軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

傀儡組織

「お、お待たせしました。遅くなってすみません、アルフォンス様」

「いや、十分だよ。急に呼び出して悪かったな、ハンナ」

パージ街での勝利から一夜が明けた。

朝一番から動き始めていた俺たちのもとへとヴァルキリーに乗ったハンナがこの街にやってきた。

どうやらハンナはヴァルキリーの背に乗ってだいぶ疲れているようだ。

あんまり乗せている人間に負担がかからないように気を使ってヴァルキリーが走ってくれているとはいえ、騎乗姿勢はどうしても疲れるからな。

ぐったりしてしまうのも仕方がないか。

「慈愛の炎。……ふう」

「そうか。慣れない騎乗で大丈夫かなって思っていたけど、【慈愛の炎】の疲労回復効果をかけながらここまで移動してきたのか。考えたね」

「【瞑想】でも疲れにくいかなとは思ったんですけど、【慈愛の炎】のほうが力も強くなるので。なんとか途中で休憩せずにここまでこれました」

そんな疲れたハンナが自分の魔法を使って疲れを癒していた。

ちなみにハンナは一人で遠く離れたこの街まで来たわけではない。

一度、ヴァルキリーに騎乗したイアンが夜中のうちに新バルカ街へと帰って、そこからハンナを連れて戻ってきたのだ。

ここに来るまで二人乗りでやってきたようだ。

「イアンもお疲れ。じゃ、さっそくで悪いけど、ハンナには仕事を頼むよ。【慈愛の炎】で回復しながらでもいいから始めようか」

「分かりました。この街の人へ傭兵さんたちが名付けをするんですよね? やるべきことはすべてアイ先生から聞いているので大丈夫だと思います」

「よし、それじゃ、こっちに来てくれ」

軽く話をしながらも疲れが抜け始めたハンナの様子を見て、俺はさっそく本題を切り出すことにした。

それは、前日にウォルターやゼンに対して話をしていたこの街の住人に対しての名付けについてだった。

俺たちは今からこのパージ街の住人に対して名付けを行う。

やり方はすでに考えてあり、伝えている。

基本的には、この街の攻略に参加した傭兵たちがこの街の住人に対して名付けを行い、そこから魔力を回収することで、傭兵ひとりひとりの強化が目的だ。

ただ、そこで問題となるのが作業効率だった。

今、ここにいる傭兵たちは二百人だ。

で、実はこのパージ街に住む人の数は多分、軽く万を超えている。

できれば、全員にたいして名付けをしたいが、傭兵たちが住人に対して一人ひとりに名付けをするのは不可能だろう。

まず、二百人でそれだけの数の人間を集めて、おとなしく言うことを聞かせたうえで、名付けが終わった者とまだの者を分けていく、なんて作業ができる気がしない。

というか、傭兵たち総出で住人を一か所に集めることすら難しいだろう。

なので、傭兵たちに代わってこの街の住人に名付けを行う者を用意することにしたのだ。

それは、もともとこの街に住んでいた者であり、しかし一般人ではない者だ。

そいつらは、パージ家の人間ではないが、これまでこの街の運営の実務にかかわっていた者たちだった。

昨日、ウォルターたちにこの街から魔力を回収する考えを説明した俺は、その後、イアンにハンナを連れてくるように頼んだ。

そして、残った者で、もともとこの街の統治にかかわっていた人間を探して集め、そして問うたのだ。

バルカ傭兵団に逆らわず、忠誠を誓うならば、命と地位の保証をしてやろう、と。

つまりは、バルカ傭兵団にとっての傀儡政権をこの街に作ろうと考えたのだ。

それまでは、長い歴史の中で魔力を高めたパージ家が中心となってこの街は存在してきた。

だが、実際の実務はパージ家の人間だけがしていたのではなく、他の者も多数いた。

その中から、俺たちバルカ傭兵団に従うと誓った者を、今後もこの街の運営に携わる許可を出し、そして、名を授ける。

このとき、そいつらに名付けを行うのは俺ではなく傭兵たちだ。

あとは、その傀儡政権として認めた連中がこの街の住人たちに名付けをして、魔力のつながりを広げてくれればそれでいい。

そうすれば、あとは放っておいても傭兵たちに流れ込む魔力量が増えるという寸法だ。

だが、ここで問題がある。

それは、忠誠を誓うと言っても、それが実際に守られるかどうかは分からないという点だ。

いや、むしろ守らないだろう。

その場では誓ったふりをしつつ、いずれ反旗を翻すことも十分に考えられた。

そこで、俺はハンナに来てもらったのだ。

ハンナは新バルカ街にある教会を任せており、そこでは新たに新バルカ街の住人となった者へと儀式を行っている。

街での規則を説明し、それを守らなければ死ぬほど痛い思いをすることになる血の楔の儀式だ。

あれをこの街でもハンナにしてもらうために、ここまで来てもらった。

血の楔自体は俺でもできる。

というか、俺ならばハンナに渡してある魔石なしでもできるのだが、それはあえてやらない。

なぜかというと、俺が自由自在に相手の行動に制約を与えられると知られたら、警戒されるかもしれないからだ。

あくまでも、相手に誓いを守らせる儀式を行えるのはハンナであるという建前を通すことにした。

こうして、パージ街に到着したハンナは傀儡政権としてこの街の中枢に残ると判断した者たちに儀式を行った。

指先に傷をつけた状態で専用の魔石に触れさせ、一晩かけて考えておいた条件を提示し、それに同意させる。

それにより、魔石に含まれていた俺の血がそいつらの肉体に入り込んだ。

その血の中にはノルンがいて、今後そいつらは誓いを破ると恐ろしい痛みに襲われることをまだ知らないのだろう。

のんきに笑顔でその儀式を受け入れていた。

あとは、いつものとおり、ハンナが【慈愛の炎】を使っての演出を行い、儀式は終わった。

こうして、パージ街では新たに親バルカ派の組織が誕生し、そのものらによって住人に対して名付けが行われ、街の運営がなされることとなったのだった。