軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103:邪炎の力

歩法――縮地。

左前方にいたデーモンナイトへと、俺は即座に接近する。

相手の数が多い場合は、こちらが戦いの主導権を握らねば不利になるのだ。

まずはこちらから仕掛け、リズムを作らなければならない。

「【スチールエッジ】」

「――――ッ!?」

突如として俺の姿が目の前に現れたためだろう、デーモンナイトは驚愕に硬直する。

その隙を見逃すわけも無く、俺は即座に刃を振るい、その首を狙っていた。

だが、その一閃は辛うじて掲げられた黒い長剣によって受け止められる。

例え反応が遅れたとしても、防御を間に合わせるだけの技量はあるようだ。

尤も――

「『生奪』」

斬法――柔の型、刃霞。

弾かれた刃が翻り、デーモンナイトの左肩を狙う。

黄金と黒の燐光を纏う太刀は、悪魔の体を袈裟懸けに斬り裂いていた。

深手は負わせたが、一撃で殺すには至らない。返す一刀で確実に殺そうとし――飛来した気配に、舌打ちしながら刃を振るっていた。

「チッ、《斬魔の剣》」

こちらへと飛んできたのは黒い炎。どうやら、デーモンプリーストが飛ばしてきた攻撃のようだ。

やはり魔法の類ではあったらしく、蒼い燐光を纏う太刀は黒炎を綺麗に両断して消滅させる。

――しかしそこに、横合いから最初に吹き飛ばしていたデーモンナイトが襲い掛かってきていた。

「死ねぇッ!」

「はっ、テメェがな」

斬法――柔の型、流水。

振り下ろされた、黒い炎を纏う剣を受け流す。

体勢が崩れたデーモンナイトに対し刃を放つが、少々浅い。初期状態の餓狼丸では、少々攻撃力が足りていないのだろう。

それに――

(ッ……この黒い炎、厄介な)

今の所、相手の攻撃は受けていない。

だが、それでも俺のHPは、《生命の剣》以外の要因で少しずつ削られていた。

この黒い炎を纏った状態の悪魔とは、接近戦を行うと少しずつダメージを受けてしまうようなのだ。

確かに、こいつらに近づくたびにちりちりと焼かれるような熱さを感じていたが、実際にダメージを受けてしまうとは。

《収奪の剣》で回復することはできるだろうが、少々効率が悪い。

ならば――

「そこで少し止まっていろ」

翻した刃を、脇腹を斬られて体勢を崩していたデーモンナイトの右アキレス腱へと振り下ろす。

動きの止まった相手など、ただの的でしかない。俺の一閃は、正確にこの悪魔の足を奪っていた。

放置しておけばまた回復されるのだろうが、少しでも動きが止まっていれば十分だ。

(緋真は――デーモンナイトを一匹押さえているか。ならば)

デーモンプリーストの内の一体は緋真が相手をしているデーモンナイトの援護を行っている。

そしてもう一体については、俺が先程動きを止めたデーモンナイトに対して回復魔法を飛ばしていた。

上空のゴーストたちは全てルミナが抑えている。ならば――

(回復しきるまでの間で、もう一体を殺しきる)

歩法――烈震。

強く踏み込み、駆ける。石レンガの床に罅を走らせながら、俺は即座にデーモンナイトへと接近していた。

無論、相手もそれを座視していたわけではない。

敵はこちらへと掌を向け、そこに黒い炎が渦を巻いて収束していた。

「――《斬魔の剣》」

斬法――剛の型、穿牙。

こちらへと向かってくる炎の渦へと向けて、渾身の刺突を放つ。

まるで円錐状に掻き消される炎の渦、その先には手を向ける悪魔の姿。

炎を掻き分けるように姿を現した俺に対し、デーモンナイトは咄嗟に剣で刺突を弾こうとするが――片手で振った程度で、俺の体重の乗った刺突を完全に払えるわけがない。

だがそれでも、少しばかり軌道を反らされ、俺の突きは心臓から上に僅かばかりにズレていた。

「が……ッ!?」

「いい反応だな――《収奪の剣》」

斬法――剛の型、天落。

相手の膝を足場にしつつ、左の篭手で突き刺さった餓狼丸を強引に上へと斬り上げる。

俺はそのまま相手の膝と足を踏み砕きながら跳躍し、前のめりになった相手の心臓へと切っ先を振り下ろしていた。

そのままうつ伏せに地面に倒れた悪魔に対し、刃を捻って心臓を抉り、抜き取った刃から血を振り落とす。

「さて、次だ」

「っ、おのれ……!」

足の回復を終えたデーモンナイトが、苦々しげな口調で呻く。

やはり、死んだ者の復活まではできないのだろう。接近戦のできるデーモンナイトが一体減っただけでも、かなり有利に傾いたはずだ。

となると、こいつ以外に警戒すべきことは――

「《斬魔の剣》」

背後から襲ってきた黒い炎を《斬魔の剣》で消滅させ、更に襲い掛かってきた黒い長剣を回避する。

少々位置取りが悪い。両側から攻撃されるのは、俺としても避けたいところだ。

であれば、さっさとこの場から移動するべきだろう。

斬法――柔の型、流水・浮羽。

追撃とばかりに襲い掛かってきた横薙ぎの一閃に、俺は刃を合流させながら斜め前方へと移動する。

相手の背後へと回り込み、寸哮を放とうとして――その身に纏う黒い炎の揺らめきに舌打ちする。

《収奪の剣》で回復しているとはいえ、下手にHPを減らすことは避けたいのだ。

直接触れるとなれば、それ相応のダメージを負わされることとなるだろう。

「チッ……」

一手遅れたことに舌打ちしながら、俺は刃を振るう。

背中を斬り裂き、更に返す刃で首を落とそうとし――その一撃は、突如として発生した黒い魔法の障壁によって阻まれていた。

どうやら、デーモンプリーストによる支援のようだ。

回復に攻撃に防御、随分と働いてくれるものだが……その程度であれば意味はない。

「『生魔』」

《魔技共演》の組み合わせの一つ、《生命の剣》と《斬魔の剣》のセットを発動する。

金と蒼の燐光を纏う刃は、より高い威力で魔法を打ち消すことができる代物だ。

この刃であれば、防御魔法を斬り裂くことなど容易い。

斬法――柔の型、零絶。

前に出していた右足を、捩じるように踏み込む。

そこから全身を伝えた回転のエネルギーを、障壁に食い込んだ刃へと叩き込んでいた。

瞬間、停止した状態だった刃は即座に振り抜かれ、障壁の奥で体勢を整えようとしていたデーモンナイトの首を裂く。

「か……ッ!?」

「《生命の剣》!」

噴き出す血を押さえながらよろめくデーモンナイト。

普段であれば、放置していれば勝手に死ぬだろうが、今はデーモンプリーストが後ろにいる。

致命傷に近い傷ではあるものの、回復されてしまう可能性は無きにしも非ずだ。

であれば、この場で確実に止めを刺す。

斬法――剛の型、白輝。

踏み込んだ足で、地面に亀裂が入り、爆ぜ割れる。

その衝撃で、元より体勢を崩していたデーモンナイトは完全にバランスを失っていた。

そこに撃ち降ろされるのは、踏み込みのエネルギー全てを込めた神速の一太刀。

俺の放った一撃は、デーモンナイトの左肩へと食い込み――その身を、斜めに両断していた。

「これで二匹……」

見れば、緋真もほぼデーモンナイトを追い詰めている。

ルミナの方は、既に戦闘が終了しているようだ。

であれば、後は……あの散々邪魔をしてくれたプリーストどもを片付けるだけだ。

そちらへと視線を向ければ、相変わらず片方はデーモンナイトの支援を行っており、もう片方は俺を警戒するようにじりじりと後退していた。

が――俺と視線が合った瞬間、いきなり背を向けて走り出す。その向かう先は、背後にあった黒い炎だ。

「させるかよ」

歩法――烈震。

何をするつもりかは知らないが、その動きを許すつもりは無い。

デーモンプリーストは黒い炎へと向けて手を掲げ、その炎は再び揺らぎ始め――

「『生魔』」

斬法――剛の型、穿牙。

俺の繰り出した刺突は、デーモンプリーストの纏っていた防御魔法を容易く貫通し、その胸を一撃で貫いていた。

「が、は……ば、かな」

「何の意味があるのかは知らんが、お前らのやることを見過ごすつもりは無い。そのまま無意味に死ね」

俺に貫かれたままの悪魔は、最後の抵抗と言わんばかりに腕を動かす。

それと共に、揺らいだ黒い炎の一部がこちらへと降ってくるが――それは、その総量と比較すればほんの一部でしかないものだ。

あの炎の全てをぶつけられていればどうなっていたかは分からないが、この程度であればどうということはない。

「――《斬魔の剣》」

左手の篭手で刃を押し上げ、デーモンプリーストの体内を抉るように斬り裂く。

そして黒い炎が迫ったその瞬間に、俺は相手の体を斬り裂いて振り上げた刃にて、その一撃を両断していた。

噴き上がる緑の血が黒い炎で蒸発する中、俺は刃を振るい、付着した血を全て払い落とす。

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

どうやら、緋真の方も戦闘は終わっていたようだ。

デーモンプリーストも単体では大した相手ではなかったようだし、デーモンナイトさえ倒せてしまえばそう苦戦することも無いということか。

ともあれ、これでこの場を支配していた悪魔を片付けたわけなのだが――

「この炎、どうすりゃいいんだかな」

「あ、ちょっと待ってください。今レベル30になったから色々と処理してますので……炎ならたぶん、放っておけば何かしら変わると思いますよ?」

「お前、ちょっと適当すぎやしないか」

メニューを操作している緋真に半眼を向けつつも、俺はこの黒い炎の様子からは意識を逸らさぬよう注意深く周囲を探る。

少なくとも、この場には他の悪魔の――いや、俺たち以外の生物の気配は存在しない。

ゴーレムのような存在が微動だにせずにいたら流石に感知は難しいのだが、見渡す限りそのような存在は見当たらない。

とりあえず、聖火に悪影響を与えていたと思われる存在は排除できたと思うのだが――と、そんなことを考えていた瞬間だった。

「お父様、見てください。炎の中に、何か……」

「あん?」

ルミナの言葉に眉根を寄せ、俺は黒い炎を凝視する。

まさか、炎の中に何か悪さをしている存在がいるのか――そう考えて警戒するが、どうやら異なる状況らしい。

よく見て見れば、その炎の内側から、色の異なる光が揺らめき始めていたのだ。

それはこの禍々しい黒い炎とは異なる、俺が《生命の剣》を使った時に現れるような金の色。

黄金の炎が、黒い炎を内側から侵食するかのように、徐々にその勢いを増していたのだ。

「これは……これが、聖火って奴か」

「おー……悪魔がここに詰めてたのって、警護の意味と一緒に、常に何かしてないといけなかったってことですかね?」

「さあな、話を聞く前に殺しちまったから知らんが。ま、どうでもいいだろう。連中が居たら全部斬ればそれで解決だ」

話をしている間にも、黄金の炎は黒い炎を駆逐してゆく。

そして、あの禍々しい黒が消え去ったその瞬間――

『聖火の塔:アルファシア王国北が解放されました』

『アルファシア王国北地域の魔物が弱体化します』

「お、全体アナウンスですね。ってことは、これで解放完了ってわけですか」

「面倒な処理が必要ないのは助かるな、っと――」

刹那、黄金の炎がひときわ強く輝き、まるで波紋のように眩い光を周囲へと広げてゆく。

その直後、地面に倒れていた悪魔共の死体は消え去り、そして薄暗かった聖火の塔の内部も、どこか清潔感のある白い内装へと変化していた。

広さも先ほどより狭くなっており、外観に合ったサイズにまで調整されている。

どうやら、これが本来の聖火の塔であるらしい。悪魔の影響も完全に消え去ったようだ。

「じゃあ、この火を採取してランタンに……って、あれ?」

「もう、火が付いてますね?」

「さっきの演出と同時に火が付いたのか。ま、面倒が無くて良かったじゃないか」

俺が確保したランタンも確認したが、こちらにもきちんと黄金の火が灯っている。

後でエレノアに見せる必要はあるだろうが、これでこのランタンも使用可能になったはずだ。

「よし……それじゃあ、さっさと戻るとするか。この火が灯った以上、辺りの魔物も弱くなってるだろうしな」

「先生としては物足りないでしょうしね」

「はい、お疲れ様でした、お父様」

とりあえず、さっさと王都まで帰還するとしよう。

その後のことについては――帰りがてら考えておくかね。

胸中でそう呟きつつ、俺はすっかり狭くなった聖火の塔を降りていったのだった。