軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

104:現地人の反応

『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

「お……経験値溜まってたな」

「え、もうレベル上がるんですか?」

「いや、そっちじゃない。こいつのことだ」

王都を目前にしたところで餓狼丸を確認した所、いつの間にか経験値ゲージが溜まり切っていた。

聖火の塔までの行きと帰りでは、それほど敵は倒してこなかったのだが、どうやら悪魔共はそれなりの経験値になったようだ。

しかし、成長武器はただ経験値を貯めただけでは意味がない。その後で《鍛冶》スキルによる強化を受けなければならないのだ。

まあ、どの道エレノアの所には顔を出す予定であった訳だし、その時にフィノに見て貰えばいいだけだが。

「成長武器ですか……結局、限定解放は使わなかったですね」

「そこそこリスクのある能力だからな。経験値も消費しちまうし、安易に使うもんでもないだろ」

「性能確かめるにしても、ちょっと使いづらいですよねぇ」

「強化した後で試しに一度使ってみては?」

「そうだな……確かに、確認は必要だな。もう一度経験値は溜めないとならないが」

とは言え、溜めるだけならば適当に魔物を倒していれば何とかなる。

最初から消費するつもりで行けば、それほど勿体ないとも感じないだろう。

能力が能力だし、出来るだけ敵の数が多い場所で試してみたいものだが――流石にあの関所付近まで行くのは少々遠いな。

どこかで、手頃な狩場は無いものか。できれば敵が強く、数が多いと良い。

(それこそ、イベントの時に使えていたら最高だったんだが……)

そういえば、アルトリウスの奴は成長武器の能力を使っていたのだろうか。

同じ戦場にいたとはいえ、俺はあいつの戦闘を直接見たわけではない。

餓狼丸のことを考えればそこそこ強力な能力なのだろうが――いや、あれだけ稼げる戦場だったのだから、使わない理由は無いか。

であれば、少々惜しいことをしたかもしれない。成長武器の性能を観察できるチャンスだったわけだ。

「……まあいいか」

「先生?」

「何でもない、さっさとエレノアの所に行くぞ」

別に、俺はそこまで他人の武器の性能にこだわっているわけではないからな。

あの教授辺りであれば血眼になって調べに来てもおかしくはないが……流石に、そこまでの情熱は無い。

軽く肩を竦めつつ、俺は二人を促して王都の北門を潜っていた。

と――そこに、耳慣れぬ声が届く。

「――クオン殿、お待ちしておりました!」

「おん? ……騎士団、か?」

門を通る途中の俺の姿を目にし、駆け寄ってきたのは一人の騎士であった。

この国の騎士団が纏う統一装備であるため、見間違えるはずもない。

この男は間違いなく、現地人の騎士だろう。

しかし、同時に疑問符を浮かべる。果たして、現地人が一体何の用事なのか。

「わざわざ呼び止めるとは、何かあったのか?」

「は、はい! 騎士団長が、クオン殿のことをお呼びしています。時間のある時に騎士団まで顔を出してほしいとのことです!」

「ふむ、団長殿がねぇ」

呼ばれることに心当たりは――まあ、全くないとは言わないが、それでも騎士団長から直々に呼び出されることかと聞かれると疑問が残る。

わざわざ俺を呼び出すような用事とは、果たして何なのか。

興味はあるし、それを確かめる意味でも、一度顔を出しておくべきだろう。

「……承知した。これから武器の手入れに行くが、それが終わったら顔を出させて貰おう」

「あ、ありがとうございます! それで、その、ですね……」

「おん? まだ何か用事があるのか?」

何やら緊張した様子の騎士に、俺は思わず首を傾げる。

初めて会う相手であるし、これ以上の用事と言われても思い当たる点はない。

一体何を言われるのやら、と身構えていた所に――騎士は、勢い良く手を差し出し、頭を下げていた。

「あ、握手していただけますでしょうか?」

「……何だと?」

唐突な騎士の動きに思わず警戒しかけたが、彼は敵意も害意も一切抱いていない。

それどころか、感じるのは好意的な感情だ。どうやら、本気で敬意を抱き、握手を求めているようだ。

が――何故そうなったのか、俺は半眼を浮かべて彼に問いかけていた。

「いきなり握手とは……俺が何かしたか?」

「無論、我らの都を救っていただいたことです。貴方の奮戦があったからこそ、悪魔を退けることができたと聞いております」

「別に俺一人が戦ったわけじゃないんだが……まあ、いいか」

利き腕を差し出すことには少々抵抗があるが、彼ならば問題は無いだろう。

その握手に応じてやれば、彼は感激した様子で握った手を振っていた。

俺は《収奪の剣》を使っているわけだし、あれだけ派手に戦えば現地人たちには警戒されるかと思っていたのだが――この騎士は若いし、あの事件の話はあまり身近ではないのだろうか?

まあ、何にせよ好意的に受け入れられるのは悪い気はしない。少なくとも、排斥されるよりはマシだ。

「ともあれ、騎士団にはしばらくしたら顔を出す。数時間ほどで向かえる筈だ」

「承知しました、そのように伝えておきます!」

「頼んだぞ。それじゃあな」

軽く手を振り、俺は門を後にする。

色々と予想外の出迎えだったが、騎士団の呼び出しは中々に興味深い。

何かしらイベントがあるかもしれないし、聞いておいて損は無いだろう。

「先生、あんな残虐ファイトしてたのに結構人気なんですね」

「緋真姉様、その言い方は……」

「構わん、俺ももっと警戒されるだろうと思っていたからな。それに、あれは騎士としては珍しい反応だろうさ」

「ですが、お父様がこの都を救ったのは紛れもない事実です」

「そりゃ流石に言い過ぎだが……一般人からすれば、確かにそういう見方もある。だが、俺たちは騎士の手柄を奪ったようなものだからな。《収奪の剣》のこともあるし、騎士たちからは警戒されるのが普通だろうさ」

無論、俺もそれが全てであるとは言わない。

だが、どちらかと言えば否定的な感情の方が強いと考えておいた方が良いだろう。

元より、俺のような人斬りなど、受け入れられるような世であるべきではないのだから。

「とは言え、騎士団長殿はまだ俺と距離を置こうとしている訳ではないようだな。何の用なのかは知らんが……彼に聞けば、騎士団の状況も分かるだろう」

「用事かぁ……何なんですかね? 伝言じゃなくて、わざわざ直接話をしようだなんて」

「さてなぁ。ある程度重要な話であることは間違いないだろうが」

そうでなければ、わざわざ俺を呼び出すような真似はしないだろう。

果たして、どのような用事があると言うのか。ある程度想像することはできるが、判断に足りる情報は持ち合わせていない。

ある程度覚悟はしておくが、あまり気にしすぎても仕方がないか。

騎士団のことは頭の片隅に置きつつ、俺たちは王都の中央通りを進む。

王城の脇を通る形で南側へと進めば、いつものエレノア商会の姿が目に入ってきた。

相変わらず――いや、どうやらいつも以上に繁盛している様子だ。

「人増えてるな……っていうか、現地人も増えてないか?」

「ですね。今回の戦いで話題になったんでしょうか」

「エレノアのことだし、戦勝セールでもやってるんだろうが、随分と混んでるな……どうしたもんか」

「――あ、クオンさんじゃん」

ふと、横合いから声を掛けられ、そちらへと視線を向ける。

そこには、身長の低い 小人族(ハーフリング) の少年、八雲だった。

確かエレノアの弟である彼は、俺たちの方と、そして店先の様子を交互に眺め、納得した様子で声を上げる。

「ああ、あれね。クオンさんが原因だよ」

「……そりゃどういう意味だ?」

「ウチがクオンさんの得意先だって現地人の間でも話題になってさ、それで人が集まってきたわけ。冷やかしも結構多いけどね」

「エレノアのことだ、それも利用しているんだろう?」

彼女のことだ、元々あまり現地人向けの市場を用意するつもりは無かったようだが、客として入ったからには無駄にはしないだろう。

そんな俺の想像に対し、八雲は苦笑交じりに首肯していた。

「ま、そこは姉さんだからね。それで、今日は何の用? 姉さん? それともフィノ?」

「どちらかというとフィノだな。入れて貰えるか?」

「いいよ、従業員用の入口があるから、こっちから入って。クオンさんが正面から入ると騒ぎになりそうだし」

「現地人の間で話題になってるとなると、あり得そうですね」

若干表情を引き攣らせた緋真の様子に苦笑しつつ、俺たちは人目に付かぬように建物の裏手へと回り、商会の中へと入っていった。

中では、いつも通りクランメンバーや雇われの現地人が忙しそうに走り回っている。

今の状況を存分に生かせるよう、様々な指示が飛ばされているのだろう。

「中に入れば間取りは分かるでしょ? 僕は自分の作業があるから、もう行くよ」

「ああ、感謝する。またな」

「ありがとうございました、八雲さん」

「どういたしまして、じゃあねー」

ひらひらと手を振りながら去ってゆく八雲を見送りつつ、俺たちも目的であるフィノの作業場へと向かう。

一応、聖火の塔を出た時点で商会に寄ることは伝えてあるし、ログアウトしていないことも確認済みだ。

慌ただしく行き来するクランメンバーたちの注目を浴びつつも、俺たちは既に幾度となく足を運んでいる作業場へと入室する。

「よう、フィノ。到着したぞ」

「おー、ちょっと待ってー」

扉を開けて中に入れば、フィノはちょうど剣を打っている所だった。

いつも通りの間延びした喋り方ではあるものの、横顔から見える表情は真剣そのものだ。

一心不乱に鉄を打つその姿に、後ろから覗き込んだルミナは目を丸くしていた。

いつもの彼女の様子を見ていると、確かに印象としては繋がらないだろう。見惚れている様子のルミナに、俺は気づかれぬように苦笑を零す。

(しかし、大した集中力だな)

この集中力は、恐らく緋真のそれに匹敵するだろう。

一意専心と言うべきか、こういった一つの作業に打ち込むことが非常に得意な様子に見える。

これだけの集中力を持ち、そしてセンスもある。商会で一目置かれるのも当然ということか。

彼女が今造っているのは、スタンダードな長剣のようだ。

西洋剣の良し悪しは分からないが、その迷いの無い手つきから、フィノの頭の中ではすでに完成図が見えているのが分かる。

フィノが人気の生産職である以上、作成の注文は積み重なっていることだろう。

そんな状況の所に仕事を横入りさせるのは少々申し訳ないが――そこは彼女から望んだことであるし、勘弁して貰いたい所だ。

そんなことを考えている内に、フィノは成形した刀身を冷却し、その出来の確認を始める。

そして一度頷くと、刀身を作業台に置いてこちらへと向き直っていた。

「お待たせ、早速見せて」

「……それ、途中じゃないのか?」

「んー? いや、これはあと砥ぎだけだから、今すぐじゃなくてもいいしね。それより、早く餓狼丸を見せて!」

「ああ……了解、ちょっと待ってくれ」

あれだけ集中していたというのに、まるで疲れた様子を見せていない。

好きこそものの上手なれ、とでも言うべきか――フィノは本当に、刀剣を愛しているらしい。

俺は苦笑を零しつつも、抜き放った餓狼丸を作業台の上に置いていた。

「おお……ようやく成長武器の強化ができる」

「アルトリウスの剣は……『キャメロット』の内部だけで手入れしているのか」

「うん、コールブランドは間近で見たことは無いよ。何度か本人に直談判しようとしたけど、会長に止められちゃった」

「でしょうね……」

呆れた表情で、緋真が相槌を打つ。

エレノアも、個性の強い生産職を纏め上げて苦労しているということか。

まあ、あれは自分で苦労を作り出して解決する類であると思うが。

「とりあえず、既に経験値のゲージは最大まで溜まっている状態だ。これで、次の段階に強化できるんだろう?」

「うん、勿論。それじゃあ、早速やってみよう」

普段は眠たげな瞳を爛々と輝かせ、フィノは机の上の餓狼丸に触れる。

その瞬間、刀身の前にはいつも通りのウィンドウが表示されていた。