軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

101:塔内部の異常

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『《採掘》のスキルレベルが上昇しました』

当然と言うべきかどうなのか――ピッケルで叩かれ続けたカースドゴーレムは、やがてそのHPを削り切られて消滅していた。

時折強引に暴れてこちらに攻撃しようとしてきていたが、手足を再生できないのでは意味がない。

結果として、いくつもの鉱石を残してカースドゴーレムは倒れていたのである。

尤も、鉱石に関してはあまり特殊なものは手に入っていない。だが――

「先生、見てくださいよ! 宝石ですよ、宝石!」

「何だってゴーレムの中に宝石なんて埋まってたんだかな……」

どうやらかなり珍しいアイテムだったようだが、俺と緋真で合わせて手に入った宝石は三つ。

ルビーとトパーズ、そしてヘリオライトだ。拳より一回り小さい程度の原石だが、そう考えると中々の大きさだろう。

尤も、宝石の原石など直接見たのは初めてであるため、これにどれぐらいの価値があるのかは知らないが。

「で、宝石ってのは何に使うんだ?」

「主に装飾品ですね。《細工》の生産スキルで装飾品に加工することができます。宝石の種類によって色々と効果が違うんですよ」

「ふむ……この宝石にはどんな効果があるんだ?」

「ルビーは火属性の強化ですね。なので私が欲しいですけど……他は私も知りません」

「……そうか」

緋真の言葉を吟味しつつ、俺は宝石の原石を眺める。

装飾品となれば、確かに俺にも有用だ。これを使って何かしら作るのもいいかもしれない。

今の所、特に意味も無くアドミナ教の聖印を付けているが、それならば何かしら効果のある装飾品を付けた方が良いだろう。

ルミナも一つは刻印を装備しているが、もう一つは何も装備していないわけだし、無駄にはなるまい。

「ま、戻ったらエレノアの所に持ち込むか」

「ですね。きっといい装飾品にしてくれますよ」

「剣を握るのに邪魔にならなければいいんだがな。さて――それじゃあ、先に進むとするか」

何はともあれ、門番は倒した。

塔の内部に足を踏み入れるのに、最早邪魔となる存在はいない。

入口から実に良い歓迎をしてくれたのだ、中に何もないということは考えづらいだろう。

どのように接待してくれるのか、実に楽しみというものだ。

最初にゴーレムが立っていた場所、聖火の塔の入口へと足を進めれば、そこには木製の両開きの扉が鎮座している。

扉に触れてみるが、どうやら特に鍵はかかっていない様子だ。

中に入るのに障害は無い。俺は力を込めて扉を押し開け――瞬間、眉間へと飛来した矢を瞬時に掴み取っていた。

「ちょっ!?」

「成程、いい歓迎だな」

扉の先に生き物の気配はない。どうやら、あらかじめ仕掛けられていたトラップのようだ。

外観とは異なり、随分と広い様子の内部は、いたるところが歯車仕掛けで動いている。

成程、どうやら……今回は、 そういう(・・・・) 趣向であるらしい。

「気を引き締めろよ、お前ら。どうやら、トラップで攻めてくる類のようだぞ?」

「マジですか……盗賊いないのに」

「盗賊? 何だ、盗賊がいてどうなるってんだ?」

「あー、ええと……こういう、ダンジョンの探索とかトラップの解除とかをやる……斥候? みたいな感じの人のことです」

盗賊という呼び方はよく分からんが、まあ言わんとしていることは理解できた。

確かに、こういった場で先行できるタイプの技能を持った奴がいると楽だろう。

しかし緋真にはその手の対処を行った経験は無いだろうし、ルミナは言わずもがなだ。

となれば、俺が何とかするしかないだろう。

「今更出来る奴を探しに行くのも面倒だしな。俺が何とかする」

「え……先生、そんなこともできるんですか?」

「ああ、昔取った杵柄って奴だな」

尤も、俺もそんなことを専門に行ってきた訳ではないし、本職には及ばないのだが。

トラップを解除する技能も知識も無いし、できることは精々、その気配を察知する程度だ。

それでも、ある程度は何とかなるだろう。

さて、聖火の塔の内部だが、どうも薄暗く少々見通しが悪い。

光源となっているのは壁に備え付けられている燭台だけで、外からの光は入り込んでいない。

そもそも、外観より内部が広くなっている時点で、窓があったとしてもきちんと光が入ってくるのかどうかもよく分からん。

この限られた光源の中で罠を探すというのは、中々面倒な趣向だ。

「ふぅ……とりあえず、俺の後ろに付いてこい。生き物の気配はないが、一応後ろに注意しておけよ」

「了解です。先生、お願いしますよ?」

「せっかくここまで来たんだしな。やるだけやってみるさ」

意識を研ぎ澄ませて、俺はゆっくりと歩き出す。

流石に、この状況下では安易に動くことは出来ない。

音と振動に注意しながら、俺は塔の奥へと歩を進めていた。

部屋の奥の方には、壁伝いに備え付けられた階段が見える。どうやら、塔の内部はいくつかの階層に分かれ、階段で登っていく構造になっているようだ。

「――――!」

「ん、お父様?」

階段の前まで辿り着いた俺は、爪先で軽く地面を叩く。

そして小さく嘆息しつつ、弧を描くような階段を見上げていた。

「……ルミナ、お前は飛びながら付いてこい。ついでに光源を出しておいてくれ」

「は、はぁ……分かりました」

「よし。緋真、前に出るなよ。こういう所は、罠を仕掛けるのに最適な場所だからな」

罠を仕掛けるとすれば、それは必ず通らなければならない場所であるべきだ。

この階段などは、まさに絶好の場所だと言えるだろう。何しろ、通らなければ次のフロアに進めないのだから。

さて、しかし階段となると、どのようなトラップを仕掛けてくるだろうか。

この時注意すべきは壁、そして石段そのものだろう。触れる可能性があり、罠を仕掛ける余地が広い場所こそが危険だと言える。

――そう考えていれば、案の定だ。

「止まれ」

「っ……何かありましたか?」

「ああ、見てみろ」

告げて、俺は壁際を――階段と壁の接合部分を示す。

よく見なければ分からないだろうが、一つ前のこの段のみ、壁と段がくっ付いていないのだ。

そして、石レンガの壁にあるのは不自然な隙間。この間から何かが飛び出てくることは想像に難くない。

一応念のため、インベントリから取り出した太刀の鞘でもう一段上の段差を確認した上で、俺は一段飛ばしで階段を登っていた。

「……先生、よくこんなのに気づけますね」

「ある程度予想しておけば、後は警戒するだけだからな。コツは仕掛ける側になって考えることだ」

ここに仕掛ければ引っ掛かりやすいだろう、そう考えるような場所こそが注意すべき場所だ。

人の意識の空白を突いてくるようなトラップは、逆に仕掛けること自体が難しい。

もしそんなトラップを仕掛けられていたら流石にお手上げなのだが、ここの物はまだ分かりやすい部類だ。

仕掛け方がなかなか素直だと言える――尤も、陰湿なトラップなど仕掛けている時点で性根がねじ曲がっていることは否定できまいが。

「この手のものが続くとなると少し疲れるが……俺でも何とかなるレベルだな」

「ホント、色々できますね先生は」

「こういった技能も必要だったからな。流石に本職には及ばんが」

最初の頃は、よく引っかかりかけてジジイに馬鹿にされていたものだ。

おかげでさっさと覚えられたというのも否定はできないが。

ともあれ、ここに仕掛けられている程度のトラップであれば、感知することは難しくない。

スキルで補助を受けたプレイヤーがどの程度まで感知できるのかは知らないが、ある程度の真似事は可能だろう。

さて、そんな直感を頼りに二階まで上がってきたわけだが、そこで目に入った光景に俺は眉根を寄せていた。

「こりゃまた、あからさまだな」

「……うぇ、あれってギロチンですか」

広かった一階とは打って変わって、奥へと向かって通路が続いている。

広さは二人並んで歩ける程度だろうか。だが、そうやって進めば武器を振るう余地は無くなるだろう。

そして、そんな通路の途中には木製の梁が出ており、そこから鈍い光を放つ刃が覗いていた。

刃の足元には出っ張った石畳――あまりにもあからさまなトラップだった。

「見た目恐ろしいですけど……流石にあんな子供騙しには引っ掛かりませんよ」

「……ふむ、子供騙しね」

確かに、あんなあからさまな罠に引っかかる奴はいないだろう。

だが、先程の階段の罠と比較すると、少々違和感を覚える。

あちらの罠はあらかじめ予想していなければ気付くことが難しい物であったのに対し、今回のギロチンは遠目からでも分かってしまうようなものだ。

あんな罠を仕掛けるような奴が、こうもあからさまな物を仕掛けるだろうか。

となれば――

「緋真、あのギロチンの刃辺りに範囲魔法を放て」

「え? 何でですか、いきなり」

「いいからやってみろ、理由ならすぐに分かる」

俺の言葉に、緋真は首を傾げながらも魔法の詠唱を開始する。

そして、程なくして完成した魔法は、即座に狙った場所へと放たれていた。

「じゃあ、行きますよ――【フレイムバースト】」

『ギィィイ……ッ!?』

ギロチンの直下で炎が爆ぜ――その直後、爆音の向こうから悲鳴のような鳴き声が響いていた。

予想通りな展開に、俺は思わず半眼を浮かべ、弟子たち二人はその結果に目を丸くして驚いていた。

簡単に言ってしまえば、ギロチンの刃の裏側に、小さな敵が潜んでいたのだ。

■インプ

種別:悪魔

レベル:28

状態:アクティブ

属性:闇

戦闘位置:空中

大きさは50cmほど、羽の生えた人型の生物だ。

だが、妖精のような可愛らしい姿ではなく、どこかトカゲの頭部にも似た醜い姿をしている。

紫色の肌をしていることもあり、中々に嫌悪感を誘う姿だ。

「ルミナ、やれ」

「っ……光の槍よ!」

驚きつつも、敵が出現したことは理解していたのだろう。

ルミナは俺の言葉に即座に反応し、掲げた手から光の槍を撃ち放っていた。

薄暗い通路を一直線に駆け抜けた光の槍は、爆炎に煽られバランスを崩していたインプを正確に貫く。

どてっぱらに大穴を空けられた小さな悪魔は、あっさりとそのHPを散らしていた。

「な、何だったんですか、今の……」

「見たとおりだよ。ああやって足元のスイッチに気を取らせておいて、頭上から奇襲を狙っていたわけだ」

それにひょっとしたら、あの位置から手動でトラップを作動させられたのかもしれない。

本来無人で作動することに意味があるトラップを、手動で作動させるというのは本末転倒なのだが、タイミングを計るという意味では最適であるとも言える。

まあどちらにせよ、これまで生き物の気配が無かった所にあんなものがいれば、即座に気づけるわけだが。

「お前にもよく教えているだろう、意識の誘導だ」

「あー……成程、そういうことですか」

「お父様、それはどんな技術なのですか?」

「……お前にはまだ少し早いんだが、まあいいか。意識の誘導ってのは、相手の隙を作り出す技術だ」

意識の誘導は、ある程度の技量を持った武術家にとっては必須の技能であると言える。

高い技術を持った者同士が戦う場合、単純に攻めるだけでは互いに崩しきれず、千日手となることが多い。

技量が高ければ崩しに対する耐性も高い。かと言って下手に攻めれば隙を晒すことになりかねない。

互いの隙を探り続け、結果として睨み合いが続いてしまうのだ。

俺は軽く視線を動かし、緋真の方へと向けながら声を上げる。

「例えば視線、例えば切っ先……足や重心の位置、筋肉の僅かな動きに至るまで――動作というものは、次の動作に向けての布石となる。それらを読み取ることで、俺たちは相手の次の動きを予想しているんだ」

「動きの先読みは、できないとすぐに詰みにまで持っていかれちゃうからね。それを逆に利用するのが意識の誘導だよ」

「……つまりフェイントのようなもの、ですか」

「ニュアンスとしては近いな。だが、それほどあからさまというわけではない」

――そう告げながら、俺はルミナの肩を背後から叩いていた。

その瞬間、仰天したルミナが、文字通り飛び上がりながら俺と緋真を交互に見つめる。

「あれ!? 今、お父様はあちらに……!?」

「お前は今、緋真の方に意識を集中させていた。正確に言えば、俺が視線や体の動きでお前の意識を緋真の方に向けさせたんだが……意識の誘導を習熟すれば、こんなこともできるというわけだ」

「先生の場合、視界の中で集中して見てるのに突然消えるじゃないですか……」

「あれはお前もできるようになれ。あの感覚は、掴んでおかないと防げないからな」

俺の言葉に、緋真は引き攣った表情ながらも首肯する。

こいつ自身、あれは覚えなくてはならないと理解しているのだろう。

――尤も、今の久遠神通流の中でも、あれを扱えるのは片手の指で数えられる程度しかいないわけだが。

「まあ、誘導を覚える前に、まずは先読みを覚えんとな。せめて三手先ぐらいは相手の動きを読めるようになれ。誘導を覚えるのはそれからだ」

「……分かりました、精進します」

意欲的な様子のルミナに満足し、俺は小さく首肯する。

さて、講義はこのぐらいにして、先に進むこととしよう。