軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遅い移動

「しかし、こうしてみると陸路の移動ってのは時間がかかるな」

「そうですね。団長たちは川を下って材木所に直行でしたけど、俺たちの分隊は別行動だったでしょう? 先に出たのに合流地点までは戦い終わった団長たちのほうが早かったですからね」

柔魔木の材木を運びながら新バルカ街へと帰還する。

最初は刺客がいまにもやってくるかと警戒していたのだが、姿を現さない。

考えてみれば当たり前か。

議会で刺客が送られることが決定したのはほんの少し前みたいだしな。

ローラやアイが迅速に連絡を取ってくれたからこそ素早くそのことを知ることができたが、もしかしたらまだ現時点では刺客も動いていないのかもしれない。

なんだったら、今頃俺を狙うという仕事の話を耳にしていたりするのかもしれないしな。

そう考えると、あまり気を張りすぎるのはよくないのだろう。

ある程度、警戒はしながらも緊張をほぐして移動することにしていた。

その最中に、近くにいたゼンと話をする。

とりとめもない話だ。

陸上の移動の遅さについて、二人で話していた。

材木所を襲撃する際には川を下ったため、目的地に着くまではあっという間だった。

だが、その襲撃に先行する形でゼン分隊を俺は動かしていたのだ。

目的は木材の輸送のための人員と足の確保だ。

船で襲撃して、それを乗り捨てて帰ることを想定していたので、船の代わりとなる車を持ってきてもらう必要があったからだ。

ちなみに、放置してきた船は捨てること前提でグルー川付近の村から買いたたいた。

普段なら商売道具や生活道具でもある船を使い捨てにするために売るようなやつはそういないだろうが、今回は嵐の被害が大きかったのか捨て値でも買えた。

まあ、運が良ければ後で放置した船は回収できるかもしれないからというのもあるのかもしれない。

で、そんな使い捨ての船から陸地に上がり、車に木材を積んで運ぶのだが、これがなかなかに大変だ。

道が荒れているのが原因だ。

でこぼこの道は車がガタガタと揺れる。

その揺れが原因で積んである木材が崩れてしまったりもした。

さらに悪い場合には、車の足である車輪部分が壊れたりもするのだ。

どれか一つの車輪が壊れるたびに、止めて修理する必要がある。

なので、進む速度がものすごく遅かった。

「というか、これが普通なんですけどね。道路や線路を呪文一つで作れるのがおかしいんですよ。あれだけで移動速度がものすごく変わりますから」

「確かに。道路は身近にあると当たり前に感じるけど、無かったら本当に不便だよな。壁を作ったりもそうだけど、道路を作る魔法なんてほんとよく考えたよね」

「団長のお兄さんが作ったんでしたよね? たしか、天空王様。天空の王様なのに【道路敷設】とか【線路敷設】、【土壌改良】なんて魔法が多いのがちょっと意外というか、面白いですね」

「まあね。だから、バルカ教会の教えに出てくるアルス兄さんは天空王というよりは、神の盾っていう立場を強調して描かれるようになっているしね。ていうか、むしろ空よりも土の神様みたいだし」

ゼンも言っているが、普通はこの速度での移動が基本なんだろう。

舗装されていない土の道。

雨が降ったらぬかるみ、乾いたらでこぼこになるような俺からすると道とも言えないような道。

そんなところで大量の荷物を積んだ車を曳いて移動するのはどうしても時間がかかる。

これは一般の人間であっても、商人であっても、そして傭兵団や軍であっても同じだ。

特に、軍はその構成人数が増えるほどに移動が遅くなる。

それは、どうしても人数分に比例して持ち運ぶ荷物の量が増えるからだ。

食料だったり、武器や防具、野営の装備など戦いに行く際に必要になってくるものは出てきてしまう。

そんな時間のかかる移動を恐ろしく短縮できるのが道路や線路だ。

とくに道路はその恩恵がものすごく大きい。

線路はどうしてもそれにあう専用の車両を用意して、その線路上を走る車両の向きや時間を制御しないとうまく機能しないが、道路は一回作ってしまえば基本的には誰でもいつでも利用できる。

さらに雨が降っても排水される機構になっている硬化レンガ製の道はものすごく走りやすい。

それが、改めて荒れた道を移動することでよくわかった。

「バルカ軍やフォンターナ軍が快進撃を続けた一つの要因はその移動速度にあると言います。それまでは、同じ貴族領であっても各騎士領間で簡単に移動できないようにあえて道の整備をしないこともあったようです。それを撤廃して、領地の中に機能的に道路を敷設したことで、フォンターナ王国は強い国力を手に入れることができたとされています」

「なるほどね。やっぱり戦うには速さが重要だしね。強さもそうだけど移動速度のことも考えてバルカ傭兵団は運用していかないと駄目だね」

俺たちの会話を聞いていたのか、アイが補足してくれた。

かつて、北の一貴族領でしかなかったフォンターナ家がどうしてほかの貴族領よりも強くなれたのか。

それは、強い貴族や騎士が多かったからだけではない。

軍の移動速度も重要なのだとアイは言う。

ただ、それを聞いて別の話も思い出した。

それは、アルス兄さんの大遠征だ。

といっても、それは東方遠征ではない。

パーシバル領急襲のことだ。

かつて、ドーレン王を暗殺したパーシバル家。

そのパーシバル家はドーレン王と一緒に当時のフォンターナ家当主だった祖王カルロス様も手にかけていた。

それに征伐を下すために、アルス兄さんはフォンターナ領からパーシバル領までわずか数日で駆け抜けて攻撃に出たのだ。

その速度はだれもが予想しなかったものだという。

それはけっして道路が作れたからだけではない。

むしろ、道路が整備されていない他の貴族領をあっさりと越えてパーシバル家に襲い掛かったのだ。

「俺も作りたいな。騎馬隊を」

「騎馬隊ですか。いいですね。けど、あれってものすごい金がかかるみたいですよ」

アルス兄さんがそれをできたのは、騎兵団があったからだ。

パーシバル領まで移動したのは人の脚ではなかった。

全員が騎乗して高速で移動したからこそできたのだ。

そんな騎兵隊を俺も作ってみたいのだが、馬は高いのが問題か。

どうにかして金策してでも馬の数を揃えたいものだ。

あまりに来ない刺客を待ちわびながらも、今後の傭兵団の形を考えながらゆっくりと移動を続けたのだった。