軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

時計の針が、カチカチと音を立てて進んでいく。

深夜を過ぎてもアズール様は帰ってくる音はせず、私は小さく息をついた。

あれから部屋で食事を済ませ、一度も外には出ていない。

剣を投げつけられた瞬間の殺気が忘れられず、レクス様と向き合う勇気がもてない。

本来であればシエルとしてレクス様にシュルトンの良い所をアピールできた方がいいのに。

レジビア帝国のような大国が後ろ盾と成ればシュルトンの経済は安定するだろう。

手が震え、私は息をつく。

「ダメね……少し、風に当たろうかしら……」

私は外に控えていたローリーに声をかけた。

「ローリー。ごめんなさい。少しだけ庭を散歩してくるわ」

「ご一緒します」

「大丈夫。庭には在中の騎士もいるし、安全でしょう。アズール様達は?」

「客間にてまだお酒を飲みかわしているようです」

「そうなのね。ローリー、お願いがあるのだけれど、ダリル様にレジビア帝国についての資料や現在のレクス様について分かることがあれば教えてと伝えて」

「かしこまりました。すぐに行ってまいりますね」

「えぇ。よろしく」

私は肩掛けを駆けてから、部屋を出る。

夜の庭に出ると、少しだけ空が曇っていた。

湿気を含んだ風が吹き抜け、私はそれを感じながら庭のベンチに腰掛けた。

アズール様が私の為に用意してくれた庭には、可愛らしい花と、渓谷に咲く花も、美しく咲いていた。

風が吹くたびに花のつぼみが揺れた。

空を見上げ、私は、祈りを捧げる。

すると、曇っていた空は晴れ渡り、美しい星々が輝き始める。

庭へと視線を移すと、先ほどは蕾だった花々が花開き美しく咲き誇っていた。

それを見つめながら、私は小さく息をついた。

「……こんな力……なかったら、もっと生きやすかったのかしら」

けれど、この力がなかったらアズール様にも出会えなかっただろう。

そしてこの力があるからこそ、自分はシュルトンにいてもいいと思えた。

魔物がシュルトンに来ないように出来るならば、この力をシュルトンの為に使いたい。

アズール様の治めるシュルトンが、私は大好きなのだ。

その時、ガサリ、と何かが動く音が聞こえて、私は驚き立ち上がった。

なんだろうか。

「……くそ……なんで、女が……」

ふらふらとした足取りのレクス様が、そこにはいた。

なぜ?……そう思い、騎士を呼ぼうとしたけれど、動くことが出来ない。

「……女、どこかへ行け。俺は風に当たりた……あ? あれ……世界が……」

次の瞬間、レクス様がその場に倒れた。

ドサリッと、大きな音を立てて倒れたものだから私はびくっとして、しばらくの間、動けずにいた。

ただ、しばらく経っても起き上がる気配がない物だから、大丈夫だろうかと、私は心配になる。

騎士を呼ぼう。女は嫌いだと言っていたから。

そう思った時。

「……母様……許してください……」

小さな弱弱しい声が聞こえた。

私はそっと近寄り、覗き込むと、そこには酔いつぶれ目を閉じて倒れるレクス様の姿があった。

そして小さな声でうめき声を上げている。

「……許して……すみません……ごめんなさい……痛い……痛い……」

一体何の夢を見ているのであろうか。

幸福な夢でないことは確かだろう。

はだけた服の隙間から、たくさんの怪我の跡が見えた。手のひらも、鞭で打たれたであろう傷がいくつも残っている。

この人は……王になるために、どれほどの苦しみを味わってきたのだろうか……。

そうか。だから女性が嫌いで、そしてだから、手段を択ばないのか。

得体が知れない人に思えたレクス様が、人の形を象り始め、私の心にすとんと落ちる。

そうか。この人も、人なのだ。

私は近くの噴水の水でハンカチを濡らすと、額に当てた。

「……大丈夫ですか?」

「……やめろ……やめ……触るな……気持ちが悪い……」

彼の過去に何があったのかは分からない。

ただ、とてもとても辛そうで、私はそっとハンカチ越しに額に手を当て、祈りをささげた。

「どうか、良い夢が見られますように……悲しい夢が、遠くへ消えますように……」

過去に引き戻される辛さは、私にもわかる。

未だに、セオドア様のことを夢に見ることもある。

あの苦しい日々のことを。

でも私にはアズール様がいるから、目が覚めたら何故あんなにも夢で怖がっていたのだろうかとそう思えるのだ。

もしかしたらレクス様には、私にとってのアズール様のような人がいないのかもしれない。

そうした人に、出会えるといいなと思いながら、私は祈りをささげていると、突然、腕を掴まれた。

「きゃっ……」

「……シエル?」

「あ……」

どうしよう。

「なんだ……女装か? アズールの趣味か……」

「え……いえ、違います」

「……あいつ、お前のこと、可愛い可愛いって、ずっと言っていたぞ」

その言葉に、私は顔が熱くなる。

アズール様は優しくて、いつも私を喜ばせる言葉を言ってくれるのだ。

レクス様が私の顔をよく見ようとこちらを覗き込む。

「……たしかに、可愛くないこともない」

「え?」

「男にしては、可愛いか」

そういうと、レクス様が私の頬を撫でる。

「うむ。……ちょっと羨ましいな」

羨ましい?

「同じ時期に王になったというのに……俺には、何もない。だがアズールはとても幸せそうだ……お前がいるからか?」

なんでも手に入るレジビア帝国の王が、羨ましがる。

彼は、それほどに孤独なのだろうか。

「……いい……なぁ」

どうしようと思っていると、レクス様の瞼は閉じて、眠ってしまった。

私はほっとしながらも、彼の周囲には信頼できる人がいないのだろうかと、少し心配になったのであっ

た。