軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二章 1

「……シュルトン王国か。魔物の侵入がほぼなくなり、不毛の大地が豊かに……何があったのか」

傍に控える側近の男が、静かに口を開く。

「リベラ王国からシャルロッテ・マロ―公爵令嬢が婚約者としてシュルトンに訪れてから、変わったとの情報です」

「ほう……女か」

「アズール国王は、現在その女性に心酔しているとか……」

「ほう。あの男が」

美しい金色の髪と瞳を持った男は、髪を掻き上げると息をつく。

その体は鍛え上げられており、その地位と美貌によって男は何でも手にしてきた。

だが。

男は立ち上がると、飲んでいたワイングラスを地面へと叩き割る。

「女など、下賤な生き物だ」

控えていた侍従達がガラスを全て拾い上げ即座に片づけていく。

男はテラスへと出ると、外に輝く自分の王国を見渡した。

男にとって、女は自分の周りにたかるハエくらいのものであり、追い払ってもなお傍に寄ってくるのを常にうっとおしく思っていた。

女にいい思い出などなく、本来ならば傍に寄らせたくもない。

「リベラとシュルトンひと悶着あったそうだな」

「はっ。かなり内密にはされているようですが、リベラの王子が問題を起こし、廃嫡、幽閉となったとか」

「ふむ。攫ってこい」

「は? ぐふっ……」

男を蹴りつけると、言った。

「聞こえなかったのか。手段は厭わない。リベラの王子を連れてこい。何があったのかを吐かせる」

「か……かしこまりました。ただ、少し、時間はかかるかと……」

男はふんっというと、部屋の中へと戻り長椅子の上へとどさりと座り、天井を見上げながら何かを思案する。

それから、いいことを思いついたように言った。

「シュルトン……様子を見に行くか」

男は焦った様子で口を開く。

「帝王陛下。ですが」

「俺に意見する気か……」

帝王と呼ばれた男が侍従を睨みつけると、侍従は黙る。

「では……影武者を手配しておきます」

「あぁ。そうしておけ。ははは。楽しみだな」

男が何も言わずとも、男の身の回りの世話は、侍従が行っていく。

衣服の着替えから、食事の介助迄、全てだ。

男が願えば何でも手に入る。

玉座すら、男は二十の年に手に入れた。

レジビア王国、現国王レクス・エヒード・レジビア。

帝位を継いで五年。逆らう者は全てを力でねじ伏せ、レクスに対等に意見を言える者はすでに帝国にはいない。

「さて、面白いことがあるといいが」

自分が死ぬまでの余興。

男にとっての人生はそのようなものであった。

◇◇◇

「シャルロッテ様、準備が整いました」

「ありがとう。ローリー」

最近、城の中では着飾られることの多かった私だけれど、今日は動きやすい服装だ。

アズール様やローリーはすぐに私のことを着飾ろうとする。

だけど今日はアズール様と渓谷の様子を見に行く予定となっている。

こういう時はやはり、動きやすいシュルトンの服がいい。

「さぁ、行きましょう」

私達は馬小屋へと向かう。

先にアズール様達の方が到着していたようで、私達に気が付くと手をあげた。

「シャルロッテ嬢!」

「お待たせしてしまってすみません。アズール様」

「いや。大丈夫だ。……そうか。今日は着飾れないものな」

ちょっと残念そうなアズール様に、私はクスクスと笑うと言った。

「この格好も過ごしやすいんですよ?」

「いや、もちろんどんな服を着ていても可愛らしいのには変わりはないのだがな」

「ふふふ」

アズール様と一緒にいると、毎日幸せな気持ちになれる。

セオドア様からの一件後、シュルトンでの暮らしは穏やかなものへと変わった。

「シャルロッテ嬢、もう出発してもいいだろうか?」

「はい。大丈夫です」

現在、渓谷からの魔物の侵入は減ってきている。

だが、以前同様に騎士達は警戒に当たり、何かあった時には鐘が鳴る。

そんな渓谷の状況を見に連れて行ってもらう予定だ。

「……シャルロッテ嬢、やはり渓谷近くまで君を連れていくのは、ためらいがある」

「アズール様。お願いします。渓谷の様子を直接目で確かめたいのです」

「……うむ」

危険なことは承知している。

しかし、先日の祭事から確実に魔物の侵入はさらに減ったように思う。

定期的に渓谷の様子を見て変化を観察し、記録を取っていった方がいい。

私はそう思い、アズール様にお願いをしたのだ。

「行きましょう?」

「あぁ。分かった。だが絶対に傍から離れないでくれ。いいな」

「約束します」

アズール様の愛馬に私は乗せてもらい、王城を出立した。

街を駆け抜けていくと、シュルトンの人々が私達に気付き声をかけてくれる。

「アズール様! シャルロッテ様おでかけですか」

「いってらっしゃい!」

「お気をつけてー!」

シュルトンは街全体が家族のようなものである。

「行ってくる」

「行ってまいります」

手を振る人々を後にして、風を切るようにどんどんとアズール様の愛馬テールは速度を上げていく。

街の門をくぐり、外へと出るとその光景は一気に変わる。

以前は草木がほぼ生えない不毛の大地だったが、今はそれがおおきくさまがわりし始めた。

「わあぁぁ。草原が広がりましたね!」

「あぁ。たくさんの草花が芽吹いている」

少しずつではあるが、不毛の大地であった場所に草が生え、花が咲き、蝶が舞うように変わり始めた。

現在、まだ小規模ではあるが、畑も耕し、トルトをはじめとした育てやすい植物から育て、自国の生産率を上げようと模索している。

吹き抜ける風が、以前は埃と砂にまみれたものから、緑と土の香りへと変わった。

「不思議」

それと同時に、何故か懐かしさを感じる。

「シャルロッテ嬢のおかげだ」

その言葉に私は首を横に振る。

「いいえ、皆の願いが天に届いたのですわ」

「そうだな。そうだといいな。畑も増えたし、水場も出きた」

馬を走らせながら、少しずつ少しずつ変わっていくシュルトンを見ることが出来るのが嬉しい。

緑と水場が増えると生き物も増える。虫が増えればその他の生き物も増えていく。

生態系とは不思議なものだ。

渓谷へとたどり着くと、美しく花が咲き誇っていた。

魔物の住む森の方からは、恐ろしい魔物の鳴き声が響いて聞こえてくる。

ぞわりとするその気配を感じながら、私とアズール様はテールから下りた。

「ここからは歩いていくぞ。テール、いい子にな」

「ぶるるぅ」

テールはその場にとどまる。

「あの、テールは大丈夫なのですか?」

「あぁ。いつもあそこで待っていてくれるのだ。ここからは、足場が悪く、馬の大きな体では進みにくい個所もあるからな」

「そうなのですね」

私は渓谷の様子を見ながらアズール様について歩いていく。

アズール様は剣を引き抜き周囲を警戒しており、その視線はいつもの優しい眼差しではなく鋭いものだ。

私自身気を引き締めながら歩いていくと、アズール様から聞いていた見えない壁の所までたどり着く。

「これが……」

実際に目にするのは初めてだ。

私がそっと手を伸ばすと、触れた場所から虹色の光が舞い上がり、花々の花弁を揺らしていく。

甘く優しい香りが、周辺一杯に広がった。

「なんだ……輝いている……」

アズール様が驚いた様子で私を見つめる。

「え?」

風に髪が揺れる。

「シャルロッテ嬢の髪色が、輝いて見える」

アズール様の言葉に私は首を傾げる。

髪が?

自分ではよくわからないけれど、ここに立っていると、何故だか懐かしいような気持ちが胸いっぱいに広がっていったのだった。

その時、ガサリと物音が響いた。

「シャルロッテ嬢!」

アズール様の声が響いて聞こえた。