軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガラスの活用

「坊主、ガラスが足んねえぞ。追加で用意しておいてくれないか?」

「またか。結構作り置きしてただろ」

「しょうがねえだろ。お前が城下町に建てた建物は全部ガラスを使うんだから。それに商人にも買ってくやつもいるしな」

「は? 商人がか? ガラスは売れなかったはずだろ」

「ま、今は物珍しさで買うだけだろうな。ただ、もしかしたら需要がでるかもしれないぞ」

「なんでだろ。今作っているのは窓用の板ガラスだろ? フォンターナの街でも窓がある建物なんかないはずだし……」

「そりゃ、お前がこの街を作ったからだろ。実際に窓のある建物を見て、使えると考えたんじゃないか。レンガも山程売っているから新しい建物をつくるついでにさ」

バルカニアの財政をみてもらっているおっさんがやってきて、ガラスの追加発注をしていく。

だが、その内容は俺が考えていないものだった。

今までさっぱり売れなかったガラスを買っていく商人がいるのだという。

まだその数は少数ではあるものの、もしかしたら今後増える可能性があるかもしれないらしい。

話を聞くと俺が造った城下町の建物がモデルハウスのような役割になったようだ。

行商をしていたおっさんの勘だから、無視するわけにもいかない。

俺はもう何年も前から魔法でガラスを作っている。

だが、そのガラスはとんと売れなかった。

あれがもう少し売れてくれていたらもうちょっと金回りも良かったのにと今でも思う。

しかし、そんな売れないガラスを今ではたくさん作るようになってしまった。

俺が城下町を作ってからだ。

俺が城下町を作るに当たって、なるべく統一性があったほうがいいかと思い同じ形の建物を魔法で建てまくったのだ。

【記憶保存】で脳に記憶したグランが作った俺の家を硬化レンガ製の建物として量産した。

この建物はなるべくレンガの数を少なく抑えながらも、空間を広く、建物の強度を高くするためにアーチ型の窓や扉を多用している。

つまり、建物を建てた分だけガラスも必要になってしまったのだ。

割と無意味に作りまくっていた板ガラスがどんどんと減っていく。

慌てて足りない分を作り足していくのであった。

※ ※ ※

「うーん、どうしたものやら」

「どうかしたのでござるか、アルス殿」

「グランか。いや、今後ガラスの需要が増えるようならガラス作りも呪文化したほうがいいのかなって思ってさ」

「……魔法でござるか」

「ん? なにか言いたいことがあるのか?」

「いや、大したことではないのでござるが、拙者は造り手ゆえに、なんでも魔法でものを量産するというのは好きではないのでござるよ」

「そうか? レンガなんかは便利で助かってるけど」

「まあ、そうでござるが、レンガとガラスは違うでござろう」

「どういうことだ? 何が違うんだ?」

「アルス殿の作る硬化レンガは非常に使い勝手がよくて材料の面から見ても魔法での量産に向いているのでござる。しかるに、ガラスはどうでござろうか。窓用とは別に皿やグラスなどの食器など、いろんな形のものをガラスで作っていたではござらんか。まさか、それらを全部呪文化するというのでござるか?」

「いや、今のところ、窓ガラスがあればいいけど」

「駄目でござるよ、アルス殿。そんな気持ちでものを作るのはいけないのでござる。造り手たるもの、常に向上心を持たねばならないのでござる。呪文化してしまうと、そこからの発展がないのでござるよ。やはりガラスも人の手によって作ったほうがいいのでござるよ」

いや、そんなん言われても困るんだが。

俺はグランのような造り手ではないし。

けど、それもグランの言う通りかもしれない。

窓ガラスはたくさん用意するのが面倒ではあるが、わざわざ呪文化してバルカ姓を持つものみんなが作れるようにするだけの意味があるかは微妙だ。

ぶっちゃけ砂や石灰などの材料さえあれば魔法を使わずとも造ることができるからだ。

ただ、俺が作る窓ガラスは前世の記憶をもとに作り出したものだから、結構時代の先をいく発展したガラスだと思うが。

もっとも、俺がガラス作りを呪文化することで、今後バルカでは二度とガラスを手作りしてみようというやつが現れなくなる可能性もある。

技術の発展という意味では呪文化の悪影響はあるかもしれない。

「そんなに言うなら、グラン、お前がガラスでなんか作ってみてよ。ていうか、作れるなら作って欲しいものがあるんだけど」

「ほう、それは何でござるか、アルス殿」

「レンズだ。ガラスでできたレンズ。お前にできるかな、グラン」

こうして、俺は唐突にグランへとものづくりを依頼したのだった。

※ ※ ※

「ふっふっふ。ようやく完成したでござるよ、アルス殿。これが完成品でござる」

「相変わらずものづくりになるとすげーな。ほとんどずっと寝ずに作業してたんじゃないのか」

「大丈夫でござる。拙者もバルカの姓を持つ身ゆえ、【瞑想】を使えるのでござる。寝なくても平気でござるよ」

いやいや、【瞑想】は無駄な魔力流出を抑えて疲労回復を早めるための呪文だ。

あくまでも寝る前に使って、寝ている間に体力を全回復させるためのものなのだ。

それが、グランは【瞑想】を使ったままずっと起きて作業をしていた。

割と効果があったというのだから驚きだろう。

「まあ、いまさらお前に言っても仕方ないか。じゃ、せっかくだしすぐに見させて貰おうかな」

俺がグランから受け取ったもの。

それは5種類のガラスレンズを使用したものだった。

正確に言うと、5種類のガラスを2組使用しているので10枚のガラスを使っているということになるのだろうか。

「おお、すげー遠くまで見える。精度もすごいぞ、グラン」

外壁の塔の一番上に登ってそれを使ってみる。

俺の両目に当てて覗き込むようにして使うもの。

グランに作ってもらったのは双眼鏡だった。

おぼろげに覚えていた双眼鏡の構造。

基本的には複数のガラスを使って、遠くのものを拡大してみることができる仕組みになっている。

だが、ただ単にガラスレンズを用意するだけでは作ることはできない。

5種類のレンズを筒の中に順番に配置して、適切な角度で光を屈折させ、対象の像を大きく見せる必要がある。

俺のあいまいな前世の記憶だけでは魔法を使ってもとうてい再現できなかったのだ。

それをグランは俺が紙に書いたおぼろげな記憶から掘り起こした双眼鏡の設計図だけをもとにして作り上げてしまった。

やっぱこいつハンパないくらい有能だわ。

塔の上からバルカ騎士領を見渡しながら、俺はグランの存在について改めて感謝したのだった。