軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新たな家

「家でも買おうかな」

寒くなってきた冬の時期。

ローラの屋敷にいる俺は、曇天の空を見あげながらそうつぶやいた。

「アルフォンスくんのおうちなら新バルカ街にあるのではないですか?」

そんな俺に対してこの屋敷の主であるローラが返事をしてくる。

温かいお茶を飲みながら、俺はそれに対して首を横に振った。

「バルカ御殿って呼ばれてるあれだよね? あれも確かに俺の家だけど、そうじゃなくてこっちのオリエント国のほうでも家を持とうかなって思ってね」

「そうですね。護民官になったことですし、それもいいかもしれませんね」

「でしょ? 今なら、この街の土地を買いやすいだろうし。前はまとまった広さの家が買えなかったからこそ、街の外にある廃村に居を構えただけだから」

「ですが、それだと問題があります」

「え、なに? 俺が自分の家をこの街で買うことになにか問題があるの?」

「アイさんはどうするのでしょうか? アルフォンスくんがおうちを買うなら出ていってしまうのでしょうか?」

「ま、そうなるかな」

俺の言葉を聞いてローラの顔が絶望に染まる。

まるでこの世の終わりみたいな顔をしていた。

まあ、気持ちがわからないわけでもない。

ローラは議員になってここに住むようになってからずっとアイがそばにいたからな。

新人議員の補佐をする秘書として、さらには護衛として、そして身の回りの世話をする役としてもアイは働いていた。

だが、最近になってアイ自身が議員となり、議長になってしまった。

つまり、ローラにとっては自身の秘書だった存在が同格どころか、上役になってしまったのだ。

これまでどおり、秘書として働いてもらえなくなったことを意味する。

それだけでも大変なのに、さらに屋敷からも出ていかれてしまったらもっと大変だということだろう。

アイは議長になって対外的には立場が上がったが、屋敷内では今までどおりローラの仕事を手伝ったり、相談に乗ったりしていたみたいだからな。

俺もアイには頼り切りだが、それはローラも同じだということなのだろう。

「まあけど、ローラもだいぶ議員の仕事には慣れてきたなんじゃないの? もう、アイがずっとそばにいなくても大丈夫でしょ」

「うう、分かりました。そうですね。いつまでもひとりで仕事ができないというのもよくないですし。これはいい機会だと考えます。でも、アルフォンスくんのおうちができるまではもう少しここにアイさんは残ってくれるのですよね?」

「そうだね。もうしばらくはいることになると思うから」

そう言って、ローラを説得する。

大変だけど頑張ってもらおう。

それはそれとして、俺のほうはさっさと動き出そうか。

寒くなると動きづらくなるからな。

どこかにいい場所がないか確認だけでもしておこう。

こうして、俺は新たな拠点を作ることにしたのだった。

※ ※ ※

このオリエント国は壁に囲まれた街だ。

その中には家がひしめき合って存在している。

しかし、街の中心部のほうにいくほどに家と家の間隔は広くなり、ゆったりとした空間が存在する。

これはきっともともとあった街を拡張していった名残なんだろう。

俺は以前、この街で土地の購入を検討した際に傭兵たちも一緒に暮らせるような場所を確保できなかった。

なので、街の外に土地を求めたという経緯がある。

が、今回はうまい具合に土地を手に入れることができそうだ。

どうやら、最近になって大きなお屋敷がある土地が売りに出されたらしいからだ。

そこに住んでいたのは議員さんだったようだが、非業の死を遂げたとかなんとかでこの家を手放したとか。

おかげで、広々とした屋敷が割と簡単に手に入ってしまった。

「どうでござるか、アルフォンス殿。つい最近まで人が住んでいたことで手入れは十分できているでござるよ。庭も広く、周囲に邪魔になるようなものはなにもないでござる。アルフォンス殿が住むのに十分な場所だと思うでござる」

「いい感じですね、バナージ殿。そういえば、俺の故郷の建物とオリエント国の建物って結構違いますね。やっぱりこっちの人ってこういう木造の家のほうがいいんですか?」

「そうでござるな。木の香りとその家から庭を見たときの景色などが大切であるとされているのでござるよ。家と庭の調和とでもいうのでござろうか。二つの要素を総合的に判断して評価することが多いかもしれないでござるな」

「へー。庭も重要なんですね」

「もちろんでござる。ほら、よく見るでござるよ。あそこに生えている立派な木がこの縁側からよく見えるでござろう。けれど、それだけではなく、木のそばに小さいながらも池があることで、まるで街の中にありつつもここをのどかな場所であると表現しているのでござる。このようにただの居住空間としてではなく、風光明媚な場所として成立させられるかどうかがその家の主の感性の良さとしてみなされるのでござるよ」

なるほどなあ。

俺はどっちかというと、住めればなんでもいいと思ってしまうけど、どうやらそうではないらしい。

ただ、それでは駄目なのかもしれない。

今後は護民官である俺や議長であるアイがここにいて、人を招くこともあるからだ。

人によってはそういう感性の良さを人物評価につなげてくる人もいるだろうしな。

見栄やはったりではないけれど、ある程度の格の高さを保った建物があったほうがいいというバナージの説明にうなずきながら話を聞いていた。

ここなら、ローラの屋敷からもそれなりに近くはあるので便利だし、そのまま購入しようか。

それに、この家が面白いのはなにも庭だけではなかった。

庭と建物以外にも工房がついていたのだ。

以前、ここに住んでいた者が使っていた職人としての仕事場。

その工房を見て、俺はこの家の活用法について考え付いたのだった。