

「騎士団長様のお噂はかねがね。『エレノア商会』の会頭、エレノアと申します。以後、お見知りおきを」

「ああ、急な呼び出しによく来てくれた。アルファシア王国騎士団の騎士団長、クリストフ・ストーナーだ」

Kの言葉通り、アルトリウスは現在、俺が向かったものとは別の聖火の塔に向かっているらしい。

彼の所ならば人材は豊富だし、特に苦戦することも無いだろう。

それよりも、今はこちらの話だ。

「さて、それでは早速ですが、話を進めさせていただきましょう。フルレイドクエスト、つまり我ら異邦人を60人集めたいということでしたが……」

「その通りだ。我々はクオンの戦闘能力を高く評価している。彼の選抜した者たちであれば、確実に作戦の助けとなってくれるだろう」

「成程、クエストを受注したのはあくまでもクオン殿であり、彼の下に異邦人が集まる形になるという訳ですね」

挨拶もそこそこに、Kは状況の把握を始める。

騎士団と個人的な繋がりがあるのは俺であり、クリストフは俺自身を評価してこのクエストを発令した。

つまり、このクエストはあくまでも俺のモノであるということであり、その参加者は俺個人の判断で決めていいということだ。

……またけったいなことになったものだな。

「団長殿、この二つのクランは俺が個人的に同盟を結んでいる相手です。クランとしても規模は最大級、優秀な人員が集まっています」

「お前がそこまで評価するほどか……であれば、作戦の参加に不足はあるまい。だが、どのように参加する?」

「メインとして人員を多く出すのは『キャメロット』――ということでいいか?」

「そうね……クオン、うちのメンバーを三人、貴方のパーティに加えてもいいかしら?」

「構わんが、付いてこられるのか?」

「いや、貴方に随行させるのは無理でしょうから、ただ加えるだけよ」

「ふむ……まあ、構わんが」

エレノアの所ならば、変に出しゃばろうとして邪魔をすることも無いだろう。

そう判断して、俺は彼女の言葉に首肯する。

「それなら……ウチから15名、『キャメロット』から42名って所じゃないかしら」

「ほう……よろしいのですか、エレノア殿?」

「ええ。その代わり、攻城兵器についてはうちで作成させて貰うわよ」

強かに笑うエレノアの言葉に、思わず苦笑する。

戦闘能力で言えば『キャメロット』に大きく劣る『エレノア商会』であるが、その生産能力や研究開発については非常に優秀だ。

スキル的にも、生産側に回った方が都合がよいということだろう。

「うちの一部メンバーはクオンのパーティに加わり、残り2パーティの15名でアイテムのメンテナンスや支援を行うわ。『キャメロット』は――」

「クオン殿と肩を並べて、最前衛での戦闘でしょう。提供された攻城兵器を利用して砦に取り付き、砦の内部を混乱させる。そして――」

「敵の足が鈍った所に、我々が攻撃を仕掛けると。しかし、それは君たちを囮に使うような形になるが……」

「構いませんよ。火事場には慣れておりますので」

こちらに視線を向けながら返答するKに、どういう意味だと半眼を返す。

実際、先日のイベントではかなり無茶をさせてしまったことは否めないが。

「それで、このクエストはいつから開始になるのですか?」

「ふむ。準備が完了し次第、というところだな。可能であれば、三日後までに」

「三日後!?」

ということは、リアルで言えば一日後だ。

随分と急な話にエレノアは驚愕の声を零す。だが、現在の状況から判断すればそれでもギリギリだろう。

Kもそれを理解しているのか、若干視線を細めながらエレノアに対して告げていた。

「現在の所、騎士団の損耗はほぼ皆無であり、対して悪魔の軍勢は大打撃を受けた状況です。つまり、相手が態勢を整える前に攻めた方が有利に働くのですよ」

「騎士団も急いで準備している所だろうさ。悪魔に援軍が来る前に叩き潰す、拙速が吉だ」

「言われてしまったが、我々もそのように見込んでいる。可能な限り、急いで準備を行いたい。君たちには負担をかけてしまうが――」

「……いえ、了解です。何とかするとしましょう」

そう告げて、エレノアは不敵に笑う。

彼女は有言実行する女だ、こう口にした以上は何とかするだろう。

こちらはこちらで、どう攻めるかを考えておくこととしよう。

初の経験となる砦攻めに、俺は思わず口元に笑みを浮かべていた。