軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

改良案

「こうしてみると、早い段階で高級娼婦を集めたのって正解だったのかもしれないな」

「そうかもしれないわね。議員になったローラもそうだけど、そのほかの女性もみんな高い教養を持っているからこそ高級娼婦としての仕事ができていたってことね。どうかしら? 私はこっちの文字のほうがいいと思うけど」

「……ん、そうだね。筆の流れが流麗でいいと思う。じゃ、聖典用の書体はそれを使おうか」

バルカ教会などで布教するために作っている聖典。

その聖典は【見稽古】などを使っての人海戦術で量産するという方向で話がまとまった。

そこで、今度はもう少し細かいところまで話を詰めていく。

今は、聖典で使う文字の種類について、クリスティナと検討していた。

文字というのは重要だ。

人それぞれに癖があり、読みやすいとか読みにくいといった差が出てくる。

【念写】で使われている文字はもともとカイル兄さんが書いていたそうだけど、あれはカイル兄さんが子どものときに、リリーナ様やその側仕えのクラリスなどに教わったのだそうだ。

とくに、リリーナ様は昔から本好きで書についても詳しかったそうで、カイル兄さんの書体はリリーナ様の影響を大きく受けているらしい。

そのおかげか、【念写】で表現される文字についてはかなり評判がいいのだそうだ。

同じ内容を書いた本であっても、書体によって読み手に影響を与えうる。

というわけで、これから作る聖典についても書体はなるべくいいものにしたかった。

なにせ、【見稽古】で書くところを覚えてからたくさんの本を作ろうとしているのだ。

もしも、最初に手本となった人の書き方や書体がよくなければ、すべての聖典がその悪影響を受けてしまう。

なので、一番いいお手本になる書体を探していたのだ。

そして、それは意外と簡単に見つかった。

この新バルカ街に住む者の多くはバリアント出身の田舎者だったり、オリエント国の貧民街出身だったり、あるいは根無し草の傭兵だ。

だが、その中で全く別の文化の中で生活してきたのが、俺が身請けした元高級娼婦の女性たちだった。

彼女たちはいろんな偉い人たちを接客するために、さまざまな教養も身に着けていたのだ。

そして、その中にはもちろん書の書き方というものもあった。

書道というものがあるらしい。

かつて、この小国家群には高名な書道家がいたようで、その流れをくむ流派を学んだという女性がいたのだ。

そのほかの女性たちにも字を書いてもらったが、その流派の免許皆伝を持つという女性が一番字がうまいように感じた。

あまりに達筆すぎると逆に読めないということもあるようだけど、その書体は読みやすく、しかしどこか人を引き付ける魅力があるように感じたのだ。

というわけで、その人に聖典づくりのお手本となってもらうことになった。

西の聖書をこちらの言葉に翻訳する。

また、こっちの風習ではどうしても分からないことなどを、それぞれ身近に感じて理解しやすいものなどに置き換える。

そうして、出来上がった聖典用の文章を、【見稽古】をしている多くの人間の前で実際に書いてもらうこととなった。

どうやら、さすがにみんなの見ている前で字を書くのは緊張したようだ。

だが、それでも免許皆伝の実力はさすがだった。

長々とした文章を特に間違えることもなく、さらさらと書き連ねていく。

美しい文字列だ。

ある意味、これだけでも十分に価値があると思われても不思議ではないと思う。

ただ、こうなるとさらにこだわりだす奴が現れた。

どうも、翻訳した文章が気にくわないようだ。

書道家女性とは別に本が好きな元高級娼婦が、聖典用の文章そのものについてダメ出しをしてきたのだ。

この美しい書体にはさらにふさわしい美しい文章が必要だ、というのが彼女の主張だった。

確かに言わんとしたいことは分からなくもない。

西から持ってきた聖書の翻訳は基本的にはアイとスーラがしたからだ。

ただ、アイはどちらかというと文章の意味そのものを重視する。

それほど文章的な美しさは気にせずに、なるべく簡易な内容表現となるように翻訳し、スーラがそれに手直ししたのだそうだ。

そのためか、あまりにも文章が簡単すぎるということらしい。

あるいは不自然さを感じる直訳になっているのかもしれない。

もう少し改良したほうがいい、と強く言われたので、そのへんについては任せることにした。

ただ、あまりにも難解で意味のよくわからない文章になりすぎても困る。

ときどき内容を確認しておくことにしようか。

「……で、そっちはなにかしら?」

「これ? これは絵本だよ。アルス兄さんの活躍についての話がエルビスから出ていて思い出したんだ。空竜と戦うこの絵本もついでに広めてみようかと思ってね」

そんなふうに聖典についての改良案が次々と出てき始めた。

このぶんだと完成するまでにはもう少し時間がかかるだろうか。

なので、ついでとばかりに絵本にも手を出してみようかと思ったのだ。

こっちは子ども用かな。

聖典の文章がちょっとだけ小難しくなりそうな感じなので、子どもでもアルス兄さんの活躍を理解できるようにして作られた絵本ならばもっと人気が出るのではないだろうかと思ったのだ。

一応、魔法鞄の中に絵本があったのでそれを出してみんなに見せた。

ただ、この絵本はそのままでは量産しにくい。

というのも、これは本のすべてに絵が描かれているからだ。

【念写】ならば紙と紙を重ねて魔法を使うことで、絵であっても一瞬で再現できる。

が、【念写】がない状態だとそれはかなり難しい。

これまた元高級娼婦の女性の中に絵が好きで上手な人がいたので、俺が持っていた絵本を見ながらもなるべく描きやすい方法で絵を新しく描いてもらうことにした。

そして、それも【見稽古】で見ながら覚えてもらい、複数で作れるようにしていく。

これによって、新バルカ街には芸術性の高い文章で書かれた聖典と、子どもでも理解しやすいアルス兄さんの活躍した話の絵本などが少しずつ出来上がっていったのだった。